第103話
みんなが足止めしてくれたお陰で、私の魔法を詠唱する時間を稼いでくれて、思ったよりも呆気なく戦いが終わる。
アンデッドとの戦いが終わると、辺りは再び静寂に包まれた。
先程まで響いていた剣戟や魔法の音が嘘のように消えて、聞こえてくるのは夜風に揺れる木々の音だけ。
「……終わり」
私はゆっくりと周囲を見渡します。
エレナさんが私の前で倒したアンデッドを調べて手がかりを探しているようです。
ここに倒れているのはまともな装備もしていない村人がアンデッド化させられたもの。
服や身につけているものから何かしら見つかるとは思えませんが……
(……催眠系、じゃない。でも、アンデッド化、する魔法、なんてない。何か、やられた?)
人がアンデッド化するとしたら、死体を操るネクロマンサーなんかが有名ですが、忌み嫌われるのであまり表舞台には出ない。
そもそも、死体への冒涜と考える教会からも目をつけられる。
(……だから、人族、じゃない。それに――)
――私のいた村に伝わる上位の魔族、リッチ。
(……ただのリッチ、なら、生きて、いる、人に、化け、させる、なんて、出来ない。しかも、この村、臭くない)
私は魔族の臭いが嫌いだ――
私の村を襲ったのも、魔族だから、それから敏感に感じ取れる。
私が色々と考えている間に、アステリアのみんなが集まってきた。
エレナさんもアンデッドを調べるのを止め、みんなからも意見を聞くようだ。
見る限り、皆さんに怪我はない。
一番恐れていた噛まれるという事態も起きていない。
「皆さん、無事ですね。とりあえず、ご主人様が戻るまで警戒を怠らないように。再度の襲撃もあるかもしれません」
「……エレナ、攻めるのはどう?」
ミアさんはこのまま守りに入るのは危ないと考えているようです。
この場にいるみんなが考えていることは同じ。
――村長が怪しい。
でも、私としては、今は無闇に動くべきじゃないと思う。
相手の能力が分からない以上、深追いは避けるべき。
「……お姉ちゃん、どうする?」
リリアさんは双剣を収めまています。
とはいえ、リリアさんはミアさんと同じくやる気満々のように感じる。
逆にセラさんは静かに剣を払うと、小さく息を吐きます。
「私はエレナに賛成です……この村は明かりも少ないので、奇襲をかけられたら危ないでしょう。今は耐える時間ですね」
「……魔力、まだ、大丈夫。けど、エレナ、賛成」
「夜目は効く方ですが、どの程度の村人がこうなっているのか……これ以上から襲われたら危険だと私も思います。」
私も同意しつつ、フィアさんは周囲を警戒したまま頷きました。
家の前で固まって相談していると――
「……なるほど。そう簡単にはいきませんか。まさかここまでやれるとは思っていませんでしたよ。有名な冒険者だったりしますかね?」
暗闇から現れたのは、もう隠す気など微塵もない村長その人。
ただ、どこからどうみてもヒューマンです。
この人物がどうやってアンデッドを操っていたのか?
すると、村長は私の魔法で倒された黒装束へ近付きます。
エレナさんの攻撃によって腕と足が切り落とされ、既に動く気配はありません。
その黒装束を村長は掴むと、近くにある別の黒装束の近くに置き、立ち上がります。
「……なんて酷いことを。彼らも生きていたのに」
何を言っているのでしょう。
この人たちはアンデッドでした。
既に生きていません。
それを生きていた?
「私はね、彼らが何不自由なく生きれる村を作りたかっただけなんですよ。なのに、次から次へとこの村を襲う無礼者が多いこと……」
村長はそういうとこちらを睨み、持っていた杖を私たちに向けます。
「あなたがたは強い。でも、この村を好きにはさせません!」
そういうと、村長は懐からよく分からない液体を取り出し、黒装束にかけ始めます。
そして、いきなり手を叩くと、黒装束たちが光り始めて、何か良くないことが起こる予感がします。
村長が指を鳴らした瞬間、二体の黒装束の身体が歪み始め、腕が捻じれ、骨が軋み、互いの肉体が無理矢理繋ぎ合わされていきます。
「……全員、戦闘態勢!」
エレナさんも突然の事で指示が一瞬遅れたものの、すぐさま対応します。
ミアさんは即座に村長を肉薄にすべく距離を詰めますが、村長にミアさんの剣は届きません。
――いきなり現れた四本腕のアンデッドによって、遮られてしまいました。
「……力、強いっ」
「どうです?私の可愛い村人たちは。あなたがたには即刻、退場していただきましょう」
そういうと、新しく作り出されたアンデッドはミアさんに向けて攻撃を始めます。
さっきまでとは別人のようなスピードと攻撃力、そして、四つの腕からの不規則な攻撃でミアさんは防戦一方となります。
もちろん私たちも加勢したいところですが、村長は次から次へと既に倒したアンデッドを新たなアンデッドとして作り直していきます。
(……なん、だろ?これは、ネクロマンサー、より、錬金術?)
