第93話
海藤のパソコンを解析した結果、更に情報が錯綜している。
まだ整理もついてない中でアステリアやノクスに話すでもなく、疲れて就寝することになった。
アステリアやノクスも一日日本でリフレッシュ出来たようだ。
日本からアストラディアへと戻り、頭を切り替える。
ピレネの冒険者ギルド。
起きると下から騒がしい音が聞こえる。
下へ降りると、まだ朝早いはずだが、既にノクスの面々とアズラが集まっていた。
そして、窓際にはサクレ。
朝から元気だった。
「おはようや、旦那様!」
「……」
「無視はやめてや」
サクレからの挨拶をスルーする。
朝から漫才に付き合うと思うと頭が痛い。
そんなやり取りを見ながらディナが笑う。
「元気になったな」
「せやろ?昨日は色々とごめんな。うち、立ち直りだけは早いんや」
そう言って胸を張るサクレだったが、多少見栄を張っているだろう。
ただその前を向きな性格はその場にいるメンバーを明るくする。
この場のムードメーカーになりつつある。
朝食が既に用意されていたので、席に座ると目の前にはアズラが座り、微笑み返してくる。
「おはようございます」
「……おはよう。さて、食べながら今後どうするか決めよう」
ノクスとナーレが席に着く。
「……昨日の続きだ。現状、ピレネを放置してラグナードに戻れないが、サウスノーランドで何か起こっているなら放置はできない」
全員の視線が集まる。
「……アズラ。戦わなくていい。が、力を貸してくれないか?」
「……戦わなくていいので?」
「……黒スーツがいる時点でアズラは抑止力になり得ない。が、いることに意味がある。頼めないか?」
「私という存在がピレネにいることで、黒スーツを留めておきたいのですね。分かりました。ただし――」
「……終わったら礼はさせてもらう」
「いいでしょう。完全には回復していませんので、できることは限られますが、万全を尽くしましょう」
アズラが快く引き受けてくれたおかげで、まず第一段階はクリアだ。
続いて、サクレの方に向く。
「……サクレ」
「なんや?旦那様」
「……戦う覚悟はあるんだな?」
これは確認だ。
サクレにとってこの街を心から守りたいと思っているかどうか。
昨日の発言に偽りがないか、最後の確認をする。
「……大丈夫や。うちはこの街を守りたい。戦える力がもらえるんなら、それで街を救いたい」
「……分かった」
その言葉を聞き、ナーレには一度席を外してもらった上で説明をする。
アズラにも席を外してもらいたかったが、「それだと私はお力になれません」と言い出されたので、同席を許した感じだ。
説明するのは、主に俺の能力、スキルについて。
仲間になることで経験値を分け与えられること、スキルの取得がしやすくなること、そして、この能力は悪用されると世界が壊れてしまうので、奴隷契約を結ぶことで制限をかけていること。
これらの事を説明すると、サクレも冗談ではないと理解したのだろう。
真剣に悩み、少し時間をかけ、答えを出す。
いつもの笑顔を消えていた。
「……それでもええ。うちは、巫女には戻れん。でも、この街は好きなんや。そのための力をくれるんやったら、旦那様に着いていくわ」
「分かった」
ここまでは予定通り、これで準備の第二段階はクリアとなる。
ただ、これだけでは戦力として足りない。
再度アズラに向き直り、考えていた内容を伝えねばならない。
「……アズラ」
「まさか、魔王の私も奴隷にしようというの?」
アズラは、悪戯が成功したかのようにクスリと笑っている。
「……そんなお願いはしない。ただ、保護している黒髪のヒューマンを仲間にくれないだろうか?」
これは一つ目の賭けだ。
今、この街でサクレの仲間を集めるのは難しい状況といえる。
ナーレの話によると、奴隷商はあるものの、今は外に出れないため閉店しているという。
となれば、あと頼りにできるのは、思い浮かぶ限り二人。
そのうちの一人をどうにか勧誘したい。
「……なるほどね。私は構わない、と言いたいけど、まだ回復途中の彼女を無闇に戦場に立たせたくない。あと、彼女自身の意見も聞かないとね」
「……分かっている。ただ、交渉することを許して欲しいんだ」
「そらなら構わないわ」
その言葉だけでも十分だ。
ナーレが戻ってきたところで、奴隷商の商人を連れてきてもらうように手配をお願いする。
「でも、ゼロ様?それでも、サクレ様と彼女の二人だと戦力が足りないのではないかしら?」
「……あと一人は考えがある。が、できれば追加で三人ほど、欲しいところだが……」
今は思い当たる人物もいないため、三人とアズラ軍でピレネを守り抜いて欲しいと伝える。
対して、アズラは困ったような顔をしたものの、最善をつくすと約束してくれた。
「でも、レベルを上げれるのは分かったけど、時間もないのにどうするの?」
「……そこは考えがあるから大丈夫だ」
「その顔。やけに、自信があるようですね。では、そこは心配しないでおきますね」
今後の方針も決まり、ナーレが奴隷商を連れて戻ってくると、早々にサクレの奴隷契約を進める。
これでサクレは正式にメンバーとして強くすることができる。
「旦那様。これからもよろしゅうお願いします」
サクレがわざとらしくお辞儀する。
