第60話
ベルナス近郊――森林地帯。
木々の隙間から差し込む日差しが、地面をまだらに照らしている。
「今回の依頼はホーンウルフ五体の討伐ですね」
先頭を歩きながら依頼書の内容を再確認します。
ベルナス冒険者ギルドで受注した、ノクスにとって初めての依頼。
本来であればFランク冒険者が受ける依頼としては妥当な内容ですが、今回はノクスの初実践なので私たちも同行します。
「まずは実戦慣れが目的です。無理はしないように」
私の言葉に、ノクスの六人がそれぞれ頷く。
余裕そうなのは、ディナとユズ、キューリー。
ディナは大盾を肩に担ぎながら周囲を見て警戒していて、慣れている感じがする。
ユズも落ち着いたもので、きちんと周りに気を配っているのが分かります。
キューリーは受付嬢として働いていたからか、比較的落ち着いています。
逆に、アイリは杖を強く握っていて緊張が見て分かりますし、サーシャは緊張しているのか、何度も呼吸を整えています。
カリンは小さい身体をさらに小さくしています。
「……みんな、緊張しすぎ」
ミアがぽつりと呟く。
「最初はそんなもんだろ。私も初実践の時は足が震えたもんだ。ミアはもう緊張しないのか?」
ディナが聞くと、ミアは少し考えてから答えます。
「……うん。最初はしたかも」
「だろ?」
「ディナさんでもそんなことあるんですね……」
アイリが驚いたように言います。
「あるさ。死ぬかもしれない場所で平然としてるやつの方が危ない」
「……それは、そうかもしれません」
そのやり取りを後ろから聞いていたセラが、小さく口元を緩めます。
アステリアも最初から完成されていたわけではありません。
最初は私、リリア、ミアの三人から始まって、セラたちが加わって、最近やっとパーティとして形になってきたところです。
だからこそ、今のノクスにも期待しています。
「……止まって」
リリアが静かに足を止めます。
リリアはアステリアの前陣として斥候の能力も伸ばしています。
ミアは感覚派で、リリアはスキルを上手に使いこなす技巧派です。
そんな妹の成長は嬉しいものです。
「前方。三」
「ホーンウルフですね」
フィアが反射で弓を構えます。
――が、私が手で制します。
今回の目的はノクスがきちんと戦えるかどうか。
フィアは私の合図を正しく理解したようで、何時でもサポートできるように控えてくれます。
木々の隙間から灰色の狼型魔物が姿を現します。
角の生えた大型の狼、ホーンウルフ。
「来るよ!」
ユズが声を上げます。
その瞬間、三体のホーンウルフが飛び出してきます。
「ディナ!」
「任せろ!」
ディナさんが大盾を前へ出す。
直後、ガァンッ!!と重い音がしますが、ホーンウルフの突進を真正面から受け止めきります。
アステリアであれば、ミアが避けながらリリアとセラに攻撃を任せるところですが……
「っ……一体そっち行くぞっ!」
だが、三体の攻撃を一人で受け持つのは無理だったようで、一匹が切り込んできます。
地面を滑りながら押し込まれていく。
「キューリー!カリン!一匹倒して」
ノクスの陣形はディナさんが最前陣で盾役、相手のヘイトを稼ぎ、第二前陣に少しずつ敵を流していくようです。
キューリーさんは冷静に持っていた剣で攻撃して、カリンさんがハンマーで叩きます。
「アイリさん、魔法詠唱を!ディナさん、一匹こちらに」
アイリさんが慌てて魔法を構築しますが、ルナさんからさっき教えてもらった呪文なので発動までは時間がかかりそうです。
対して、一匹が切り込んで来ますが、キューリーさんとカリンさんの体勢は整っていません。
「アイリさん、焦らずに集中してください」
ユズさんが手をかざすと、切り込んきた一匹に氷の矢が飛んでいきます。
しかも狙いは足元で、これで機動力はなくなったも同然です。
そこへ別方向からもう一体。
「最後――」
このタイミングでアイリさんの魔法が完成します。
「ファイヤーボール!」
炎の玉を受けたホーンウルフは飛ばされ、ディナさんが持っている短剣でトドメを刺されました。
初戦としては、十分すぎるほど見事な戦い方でした。
「……盾、すごいね」
「まだまだ、だな。本当なら"挑発スキル"を使って、もっとヘイトを集めなきゃいけないんだが、上手くやれた方かな」
