第22話
ファミレスを出る。
もうすぐ夏だからか、昼間はうだるような暑さだ。
「ご主人様」
エレナが声をかけてくる。
ルクスもファミレスから出てきた。
「お仕事ですか?」
「ええ。緊急で行かなければならず。お話はまたいずれ。それで申し訳ないのですが、三人を見ていて貰えませんか?」
「……え?」
ルクスが軽く困惑した顔をする。
元魔王でも困り顔はするのだと再認識。
「私にも用事が…」
「そこを何とか。世間知らずな3人を野放しにしたら、それこそ危険なので」
三人を見る。
「だから、ここで待ってろ」
だが。
「……嫌」
ミアが即答する。
「……ついていく」
リリアも、小さく言う。
エレナが一歩前に出る。
「私たちはご主人様の奴隷です」
「この世界のことも、理解しておく必要があります」
真っ直ぐな視線。
(……まあ、そうなるか)
ルクスがこちらを伺いつつ聞いてくる。
「……私は帰っても大丈夫ですか?」
「すみません。また機会がありましたら」
ルクスを送り出し、俺は3人に向き合う。
「…ちゃんと大人しくしているなら連れていく。約束出来るか?」
「はい」
三人の声が揃う。
ぼそっと呟く。
「…鴨志田に見つかったら厄介なんだけどな」
「ご主人様、何か?」
「ほら、行くぞ。あとは現場に着いたら説明する」
三人が頷く。
現場は電車を乗り継ぎ向かう。
コンビニ。規制線。パトカー。人だかり。
三人を外に残し、中へ入る。
「警部、お疲れ様です」
鴨志田が駆け寄ってくる。
「状況は?」
「コンビニ強盗です。被害者はアルバイト店員一名。現場で死亡が確認されています」
「店長は?」
「当時、現場にはいません。通報も別の人物です」
短く頷く。
「マル被は?」
「逃走中です」
「何で?車か?徒歩か?」
「徒歩と思われます。公共交通機関を使う可能性をあるので、支店の警官に巡回をしてもらってます」
鴨志田から現況を聞きつつ、白手袋と頭に紙が落ちないようにキャップ、靴カバーを装着する。
「入るぞ」
店内へ。
血の匂い。
倒れている店員。
(若いな)
「被害者の身元は?」
「山崎拓海、二十歳。大学生です。近所のアパート在住。店長曰く苦学生のようですね」
しゃがむ。手を合わせる。
胸部。傷は一つ。
(……貫通)
形が妙だ。
(刺し傷じゃない。だが、穴がある)
立ち上がる。
「凶器は?」
「見つかっていません。警察犬もそのうち来ると思います」
沈黙。
(持ち去ったか)
だが。
(この一撃はなんだ)
周囲を見る。
荒れ方は最小限。
レジだけが狙われている。
(手慣れてる)
「防犯カメラは?」
「確認できます」
「立ち会いお願いしてこい」
鴨志田に命令を出しつつ、鑑識に目を向ける。
「田辺」
「おう」
警察学校時代の顔見知り。
「指紋と足跡は?」
「どっちも大量だ。関係者を仕分けるのが大変だよ。最後はレジの前に立ってたみたいだから特定は簡単だけど、どんな風に店内を回ったかは、時間かかるかもな」
「外もやるのか?」
「…やらなくていいなら、歓迎だぞ?」
一拍。
(……全く)
「続けてくれ」
「了解」
鴨志田を見る。
「周囲の聞き込みは支店か?」
「支店も協力してもらってます。あと防カメの準備できました」
バックヤードへ。
そこには顔を青くした店長らしき男が1人。
映像を再生する。
男。フード。顔は見えない。
(……ここまでは普通)
レジへ商品を持っていき、多少のやり取り。
次の瞬間。
倒れる。
(……なんだ?)
巻き戻す。スロー。
(手……指か)
わずかに動く。
弾くような動き。
それだけ。
(凶器がない)
腕を組む。
(……分からないな)
「こちらの映像はダビングさせていただきます」
「はい」
外に出る。
「鴨志田、とりあえず聞き込み行ってこい。どっちに逃げたかだけでも聞けたら最高だ」
「了解です」
三人が待っている。
エレナが、すぐに口を開く。
「ご主人様」
「どうした?」
「こちらの建物ですが…」
一拍。
「……違和感があります」
静かな声。
「何に気づいた?」
視線が合う。
「……いえ、何となくですが」
ミアとリリアも、こちらを見る。
「……何か気付いたのか?」
「……匂いが、変?」
ミアの返答。短い沈黙。
(……まさか)
小さく息を吐く。
(ただの事件かどうか、怪しいってか)
視線を現場へ向ける。
(……本当に?)
違和感は、ある。
凶器が映ってない。
でも、殺傷能力は抜群。
それだけ。
(……覚えておくか)
今日は、まだ終わらない。
2026.04.26 文章を修正しました




