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陰で育てる少女たちのチート冒険譚~奴隷少女たちを最強に育てる陰の策略~  作者: spichat
第3章 転生勇者と奴隷少女

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第64話

警察病院を出た頃には、太陽は完全に上りきり、昼を完全に過ぎていた。

病院特有の消毒液の匂いが鼻に残っている。


「……勇者、か」


思わず小さく呟く。

異世界に続き、魔王と勇者……

つい最近まで、ゲームかラノベの中だけの存在だったものが、今では現実として目の前に転がっている。

しかも、その勇者が捕まって薬の材料にされているかもしれない、なんて話まで出てきた。


「警部」


隣を歩く鴨志田が声をかけてくる。

空気を読んでか表情が暗い。

鴨志田も話を聞いてショックを受けているのかと思えば――


「とりあえず飯行きません?俺、腹減りました」

「……お前はいつも腹減ってるな」

「頭使うと腹減るんすよ」


お気楽能天気を演じているのが鴨志田のいいところだ。

とはいえ、昼飯を食ってなかったのは事実なので病院近くの定食屋へ入る。

昼時を少し過ぎていることもあり、店内はそこまで混んでいない。

席へ座り、とりあえず日替わり定食を注文する。

水を一口飲んだところで、鴨志田がこちらを見る。


「で、何か分かりました?ここまで話したのは初めてでしたし」

「藤堂な。やっと長時間の面会が許されたからな。元気になってよかったよ」

「誤魔化さないでくださいっすよ」

「……大体、予想通りだったよ」


ブラック企業からの精神的疲弊、そこへ現れた“救済”。

そこまでは、日本でもよくある転落の形だ。

問題は、その先が異世界に繋がっていたこと。


「勇者の雫、ねぇ……」


鴨志田が苦い顔をする。


「そんな脱法ありそうっすよね。本当に勘違いして買ってる人も多そうっす」

「……冗談に聞こえんわ。また薬銃と組むのは勘弁だぞ?藤堂の件だって、しゃしゃり出て来そうなのを課長が止めてくれてんだぞ?」

「まあ、そうなんすけど」


店員が定食を運んでくる。

味噌汁の湯気が立ち上る。

病院帰りの空気が少しだけ薄れた。


「まあいい。鴨志田」

「はい?」

「“カイドウ”って名前、調べられるか?」


その瞬間、鴨志田がニヤリと笑った。


「いつか来ると思ってましたっす」

「……何だその顔」

「だから先回りして声かけてあります」

「は?」


鴨志田は唐揚げを箸で摘まみながら続ける。


「行方不明者関連なら、詳しい同期がいるんすよ」

「同期ね……お前、そんな顔広かったか?」

「失礼っすね。これでもコミュ力だけは警部よりあると思いますよ?」

「胸張ることか?」

「で、その同期に“面倒くさい案件あるかも”って軽く話通してあります」

「話聞いてないな……軽くで済ませたのか?」

「事実っすもん。警部よりは交友広いのは。で、同期なんで軽くでいいんすよ。深刻に話したって変わんないっすから」


それならまあ問題ない。

多分。


「ただ――」


鴨志田が少し真面目な顔になる。


「行方不明者案件、結構多いらしいっすよ」

「……だろうな」

「絞込みを考えておけって言われてるっすね」


勇者の雫。

もしあれが継続的に流通していたなら、藤堂みたいな人間は他にもいたはずだ。

社会的孤立から始まり、精神的疲弊と逃げ場のない人間関係。

そういう連中ほど、縋りたくなる。


「まあ、とりあえず本庁戻りましょう」

「だな」

「……ここ、奢りっすよね?」



警視庁本部。

霞ヶ関の駅から歩き、赤レンガの前にある庁舎へと入る。

いつもの刑事課へ向かうのかと思ったら、エレベーターで鴨志田は別の階のボタンを押す。


「おい、そこじゃないだろ」

「まずは生活安全課っす」

「……本当に話通してたんだな」

「疑ってたんすか?真面目に仕事はしてるっすよ?俺を誰だと思ってるんすか」

「問題児」

「否定できねぇ……」


廊下を進み、一室へ入る。

中では数人の警察官がパソコンへ向かっていた。

刑事課とは違い女性警官が多く、事務室の空気も華やかだ。

怒号もなければ慌ただしさもない。

その中で、一人の女性がこちらへ気付く。


「遅い」


黒髪ショート。

年齢は鴨志田と同じくらいだろうか。

スーツ姿で、かなりキツめの目をしている。


