第49話
先に動いたのはシャードッシ。
手に持っていた斧の一撃が地面を砕く。
「っ――!」
直線的な攻撃であったため横へ飛んで回避するも、シャードッシの狙いは別。
地面を砕いたときに無数の砂や石、岩の粒を城塞に向けて放つこと。
無数の弾丸と化した物が城壁や門に突き刺さる。
が、街中への進入だけは阻止するように立ち回る。
出来れば防御したいところではあったが、斧を振り下ろすスピードを見て即座に回避に転じた。
(……重いどころじゃないな。一撃食らったらお陀仏だ)
シャードッシは回避されることも織り込み済だったようで、すぐさま横斬りで対応してくる。
何とかジャンプで回避するも、これ以上踏み込めないと感じるほど剣圧が重く、ほとんど距離が詰めれていない。
一度呼吸を整えるも、巨大な影が再び迫る。
「ハハハハハ!!避ケルナンテ凄イ。次ハモット早クスルゾ」
シャードッシが笑い、攻撃速度のギアが上がる。
四メートル級の巨体を生かしたパワーと、その巨体から考えられないスピード。
だが、ギアが上がったシャードッシの攻撃であっても、まだ予備動作が大きく、軌道が読みやすい部分に助けられているが、いつ押し切られるか分からない。
斧が縦横無尽に振るわれる。
何とか回避しつつも、反撃するタイミングを伺う。
(……リーチが長すぎる)
シャードッシは止まらない。
「逃ゲルダケカ、人間!!」
「うるさいな……!」
瞬間、シャードッシに一瞬の隙が生まれる。
頭では罠だと理解していても、反応して相手の懐に入るために地面を蹴る。
そして――
「フレアランス!」
至近距離での魔法攻撃であれば効くはず。
そう思っての接近。
炎を螺旋を描いた渦がシャードッシの腹に直撃する。
(……腹の力で耐えてやがる!)
押し切れない。
逆に、シャードッシは腹で魔法を受けながらも斧を両腕で握り、頭上に掲げて攻撃態勢を取る。
振り下ろすと同時に、避ける。
シャードッシの腹にはやけどの跡が残っており、ダメージがゼロというわけではなさそうだ。
「イイジャナイカ。オ前、魔法使イダナ。ダガ、俺ヲ倒スニハ威力不足ダ」
瞬間、シャードッシのやけどが徐々に治っていく。
驚異的な回復力――
(……ケーヒスの話じゃ魔王の祝福を受けてるやつには【ゼロ】の即死は使えない。削れればとも思ったが、攻撃・スピード・防御、どれもバケモンだな)
このまま戦闘を長引かせることはできるだろう。
お互いにまだ隠している手はあるとしても、ここまでの戦闘である程度は分かってしまう。
お互いに決定打になるものがない――
(……【ゼロ】で防御力をゼロにするか?一撃で決めれなければ回復されてリセットだ)
色々な対抗策が浮かんでは消え、どれも決定打になりそうにない。
それは相手も同じようで、最初と同じぐらいの距離感を保ったまま、お互いに膠着状態となってしまった。
「攻メテコナイノカ?」
「そっちこそさっきまでの威勢はどうした?」
「俺ノ攻撃ハ、オ前ニハ避ケラレル。ナラ、体力ハ温存スベキダロ?」
「こっちだって、さっきの攻撃を回復されちゃどうしようもない。お前を一撃で仕留めれるようなカウンター狙うしかないだろ?」
この膠着状態もいつまで続くのか……
シャードッシの背後にはいつでも街に突入できるゴブリンたちが、今か今かとその時を待っている。
少しでも気を抜けば、ゴブリンたちが再度街に侵入し、好き放題破壊することだろう。
(――ここは、短期決戦しかない)
シャードッシの斧が振るわれ、それを避けて魔法を放つ。
それを避けることもせず、次の攻撃態勢を整え、振るってくる。
シャードッシの攻撃に緩急がつき、相手もこちらのタイミングをずらそうと試行錯誤しているようだ。
(いつまで避けられるかも分からん。なら、ここで――)
まずは確かめるために、【即死のゼロ】をシャードッシに向けて放つ。
シャードッシは一瞬違和感を覚えたのか、攻撃の手を止めたものの、にやりと笑う。
「ホウ。貴様、今、即死魔法ヲ使ッタナ」
空気が変わる。
シャードッシが戦斧を肩へ担ぐ。
「残念ダガ、我ニハ“魔王ノ加護”ガアル。加エテ、ソノ加護ハ特殊デ、即死魔法ヲ受ケレバ受ケルホド、強クナレル!」
瞬間、今までの攻撃速度よりも早い速度で斧を振り下ろす。
まさかの事態ではあるが、これはあくまで確認。
次は、相手の力を【ゼロ】にする。
途端、シャードッシの巨体を支える力を失い、その場に倒れる。
これで倒せないものの、足止めはできるはずだ。
「次ハ弱体化の魔法カ……トコトン陰湿ナ攻撃。サスガ、人間。ダガ――」
シャードッシの身体を赤い靄が包み込む。
すると、シャードッシは斧を杖代わりにして立ち上がる。
足は小刻みに震え、何とか踏ん張って立っているのだろう。
だが、力は【ゼロ】にしたはず。
筋肉質な身体の重さに耐えられるだけの力は残っていないはず……
「我ノ固有能力。マサカ、ワレノ力ヲ根コソギ奪ワレルトハ思ワナカッタ。デアレバ――」
赤い靄が次第に紫色の靄へと変わる。
危険な香りがプンプンする。
ここからが本当の勝負だ。
紫の靄が晴れると、シャードッシの姿がはっきりと見えてくる。
今までの4メートル越えの巨体ではなく、人間と変わりない姿がそこにある。
「貴様ヲ我ガ敵ト認メヨウ。固有能力【戦型自在】。ココカラノ我ハ早イゾ?」
瞬間、結構な間合いがあったにも関わらず、シャードッシが目の前に現れる。
すぐさま防御態勢を取るも、足払いで体勢を崩され、ガードが下がったところに顔面に一撃食らってしまう。
スピードをそのまま威力に変換しているいい一撃。
すぐさま次の攻撃に備えて防御態勢を整えるも、相手のスピードがことごとく上をいっているようで、防ぎきることができない。
「ドウシタ?サッキカラ守リシカシテナイデハナイカ!我ラ、ギガンテス種ハ不滅!最強デアル!」
一方的に殴られる時間が続く。
【ゼロ】で力がなくなっているのがせめてもの救いで、致命傷になる攻撃はない。
だが、このまま一方的にやられていては、いつかはこちらが力尽きる。
(――何か、何かないのか?)