私の神聖魔法で浄化されたアンデッドを除いて、村長は次々と倒されたアンデッドを復活させていきます。
ミアさんのみならず、リリアさんやセラさんまでもが防戦一方になり、後衛の私を守るようにフィアさんが応戦してくれます。
(……このまま、埒が、明かない。いずれ、追い詰め、られる)
村長からは魔法を使った痕跡は感じない。
とすれば、あれはスキル?
でも、なんのスキルかは分からない。
(……このままじゃ、ダメ)
前衛陣とエレナさんが負けることはないものの、後手後手になっている事実に焦りを覚えます。
ご主人様なら、と願うものの、今、この場にはいません。
(――できるか、分からない、けど、賭けるしか、ない!)
私はフィアさんに少しの間の時間稼ぎをお願いして、自分の魔力を高めることに集中します。
これはヴァンパイアとしての種族特性。
私たちの一族が狙われた一つの要因だから、使うのはあまり好きじゃない。
けど――
(……みんな、のため。ここで――)
私を膨大に高めた魔力が包み込むと、ヴァンパイアとしての私が目覚める。
いつもは抑え込んでいた元魔族としての殺戮衝動も上手い具合に抑えることができている。
「エレナさん!少しだけ時間を!」
この状態の私なら、神聖魔法も詠唱短縮で何とか発動できる。
村長は驚いた顔をして、すぐさま私をターゲットにしたようだけど、もう遅い!
「魔を打ち砕け!ホワイトベル!」
私が使える中で最も広範囲な神聖魔法。
魔力をごっそり持っていかれる感覚に襲われながらも魔法はきちんと発動したようで、宙に白い大きなベルが現れ、音を奏でます。
祝福と浄化の音色が響くと、村長が作り出したアンデッドたちは動かなくなり、沈黙します。
「……何っ!まさか、そんなことがっ!」
「もう仲間はいません。降参してください」
私の姿は元に戻り、フィアの肩を借りて何とか立っていれます。
エレナさんが村長に剣を向け、降参の勧告をしますがニヤリと笑い、高笑いしだす。
「ハハハ。驚きましたが、私の可愛い村人はまだまだいるのですよ?降参?何を馬鹿なことを!あなたがたなど、すぐに私の村人にしてくれます!あの男がいないのが気がかりですが、それは後で――」
「……呼んだか?」
村長がハイテンションに色々と話していると、その後ろからご主人様が現れます。
ご主人様は私のことを見て頷くと、村長に向けて一度腕を振ります。
何が起きたか分かりせんが、村長はいきなり糸の切れた人形のようにその場に座り込んでしまいました。
「……とりあえず動けないようにした。いない間に一騒ぎあったようだな。申し訳ない」
「いえ。アステリア、全員無事ですので。おかえりなさい」
エレナさんも安心したようにご主人様へ返答します。
その後、エレナさんはご主人様がいなくなってからのことを要点だけを摘んで伝えます
この村の住人は生きているように見えていただけ。
この村は、最初から死者の村だった可能性。
そのため、隣町で何かあっても誰も慌てない。
何も知らない。
村長がこの不気味な村の原因そのもの。
「……なるほど、な」
ご主人様が複雑そうな表情を浮かべます。
確かに変だと感じてはいたものの、見た目はヒューマンそのもの。
ご主人様も早く次の街、サウスノーランドへ向かうことに気を取られていたと言っていました。
「……村長はこのまま拘束しておく。今日は話を聞ける状態ではないしな。明日、話を聞かせてもらおう」
夜空を見上げるご主人様の横顔は、どこか険しいままでした。




