第27話
目を開ける。
見慣れた白い天井。
薄いカーテン。
差し込む朝の光。
(……戻ってるな)
ゆっくりと息を吐く。
(……日本か)
身体を起こそうとして――止まる。
(……っ)
全身が痛い。
遅れてくるような鈍い痛み。
腕。肩。背中。
まともに力が入らない。
(……無茶したな)
あの戦いを思い出す。
運が良かった。
それだけに尽きる。
相手の油断、現代兵器の知識不足。
(……次はこうはいかないだろうな)
感慨にふけるのも程々にして動けないこの身体をどうするか考える。
こんな時、誰かいれば楽なんだが…
視線だけ動かす。
部屋の中。物音。
キッチンの方から、何かを切る音がする。
「……あ」
ミア。
こちらに気づく。
「……起きた」
すぐに駆け寄ってくる。
「……大丈夫?」
「見て分からないか」
短く返す。
リリアも顔を出す。
「……いっぱい怪我してる」
エレナも続く。
「無理に動かないでください」
落ち着いた声。
だが、どこか硬い。
(……心配させたな)
俺が覚えているのは、ヤツを倒して三人に救護所まで運ばれたところまでだ。
「水をくれないか?」
短く言う。
「はい」
すぐに差し出される。
受け取って、飲む。
(……こんな時は居てくれて助かる)
部屋を見渡す。
机。床。
妙に整っている。
(……片付いてるな)
「お前ら、やったのか?」
三人が頷く。
「……やることなかったから」
ミア。
「……勝手に触ってない」
リリア。
「必要最低限です」
エレナ。
(……十分だろ)
小さく息を吐く。
その時だった。
「お、起きました?」
別の声。
(……は?)
視線を向ける。
ソファに鴨志田が座っていた。
「……なんでいる?」
「いや、まぁ、今日お互い非番じゃないっすか。なので、昨日の報告しとこっかなって。いつも『報告遅い』って怒られるじゃないっすか」
軽い口調で答える。
「それで、家に来たら女の子がいる訳ですよ。この娘達ってあの時の娘っすよね?で、事情説明したら部屋に通してくれたっす」
だが、目は笑っていない。
「…先に謝っておきます。申し訳ないっす。警部が何に巻き込まれているかは聞いちゃいました」
一拍。
「なので、説明、もらっていいですか?」
(……まあ、そうなるか)
視線を逸らす。
「どこまで聞いた?」
「エレナちゃんと出会ってから、ですね」
三人を見る。
エレナが静かに頷く。
「事情はお伝えしました」
(……隠せる内容でもないか)
「信じるのか?」
鴨志田が肩をすくめる。
「正直、半々っすね。ヤバい薬でもやってんじゃないかって思いますよ。ただ現実、警部はボロボロですし、犬耳の女の子もいる。信じるしかないでしょ」
「……そうか」
一拍。
「なので、教えてください。俺ら、バディでしょ?」
短く息を吐く。
「分かった。じゃあ、エレナ達には一度席を外して――」
「いや、エレナちゃん達も同席で。悔しいっすけど、日本ではバディですけど、向こうではエレナちゃん達が警部のバディなんで」
沈黙。
空気が落ち着く。
三人とも手を止め、近くに座る。
「まず、発端は高橋の事件だ」
「あの失踪したやつっすか?それとも死体の?」
「失踪の方だな。あの『本』が原因、いや、要因だ」
そこからここまであったことを話す。
異世界転移した事、高橋の死体を発見した事件、教会の事、三人を買った事…
「それで今回の件は向こう側の関係者、もしくは向こうの住人による犯行だと思っている。断定はできないが…」
「でも、可能性は高いっすよね?」
一拍。
「私達が感じたものは多分魔力です」
エレナが付け加える。
「凶器がないとの話でしたので、魔法かそれに類するものか…でも、ミアが見つけたメモは明らかにアストラディアのものです」
「……そこが問題なんだ」
「どういうことっすか?」
鴨志田が乗り出してくる。
「俺は何度かあっちに行っているが、持ち物も反映される。なら、高橋の遺体現場にあったメモは?高橋の所持品であったなら、遺体から発見されるはずだ」
「それが本当なら、別の場所に残ってる時点でおかしいっすね」
「更に、高橋の外傷はなし。俺はこの通り傷だらけ。傷すら反映される。向こうには魔法があるとはいえ、外傷なしで殺人を犯せるのか?」
一瞬、静かになる。
「あの強盗殺人犯が向こうの住人だとして、外傷を作らずに殺せる術があるとしたら、わざわざ店員に外傷を残して殺した理由はなんだ?」
「つまり?」
「……まだ証拠が足りない」
アストラディアの事情にしても同じだ。
ブルガルド帝王国が暗躍しているのは確かだろう。
ただ、あの魔族襲来とはどうだろう?
ヤツが言っていた「キョウヤ」「ハルカ」「モトヤス」とは誰のことか…
「鴨志田」
「なんすか?」
「行方不明者届が出されている者の中で、「キョウヤ」「ハルカ」「モトヤス」という人物を探してくれ」
「そっちも調べるんすね…」
「……何か手掛かりがあるかもしれん」
空気が少し重くなる。
「ミア、リリア、エレナ。魔王軍襲来の原因を探る。危険だが付き合ってくれ」
「はい」
三人とも頷く。
視線を天井に戻す。
(……さて、何が出てくるか)
まだ確証はない。
だが。
確実に近づいている。
2026.04.26 文章を修正しました




