第130話「アーソンに迫り来る海の王」
第130話
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アーソン城の高層部。
スエン・ツー・カンコは、
霧の都を見下ろすように立っていた。
深影の侵入。
影牙の壊滅的損害。
アーソンは今、もっとも危険な状態にある。
スエンは迷わなかった。
「……全防衛線、即時展開。
城壁、監視塔、地下水路、すべての出入口を封鎖。
影牙は残存戦力を再編し、各所に配置。
一般市民は避難区画へ誘導。
――急ぎなさい」
命令は冷静で、鋭く、迷いがなかった。
霧の都の主として、
彼女は“守るべきもの”を知っている。
影牙の隊長が深手を負いながらも立ち上がり、
胸に拳を当てて敬礼した。
「……御意……姫殿下……!」
影牙たちは散り、
アーソンは静かに“戦の形”へと変わっていく。
城壁の上では弓兵が霧の中に目を凝らし、
監視塔では狼獣人の耳が風の音を探り、
地下水路では影牙が息を潜めて待ち構える。
スエンは城の中心に立ち、
深く息を吸った。
「……来る。
必ず来る……」
霧の流れが変わっていた。
圧倒的な“何か”が近づいている。
そのとき――
監視塔の頂上から、
鋭い音が夜空を裂いた。
「――敵襲ッ!!」
アーソン全域に響き渡る警鐘。
霧が震え、
空気が重く沈む。
スエンは即座に顔を上げた。
「……来たわね」
霧の向こう、
森の奥から“波の音”が聞こえた。
アーソンは海から遠い。
波の音など聞こえるはずがない。
だが確かに、
それは波だった。
地面が揺れ、
霧が押し流される。
そして――
それは現れた。
白霧を押し分け、
夜の森を割って進む巨大な影。
最初に見えたのは、
うねるように揺れる“海獣”たちだった。
巨大な甲殻類。
深海魚のような鱗を持つ獣。
触手を揺らす異形の影。
どれも、
アーソンの獣人たちが見たことのない“海の怪物”だった。
「……な、なんだ……あれは……」
城壁の上の兵が震える。
海獣たちは霧を割り、
アーソンへ向かって進む。
そしてその中心――
海獣たちを従えるように歩く“漢”がいた。
スエンは息を呑んだ。
その姿は、まるで海そのものが形を成したかのようだった。
その鱗は深海の闇のように黒く、
光を吸い込むほどの重さを持つ。
眼光は海底火山のように赤く燃え、
見る者の心を焼き尽くす。
背から伸びる翼は、
広げるたびに空気を海水のように重く湿らせ、
地面が波打つほどの圧を生む。
そしてその手には、
深海の闇を凝縮したような三叉槍――
海を支配する王の象徴が握られていた。
その漢が一歩踏み出すたび、
地面が波のように揺れ、
霧が押し流される。
その姿は、
アーソンの獣人たちが知るどんな魔物よりも、
どんな王よりも、
どんな軍勢よりも――
圧倒的だった。
スエンの隣にいた影牙の副隊長が、
震える声で呟いた。
「……姫殿下……
あれは……いったい……」
スエンは答えられなかった。
彼女は魔力を感じることはできない。
だが、
“本能”が叫んでいた。
――あれは、ただの敵ではない。
――あれは、災厄だ。
ブルイドンは立ち止まり、
ゆっくりとアーソン城を見上げた。
その眼光が、
スエンの胸を貫く。
まるで深海に引きずり込まれるような、
底知れぬ圧力。
スエンは歯を食いしばり、
震える膝を押さえつけた。
「……アーソンを……
私の街を……
好きにはさせない……!」
その声は震えていた。
だが、確かに“王の声”だった。
ブルイドンは動かない。
ただ静かに、
アーソンを見つめている。
その沈黙が、
何より恐ろしかった。
海獣たちがざわめき、
霧が波のように揺れる。
アーソンの城壁の上では、
弓兵たちが震える手で弓を構え、
影牙たちが息を潜めて待ち構える。
スエンは一歩前に出た。
「……来るなら来なさい。
アーソンは……
私が守る!」
その瞬間――
ブルイドンの三叉槍が、
ゆっくりと持ち上がった。
空気が震え、
霧が裂け、
地面が波打つ。
海の王が“侵攻”を開始しようとしていた。
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