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陰で育てる少女たちのチート冒険譚~奴隷少女たちを最強に育てる陰の策略~  作者: spichat
第3章 転生勇者と奴隷少女

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第63話

「では、予定通り今日はこの世界を知ることを優先しましょう」


朝食を終えた後、みんなで片付けをしている時にエレナがそう切り出しました。

リビングではノクスのみなさんがテレビの前に座って、流れているニュースを見ています。

日本に来たばかりの彼女たちにとって、今日は“異世界見学”のようなものです。


「これはなんなんだ?」


ディナがテレビを指さして質問します。

エレナは洗濯物を干しにベランダへ向かってしまったので、私が代わりに答えます。


「テレビという映像を共有できる機械ですね。魔道具ではありませんよ。リアルタイムも録画されたものも色々と放送されています」

「……なんとも、珍妙なものがあるんだな。何のためにあるんだよ」

「テレビを見ている人にその日の起きたこととか、面白いこと、話題になっていることを知ってもらうためですね」

「なるほどね……なんとも平和な考え方だ」


そう言いながら、テーブルに用意しておいた紅茶に口を付けます。

私としてもこの世界はまだまだ驚くことばかりです。

いつか帝国にもこの技術が持ち込めれば……と思っています。

ノクスのみなさんがテレビを見ていると概ね作業は終わり、お出かけの準備に取り掛かります。

私は夕ご飯の担当でもあるので、素早く冷蔵庫を開けて、今日買うものをメモします。


「まずは近場からですね。今日は錦糸町周辺を回りましょう」

「きんしちょう……」


ユズが小さく復唱します。

聞きなれない言葉なのはしょうがないことです。


「今いるこの場所のことです。この場所は東京都という大きな括りのうちの錦糸町と呼ばれる場所になります」

「なるほど。じゃ、ご近所探索ってわけだ」


ディナは窓の外を眺めながら小さく息を吐いた。

窓の外には同じく高層マンションが見える。

青い空に鳥が飛んでいる、そんな日常的な風景。


「……平和な場所なんだな」


その言葉には、実感が滲んでいます。

マンションを押上方面に向けて出てしばらく歩きます。

車が走り、人が行き交い、店が並んでいる。

それだけならベルナスやラグナードの大通りと似ている部分もあります。

でも、決定的に違うものが――


「……誰も武器持ってねぇ」


ディナがぽつりと呟きます。

周囲を歩いている人々は、誰一人として剣も槍も持っていません。

公園で遊んでいる子どもたちも自由気ままに遊具で遊び、それを遠くから親御さんが笑顔で見ています。

鎧もない、護衛もいない。

それなのに、誰も怯えていない。


「戦争がない世界、ってわけじゃないんだろ?」 「ニュースを見る限り争いは起こっているみたいですね。ただ、この国はかなり治安が良い部類ですね。以前、何かのテレビ番組で世界の治安ナンバーワンに選ばれていましたよ」


