第55話
ラグナード防衛戦から二週間が経過した。
街は少しずつ落ち着きを取り戻している。
……とはいえ、“元通り”には程遠い。
崩れた建物。 焼け焦げた石畳。 未だ片付けきれていない瓦礫。
街を歩けば、戦いの爪痕が嫌でも目に入る。
「……まだまだ時間かかりそうだな」
ギルド前の広場で復旧作業を眺めながら呟く。
東門周辺は特に被害が大きかった。
シャードッシとの戦闘で吹き飛んだ建物も少なくない。
今はラグナード兵や冒険者、住民たちが総出で復旧に動いている。
「ベルナスからも支援物資が届いておりますので、少し落ち着きました」
隣に立つエレナが状況を整理してくれる。
ベルナスからの荷車には木材や保存食が積まれており、忙しなく人々が動いている。
王国としても魔王軍の侵攻は帝国内に留めておきたいので、支援は積極的だ。
「人的支援もかなり来てるな」
「はい。ですが、戦える人材は不足しています。まだ療養中の人が多くいるので、万全までは程遠い状態です」
それが一番の問題だった。
一度退けたものの、再度侵攻を受けた場合、数で押し切られる可能性もある。
せっかく復興の兆しがあるのに、そんなことになったら住人の心が折られてしまう。
そこに加えて――
「ここまで魔王軍が来てるとするなら早めに次の街にも足を伸ばしたいところだが……サウスノーランド、か」
ギルドで見せてもらった地図を思い浮かべる。
ラグナードから北へ行ったところにある帝国南側の流通拠点。
そこのギルドとの通信は途絶えていて、現状をきちんと把握できていない。
「ですが、ご主人様」
エレナが小さく首を横に振る。
「ラグナードを空にするわけにもいきません。近隣の街とはいえ距離はありますので、何かあった時に対処できません」
「……だよな」
シャードッシを倒したとはいえ、 敵側の戦力は未知数であるため、油断せずにいきたい。
むしろ本格的に攻めてくる可能性すらある。
ここで戦力を移動させた瞬間、 再度ラグナードへ侵攻される可能性は十分ある。
「厄介だな……」
単純に人数が足りない。
俺とアステリアだけで、 複数都市を防衛するのは現実的じゃない。
すると、今まで黙っていたセラが口を開いた。
「……なら、もう一つ戦える部隊を作るべきではありませんか?」
「部隊?」
「はい。アステリアと同じように動かせるパーティがあればご主人様もだいぶ楽になるのでは、と思います」
セラの視線は、復旧作業をしている冒険者たちへ向いていた。
「こういってはなんですが、この戦いで生活することも苦しくなっている人も多くいます。特に両親を亡くした子どもは。なので、ご主人様の保護下に入るのも一つの手かと思います。」
セラはそう言いながら深く頭を下げる。
それ以外にも思いはあるのだろう。
帝国のお姫様として、国民が少しでも健やかに暮らせるように。
「……検討はする。候補自体はいるかもしれないな……」
「ありがとうございます」
だが問題は他にもある。
「もし、パーティを一つ増やすとしても、育成する時間が足りないな。アステリアと同等の戦力となるとすぐには無理だろう」
「それについては本人たちの頑張りに期待ですね」
エレナが当然のように言った。
「アステリアも最初は弱かったんですから。今も当初組と途中参加組とでは能力の差があります。でも、力を合わせれば十分戦える部隊になります。要は、パーティメンバーの相性です」
理屈としては分かる。
だが――
「人材探しが面倒だな」
「それについてなのですが」
エレナが言葉を区切る。
「侵攻時に奴隷商の施設が壊滅しています」
「……ああ、そういやそんな話もあったな」
ラグナード侵攻時、街の裏区画もかなり被害を受けていた。
奴隷商の建物も例外ではなく、崩壊したらしい。
「生き残った奴隷たちは、現在ギルド管理下で保護されています。奴隷商人も無事なので、正式な売買は可能です」
「……なるほど」
何となくエレナの言いたいことが見えてきた。
「候補者を探す、と」
「はい。今はギルドが力自慢の奴隷を買い取って復興作業に当たらせています。目ぼしい候補者は日に日に減っているとお考え下さい」
フィアが静かに頷く。
「……女の子はほとんど買われていないみたいでした。今必要なのは男手だからでしょう。そのうち、娼館ができたら、その職に就きたくない子も多く買われると思います」
その言葉には重みがあった。
フィアもエルフという種族で、長命でありながら美少女だからこそ分かるのだろう。
そういった話を聞くと助けたくなるが――
「とはいえ、誰でもいいわけじゃない」
「当然です」
エレナが真っ直ぐこちらを見る。
「最低限、アステリアとも連携が取れる人がいいですね」
「……それもそうだな」
戦力が欲しいからといって、アステリアが俺にとっての最大戦力であることは今後も変わらない。
今後も部隊を増やしていくとしたら、その先立てとなる第二部隊にもそれなりの人材を確保さておきたい。
しばらく考え込む。
そして――
「とりあえず会うだけ会うか」
俺がそう言うと、 セラが少し安心したように息を吐いた。
「ありがとうございます」
「まだ仲間にするって決めたわけじゃないからな?」
「それでもです」
するとミアがぽつりと呟く。
「……六人くらい?」
「ん?」
「……人数」
リリアが小さく笑う。
「ミアの勘、当たるから」
「やめろ。そういうこと言うと本当に六人になる」
だが――
妙な予感はしていた。
ラグナードを守るための新たな戦力。
その中から、 俺たちの次に続く者たちが現れる気がしていた。




