第131話「咆哮、白霧を割る第一撃」
第131話
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アーソン城の城壁上。
スエン・ツー・カンコは、
霧の向こうに立つ“漢”を見つめていた。
龍海将ブルイドン。
その名を知らずとも、
その存在が“災厄”であることだけは、
本能が告げていた。
海獣たちがざわめき、
白霧が波のように揺れる。
ブルイドンは動かない。
ただ静かに、アーソン城を見据えていた。
影牙の副隊長が、震える声で問う。
「……姫殿下……ご指示を……」
スエンは深く息を吸い、
霧の冷たさを肺に満たした。
「全弓兵、構えなさい。
騎士団は城壁下に展開。
敵が接近したら即座に迎撃を」
声は落ち着いていたが、
胸の奥では心臓が激しく脈打っていた。
ブルイドンの周囲の霧が、
まるで海流のように渦を巻き始める。
海獣たちがざわめき、
地面が低く唸った。
スエンは歯を食いしばる。
「……撃てッ!!」
アーソン城の弓兵たちが一斉に矢を放つ。
霧を裂き、無数の矢が海獣の群れへ降り注ぐ。
だが――
すべての矢が、ブルイドンの周囲で“止まった”。
空中で、
まるで見えない壁に阻まれたかのように。
「……な……」
弓兵たちが息を呑む。
矢は地面に落ちることなく、
空中で震えたまま静止していた。
ブルイドンが、
ゆっくりと三叉槍を持ち上げる。
その動きは、
海底の潮が満ちていくように重く、
しかし確実だった。
スエンは叫ぶ。
「全員、伏せなさいッ!!」
だが――
間に合わなかった。
ブルイドンが三叉槍を振り下ろす。
次の瞬間、
大地が“波”になった。
霧が破裂し、
空気が海水のように押し寄せ、
城壁が大きくうねる。
石が砕け、
兵たちが吹き飛ばされる。
「きゃああああッ!!」
「うわあああッ!!」
スエンも衝撃に耐えきれず、
城壁の上で膝をついた。
(……これが……ただの一撃……?)
ブルイドンは動かない。
ただ槍を振り下ろしただけ。
だがその一撃は、
城壁の一部を粉砕し、
海獣たちが進むための“道”を作り出していた。
騎士団長が叫ぶ。
「海獣が突入するぞッ!!
迎撃――!」
海獣たちが咆哮し、
崩れた城壁の隙間から雪崩れ込む。
巨大な甲殻類が鋭い爪を振り下ろし、
深海魚のような獣が兵を噛み砕き、
触手を持つ異形が騎士を絡め取る。
騎士団は必死に応戦するが、
海獣の力はあまりにも強かった。
ブルイドンは、
ただ静かにアーソン城を見つめている。
その眼光は、
深海の底から獲物を見上げる捕食者のようだった。
スエンは拳を握りしめる。
(……あれを止めなければ……
アーソンは……終わる……)
ブルイドンが再び三叉槍を持ち上げる。
霧が渦を巻き、
空気が震え、
地面が低く唸る。
スエンは息を呑んだ。
(……来る……
次は……城そのものを……)
ブルイドンの三叉槍が、
アーソン城へ向けて構えられた。
スエンは叫ぶ。
「全員――退避ッ!!」
だが、
海王の第二撃は、
すでに放たれようとしていた。
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