第54話
小澤が藤堂の部屋に突入した同時刻――
聖ルクス教会では、ボロスに関する情報が舞い込んできていた。
情報をもたらしたのは、黒いローブとフードに仮面をかぶった正体不明の人物。
だが、ルクスにとっては昔から付き合いのある友人。
そんな二人の会話にエリナも加わり、今後の対応を検討していた。
「――というわけで、ボロス配下の十本指の一人が倒されました」
「……思ったよりも早かったですね」
ルクスは顎を触りながら予想外の戦績に少し悩んでいる。
今回、ボロス軍が帝国に侵攻したと伝え聞いた時はそれを止める方法を考えていた。
だが、そのボロス軍を一時的にも止めたのが、あの警察官となれば話は別。
「このままでは早々に目を付けられる可能性がありますね」
「それはそれで困りますよね。今はあまり目立たずに、世界の調和を取り戻してもらいたいのですが……」
「いかがしますか?こちらから遅延工作を行いますか?」
ルクスとしては今の状況はあまり芳しくない。
ヴァルディウスの力が増している今、その加護を受けていると思われるボロスに対して、正面から戦いを挑むとするなら、何かしらの横やりは必ず入る。
あの警察官には、少しでも世界の正常化、善の神が力を取り戻す土台造りをしてほしいのだ。
「エリナはどう思いますか?」
「私たちの戦力の大半は日本で生活していますので、今さら戦いの場に戻りたいと願う者はいないでしょう。ネロだってゆっくり過ごしたいでしょうに。申し訳ないです」
「いえいえ。楽しく過ごしてますから」
仮面を被った人物――ネロは首を横に振る。
その時、協会の裏戸から一人教会に入ってくる。
「みなさん、どうしたのですか?」
金髪に整った顔、スタイルは良さは伺えるが、車いすに乗っているため分からない。
ゆっくりと三人の元まで車いすで移動すると、「私も話にまぜてくださいな」と笑顔を向ける。
「あまり楽しい話ではありませんよ?」
「アストラディアのお話でしょう?私にも関係があると思うんだけど?」
ルクスは苦笑いをしつつも会話に加わるのを拒否しない。
エリナと仮面の人物は何を言ってもしょうがないと割り切った雰囲気を感じられる。
「お身体は大丈夫なんですか?あまり動かれてはまた寝たきりになりますよ?」
エリナが心配して女性の身体を気遣う。
そんな心配は無用と、金髪の女性は首を振る。
「少し力が戻ってきたので大丈夫ですよ。私だっていつまでもお荷物では居られません」
「それでも安静にしていてほしいのですがね」
ルクスは少し意地悪な言い方をしているが、彼女は今まで寝たきりの生活を送っていた。
当然の心配であり、大切な戦友だからこそ今無理をしてほしくない。
「ルクス様。とりあえず、今は傍観でよろしいのですよね?ゼロこと小澤が帝国を取り戻す動きをしたとしても……」
「ラグナードの次はサウスノーランドが近い街ですね。彼らなら奪還はできるでしょうが、ラグナードとサウスノーランドを守りつつとなると戦力が足りませんね」
ルクスはボロスとも面識はある。
あいつが考えそうなこととすると――リベンジ一択。
だか、すぐにリベンジをしに来るとは思えない。
あいつの性格からすると、きちんと準備して確実に勝てる状態で挑んでくるだろう。
となると、一番濃厚な場所は……
そこまで考えてルクスは考えるのをやめた。
「とはいえ、小澤さんはこちらの思惑通りに動かない人ですからね。今回はお姫様と出会うっていうイレギュラーが発生しましたし」
「でも、例の施設は一つ潰してくれえましたし、結果オーライです」
エリナたちも小澤から聞いていた邪法な転移方法はかなり危うい技術だと認識している。
どのような方法、技術を使っているか分からないが、許される方法でないことも事実。
「私としてはボロスの十指は早めに倒して欲しいですわ。それだけでも十分力を取り戻せます」
金髪の女性はニコリと笑い、天井を見上げる。
「イレギュラーなら存分にその行動を活かしてもらいましょう。それで、お話は終わりですか?」
ルクスたちは三人とも頷く。
この場はあくまでも情報共有。
(小澤さん……とりあえず、無事でよかった)
ルクスとしては今回の帝国遠征は寝耳に水だった。
今の小澤たちでは太刀打ちできるレベルの魔族ではないと考えていた。
しかし、結果は討伐。
これ以上ない結果をもたらしたのは、小澤の判断がなせる技かあるいは――
(小澤さんの能力は規格外なのは報告を受けてますが、それだけでは今後進めなくなってしまう)
彼の周りには幸運にも彼女たちがいる。
(キーは彼女たちですね……)
物思いに耽っているとエリナに服の袖を引っばられる。
何事かと顔を向けると、「朝ごはんですよ」と何気ない会話が展開される。
「今は見守ると決めたじゃないですか。彼女たちの日本での支援に注力しましょう」
「そうだな……」
ルクスとエリナは肩を並べて裏の戸から庭に出る。
そこに待っているのは食事を用意して待っているメイド従者たち。
この光景がいつまでも続くように。
あの世界もこのような平和な日々が送れるように。
そう願うルクス夫妻であった。




