第56話
ラグナード冒険者ギルドの地下修練場へ向かう。
そこでラグナードの避難民が生活している。
石造りの通路を進みながら、俺は周囲へ視線を向ける。
侵攻から二週間。
街は少しずつ復興し始めているとはいえ、住居の復興は先送りのため、ここに多くの人が残されていた。
家を失った者。
家族を失った者。
そして――奴隷商の屋敷に残された者たち。
「……思ったより多いな」
「保護対象だけで数百人を超えていますので」
エレナが小声で答える。
「特に奴隷商の施設にいた方々は、行き場がない人も多いです」
その現実に、少しだけ胸が重くなる。
するとセラが静かに口を開いた。
「……まだまだ帰れる場所がない人がこんなにもいるのですね」
帝国への魔王軍侵攻は決して帝国の所為ではないが、それでも責任を感じているのだろう。
だが、それを今口にしても仕方ない。
「……気にしていても仕方がない。今からどうするか、だ」
俺がそう言うと、セラは小さく頷いた。
ギルド職員に案内され、保護区画奥の一室へ向かう。
扉を開けると、中には十数人の女性が集まっていた。
年齢は十代前半から十代後半で種族も様々だ。
ヒューマン、獣人、エルフ、ドワーフ、コビット。
全員、保護された時の服のまま過ごしているのか、既にボロボロだ。
それでもギルドの呼び掛けに応じてこうして集まってくれたのであれば、最大限救ってあげたいところだ。
「ご主人様。ここは私が」
話しかけようとしたところ、エレナに制され、エレナが一歩前へ出る。
「本日はお集まりいただきありがとうございます。まず、勘違いしないでいただきたいのですが、私たちは無理やり戦わせるつもりはありません」
空気が少しだけ緩む。
「ですが、今のラグナードには戦力が必要です。そして、今後も魔王軍の侵攻が続く可能性が高い。だからこそ、私たちは新たな仲間を欲しています」
ざわり、と空気が揺れた。
魔王軍と戦う可能性を示唆され、動揺したのが数名。
そこまではギルドも説明していなかったのだろう。
「戦う意思のある方のみ、お話を聞かせてください」
沈黙が場を支配する。
その中で、一人の女性が立ち上がる。
女性にしては身長が高いく、セラと変わらないぐらいだろうか。
狼のような耳と灰色の髪、青い目が特徴的。
「……ディナだ。ガルド族、ヒューマンからは"人狼"と呼ばれることが多いな。奴隷になる前は傭兵もしていた」
「得意武器は何だ?」
俺が聞くと、ディナは片手で壁に置かれていた大盾を持ち上げる。
かなり重量があるはずだが、本人は平然としていた。
「私はタンクだった。避ける事もできるが、力も自慢だ。武器はあまり得意じゃないから、徒手空拳だ」
「……ミアとはタイプが違うな」
思わず本音が漏れる。
アステリアではミアが盾役ではあるが、スタイルは回避盾。
そのスピードを活かした撹乱で動きを封じて、セラとリリアが仕留める。
時にはミア自身も攻撃参戦できる前陣のオールマイティ型だが、こういう純粋な盾役も欲しかった。
するとミアが近づく。
「……止めれるの?」
「大盾の役目は止めることじゃない。攻撃を受け流すことだ。見たところ、アステリアの盾役だろ?かなり強いな。もし採用されたら手合わせ願いたいな」
「……分かった」
ディナが少しだけ笑う。
「同じ獣人同士、仲良くできたらいいな」
「……うん。でも、一番手は渡さない」
「今後も勝てる気がしないよ。でも、盾役として活躍は約束する」
そのやり取りを見ていたエレナが、小さくメモを取っていた。
すると今度は、部屋の隅にいた小柄な少女が手を挙げる。
「……あ、あの」
薄茶色の髪な少し垂れ目で茶色。
年齢はフィアより少し上くらい。
「どうした?」
「黒髪なので珍しいなって。もしかしたら、“ニホン”って知ってますか?」
空気が止まった。
アステリアの視線も自然と集まる。
「……誰から聞いた?」
少女は驚いた顔をする。
「や、やっぱり知ってるんですね……」
少女は何かを考えては言うのかどうか迷った末、恐る恐る続ける。
「昔、旅人さんが村に来たんです。黒髪で、変な言葉いっぱい知ってて……」
「名前は?」
「カイドウ、って名乗ってました」
日本を知っていることも驚きだが、合わせて出てきた日本人らしき名前に驚きが隠せない。
だが、これは新しい情報だ。
もしかしたらルクスが送り込んでいた転移者の可能性もある。
「その人から“いただきます”って言葉を教わりました。あと、"わしょく"が食べたいとよく言っていました」
「……完全に日本人だな」
頭が痛くなる。
異世界に来て和食を欲するのは分かるが、異世界で何を求めているんだ……
