第26話
相手が踏み込んでくる。
予想以上の速さ。
俺の反応が遅れる。
咄嗟に避ける動作を取るも間に合わない。
重い。
身体が後ろに弾かれる。
地面を削るようにして踏みとどまる。
(……いきなりこれか)
視線を上げる。
目の前では、楽しげに笑っている。
「ほぅ…ヒューマンの分際で耐えるか」
「……何が言いたい?」
「いや、普通なら耐えられん。面白い!名乗っておこう。ヴェルデナ魔王軍第五部隊隊長――ガルディアス。お前が殺される相手の名だ」
(……くそっ)
構える。
次の瞬間、ヤツは消えたかと思うほど早くこちらの間合いに踏み込んでくる。
(――速い。が、まだ避けられる)
攻撃を躱したと安堵する暇もなく、また視界から消えた。
直後、右からの衝撃。
身体が弾かれる。
地面を滑る。
(……見えなかった)
今回はクリーンヒットした。
身体中が痛い。
歯を食いしばり立ち上がり、構えをとる。
まだ闘志は消えてないと視線を上げる。
ヤツが肩を回す。
「なるほど!面白い!いいじゃないか。ワクワクするじゃないか。どれだけ我を楽しませてくれる?」
ヤツのニヤニヤ顔を叩きたい。
ヤツの軽い調子にイライラする。
(……遊ばれてるな。なら――)
踏み込むと同時に願う。
言うことを聞いてくれと――
(■■■――)
発動したが――
「ほほぅ!なるほど!そういうわけか」
(……効いてない?)
ヤツが笑う。
「今のが、お前の力か?」
一瞬で間合いを詰められる。
防御体勢は間に合ったが重い一撃。
受ける。
骨が軋む。
(……っ)
押される。
それでもなんとか踏みとどまる。
「いいぞ、いいぞ!最高じゃないか!」
一撃。二撃。三撃。
ヤツの攻撃を受け続ける。
決して殺そうとしていない、ただ痛ぶる。
「いい!いいぞ!美味い!美味である!その感情。素晴らしい」
ヤツが攻撃の手を止めた。
ヤツの恍惚とした表情。
何かに酔っているかのような――
「やはり異世界人は素晴らしい!今日は当たりだ」
ガルディアスが目を細める。
「……何を」
「先程の攻撃、見えなかったが其方の攻撃であろう。不思議な力を持つ。それこそ異世界人」
(こいつは異世界人を知っている?…)
一歩、距離を取る。
「今まで三人の異世界人を見てきた。確か…キョウヤ、ハルカ、モトヤス。ただ、誰も我を満足させるには至らなかった」
(……高橋ではない、別の転生者)
空気が変わる。
「惜しむらくは彼等はモルモットになったことだ。数奇な実験に我が王は協力している。嘆かわしい」
俺の中で何かがキレた。
(……ふざけるな。人間を弄びやがって)
「貴様も同じ道を進むだろう。だが、安心しろ」
(こんなヤツに負ける訳にはいかない。お前が勝つ確率は…)
「お前の名前は我が覚えておいてやる。お前の名は…」
「【ゼロ】だ!」
瞬間、聞いた事のある声が聞こえた。
【名前:ゼロを確認。スキル■■■を再調整。適合。スキル名『ゼロ』を付与】
理解する。
この力の本質を。
感じる。
“見ている存在”の気配を。
【通告。世界を―――】
最後まで言い切る前に声は聞こえなくなった。
だが、問題ない。
「ほぅ…まだ全力は出していなかったか。なら、こちらも少し本気を出そうではないか」
さっきよりも早い。
しかし、能力を理解した俺には届かない。
(……『ゼロ』。対象にした相手の数値1つをゼロにする。なら、『俺』を対象に、受けるダメージをゼロに)
衝撃。
足が浮く。
ただ、ダメージはない。
このままではダメージはなくとも、攻撃できない。
思考を回す。
(……何か手立てはないか?)
ヤツは攻撃の手を緩めていない。
焦りもない。
(…どうする)
(……どうする)
(………どうする)
【レベルアップしました】
【治癒術師 Lv50】
【レベル最大到達ボーナスを獲得しました】
・職業スロットを1つ解放
(……何か)
ヤツの攻撃を受けながら、目の端で打開策を探す。
俺の攻撃では確実に遅い。
なら、俺が知っている中で最も早いもの――
(――これなら!)
【黒魔道士 Lv1を取得しました】
スキル【魔法創造】を取得しました。
ヤツから距離を取る。
俺はヤツに向けて手を構える。
「なんの真似だ?」
ヤツはまだ油断している。
油断が無くなればノーチャンス。
(――ラストチャンス)
パンッ!パンッ!パンッ!
ヤツの動きを止まる。
ガルディアスでも反応できない、現代兵器。
「……なに?」
ガルディアスの顔が驚愕一色になる。
まだ何が起きたか理解していないようだ。
「これでも俺は警視庁で10本の指に入るくらいには拳銃が得意なんだ」
パンッ!
「…バ、バカ、な…」
音が消える。
残ったのは、俺だけだった。
2026.04.26 文章を修正しました




