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陰で育てる少女たちのチート冒険譚~奴隷少女たちを最強に育てる陰の策略~  作者: spichat
第4章 南部奪還と奴隷少女

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第85話

日本とアストラディアを行き来する生活も多少なり、慣れてきました。

最初は驚いたものの、平和な日本に行くことで心も身体も一度リセットできるのは大きいなと感じます。

さて、そんな私たちノクスの面々は冒険者ギルドの一室へ集まっていました。

昨日捕らえた黒装束たちから得られた情報は決して多くありませんが、それでも確かな収穫はありました。

勇者を探している何者かがいること。

魔物の群れは人為的なものだったこと。

そして、その目的は街の破壊ではなく、ロックドラゴンの消耗であること。


「……正直、嫌な話ばかりですね」


キューリーがため息を吐く。

私も同意見です。

分かったことは増えましたが、それ以上に把握できてないことも増えています。


「ナーレさんが言っていた家、調べてみますか?」


サーシャがご主人様に尋ねます。

昨日の話では、巫女様が通っていたという街の家。

巫女様が普段どんな行動をしていたのかは知りませんが、その頃から様子がおかしくなったという証言がある以上、確かめたいところです。


「……そっちは任せてもいいか?」

「え?」

「……ちょっと引っかかっていることがあるんだ。ピレネに来て、異世界人の痕跡が多くある気がする。アズラに治療してもらっている少女、勇者……この街は何かしら異世界人と関わりがある気がする。それを調べたい」