エレナが何気なく答える。

それに対してディナは苦笑した。


「エレナさんは、すでにこちらの住人になっているだな。この光景を見て、違和感を覚えないのが不思議だよ」

「……?」

「命が軽い世界から来たんだぞ?」

「言いたいことは分かりますよ。ただ、この風景がそのうちアストラディアでも実現できたらいいと思いませんか?」


その言葉に、ノクスの面々も周囲を見る。

みんなが自由に、それぞれ危険を感じることなく、生きることができる世界。


「……変な感じだ。だが、悪くねぇ」


ディナはそう言いながらも、どこか羨ましそうでした。

数十分歩き押上駅に着きます。


「……凄い」


アイリは駅前広場を見ながら立ち止まってしまいます。


「どうしました?」


突然止まってしまったので、心配そうにサーシャが聞きます。


「……凄い人が多いなって」

「ここは東京スカイツリーがありますからね。一種の観光スポットです。あの大きな建物がそうですね。誰でも登れますよ」

「……この世界には身分とか、ないの?」


奴隷として生きてきた時間が長い彼女だからこそ、そういったことに敏感なのでしょう。

周りにはきちんと服を着た人しかいません。

ここまで来る道中でも、ボロボロな服を着ている人とはすれ違っていません。


「前に読んだ本では、大昔はあったみたいですね。でも、今のこの世界では、基本的に人権というものが存在します。なので、誰でも自由に行動できます」


エレナが静かに答える。


「もちろん、法律や倫理観はありますが、生まれだけで人生が決まることは少ないみたいですね。勉強も就職も表現も、全て自由です」


アイリはしばらく黙っていた。

そして、小さく笑った。


「……凄い世界」

「そうですね。逆に、自由だからこそ責任も付きまといます。優しい世界であると共に厳しい世界でもあるのですよ」


アイリは言葉の意味をきちんと理解はしていないでしょう。

それはこれから理解していけばいいのです。

私たちはそのまま、ソラマチに向かって散歩を続けます。


「……」


ノクスのメンバーで、ユズだけはここまで来る間も無表情のまま歩いていました。

でも、視線だけは忙しなく動いていて、初めて見るものに興味津々なのを隠しているのは明らかです。

右を見て、左を見て、上を見て、また別の店を見る。


「……ユズ、楽しそう」


ソラマチに入ってからは一層忙しなく動く視線に耐えかねてミアが茶化します。


「……別に」


照れ隠しの即答でした。

でも、顔は若干赤くなっているのを見逃してはいません。

ユズもその辺は諦めて、ミアに物珍しい物を聞くことにしたようです。


「……あの箱、何?」

「自動販売機」

「……じどうはんばいき?販売ってことは何か買えるってこと?」

「……うん。飲み物が買える。人がいなくても買えるから自動」

「……なるほどね。さっき言ってた"かがく"ってやつなのかしら」


その直後には別方向を見ていた。


「……あれは?」

「……クレーンゲーム」

「……何それ?」

「……中に入ってる物を掴んで取るゲーム。やってみる?」

「難しいの?」

「……私はできない」


ユズは遊んでみたいと思っていそうですが、「ふ~ん」と興味なさげに振舞っています。

歩いて眺めているだけでも楽しめるので、私は好きな場所です。


「これは……!」


サーシャが目を輝かせていたのは、本屋です。

その中でも家庭の医療とかいうジャンルで足を止めました。


「なんですかこれは……!」


次々と本を手に取っていきます。


「健康なダイエット方法?……薬効成分?副作用?……こちらの言葉がもう少し読めれば……」


私たちはこちらの世界に来た後に、ご主人様から"言語理解"のスキルをもらって生活しています。

ノクスの皆さんはそのスキルを既に所持しているようですが、慣れるまでは時間が多少かかるでしょう。


「なんだその本?そんなに凄いのか?」


ディナが聞く。


「凄いですよ!回復魔法は万能ではありませんから!一般家庭でもできる対処法がこんな本になってるなんて。私も薬学を独学で学んでましたので、こういう本に巡り会えるなんて嬉しいです」


サーシャは興奮したままページをめくります。


「この世界には殺菌剤というものが……。公衆衛生の重要性、これは……!」

「……本がお好きなんですね」


自分の世界に入ってしまったサーシャを見てキューリーが苦笑してます。

サーシャだけかと思っていると――


「……ほう」


カリンは小学生の理科教材の前で足を止めています。

視線の先には蒸留の仕方が書かれているようです。


「なるほど……」


カリンも本に集中しているようで、ページをペラペラも捲っていきます。

生物、物理、化学の基本的なことを見て、ワクワクしているようです。


「これは魔法ではなのですよね……?」

「科学というものらしいです。専門的な書物はこのお店には無さそうですね。高校生で習う物はあちらにありますが」


ひと段落着いたところで、カリンがエレナに問いかけましたが、エレナの言葉にすぐさま反応してそちらに向かってしまいます。


「……凄い。この世界の技術……いえ、科学は異常ですね……」

「カリン、行くよ?」


リリアは早くお目当てのお店に行きたい欲が溢れていますね。

カリンを呼ぶ声に少しイライラが見えます。


「ま、待ってください!あと少しだけ!」


お二人にはお好きな本を買って差し上げました。

あまり熱中されても困りますが、このまま本屋さんで立ち読みを続けるものご迷惑ですからね。

その後も色々とお店を回っていると、お昼の時間も近づいてきました。


「お店、多すぎません……?」


今まで静かだったキューリーがポツリと呟きます。

見渡す限り並ぶ店。

種類も豊富で、飲食店や服屋、雑貨屋、などなど。


「これ全部営業してるんですもんね?」

「……してる」


ミアが答える。


「……凄いですね」


受付嬢として街を見ていた彼女だからこそ感じているものもあるのでしょう。

この規模の商業施設が、平然と維持されている異常さに。

昼食は大型商業施設のフードコートでいただくことになりました。

それぞれ好きなものを注文して、席へ戻ってきます。

座った席は電器店の近くで、通路側に向いているテレビ売り場から、大きな音が聞こえてきます。


『――穿て!!ライトニングブレイドォォ!!』


派手なアニメ映像がデモで流れているようです

剣を持った主人公が、叫びながら技を放っています。


(……あのような技がポンポン打てるわけないでしょうに)


アニメだと理解していますが、現実にアニメのような勇者がいたとしても順風満帆にはいかないものです。

もし、順風満帆な勇者がいたのであれば、帝国は魔王の侵攻を受けずに済んだかもしれない……


(……ダメですね。そんなことを考えては)


そんな事を考えていると、ふとアイリの動きが止まっているのが分かります。


「……え?」


全員が振り向く。

アイリは呆然とテレビを見ています。


「どうした?」


ディナが不審に思って聞いてくれます。


「……あの技」

「ん?」

「カイドウさんが……同じ名前、叫んでました」


その言葉を聞いた瞬間、空気が変わります。

エレナにおいては真剣になって、声のトーンも落ちました。


「……詳しく聞かせてください」


アイリは少し考えてから、ゆっくり話し始めた。


「昔、村に来た旅人の話はしましたよね。黒髪で……いつも一人でした」

「奴隷になった時の話だな。そいつは強かったのか?」


ディナが興味本位に聞きます。

ご主人様を見ていれば、強いと思うのも無理ありません。

でも、アイリは首を横に振りました。


「……弱かったです。いつもホーンラビットにやられてました」


予想外の答えです。

ホーンラビットは初心者が良く練習で狩る魔物です。それすら倒せないのは、冒険者としていかがなものでしょう。


「いつも怪我してて、ボロボロで……」


アイリの話は続きます。


「でも、魔物が出た時は、絶対逃げませんでした。"俺は勇者だ。弱くても、誰も傷つけさせない"って」

「……」

「何とか追い払って、夜な夜な泣いているところも見ることも多かったです。でも、“自分がやるしかない”って」


アイリは静かに話を終えました。

その言葉に、私たちは視線を交わします。

嫌な予感がします。

勇者があの世界にいて、まだ成長途中な状態でいた事実。

なのに、勇者として表舞台にいないことの事実。


「……ルクス様が知っているかもしれません。確認しましょう」


エレナが静かに言った。

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