ディナさんがミアと同じ盾役として色々意見を交わしているようです。
スタイルの違う二人ですが、盾役が頼もしいと後ろも安心して行動できるというものです。
「……キューリーは片手剣なの?」
「リリアさんは双剣ですよね。私は剣術は初心者なので、盾があった方が安心で……」
こちらも剣使いとして色々話をしているようです。
キューリーさんの戦い方としては攻防のバランスを考えるタイプのようです。
「……詠唱、難しい?」
「いえ、あの、これから頑張ります!」
あちらはルナとアイリさんの師弟コンビですね。
アイリさんは魔法使いを目指すようで、同じ魔法使いとしてルナに色々教えてもらうようです。
「お疲れ様でした、ユズさん」
「ありがとうございます。初戦にしては上手くできたことに安堵してます」
「あと二匹。油断せずにいきましょう」
ユズは冷静に周りが見えていたと思います。
同じ司令塔としてここからどこまで成長するのか楽しみです。
(私もご主人様に魔法が使えるように頼んで見ましょうか……)
アステリアは前陣ができる人材が多くいます。
私は剣士系統の職業をご主人様に伸ばすようお願いしていますが、今日の戦いを見ると魔法剣士というポジションもありかもしれません。
「では、次に行きますよ?」
そこからは私たちも受けた依頼をこなすために魔物退治を行います。
アステリアの討伐目標はゴブリンキング。
街の近くにゴブリンの巣ができてしまったのを放置していたようです。
ベルナスのギルドにいる冒険者では、キングを討伐できるパーティーはいないので被害が出る前に、と引き受けました。
「……どうでしたか?」
「……巣の中はゴブリンだらけ。臭い……」
ミアに偵察をお願いしましたが、やはり中にはゴブリンが多く居るのですね。
「……魔法で入口、壊しちゃう?」
「……できなく、ない。でも、討伐、しない?」
リリアも巣に入っていくのは遠慮したいようで、遠距離から倒せるのであれば、と提案をしてくれます。
「ここは、巣の中に炎魔法を打ち込んで、中の酸素を奪ってしまいましょう。キングが出てくればそこを討伐します」
ノクスの皆さんもこの討伐には興味があるようで、お手伝いできることはないのか聞かれるので、出てきたゴブリンの共同討伐とします。
「では、いきましょう。ルナ、お願いします」
「……分かった。フレイムアロー」
巣の前にいるゴブリンが反応しますが、巣に向けて放たれた魔法に気付き、こちらに向かってきます。
「ミア、リリア、セラ。あと、ノクスの皆さん。お願いしますね」
「……まだ少ないから、ノクスに任せる」
「分かりました。ディナさん、お願いします。サポートでキューリーさん」
ルナはどんどん魔法を巣に向かって放ち続けます。
数分すると、巣の中からゴブリンが逃げるように出てきますが、かなり弱っているようで簡単に倒せます。
「……アイリ、魔法、打つ」
「分かりました。頑張ります!」
ゴブリンが出てこなくなったところでルナとアイリさんは魔法を打つのを止めます。
「ゴブリンキングが出てきませんね?」
「……弱ってそうだけど、まだ生きてる」
「リリア、ありがとう。今、巣に入るのは危険ですしね。どうしましょう……」
ほぼ討伐は終了していると思っていい。
生き物であれば酸素がないと呼吸できずに死んでしまいます。
今の洞窟は炎魔法で二酸化炭素が充満しているはず。
このまま放置してもいいのですが……
「討伐証明できないのですよね……」
クエスト失敗も致し方なしですが、初の失敗がこのクエストなのはモヤモヤします。
すると、巣から大きな影が二体出てきます。
フラフラした足取りで、このまま放置してもいずれ死亡するでしょうが、あれがキングとクイーンであるのは間違いなさそうです。
「さて、あの二体を討伐しましょう」
これでクエスト自体は完了なので街に戻れます。
ノクスの初実戦も終わりましたし、今日の目標は全て完了です。
「少し休憩したら戻りましょう」
皆さんに今日はここまでと伝えます。
「今日は初依頼です。無事に帰るところまでが依頼ですよ」
その言葉に、ノクスの六人は少しだけ笑った。
遅くなり申し訳ございません。本日のみ23時更新です




