第132話「第二撃、白霧の城壁が沈む」
第132話
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アーソン城の城壁上。
スエン・ツー・カンコは、
崩れ落ちた石の隙間から雪崩れ込む海獣たちを見下ろしていた。
第一撃――
龍海将ブルイドンが三叉槍を振り下ろしただけで、
城壁の一角が粉砕され、
海獣たちがアーソンへ侵入した。
(……こ、これが……ただの一撃……?)
震える膝を押さえつけ、
スエンは立ち上がる。
巨大な甲殻類が爪を振り下ろし、
深海魚のような獣が兵士を噛み砕き、
触手を持つ異形が騎士を絡め取る。
海獣たちの咆哮が霧を震わせ、
アーソンの夜を切り裂いた。
影牙の副隊長が叫ぶ。
「姫殿下!
海獣の数が多すぎます!
このままでは――!」
「分かっているわ!
無理に戦わず、城内へ誘導して!
市民を守るのが最優先よ!」
声は震えていたが、
その瞳は決して揺らいでいなかった。
(……影牙も騎士団も強い。
でも……あれは……
どうこうできる相手じゃない……)
スエンの視線の先――
霧の向こうに立つ“海の王”。
龍海将ブルイドン。
黒い鱗は光を吸い込み、
赤い眼光は海底火山のように燃え、
背の翼は広げるたびに空気を海水のように重く湿らせる。
そしてその手には、
深海の闇を凝縮した三叉槍。
ブルイドンは動かない。
ただ静かに、アーソン城を見つめていた。
その沈黙は、
嵐の前の静けさではなく、
深海の底に沈むような圧迫感だった。
スエンは息を呑む。
(……次が来る……)
ブルイドンが三叉槍を横に薙いだ。
その瞬間――
世界が“割れた”。
空気が裂け、
霧が爆ぜ、
大地が波のように盛り上がる。
城壁の上にいた兵たちが、
まるで軽い木の葉のように吹き飛ばされた。
「うわああああッ!!」
「ぎゃあああッ!!」
石が砕け、
城壁が悲鳴を上げる。
スエンは衝撃に耐えきれず、
城壁の上で身体を投げ出された。
「きゃっ――!」
影牙の副隊長がスエンを抱きかかえ、
辛うじて落下を防ぐ。
「姫殿下、伏せてください!!」
だが、
その声も揺れにかき消された。
第二撃は、
第一撃とは比べものにならないほどの破壊力だった。
城壁が波のように揺れ、
石が崩れ、
巨大な裂け目が走る。
海獣たちがその裂け目から雪崩れ込み、
アーソン城内へと侵入する。
スエンは歯を食いしばり、
立ち上がった。
「……まだ……終わっていない……!」
だが、
ブルイドンはまだ動いていなかった。
第二撃を放った後も、
ただ静かにアーソン城を見つめている。
(……なぜ動かないの……?
何を……見ているの……?)
ブルイドンの赤い眼光が、
スエンを捉えた。
その瞬間、
スエンの心臓が凍りつく。
まるで深海の底に引きずり込まれるような、
底知れぬ圧力。
スエンは震える膝を押さえつけ、
立ち続けた。
ブルイドンは動かない。
ただ静かに、
スエンを見つめている。
その視線は、
まるで“試す”ようだった。
(……何を……見ているの……?
私を……?
アーソンを……?)
影牙たちは散り、
海獣の進行を少しでも遅らせようと奮戦する。
だが、
第二撃で城壁は大きく崩れ、
防衛線は完全に破られていた。
スエンは城壁の上から、
アーソンの街を見下ろす。
霧が揺れ、
海獣たちが街路を進み、
悲鳴が響く。
(……アーソンが……
私の街が……
飲み込まれていく……)
スエンは拳を握りしめた。
「……まだよ……
まだ終わらせない……!」
その声は震えていたが、
確かに“王の声”だった。
ブルイドンが、
ゆっくりと三叉槍を持ち上げる。
第三撃が来る。
スエンは息を呑んだ。
(……来る……
次は……城そのものを……)
霧が渦を巻き、
空気が震え、
地面が低く唸る。
ブルイドンの三叉槍が、
アーソン城へ向けて構えられた。
スエンは叫ぶ。
「来る……! 構えを解いて、離れなさい!!」
だが、
海王の第三撃は、
すでに放たれようとしていた。
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