そこから会議は次の行動について話すことになった。
「……まずはアズラの拠点に戻る」
「一度、ピレネから出るのですか?」
ナーレがピレネを出ていくという話に驚きを隠せないようだ。
正門には相変わらずモンスターの群れ。
そこから出ると思っているようだ。
「抜け道を使って一度拠点に行くだけですよ」
「……そんなものがあったのですね」
アズラがぼかしながら答えてくれる。
そして、拠点に戻り次第、療養中の黒髪ともう一人を仲間にして、サクレ達にはピレネを、ノクスはラグナードに戻る。
一時的に別々になることになるが、この戦いが終わったら再度集まることを約束することも忘れない。
「分かったわ」
サクレが顔を上げる。
話が終わると、アズラが立ち上がる。
ナーレは寂しそうな表情をしていたが、すぐに戻ってくるとサクレが励ましていた。
「では、野営地へ向かいましょう。あの子の様子も確認したいですし」
ナーレに別れを告げた後、サクレを連れ、アズラ先導のもと、抜け道を通って拠点へと戻る。
この抜け道はサクレも知っていたようで、「この道を通るんやね。せやったら、岩龍様に挨拶せんと」と言っていたが、岩龍はその場におらず、そのまま拠点へと向かうことになった。
森の近くに作られた簡易野営地。
アズラ配下の魔族達が忙しそうに動いていた。
「戻りました」
アズラが声を掛けると、配下達が頭を下げる。
その中の一人が慌てた様子で駆け寄ってきた。
「アズラ様、お怪我されています。大丈夫ですか?」
「万全とは言えませんが、問題ありません。ピレネの様子も伝えたいので、後ほど、各隊の隊長は天幕に来るように伝えてください」
「かしこまりました。あと、例の少女ですが、目を覚まされました」
アズラが頷き、急いでテントへ向かった。
中にいたのは黒髪の少女だった。
見た目は中学生ぐらいだろうか。
目を覚ましたと言っていたことから、もう身体を動かせるのかと思ったが、まだ、気がついた程度で、まだ身体を動かすには万全の状態とは言えないようだ。
それでも目には力があった。
少女はアズラ達を見て、警戒するも助けて貰っていたことは覚えているようで、アズラが説明するとすぐに安心したような表情になる。
「……ゼロ様。もし、お話されるのであればどうぞ」
「っ……!」
「そう警戒しないくていい。冒険者のゼロだ。君が最後まで戦ってくれたお陰で村人はラグナードに向かうことができた者もいる。そのラグナードから来た冒険者だ」
「…………!!」
言葉を発しようとしたのだろうが、まだ声は出ないようだ。
なので、まずは聞いてくれということと、話を聞いてハイなら縦に、イイエなら横に首を振ってくれとお願いする。
「それで、今のピレネを話す。今、ピレネはモンスターの群れに襲われている。何とか留めているが、ピレネの街も一筋縄では行かない状況で、助けがいる。そこで、君の力を借りたい?できるか?」
「……(コクン、フルフル)」
「……それは戦いたいけど、自信がない、ということか?」
「……(コクン)」
「……もし、奴隷契約でピレネのために戦える力を与えるといったら、どうする?」
だいぶ端折った説明をしたと後悔したが、後ろでサクレが「大丈夫や。安心せえ。この旦那様はええ人や」と説明をしていた。
少女は悩み、ノクスやサクレ、そして、アズラ達を見回した後、頷いてくれた。
「……ゼロ様?さっきの説明では不足しすぎではないですか?聞いた話は私の方からしておきますが、あれだと誤解されますよ?」
「……言葉が上手く出てこなくて、な。申し訳ない」
「……全く。あと、奴隷契約魔法が扱える部下がおりますので、契約は済ませましょう。よろしい?」
アズラに叱られ、アズラ主導で彼女にも確認を取ってもらってしまった。
アズラの部下が来ると、今日二回目の契約を済ませ、後はアズラから彼女に説明と今後の回復方針を伝えるとのことで、天幕を後にする。
「ご主人様。最後のひとりは?」
「……予想がついているだろう?」
今まで大人しかったユズが確認をしてくる。
ノクスのメンバーを見ると皆頷くものの、戦力になるのか半信半疑といったところだろうか。
「エレナたちからの報告では四日前には居なくなったんだよな?なら、徒歩ならそろそろこの辺にいそうと思ったんだ」
「でも、素性が分からない相手というのは……」
「そこは会ってみての賭け、だな」
その時だった。
野営地の外に出て偵察をしていたアズラの部下が走ってアズラの天幕へと駆け込んでいく。
報告を聞いただろうアズラが飛び出てきて、開口一番に部下に命令を出す。
「街道沿いで人族を発見、重度の脱水状態と空腹、そして、長時間の酷使により運ばれてきます。保護したので、医療班は準備を!」
その命令を聞き、部下は慌ただしく動き出したため、こちらも手伝えることをさせてもらう。
すると、二人の黒装束の肩を借りて、一人の人族が運び込まれた。
見た目は短髪の黒髪、服はボロボロで、男っぽい。
顔は幼く、女性と言われても遜色ない中性的な顔立ちをしている。
「誰や?ましかして、旦那様が待っていた相手ってこの人なん?……」
サクレは困った顔をして確認してきたが、この面影を見た時、不思議な感覚だった。
初対面のはずなのになぜか、妙な既視感があった。




