第12話
受付の女性に連れられ、案内された先は、町の外れだった。
石畳が途切れ、踏み固められた土の地面へと変わる。
その先に、木柵で囲われた空間がある。
簡易的な試験場。
「こちらになります」
受付の女性が、穏やかな声で告げる。
その表情は柔らかいが、視線だけはわずかに引き締まっていた。
周囲には数人の男たち。
武装している。
雰囲気からして見せ物ではない。
これからの試験で、万が一に備えた抑え、といったところだろう。
「内容は単純です」
女性が続ける。
「こちらで用意した魔物を一体、討伐していただきます」
「危険性は?」
「低い個体を選んでいますので、ご安心ください」
「……そうか」
軽く頷く。
(問題ない)
柵の奥が、ゆっくりと開いた。
現れたのは、狼型の魔物。
以前出会った魔物と同じようだ。
こちらを認識し、威嚇するように低く唸っている。
視線が合う。
完全に敵として認識されたようだ。
「それでは、開始です」
その瞬間、魔物が地面を蹴る。
一直線。
速い。
だが――
「……」
動かない。
視線だけで追う。
距離が詰まる。
あと一歩。
その瞬間。
(■■■)
反射的に、何かを“掴む”。
魔物の中にある“何か”。
それを――削る。
次の瞬間。
魔物の動きが、完全に止まった。
踏み込みの勢いのまま、崩れ落ちる。
地面に叩きつけられ、そのまま動かなくなる。
「……」
静寂。
誰も、すぐには言葉を出せない。
「……え?」
かすかな声。
「今、何を……」
ざわつきが広がる。
「終わりだろ」
淡々と告げる。
数秒の沈黙。
「……合格、です」
受付の女性が、戸惑いを残しながら告げる。
(……やっぱり出るか)
無意識。
狙って使ったわけではない。
(制御は、まだできない)
そのときだった。
低い振動が、地面を伝う。
「……?」
視線を向ける。
森のい方からざわめき。
少しずつ振動が大きくなっているように感じた、次の瞬間。
「魔物だ!!」
森から逃げてきた冒険者の叫び声。
木々の間から、次々と現れる影。
一体。二体。
すぐに十を超える。
さらに、奥からも。
「なんだこの数……!」
「抑えろ!! 柵に近づけるな!!」
兵士たちがいち早く動く。
だが――数に勝る魔物たちに押されている。
防ぐので精一杯。
その中に――一回り大きい個体。
二体。三体。
さらに。
「……五か」
大型個体が混ざっている。
(……やることは同じだな)
一歩、前に出る。
「危険です!」
受付の女性の声。
「……分かってる」
止まらない。止まるわけにはいかない。
ここで引いても、魔物に追いつかれる。
魔物の群れが迫る。
距離が詰まる。
一体目。
(■■■)
削る。動きが止まる。
そのまま体ごとぶつける。
弾き飛ぶ。
二体目。
削る。崩れる。
三体目。
削る。倒れる。
止まらない。
次々に来る。
そのたびに削る。倒す。削る。倒す。
ただ、それだけ。
だが――戦況は、確実に変わっていく。
兵士たちは抑えるので精一杯。
こちらは、一人で抑えきれない魔物を減らしていく。
「……なんだ、あれ」
誰かの呟き。
大型個体。
こちらに向かって踏み込んでくる。
速い。重い。
(……少し強い個体、か?)
だが――
(■■■)
削る。一瞬、鈍る。
その隙に踏み込む。
拳を叩き込む。
鈍い音。
もう一度。
削る。完全に止まる。崩れる。
残りも同じ。
すべて、倒れる。
静寂。
風だけが、吹く。
「……終わりか」
最後の一体を倒して振り返る。
全員が、こちらを見ていた。
言葉が出ない。
「……」
気にしない。
そのとき。
【レベルアップしました】
【レベルアップしました】
【レベルアップしました】
【レベルアップしました】
【レベルアップしました】
【レベルアップしました】
【レベルアップしました】
【レベルアップしました】
(……一気に上がったな)
意識を向ける。
【ステータス】
名前:???
職業①:村人 Lv58 / ∞
職業②:魔法使い Lv10 / ∞
HP:257 MP:218
STR:87 DEF:25 INT:78
MDEF:64 DEX:106 LUK:25
スキルポイント:32
スキル:
・取得経験値倍加 Lv1
・取得スキルポイント倍加 Lv1
・レベル限界突破
「……悪くない」
怪我人は多数出たようだ。
だが、救護もひと段落したところで、ギルドへ戻る。
扉を開けた瞬間、ざわめきが止まる。
全員の視線が集まる。
「……あいつだ」
「一人でやったって……」
カウンターへ向かう。
受付の女性が、息を整えながら書類を確認する。
「……確認できました。小型個体、三十体。大型個体、五体。計三十五体の討伐です」
ざわつき。
「報酬は――」
一拍。
「まず、討伐報酬として銀貨40枚になります。加えて、魔物の素材はいらないとのことですので、ギルドにて買取いたします。金貨6枚と銀貨12枚になります」
袋を受け取る。
ずしりとした重み。
(十分だな)
靴。通行税。
そして――三人。
「安い宿はどこかあるかな?」
受付を見る。
「ご案内できます。地図を書きますので、お待ちください」
「ありがとう」
外へ出る。
だいぶ日が傾いている。
空が赤い。
「……今日はここまでだな」
静かに呟く。
この世界で、どう動けばいいか。
その輪郭だけは、少し見えてきていた。
2026.04.04 文章を修正しました。
2026.04.26 文章を修正しました




