第50話
■セラ
エレナが「救援優先します」とパーティに声掛けをしたことで、私を先頭にまずは冒険者ギルドを目指すことにします。
冒険者ギルドは東門に近く、南門から向かったらそれなりの距離があります。
向かう道中、街の様子を伺っていましたが、東側は建物への被害も少なく済んでいるようです。
「セラさん、大丈夫ですか?」
エレナさんが気遣って声をかけてくれます。
「はい。ありがとうございます。私は大丈夫です。それよりも先を急ぎましょう」
ラグナード冒険者ギルドに着くと周りには魔物の死骸が転がっています。
建物の外壁は崩れ、入口付近には血痕が残っていて……心の奥が痛いのを感じます。
何が目的でこんなことをしたのか……
「まだ、生きてる人がいます!」
フィアが声を上げる。
生存者がいたことがここまで嬉しいなんて。
「大丈夫ですか?」
「……助かった。ありがとう。君たちは?」
「冒険者です。アステリアというパーティです」
傷だらけの冒険者はここでギルドを守ってくださっていたとのこと。
ギルドの中には非戦闘員の住民も逃げ込んでいて、今まで冒険者たちがなんとか追い払っていたそうです。
ギルドに入ると、そこは野戦病院の様相です。
ボロボロになるまで戦ってくださった冒険者の介助を住民の方々がされています。
私たちがギルド内に入ると、汚れたギルド嬢服を着た方が対応してくださいます。
「はじめまして。どのようなご要件でしょうか?」
「パーティ、アステリアです。王国のベルナス支部から救援のために来ました。こちら、ギルド長の証明書になります」
受付嬢さんは書類に目を通すと、駆け足で二階に上がっていきます。
しばらくして、二階の部屋に来てくださいと声がかかります。
「ラグナード支部長のバンです。救援感謝します。現状をお伝えしたくお呼びしました。またいつ攻めてくるとこ限らないので、端的にお伝えします」
ギルド長のバンと名乗った方は、頭に包帯を巻き、腕は骨折しているのか添え木がしてます。
それでも、この場所を守ろうという気概を感じます。
「昨日までは魔王軍の侵攻のみでしたが、今日は南の森からの魔物も来ている状態です。南はラグナード兵に任せ、我々は西から来る魔王軍への対応をしております。昨日からの連戦で傷ついた者も多いですが、運良くヒーラーもおりますので、なんとか耐えれている状態です」
「住民の方々はご無事ですか?」
「住民には地下のシェルターに移動してもらっています。食料は保存食で約一ヶ月は保つでしょう。戦力も厳しいですが、私も前線に立ちますのでどうにかします。なので、あなた方には魔物を操っている黒幕を見つけていただきたい」
エレナさんが「……やっばり」と呟きます。
私はスタンピードが偶発的に発生したものと思っておりましたが、エレナさんとギルド長は違うように感じていたようです。
「……怪しい人はいるのですか?」
「このギルドにはいません。全員、持ち物検査しましたので。ですので、教会に向かってください」
「それはなぜ?」
「偵察に出した部下の話によれば、あそこはあまり攻撃を受けていないようなのです。あからさま過ぎて罠の可能性もありますが、何卒」
ギルド長が深々と頭を下げられます。
この街のことを第一に思ってくれることに、心から感謝とともに涙が流れてしまいます。
■エレナ
ラグナードのギルドを出てから、街の中央にある教会を目指す。
その道中、私はギルド長が話された内容を吟味します。
南門に襲いかかっていた魔物にはおかしな部分がありました。
まず、魔物はその凶暴性から人族を見かければ襲いかかってくるはずです。
しかし、あの団体は人族を襲っているように見えて、街中を目指すような感じがしていました。
私たちがご主人様の作ってくれた道を通った時も、こちらに襲ってくるでもなく、門をひたすら目指していました。
(……人為的にスタンピードを起こした?そんな事が可能なのでしょうか?)