「よっす!増田。紹介するな。こちら、小澤警部」

「生活安全課の増田です」

「刑事課の小澤だ。すまんな、急に」

「いえ、仕事ですから。鴨志田くんから何となくの話は聞いてます」


そう言いながら、増田は鴨志田を見る。


「“面倒な案件持ち込む”って」

「嘘は言ってないぞ?」

「言われて、"はいそうですか"ってなるかっての」


即答だった。

完全に同期の距離感だ。

俺の同期……いや、考えないことにする


「警部、案件としてはいかがされます?」


増田がパソコンへ向き直る。


「探したいのは“カイドウ”でいいのですか?」

「ああ」

「漢字は分かりますか?」

「申し訳ない」

「年齢は?」

「不明だ……若いとは思うんだが」

「……かなりの数、ヒットしそうですがよろしいですか?」

「しょうがない。鴨志田に選別させる」


鴨志田がいきなり話を振られてギョッとしていたが、この際無視する。

アイリ曰く、異世界で“カイドウ”と名乗っていただけだ。

本名かどうかすら怪しいが、異世界で日本人らしい名前を名乗るのであれば可能性としては高い。

増田は慣れた手つきで検索を始める。

キーボードを叩く音だけが室内に響く。


「……海藤、甲斐堂、皆藤、戒道。読み一致だけでも結構ありますね」

「……だろうな」

「行方不明者に絞って、五十件オーバーですね」


画面を見ながら増田が続ける。


「さすがにこれだと鴨志田が使い物にならなくなりますね。もう少し絞りましょう。地域とかいかがですか?」


藤堂は薬で転生して魔王側についた。

なら、他に転生させていた人物となれば――


「荒川区、台東区、江戸川区、足立区、葛飾区。この辺で」

「下町側ね」


知る限りルクスが関係している気がする。

とすれば、聖ルクス協会周辺の区が怪しいところだ。

条件を追加して再検索。

候補が一気に減った。


「……四件」


画面をこちらへ向ける。

名前、年齢、失踪日時。

行方不明者の親族から提供された写真。

それらの情報だけが表示されている。


「データを送りますか?」

「できるのか?なら、頼みたい」

「分かりました。では、後ほど送っておきますね」


増田が操作し、刑事課の個人端末宛へデータを飛ばしてくれる。


「ありがとな」

「いえいえ。どうせ鴨志田に奢らせますんで。警部も大変ですね。こんなのが部下なんて」

「……酷い言いようっすね」

「アンタのせいで何回学校で連帯責任取らされたと思ってんの?」


鴨志田が小さくなり、黙った。

今後は鴨志田が暴走しそうになったら増田に協力してもらおう。



鴨志田を連れて刑事課へ戻る。

鴨志田は別件の処理があるらしく、そそくさと席に着いた。

自席へ腰を下ろし、送られてきたデータを開く。


「……さて」


送られてきた四件を確認する。

まず、ざっと見て二件は違いそうだ。

年齢は、六十代男性と七十歳の女性。

失踪時期は五年以上前。


「……これは違うな」


年齢的に、アイリの話と一致しない。

あっちに行って若くなることは可能性としてあるが、ルクスが言っていた若い人の方が適性が高いという部分と合致しない。

しかも、この二名は多少なりとも精神疾患を持っていたようだ。

勇者として異世界で戦っていた人物像とも噛み合わない。

残るは二件。

一件目は高校生、男性、失踪時期は三年前。


「……若いな」


写真を見る限り、普通の学生だ。

眼鏡をかけ、黒髪の短髪と見た目だけでいえば真面目そうな印象を受ける。

そしてもう一件。

社会人、女性で失踪時期は一年前。

こちらは二十代前半。

茶髪で左耳にピアス。

ただ、どうにも見た目がギャルっぽいのに、目元を見ると真面目そうな雰囲気を感じる。


「……どっちだ」


いや、もしかしたら両方の可能性すらある。

勇者が一人とは限らない。

藤堂の話では、“勇者”は複数いてもおかしくない口ぶりだった。

椅子へ深く座り直す。

藤堂から得た証言、アイリの話を頭の中で整理する。


「……調べる必要があるな」


小さく呟く。

普通の行方不明者として処理されていたものが、異世界案件へ繋がっている可能性がある。

一警察官として、この世界に悪影響がありそうなことを放置はできない。

画面に映る二人の失踪者情報を見つめながら、俺は静かに息を吐いた。

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