第23話
三人を連れて、現場から少し離れる。
人通りの少ない路地に入り、足を止めた。
背後ではまだ騒がしい声が続いている。
パトカーの無線。野次馬のざわめき。
規制線の外から騒ぐマスメディア。
(……とりあえず距離は取れたか)
小さく息を吐く。
考えを整理しようとした、その時だった。
「小澤さん?」
聞き慣れた声。
(……見つかったか)
振り返ると鴨志田が立っていた。
視線はそのまま三人へ流れる。
「……何してるんですか?」
軽い口調。
だが、目は完全に探っている。
「それ、どういう状況です?」
(誤魔化すか?)
「古い友人の娘たちだ」
短く答える。
「いきなり来るって連絡あったから東京観光連れて行ってたんだ」
一拍。
鴨志田が三人を見る。
服装。立ち位置。距離感。
全部を見ている。
(鋭いな)
エレナが一歩前に出る。
「お仕事の邪魔をしてしまい、申し訳ありません」
自然な所作で、軽く頭を下げる。
「ご迷惑をおかけしました」
(……助かる)
鴨志田がわずかに目を細める。
完全には納得していない。
だが。
「それならそうと言ってくださいよ。予定ないかと思って電話しちゃったじゃないっすか」
「仕事は仕事。プライベートとは切り離している。問題ない」
察しのいいやつは助かる。
それ以上は踏み込まれなかった。
その時だった。
鴨志田のスマホが震える。
「……はい、鴨志田です」
表情が変わる。
声のトーンも一段落ちる。
「……え?」
短い沈黙。
「分かりました。すぐ向かいます」
通話を切る。
顔を上げる。
「小澤さん」
「なんだ?」
「同一犯と思われる事件が発生しました」
一瞬、空気が止まる。
「場所は?」
「二駅先のコンビニです」
(……早すぎる)
「行くぞ。足はあるか?先行ってろ」
「了解です」
三人を見る。
「…で、また着いてくるのか?」
「もちろんです」
エレナがはっきりと答える。
「さっきと同じだ。外で待機。勝手に動くな」
エレナが頷く。
「承知しました」
ミアとリリアも続く。
電車に乗る。
車内はいつも通りだ。
誰も気にしていない。
だが――
(同じことが、起きてる)
吊り革を握る手に、わずかに力が入る。
現場はまた、コンビニ。
既に規制線が敷かれ、野次馬が集まっている。
また、同じ光景。
(……いたって普通のコンビニだな)
中へ入る。
血の匂い。
床に倒れる人間。
争った形跡のないレジ前。
(……同じだな)
「被害者は?」
「安藤恵子、女性、十九歳。アルバイトです」
短く頷く。
遺体に近づきしゃがむ。合掌。
掛けられたシートをめくり胸部を確認。
先の一件と同じく傷は一つ。
一撃で急所を貫かれている。
(……貫通)
形も同じ。
出血量も。
(やり口は完全に一致)
立ち上がり鴨志田に確認する。
「凶器は?」
「不明です」
「防犯カメラは?」
「確認しました。撮影されている角度が違いますが、マル被の背格好は同一です」
「後でダビングと書類作っておけ」
周囲を見る。
荒れ方。動線。手口。
(無駄がない)
同じ動き。
同じ結果。
(…計画犯か?)
外に出る。
三人の姿を探す。
野次馬から離れたところで待っていたようだ。
エレナが、こちらに気づく。
「ご主人様」
「どうした」
一歩近づいてくる。
手に何かを持っている。
「これを」
差し出される。
紙。
折りたたまれている。
「近くに落ちていました。見つけたのはミアです」
受け取る。
開く。
そこに書かれていたのは――見慣れない文字。
(……これは)
読めない。
だが。
(見覚えがある)
エレナを見る。
「読めるか」
「……はい」
即答。
視線を落とし、紙を見つめる。
わずかに、表情が変わる。
「これは……こちらの文字ではありません」
「だろうな」
「アストラディア、ブルガルド帝王国の文字です」
一瞬、思考が止まる。
「……帝王国って」
「ご主人様に助けて貰ったのがマーレン王国。ご主人様は聞いたことがあるかもですが、北側がサザラント帝国です。国境を接しているので争いが絶えません」
「……それで?」
「ブルガルド帝王国は大陸の東側。マーレンは西側なので交流はあっても深い関わりはありません」
(……何で、ここにある)
エレナが続ける。
「文字はある程度共通なのですが……帝王国ならではの言い回しで書かれているので、間違いないかと」
「……内容は?」
「途中、破れているので完全ではありませんが、実験材料のメモかと」
「材料?」
「はい。タイトル部分が破かれているので全容は分かりません」
紙を見直す。
確かに、規則的だ。
(……何のために、こんなものを)
胸の奥に、引っかかるものがある。
スマホを取り出す。
過去の記録。
高橋の件。
「……これは読めるか?」
「はい。同じようなメモですね…でも、このメモとお渡ししたものが同じかは判別できません」
(……何が起こってる?)
異世界に渡るのはあの魔王達ですら難しかったと聞いている。
なのに、あちらの住人がこちらに来ている可能性がある?
(……嫌な胸騒ぎしかしてこないな)
小さく息を吐く。
短い沈黙。
紙を折る。
「鴨志田、俺だ。ちょっと出てくる」
『了解しました。後処理しておきますね』
「よろしく」
スマホをポケットに入れる。
(ただの強盗じゃない)
視線を現場へ向ける。
同じ構図。同じ傷。同じ“分からなさ”。
だが、どちらも目的を持って行われているのは間違いない。
(高橋……この案件に首突っ込んでいたのか?)
ゆっくりと息を吐く。
「寄りたい所がある。行くぞ」
三人が頷く。
歩き出す。
背後に残る現場。
サイレンの音。
夕暮れの空気。
(……これは、確認する必要があるな)
わずかだが、掴みかけている。
2026.04.26 文章を修正しました