焦る気持ちを抑え、この状況を覆す方法を検討する。
相手は【戦型自在】とかいう能力で、パワー型とスピード型を使い分けれることが分かった。
他にも色々と自身のステータスを変えることができるのだろう。
加えて、その能力を使われると、【ゼロ】にしたものも、赤い靄のせいで多少回復するようだ。
(――とりあえずスピード型は相性が悪すぎる。ここは一度――)
再度【ゼロ】を発動する。
今度はシャードッシのスピードを【ゼロ】に。
すると、避けるのも容易いスピードになったことで、さっきまでの状況だけは打破できた。
「今度ハスピードカ。力ハ戻ッテイルヨウダ。シカシ、コレデハ我ハ倒セナイ。我モ貴様ヲ倒セナイ。元ノ状況ニ逆戻リダゾ?」
シャードッシのいう通り、これで攻撃を受けることはなくなっても、こちらの攻撃でシャードッシを一撃で倒す術がない以上、膠着状態に逆戻りだ。
(――相手の何を【ゼロ】にしたらいいのか……)
シャードッシは未だに人間型の姿のまま、こちらが仕掛けたときにカウンターを狙った態勢を整えている。
能力の全容が分からない以上、不必要に【ゼロ】を解除した途端、詰む。
なら、今できることを最大限やってみる。
(――多重詠唱、詠唱短縮、遅延詠唱)
フレアランスをありったけ同時に打ち込む。
一撃では足りなくても、魔法の一斉射で削り切れればこちらの勝ちだ。
どれだけ打ち込めばいいのか見当も付かないが、魔法系の職業を伸ばしていたおかげである程度は打てる。
「これならどうだ?受けきれるものならやってみろ。フレアランス100連」
シャードッシに放たれる100発の魔法。
さっきは耐えられたものの、これだけの数を揃えれば耐え切ることは難しいはず。
着弾と同時に上がる炎の渦。
シャードッシの周囲にいたゴブリンも何体か巻き込まれたようだ。
(……やったか?)
しかし――
シャードッシは何事もなくそこに立っていた。
ダメージがあったところは超回復で今も治っていく。
「見事!良イ攻撃ダッタ。ダガ、足リナイ」
魔力をだいぶ使った影響か、頭痛がする。
この後どうするべきか考えたいのに、頭が回らない。
「サテ、ソロソロ潮時。ボロス様ノ作戦二影響ガデル。ココハコレデ終ワリ二スル」
シャードッシの手が腰へ伸びる。
小さな袋。
そこから――赤い何かを取り出す。
「……!」
それは明らかにこちらの世界にはないもの。
先端の針に何かの溶液が入っている容器。
"注射器"。
「貴様ハ強イ。是非、ボロス様二手土産トシテ持ッテ帰ル」
シャードッシが注射器を腕に刺し、液体を一気に流し込む。
シャードッシの威圧感がみるみる増幅しているのを感じる。
このままだと負ける。
そう、直感が囁いている。
「さテ、こコかラはお遊ビ無しダ」
シャードッシはその場から動いていない。
ただ、腕を振っただけ。
しかし、見えない何かで吹き飛ばされ、瓦礫へ叩きつけられる。
「ッ……!」
肺から空気が抜ける。
「こノ能力は面白イ。中々、具合がイいジゃナいカ。どウだ?同胞の能力二やラれルのハ?」
シャードッシが意味深な事を言っているが、それを気にできるほどの余裕がない。
純粋な物理攻撃だけだと思っていたのに、目に見えない攻撃。
完全に予想外、想定外だ。
「楽しカっタぞ。貴様は殺サず二我らノ力にナっテもラうゾ」
シャードッシは余裕すら感じられる。
身体のあちこちが痛い。
(……何が起こった?魔法なのか?)
このままでは。
(……負けるのか?)




