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陰で育てる少女たちのチート冒険譚~奴隷少女たちを最強に育てる陰の策略~  作者: spichat
第3章 転生勇者と奴隷少女

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第77話

朝、目を覚ますと、既に野営地は慌ただしく動き始めていた。

魔王軍の野営地と聞けば物々しい光景を想像するが、実際は違う。

朝食の準備をする者もいれば、結界石の具合を確認している者もいる。

まるで一つの村のようだった。


「おはようございます」


天幕の外へ出ると、アズラが声を掛けてきた。

既に身支度を整えている。


「天幕一つ貸してもらってすまない」

「いえいえ。大丈夫ですよ」


そう言って微笑む。

相変わらず魔王らしくない。


「それで……昨日のお話の続きですが」


アズラは真面目な表情になる。


「改めてお願いできませんか?」

「……ピレネか。どうしても向かいたいんだな」

「はい」


アズラは頷く。

アズラの表情は一見すると微笑んでいるように見えるが、内心心配しているのだろう。


「私たちでは戦闘力がないので、同行していただけませんか?」


昨日も話は出ていたが、昨日は保留にさせてもらっていた。

アステリアなら了承していたかもしれないが、今はノクスしか居ない。

――たが、アズラがいて頼もしいのも事実だ。

元々こちらもピレネへ向かう予定だ。

それなら……


「条件がある」

「なんでしょう?」

「まず一つ。怪我人のことだ。保護している黒髪の女性も含め、野営地に残ってもらう。怪我人を庇いながらは流石に戦力が足りない。どうだ?」


アズラは小さく頷く。


「見捨てるつもりはありませんが、それは致し方ないでしょう。私もそこまで強情ではありません」

「なら問題ない」


その答えを聞いて、アズラは安堵したように微笑んだ。


「ありがとうございます」

「二つ目。この野営地からアズラを守れる護衛も出して欲しい。ピレネで人手が足りなくなることも考慮して、な」

「それも大丈夫です」


出発準備はすぐに終わった。

野営地には最低限の護衛と治療担当を残す。

黒髪の女性も引き続き保護されることになった。

そして――俺たちとアズラたちは再びピレネを目指して歩き始める。

道中は思ったより静かだった。

アズラ軍の認識阻害があるためか、襲撃はほとんどない。


「便利だな」


思わずそう呟くと、先導していたインキュバスが苦笑した。


「とはいえ、長時間の使用は魔力消費が激しいのですよ。なので、代わる代わるです。これくらいしか取り柄がありませんので頑張りますよ!」

「……立派だろ。それでも」


ディナが即座に返す。

実際、戦わずに済むならそれに越したことはない。

それから数時間。

徐々に景色が変わり始めた。

平原が減り、代わりに険しい山々が増えていく。

そして――


「見えました」


先頭を歩いていたアズラが足を止めた。

全員の視線が前方へ向く。

山々に囲まれた盆地のその中央。

石造りの城壁を持つ街が見えた。


「ピレネ……ですね」


アイリが息を呑む。

街は魔物に攻められていたものの、防衛に成功して残っていた。

煙は上がっていないなければ城壁も崩壊していない。

少なくとも外から見た限りでは、壊滅した様子はない。


「良かった……」


アイリの声が震える。

その隣でサーシャも安堵したように胸を撫で下ろしていた。


「防衛できているようですね。遠くて詳しくは見えませんが、魔物が攻めあぐねているように感じますね」


キューリーが呟く。

実際、その通りだった。

街の周囲には魔物の姿が見える。

だが、決定打になっていない。


「地形のお陰です」


アズラが静かに説明する。


「ピレネは山脈に囲まれています。そのお陰で道幅が狭いところもあれば、崖になっているところもあります」


言われてみれば分かる。

街へ続く道は限られていて大群で押し寄せるには向かない地形だ。

また、崖になっている部分は谷が深く、下に落ちたらひとたまりもないだろう。


「天然の要塞ってやつか」


ディナが感心したように言う。


「はい」


アズラは頷いた。


「魔物たちも攻め切れていないのでしょう」


街が無事な理由は理解できた。

だが――アズラは街だけを見ていなかった。

その視線は街の外、視線的には山の中腹ぐらいか。

魔物たちのいる方向とは別のところを気にしている。


「どうかしましたか?」


ユズが尋ねる。

アズラは少しだけ考え込んでいた。


「いえ、ちょっと気になることがありまして」


そう答えたものの、その表情は晴れない。

ノクスの中でもユズはアズラの視線が違うところを見ていたのは分かっているようだ。

アズラは誤魔化すように首を振る。


「予定を変更しましょう」


静かな声だった。


「これだけ魔物がいると、正面からは自殺行為でしょう。街が無事なので、わざわざ危険を犯してまで魔物を減らす必要もないでしょう」


全員が顔を見合わせる。


「どうする気だ?俺ならこじ開けることも出来なくないが?」


俺が尋ねる。

アズラはしばらく魔物の群れを見つめていた。


「やめておきましょう。あなたの能力は分かりませんが、万が一相手がいた場合、みすみす情報を渡すことになります」

「……何かあるんだな?」

「昨日も言った通り、誰かの思惑があっても不思議ではないので」


その紫色の瞳が細められる。

確かにラグナードに続き、ピレネまでもが襲撃されるというのは偶然と言うには出来すぎている。


「……ゼロ様、ここは目立たないのが一番です」


誰も口を挟まない。


「下手に相手を刺激して、相手の思惑通りに事を進められるのは――」


アズラは続けた。


「私、好きじゃないんですよ」


この時のアズラの顔は魔王らしい迫力があった。

しかし、その顔も一瞬ですぐさま元通りのアズラに戻ってしまう。


「でも、どうしましょうかね……」

「……もしかして他の方法、何も考えてないのか?」


アズラは小さく頷く。


「無いわけではないですよ。でも、それは裏技というかなんというか……」

「……街に行くなら後ろから入るか?」

「そちらも何かしら仕掛けられている可能性を否定できないのですよね」


そこで一度言葉を切った。

アズラは何か考え事をしているようで、会話も受け流されてばかり。

そんな時に風が吹き、大軍から魔物の鳴き声が聞こえた。

当分の感はピレネも魔物からの襲撃は耐えることができるかもしれないが、それも時間の問題のように思える。

アズラは決心が着いたのか、言葉を紡ぐ。


「裏から入りましょう」


アズラは山脈の一角を指差した。


「私に着いてきてくださいね」


アズラは山脈の一角を指差した。


「本来なら先に街の様子を確認したいところですが……」


そう言って微笑む。


「まずは岩龍、オルディスに挨拶しましょう」


誰も反対しなかったが、ノクスの面々には別の緊張が生まれてしまったようだ。

ピレネの裏側、その先にいるという神話級の存在へ向けて、私たちは歩き始めた。

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