もし、そんな兵器じみたものがあるとしたら、王国にとっても脅威となります。
一つしかないのであれば破壊、複数あるのであれば原理の解析と止め方を知っておかなければなりません。
そうこう考えているうちに中央広場にある教会に着きます。
中央広場は魔王軍の攻撃で噴水は壊れ、建物も瓦礫の山とかしているのに、教会だけは傷ひとつ無い状態です。
「確かにこれは怪しいですね」
「……女神様の加護のお陰では?」
セラさんが捻り出すようにひとつの可能性を提示します。
「……帝国は、そもそも他宗教?」
「そうですね。多民族国家なので、国教はありません。一番影響力のある宗教はバハート教ですね」
「……見えてるのは、ハバート教?」
「ハバート教ではありませんね。私も見たことがない宗教です」
ハバート教は昔、帝国を未曾有のスタンピードから救った黒龍を祀った宗教です。
慈愛を精神とするハバート教は慎ましい生活を良しとしているので、目の前にある豪奢な教会とは程遠いと感じます。
「……中に入ってみれば分かります。警戒は解かず、いきましょう」
教会に近づくと、扉の前に門兵が手に持っていた槍を構えます。
「何者だ?」
「冒険者パーティ、アステリアです。ラグナードの救援に参りました。中の住人は無事ですか?」
門兵の方はそれ以上近づくな、と言わんばかりに槍を向け続けます。
「心配無用。我らが信仰者は無事に過ごせている。こちらに構わず、事態の鎮静を優先してくれ」
「こちらは避難所ではないのですか?」
「当教会は避難所として開放していない。このような状況下では我々も保護できる人数に限りがある」
セラが小さく息を吐く。
「私は帝国第一王女、セラ=デラ=サザラントです。我が帝国民がこちらに避難しているはずです。その安全を確かめるためにも中の様子を見せていただきたい。できませんか?」
セラはこういった時に自分の身分をうまく使いこなすな、と感心してしまいます。
門兵の二人は一度顔を見合わせたものの、意を決してこちらに突撃してきます。
私はリリアとミアに取り押さえるように指示。
無事に無力化できたところで、お話を伺いますが黙秘されるようで返答をいただけませんでした。
「二人を拘束して、動けないようにしてください」
また襲われたらキリがありません。
これで教会に入るための障害はなくなりました。
■セラ
教会に入ると非難した人が見当たりません。
先ほどの門兵は何を隠そうとしていたのか……
ミアさんは壁や机などを物色して、リリアさんは先ほどから目を閉じて何かを探っているようです。
「……お姉ちゃん、なんか魔力の流れが変」
「……だぶん、下?」
ミアさんとリリアさんが出したおぼろげな答えに対して、ルナさんも頷きます。
するとフィアさんは、ミアさんが探っていた机の後ろにある祭壇を見始めます。
「みなさん、こちらです。たぶん、何かのカラクリになっているかと。危ないのでこちらに来てください」
全員が祭壇近くに集まったのを確認して、フィアさんが祭壇に合った何かを作動させます。
すると、机の下に下へ続く階段が現れ、私にも感じられるほど異様な魔力が噴き出てきました。
「……当たり、ですね」
現れた階段を警戒しながら下っていきます。
着いた先はラグナードの地下下水道。
臭いですぐにでもここを立ち去りたくなりますが、ルナが魔法をかけてくれたおかげで少し楽になります。
遠くに何は扉のようなものが見えたので、そこまで向かいます。
「……中に何人かいる。でも、こっちは警戒してない」
ミアさんが中の様子を五感を使って探ってくれたようです。
今、踏み込むのであれば、こちらの奇襲が成功するでしょう。
「では、作戦です。ミア、リリア、セラは突撃して制圧。フィアは逃げる人を狙って。ルナはここでは動かずに。いいですか?」
エレナさんが小さな声で作戦を伝えてくれます。
中に何人いるのか分かりませんが、やるしかないのです。
こんな得体のしれないものがラグナード地下にあったことすら、帝国の王族ですら知らなかった。
(……この宗教のことはお父様に知らせないと)
メンバーが頷いたのを確認すると、ミアさんとリリアさんが突撃していきます。
私も送れないようにと後に続いて制圧を試みます。
中にいたのは白の長い服を着た男性が六人。
いずれも戦闘能力は皆無で、ここで何かしていたようです。
奥にはまた頑丈な扉。
「あなた方はここで何をしていたのですか?」
エレナさんが拘束した男性に問い詰めます。
先ほどとは違い、短剣を見せて逃げ場をなくしているように思えます。
「くそっ!上の奴らは何してんだ」
「門を守っていた人は二人とも寝ていただいてますよ?」
「……なら、さっさと殺せ。俺は何も言わない」
男性は強気にも黙秘を貫くようです。
ですが、制圧されたこの状況では奥の扉を開けたら全て分かってしまうのに……
「奥を調べたきゃ好きにしろ。ただし、後悔することになるぞ」
その場にいた六人とも話そうとはしなかったので、扉の奥を確認します。
(……後悔、と言っていたけれど、どういう意味でしょう?)
なんとなくその言葉が引っかかります。
見たら後悔するもの?
知ったら後悔するもの?
ぐるぐるとまとまらない考えが頭を駆け巡りますが、エレナさんが扉に手をかけ、開きます。
「……なに、これ」
フィアさんが息を呑みます。
私も言葉にならないものが口から溢れ出します
そこに並んでいたのは――巨大なカプセルです。
人一人が入れるほどの大きさで、中は赤黒い液体が満たされています。
数は多すぎて数えきれないほど……
そして、奥まで進むとカプセルの中には――ヒューマン、エルフ……。
「……っ!」
言葉も出ないとはこのことでしょう。
さらに奥に進むとベッドへ固定された人。
身体へ繋がる管。
そして――見たこともない機械。
「……人体実験、というやつでしょうか」
エレナさんが苦虫をかんだような顔で、低く呟きます。
手は強く握られ、このような惨状に対して感傷的にならないよう努めているように思えます。
エレナさんは心が強い人だと思っていましたが、その通りの人の様です。
「この装置をすべて破壊してください。カプセルに入っていて生きている人は救助をお願いします。また、この研究施設の物は全て回収します」
エレナさんの決断は早かった。
アステリア全員でこの施設を壊滅させました。
機械は全て破壊し、研究資料や何かの液体、救助した方はまだ意識を戻していませんが、ミアさんがギルドまで走って知らせてくれたおかげで、全員救助できました。
エレナさんは回収したものの中で、【検体効果解除薬】というものに興味があるようです。
「……セラさん、これはもしかしたら使うことになるかもなので、所持しておきましょう」
「……どういうことですか?」
「……もしの話です。【解除薬】ということは、解除すべき何かは既に完成しているということです。ここが魔族と関係なかったとしても、いずれ必要になると考えます」
この帝国で何が起こっているのか。
早くご主人様のもとに行かなくては、と心が急がせます。