「私はアイリです。元村人なので戦うのは得意じゃないですけど……魔力適性はあります。種族はヒューマンで、口減らしに売られました」
「……そこまでは求めていない。戦いに身を置くことになるがいいのか?」
「……はい。私の村も遅かれ早かれ魔王軍に侵攻されていると思います。なら、戦いたいです」
魔力適性次第だが、ヒューマンは悪くない。
この世界の理として、ヒューマンは器用貧乏になりがちだが、逆にオールマイティに何でもこなせる素晴らしい人材でもある。
すると別の場所から声が飛ぶ。
「だったら私も立候補したい」
青髪の少女だった。
身長は低いがキリッとした目が印象的だ。
「名前はユズ。種族は雪民。」
「……聞いたことない種族だな。」
「基本的に山奥の雪の積もるところにしかいないから。エルフが森の守護者なら、私たちは雪山の守護者」
「……なるほど。で、立候補したのはなぜだ?」
「元々冒険者をしてたけど、裏切られて奴隷になったから。復習は考えてないけど、有名になって見返したい」
……嫌な経歴だな。
だが、相応の実力はありそうだった。
さらに――
「私も立候補します。名前はサーシャ、エルフです。一応、固有スキルがあります」
「エルフか……固有スキル?」
シャードッシも固有スキル持ちだと言っていた。
アステリアにはそういった固有スキル持ちはいなかったので、聞き返してしまった。
「固有スキルは稀に発芽するものです。奴隷になっても消えません。研究も進んでいませんのでなんなのかは……」
「なるほど?」
「私の固有スキルは回復系統になります。よろしくお願いします」
サーシャは深々とお辞儀して下がった。
固有スキルといえば、【ゼロ】がそれに当たるだろうか。
また新しい情報が入手できたのは嬉しい誤算だ。
「……あの、私……カリン……えっと……ドワーフです……身体の強さには自信が……あります?」
「なぜ疑問形なんだ?」
また一段と癖の強そうな少女が名乗りを上げてくれた。
髪は黒に近く、髪量が多いのがひと目でわかる。
目は垂れ目で、一見気弱そうに見えるのだが――
「えっと……その……人見知りで……すみません」
「分かった。ただ、それでパーティ組めるのか?」
「慣れれば……大丈夫です……」
一抹の不安はあるが、ドワーフという言葉には惹かれるものがある。
武器や防具はそのうち自分たちで用意できたらと考えていたので、そういった人材になりえそうなら当たりだ。
「他に立候補は居ないか?」
次々と声が上がる。
気付けば、 部屋の空気は最初よりかなり前向きになっていた。
俺はエレナを見る。
「どうだった?気になる人材はいたか?」
「……そうですね。面白そうな人材は多いですね」
「面白そうか……」
「ご主人様はいかがでしたか?私の感ですが、ある程度は決まっているのではないですか?」
否定できない。
するとリリアが静かに言う。
「……ご主人様、放っておかない顔してる」
「そんな顔してたか?」
「……してる」
ミアまで頷いた。
なんか納得いかない。
「……念の為、お伝えします。私たちもご主人様の奴隷です。とはいえ、きちんと人として扱ってくれますし、無理なことは言いません」
エレナが候補者たちへ向き直る。
「なので、呼ばれた方は安心してくださると嬉しいです。逆に呼ばれなかった方は、また第三部隊の時に声がかかるかもしれないので、気を落とさないでください」
候補者たちの表情が変わる。
俺は小さく息を吐いた。
もう腹は決まった。
「エレナ」
「はい」
「六人、選ぼう」
エレナが静かに頷く。
そこから最終的に選ばれたのは――
ガルド族の盾役、ディナ。
ヒューマンの後衛候補、アイリ。
雪民の後衛候補、ユズ。
回復担当のエルフ、サーシャ。
頑丈さが取り柄のドワーフ、カリン。
そして、意外にもギルド受付嬢のヒューマン、キューリー。
ギルドの受付嬢である彼女も立候補してくれた。
「この騒動でギルドをクビにされまして。人件費削減だそうです。新しい働き口として受け入れてくれませんか?」
――とのことだった。
いずれも荒削り。
実力差もある。
アステリアほど完成されてもいない。
だが――
「今日から、俺の衛第二部隊だ」
その言葉に、 六人の空気が変わった。
不安。緊張。覚悟。
様々な感情が混ざっている。
するとミアが小さく呟く。
「……ほんとに六人だった」
「お前の勘、怖いんだよ」
少しだけ笑いが起きる。
だが、これは始まりだ。
アステリアに続く、 新たな部隊。
ラグナードを守るための、 第二の盾が生まれようとしていた。