ご主人様の意見にアズラ様が複雑な表情を浮かべる。

アズラ様曰く、異世界人がこの世界に来るパターンとしては、二つ。

一つはご主人様のように転移する場合。

そして、もう一つは生まれ変わり、いわゆる転生。

ただ、どちらのパターンでも、特定の場所に現れるということはなく、偶然いる程度だそうです。

なので、ご主人様がもしピレネで探すとしたら、地道な聞き込みになるとのこと。

ただ、ご主人様としては調べておきたいことらしく、ご主人様一人で事に当たるそうです。


「ゼロさんは別件を調べるそうですし、こちらはこちらで動きましょう」

「ご主人様一人で大丈夫なのか?」


ディナが腕を組む。

だが、その問いに答えたのはアズラ様です。


「あの方なら心配要らないでしょう。奇妙な縁を感じますが、一番心配がいらないのはゼロ様ですよ」


穏やかに笑う。


「ゼロ様からあなた方を任された以上、頑張りましょう。むしろ、巫女様の薮を突くことになるので、こちらの方が危険かもしれません」

「……否定できねぇな」


ディナが苦笑した。

ご主人様は先にギルドを出てしまったので、私たちは目立たない格好に着替え出発します。

向かう先は街の中心部。

ナーレから聞いた住所は簡単で、元々は商人が使っていた家らしい。

だが、今は誰も近寄らないとのこと。

家はすぐに見つかりました。

立派な石造りの二階建て。

外見はちょっとお金持ちな、でもそれを主張していない家です。

もちろん、今は商人の方は帝都に行商中とのことで、不在となっています。


「静かですね……」


サーシャが扉を開けながら呟く。


「人が住んでいた気配はありますね」


私もエントランスを入ったところを観察します。

中は家人が不在ながらもきちんと掃除されていて、庭もきちんと整えられていました。

帝国が魔王の侵攻を受ける前に帝都に向けて出発したらしいのですが、最近まで誰かに管理されていたように見えます。


「入るぞ」


ディナがホールから別の部屋に入る扉へ手を掛け押すと開きました。

幸い、鍵は掛かっていなかったようです。

扉の先はダイニングだったようで、家具はもちろん、机も椅子もありました。

そこから奥に進むとキッチンもあり、食器も綺麗に整頓されています。


「気持ち悪いな……まさか、ゴースト系の魔物とかいないよな?」


ディナが眉をひそめる。


「あれ?苦手なんですか?」

「……物理が効かない相手は、な」


キューリーがディナの乙女らしい一面を聞いて微笑んでいます。

それから一時間ほど調査を続けましたが、目立ったものは見つけられません。

特に変わったものもないので帰ろうと思った時――


「ユズさん」


カリンが壁を叩いていた。


「ここ、なんか変じゃないです?」

「……変?」

「叩くと音が違う?……この先に空間があるかも?」


その言葉に全員が集まります。

アズラ様が頷かれたので、確認のためにカリンが再度壁を叩いてみせると、確かに一部だけ音が鈍いように聞こえます。

皆、声は出さず、アズラ様のジェスチャーに従って、その壁をディナが押してみることになりました。

……動かない。


「……壊していいか?」

「待ってください」


いきなり壊そうとしたディナを私が止めます。

もし、罠でもあったら一大事です。


「一応確認しますから」


色々と探してみると、本棚の奥に隠された仕掛けを見つけました。

カラクリが作動して、壁が横へずれます。

その先には、地下へ続く階段が現れました。


「……当たりか」


ディナが拳を握りしめ、静かに笑います。

階段は暗いため、ライトの魔法で足元を照らしながら慎重に下りていきます。

階段もそこまで長くなく、たどり着いた地下室は広くなくありませんでした。

ただ、机と棚、何かを入れていた箱、そして大量の羊用紙が置かれています。


「これは……」


キューリーが目を見開く。

紙束を開くと地図や魔物の記録、そして、得体の知れない魔法陣らしきものが書かれています。

また、何かの日記のようなものに、聞いたことのない地名。

様々な資料が残されていました。


「全部持ち帰りましょう。万が一、ここに人が来たら厄介です。ここで判断するより安全です」


私も頷きます。


「手分けして回収しましょう」


こんなに荷物があると思わなかったので、どうにか一纏めにして運びだす作業が始まりました。

その時――私の視界の端でディナが動きを止めます。


「どうかしました?」

「……おい」


声に緊張感が溢れ出ています。

全員がディナの方に振り向きます。


「どうしました?」

「……誰かいる」


その言葉にここにいる全員の空気が変わります。

盾にできるものは少ないですが、できる限り物陰に隠れて、地下室から階段を見上げます。

すると、男がゆっくりと階段を降りてきました。

黒いスーツ、黒い手袋、黒い帽子。

……あれは、アストラディアの服ではありません。


(……あの服は、日本の?なんで?)


帽子を目深に被っているので顔は確認できません。


「……先客か。誰だ?」


声色から男性であるのは確かです。

ディナが前へ出ようとするのを精一杯抑えこみます。


「……ま、いいさ」


すると、一歩こちらに近ずいたところで得体の知れない圧力が私たちの身体が押し潰してきます。


「……っ!」


動けない。

身体全体が押しつぶされているような感覚。


「ディナさん!?」


その圧力に負けないようにディナは立ち上がり、相手に姿を見せてしまいます。

キューリーが慌てて叫ぶも、彼女もそこからは動けないようです。

サーシャも、カリンも、私ですら。

圧力はどんどん強くなり、声すらまともに出せません。

呼吸だけが浅くなります。

本能が「今すぐ逃げろ」と叫んでいます。

理解できない恐怖。

それだけが全身を支配する。

男は地下室の入口から動いていません。

私たちの事を見かねて、アズラ様が前へ出ました。


「皆さん、下がっていてください」


普段と変わらない穏やかな声。

だが、その瞳だけが違いました。

"魔王アズラ"。

魔王の一人として人族から恐れられる存在。

その魔力の一部が解放されました。

そのお陰で身体の自由は取り戻せました。

私たちは初めて見る、魔王の本気の一端。


「……あなたは何者ですか?」


男は答えません。

アズラ様はそんな男にお構い無しに魔法を放ちます。

上級魔法以上なのは私でも分かります。

普通であれば相当なダメージがある魔法です。

ですが、何も起きませんでした。

男はただそこにいるだけ。


「……なるほど」


ポツリと呟くと、次の瞬間、男の姿が消えたように見えました。


「っ!?」


アズラ様は反応したのでしょうが、男の攻撃によってアズラ様の身体が後方に吹き飛びます。

目に見えない攻撃を受けて壁へ激突なんて……


「アズラさん!」


(……あり得ない。魔王アズラが。一撃で?)


それでも、アズラ様は立ち上がりました。

ダメージは相当だったようで、口元から血を流しています。


「……皆さん」


声は冷静だった。


「逃げる準備を」


アズラ様は今度は更に魔力を込めて魔法を放つようです。

ただし、それも防がれると覚悟しているのでしょう。

構成を見ると爆発系のように思えるので、視界を奪った隙に逃げる算段のようです。

対して男は首を僅かに傾けました。


「……まあいい。時間だ」


それだけ呟くと、男の姿は消えていました。

まるで最初から存在していなかったかのように。


「……なんだったんだ」


誰も答えられません。

完全に相手の方が上位の存在でした。

やがて、アズラ様も壁にもたれながら小さく息を吐きます。


「……私にも分かりません」


その表情からは余裕が消えています。


「ですが、二度と会いたくありませんね」


その言葉だけで十分です。

魔王アズラがそう言う相手。

確かに戦闘系は苦手と言っていても、魔王になるほどの方からその言葉が出るほどの相手。

それから、一刻も早くこの場から離れるため、大量の資料を抱えながらギルドへの帰路につきました。

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