表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陰で育てる少女たちのチート冒険譚~奴隷少女たちを最強に育てる陰の策略~  作者: spichat
第2章 新たな出会いと奴隷少女

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/55

第34話

会議室の空気は、どこか乾いていた。

壁際に立てかけられたホワイトボード。

机の上に並ぶ資料。

投影された渋谷の地図と、数枚の店舗写真。

薬銃課の係長が前に立ち、淡々と説明を続けている。


「――対象はクラブ『LUXE』を含む三店舗です。今回、我々が押さえるのは売人および店側の流通責任者。客の逮捕は二の次、まずは流れを止めます」


分厚い資料をめくる。

店内見取り図からはじまり、抑えるべき出入口、逃げ道になりそうなバックヤード、そこから通じる非常階段から屋上への動線。


(……逃げ道は多いな)


「刑事一課からは潜入支援と逃走経路封鎖をお願いします」


薬銃課の係長がこちらを見る。


「小澤警部、潜入班でよろしいですね」

「ああ」


短く返す。


「開始は二十時。合図が出るまでは絶対に動かないでください。分かっているとは思いますが、現場判断で先走られると、全部が崩れます」


(……釘を刺されたな)


もっとも、言いたいことは分かる。

薬物絡みの摘発は、売人一人取り逃がすだけで意味が薄くなる。

諸々の確認をして会議が終わる。

配布された資料を閉じ席を立つ。

鴨志田が隣で小さく息を吐いた。


「クラブっすか……似合わないっすね、警部」

「お前もだ」

「俺はまだ若いんでギリいけますよ」

「その軽口、本番でも続ける気か?」

「やめときます」


だが、顔は少し楽しそうだった。


(……全く)


夜――渋谷。

スクランブル交差点の光が、やけに眩しい。

人の波。音。熱気。

巨大なモニターから流れる映像と音楽。

昼間よりも、人が多い気がする。


(……落ち着かんな)


クラブ『LUXE』は、表通りから少し外れた場所にあった。

派手すぎない外観。

だが、入口に立つ男たちの視線は鋭い。

看板は控えめだか怪しく光る。

知っている人間だけが入る類の店だ。

イヤホンの奥で小さく無線が鳴る。


『潜入班、位置につけ』

「了解」


短く返し、スマホをしまう。

今夜の服装は、いつものスーツではない。

黒のシャツにジャケット。

鴨志田と並んで歩けば、ぎりぎり“仕事帰りの客”に見える……はずだ。


「じゃ、行きますか」

「ああ」


入口にて年齢確認をされ、扉が開けられる。

瞬間、重低音が腹に響いた。

店内は暗い。

青と赤の照明が交互に瞬き、空間を切り刻んでいる。

酒の匂い。

甘い香水。

煙草と、もっと別の何かが混じったような匂い。


(……ひどい空気だ)


フロアには人が密集している。

笑っている者。

踊っている者。

だが、そのどれもが少しだけ空虚に見えた。


(目が死んでる)


全員ではない。

だが、一部に、明らかに様子のおかしい連中がいる。

焦点の合わない目。

不自然に高揚した笑み。

同じ動きの繰り返し。


「警部」


鴨志田が小さく声を落とす。


「あっち、見ました?」


カウンター脇。

男が一人、客に何かを手渡している。

小袋。

一瞬だけ見えた。


(……売ってるな)


だが、まだ動けない。

今ここで現物を押さえても、騒ぎになり末端一人で終わる。

狙うべきは、その先だ。


ひとまず鴨志田と別れ、カウンターに座る。

ドリンクの注文のため店員が来たが、酒は頼まない。

適当にソーダを注文する。


飲み物が来るまでの間に店内を観察する。

スタッフの動き。

客の流れ。

裏に消える人間。

戻ってくる人間。


(バックヤード……あそこか)


そのときだった。


「見ない顔だな」


男の声。

気配を感じ横を見る。

男が立っていた。

黒いスーツに黒いシャツ。

年齢は三十代前半ほど。

髭はなく、整った顔立ちだが、笑っていない。

目だけが妙に冷たい。


(……なんだ?)


シルクハットは被っていない。

だが、写真で見た“黒い男”と空気が似ている。


「後輩に誘われて来たんだ。初めてでね」


男が薄く笑う。


「そうか。ここは紹介がないと来ない客が多い。新顔は久しぶりだな」

「そうなのか。なら、これからよろしく」

「そうだな」


一拍。


「それで?お兄さんは、何か探してるの?」


(……見すぎていたか)


「こういう場所には来ないからな。物珍しくて」

「なるほど。確かにお兄さんみたいな人はそうそう来る場所じゃないかもな」


男の視線が、わずかに鋭くなる。


(……疑ってるな)


