第48話
丘の上からセラが駆けていく。
咄嗟の行動なのだろうが、まだ一人で行動させるわけにはいかない。
「ミア、リリア。セラを追って援護してやれ」
「…うん」
「…わかった」
ラグナードへの強襲は予想よりも大規模だったようで、今も街のあちこちから爆発音や炎が上がっている。
馬と荷車は丘の上に待機させ、どのように街に入るかを検討する。
まず、セラが飛び出していった南側。
魔物が多く、短時間での突破は現実的ではない。
「ご主人様、どうしますか?」
エレナが淡々と聞いてくる。
「エレナならどうする?」
「東と西からの侵入はここからでは確認できないので不確定要素が多すぎます。であれば、セラを援護してこのまま南門から侵入するのが安全かと」
「なら、エレナ。指揮を頼む。道は作ってやるから、そのまま救護者の援助に向かってくれ」
告げると同時に丘を駆け足で下る。
魔物との距離の近づき、あちらも気付いて威嚇してくる。
セラ、ミラ、リリアは数に押されて進めていない。
(――進め。【ゼロ】)
複数を対象にした【ゼロ】。
これでセラ達は前に進めるはずだ。
こちらに来る魔物にも対応しつつ、エレナ達も合流したアステリアの動向も確認する。
数が多くなれば【ゼロ】で間引いてやり、そうでなければ彼女たちに任せる。
(……随分、頼れるようになったじゃないか)
それでも押し寄せてくる魔物の大群。
少しずつ南門に近づいているが、この数を真っ向から相手にしていたらキリがない。
(ここは、エレナ達を先に街へ行かせよう)
魔物の攻撃を避けるついでに上空へジャンプする。
視界に入っていれば【ゼロ】の発動範囲内だ。
(【ゼロ】。エレナ、後は頼むぞ)
発動と同時にアステリアが街まで進める道ができる。
エレナは一度こちらを確認したが、顎で「行け」と命令を出すと、素早く仲間に指示を出して突撃していった。
これで街への救援が間に合えばいいが、着地した今のこの状況をどう打破するか。
(……完全に囲まれたな。)
魔物のギラギラした目がこちらに集中している。
だが、この状況でも恐怖を感じない。
こちらが優位である事実は変わらない。
■エレナ
「ご主人様が道を作ってくださいました。急ぎます!」
私の指示を五人とも聞き逃さず、すぐに頷いてくれます。
ご主人様が作ってくれた道も、少しでも躊躇ったらすぐに塞がれてしまいます。
私の合図と共に全員が南門へ向けて走ります。
門は魔物達の攻撃でボロボロですが、街中への魔物侵入は衛兵たちによって食い止められているようです。
今も大盾を持った傭兵の部隊が魔物の攻撃を退けています。
「セラ、リリア、ミア。防衛部隊の援護。フィア、ルナは待機。」
私の指示でアステリアの前衛部隊が援護に回ります。
魔物単体の強さは大したことありませんが、群れとなると数に圧倒されてしまいます。
「私たちは援軍です!援護します!」
大声で叫ぶと、衛兵を方々を指揮している方が「助かる!」と返答がありました。
とりあえずは仲間と認めてもらえたようなので、門に群がる魔物への対応へと移ります。
ラグナードは帝国における最南端の街で、軍事施設はないものの、王国と一番近い街であるため、城壁は立派な造りをしています。
とはいえ、守りの城塞なのでバリスタ等の大型兵器は採用されていません。
「はじめまして。冒険者パーティ、アステリアのエレナと申します。援護しますが、街は大丈夫ですか?」
「丁寧なあいさつ、ありがとう。俺はラグナード防衛隊のデルだ。街は帝国騎士団の援軍がどうにかしている。俺らは街が破壊されないように、魔物を食い止める役を担っている」
挨拶をしている間も、とめどなく魔物が門をめがけて襲い掛かってくる。