こちらを値踏みしている。

ただの客ではないと、すでに気づいている顔だ。

ここは話題を逸らしたい。


「そういうお兄さんこそ、こんな所で何してるんだ?そんなに俺と歳も変わらないだろ?」


ソーダを一口飲む。


「このクラブのオーナーとか、かな?」


男が肩をすくめる。


「いや、オーナーじゃないよ。常連さ。ただ、ここのオーナーとは旧知の仲でね。色々やらせてもらってるのさ」

「そうか。宛が外れたな」

「おや?オーナーに用事かい?残念ながらオーナーはフロアに中々姿は見せないよ。仕事が忙しいんだろうね」


その言い方が、妙に引っかかった。


(……仕事、ね)


「それは残念。後輩に聞いてここに来たけど、お目当ての話ができないんじゃ……」


曖昧に、含みを持たせ、でも確証を得るために聞く。

男は表情を変えない。

笑みだけを深くする。


「そっちが目的か。なら、安心しなよ。それならいい人を紹介できるかも、しれない」

「それはありがたいな。口利きしてくれるか?」

「まぁ待て。お目当てを聞いてからじゃなきゃな。違う物を欲していたら、お門違いだからな」

「そうだな。後輩からは、気分よくなれる物があるって聞いてね。ストレス解消にいいかもって」


ピクリと男の眉が反応した。

今まで鉄仮面だった男が、初めて明確に反応した。


「……誰が言いふらしてんだか。でも、それなら色々種類があるけど、どれのことだろうね」

「……種類があるのか。なら、最近流行りのヤツとかは?」


男の視線が鋭くなる。

しまった、と思うより先に、男が小さく笑った。


「なるほど」


低い声。


「アレが欲しいんだ。酔狂な人だね」


(……何を知っている)


「……アレは貴重なんだ。お兄さんは、その資格があるのかな?」

「資格なんて必要なのか……金か?」


問い返す。

男は答えない。

ただ、こちらをまっすぐ見る。


「いや、そんな俗なものじゃない。もっと曖昧なものさ。境遇への不満やら悲しみ、そういった感情だな」

「……なるほど」

「お兄さんはまだ、堕ちきれてないように見える。それでも欲するのかい?」


空気が変わる。

重低音の中なのに、その一角だけが妙に静かに感じた。

無線が震える。


『全班、準備。五分後突入』


タイミングが悪い。

だが、逆に言えばもう時間がない。


「……なんだか空気が騒がしいね。お兄さんとはまた会える気がするよ」


男が少しだけ身をかがめる。


「これは、ほんのプレゼント。またね、お兄さん」


上着のポケットに何かを入れられ、肩をぽんっと叩かれる。

次の瞬間。


『突入、突入、突入!』


一斉に音が弾ける。

入口が開き、捜査員がなだれ込む。

怒号。悲鳴。混乱。

客が立ち上がり、押し合い、逃げ惑う。


「警察だ! 動くな!」


鴨志田が立ち上がる。


「警部!」


振り向く。

その一瞬。

男が、いない。


(……どこだ)


さっきまで目の前にいたはずだ。

なのに、視界のどこにもいない。


「くそっ……!」


フロアを見渡す。

いない。


(……裏か)


「鴨志田!ここ任せた!」

「了解!」


人混みを押し分ける。

バックヤードへ。

スタッフルームから狭い通路へ。

段ボールが邪魔な非常灯だけが頼りの細い通路を進む。

開きっぱなしの防火扉。


(……こっちだな)


非常階段を駆け上がる。

一段飛ばし。

屋上に出る重いドアを蹴り開ける。

夜風が一気に吹きつける。


渋谷のネオンが遠くに広がっていた。

そして――いた。

屋上の端に黒い男。

振り返るでもなく、街を見下ろしている。


「あら、追ってきたか」

「……どこにいく?」


声をかける。

男がようやくこちらを向く。

小さく笑う。


「今日はここまで、店仕舞いだ。お兄さん、まさか警察だったとはね」

「……逃げ場はないぞ」


一歩、距離を詰める。


「お前は、誰だ?」


男は少しだけ首を傾げた。


「そうだな……"案内人"といったところかな」

「……は?」

「さて、ここでお喋りしてる時間もない。名残惜しいけど、さよならだ」


男は視線を逸らさない。


「そうそう。近寄らない方がいいよ」


一瞬、思考が止まる。


「……何を、する気だ?」


男の周りが歪む。

一般常識ではありえない現象。


(……異世界あっちの住人、か?)


「……逃がすと思うか?」

「追ってこれないよ。大人しくしててほしいね」


拳に力が入る、

男の輪郭が、ぶれた。


「待て!」


咄嗟に踏み込む。

だが遅かった。

夜風が吹き、瞬間、視界が歪む。

そこには、もう誰もいなかった。


「……消えた」


屋上に残るのは、夜の風と、街の光だけ。


(……くそっ)


無線が鳴る。


『警部! そっちはどうですか!?』

「逃げられた」


短く返す。


『マジっすか……!』


屋上の縁から街を見下ろす。

渋谷。無数の光。無数の人間。


「……戻る」


無線を切る。

振り返る。

夜は、まだ終わらない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