リリア、ミア、セラの前衛組の多少疲労の色が見えるものの、まだまだ動けそうだ。
私はフィア、ルナにも援護の指示を出しつつ、現状の情報を整理します。
「この魔物の集団はいつから?」
「今日の朝からだ。昨日までは魔王軍の強襲があった。でも、攻めてきた数は少数だったが、今日は魔物も来ちまってその比じゃない。この数の魔物が街に入ったら、この街は終わっちまう」
デルの言葉に引っかかるところがある。
魔物は確かに人を襲ってくることはあっても、その知能的なところはあくまで「動物」。
こんなに一斉に襲い掛かってくること自体、不自然。
(……スタンピード、なのでしょうか)
「デルさん、魔物が襲ってくる前に何か予兆みたいなものはありました?」
「何もない。お姉ちゃん、スタンピードを疑ってるんだろ?それは俺たちも思ったけど、強い魔物が現れたとも、弱い魔物の出現が多くなっただのの情報はなかった。」
「とすると――」
続きを言おうとした瞬間、襲ってきていた魔物たちがその場で崩れ落ちます。
これは好機です。
今のうちに体勢を整えることができる。
「お姉ちゃんたちは避難所の援護を頼む。これなら何とか持ちこたえられそうだ」
ご主人様が作ってくれたこの時間を無駄にはできません。
「わかりました。アステリアはギルドに向かいます!」
■小澤
(……やりすぎた)
次から次に来る魔物の大群に嫌気がさして、ついつい門の前に群がる魔物まで倒してしまった。
しかし、これで南門の防衛は立て直す時間が稼げるだろう。
横目にアステリアが街中に侵入していくのも見えたので、そろそろこっちも動き出そうと思う。
(エレナたちは東側に向かったのか。なら――)
東側はアステリアに任せ、西へと向かう。
西に近づくにつれ、建物の倒壊がひどくなり、ところどころ迂回を余儀なくされる。
そうこうしているうちに、街中で武装したゴブリンに出会う。
(ゲームだと、ゴブリンソルジャーとか言われそうだな)
魔物ほどではないが、数が多い。
しかも魔物と違い、きちんと統率が取れている。
見れば、ゴブリンたちが使っている武器には血の跡が残っている。
(……逃げ遅れた住人を殺して回っている、のか?)
それであれば、こちらも容赦しない。
【ゼロ】で殲滅しながら進む。
西門が見えてきたころには南門から西門にかけては制圧完了した。
(――西門は完全に壊れているな)
西門にあったであろう頑丈な木の扉は破壊されており、そこから武装したゴブリンが突入してくる。
「チッ……!」
侵入してきたゴブリンたちも殲滅すると、門の前で隊列を組んだ状態で侵入し来なくなった。
これでひと段落と思ったのも束の間、巨大な影が背後から現れる。
「……おいおい」
思わず呟く。
デカい。
人間の比じゃない。
四メートル近い巨体に緑色の皮膚。
筋肉の塊のような肉体。
片手で人間を持ち上げられそうな腕。
そして――巨大な戦斧。
武装したゴブリンが脇に避け、悠然と歩いてくる。
明らかに、この軍団を操っている”中心”。
その巨体が、赤黒い目が、こちらを見下ろす。
そして――笑った。
「ホウ。人間ニシテハ、ヤル」
巨体は門の前でわざわざ止まった。
「我ハ、魔王ボロスサマ、ハイカノ軍、突撃部隊、ギガンテスの――シャードッシ。ヨクモ我ラガ同胞ヲ殺シタナ。貴様、名ハ?」
シャードッシはこちらに斧の切先を向ける。
下手な芝居を打つよりも、このまま真っ向から勝負した方がよさそうな相手だ。
相手の威圧に負けないよう、視線を逸らさない。
「ゼロ」
短く答える。
シャードッシが牙を剥いた。
「良イ」
次の瞬間。
巨体が突撃した。




