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第129話「深影の血報、龍海将が動き出す」

第129話

ご愛読いただきありがとうございます。

すでに、ブックマーク/星評価/リアクションをつけてくださった皆様ありがとうございます!

アーソン外縁の森。

霧は街よりも薄いが、

それでも白い膜のように漂い、

木々の影をぼんやりと揺らしていた。

夜の森は静かだった。

虫の声も、風の音もない。

ただ、霧が木々の間を流れ、

湿った土の匂いが漂っているだけ。


その霧の中を、

二つの影がふらつきながら進んでいた。


深影しんえい第三班の生き残り――二名。


全身は血に濡れ、

衣服は裂け、

呼吸は荒く、

足取りは重い。

だが、

彼らの瞳にはまだ“使命”の光が宿っていた。

「……急げ……

ブルイドン様は……この森の奥に……」

「海核の位置……

伝えねば……」

声はかすれ、

喉は血で焼けついていた。

それでも二人は互いに肩を支え合い、

森の奥へと進む。

足元の土は湿り、

踏みしめるたびにぬかるみが音を立てる。

その音すら、

二人には遠く感じられた。

視界は揺れ、

霧がぼやけ、

木々の影が歪んで見える。

それでも――

彼らは止まらなかった。

任務のために。

アスーカ教皇のために。

そして、

散っていった仲間のために。

「……俺たち……」

「歩け……、死ぬのは……報告の後だ……」

二人の会話は、

もはや言葉というより、

意識を繋ぎとめるための“音”だった。


やがて――

霧の奥に“巨大な影”が立っているのが見えた。

その影は動かない。

まるで森そのものが形を成したような、

圧倒的な存在感。


深影の一人が膝をつき、

震える声で呟いた。

「……ブルイドン様……」

影がゆっくりと動いた。

霧が裂け、

その姿が現れる。

長身。

鋭い眼光。

冷たい威圧感。

そして、

人ならざる“静けさ”。

260年の眠りから覚めた龍海将――

ブルイドン。

だがその眼差しには、

わずかな嫌悪が宿っていた。

(……深影か。

教皇の手先どもめ。

人間の分際で、魔族である我に命令を下すとは……)

ブルイドンは、

深影という存在を好ましく思っていなかった。

彼らは教皇の影。

人間の王権の延長線上にある存在。

本能的に気に入らなかった。


だが――

目の前の二人は違った。

血に濡れ、

瀕死の身体を引きずり、

それでもなお“使命”だけを支えに歩いてきた。

その姿は、

人間の傲慢さとは無縁だった。

ブルイドンは深影の二人を見下ろし、

低く、しかしよく通る声で言った。

「……報告を」

その声は、

森の空気を震わせるような重みを持っていた。

深影の一人が震える手で魔導探知機を差し出す。

「……海核……

地下に……ありました……」

言葉を紡ぐたびに血がこぼれ、

魔導探知機の表面に赤い滴が落ちる。

ブルイドンはそれを受け取り、

淡い光を放つ画面を静かに見つめた。

「……ふむ。

確かに……」

その声は、

まるで深海の底から響くような低さだった。

深影のもう一人が、

血を吐きながら言葉を続ける。

「……任務……完了……

これで……ブルイドン様は……

海核へ……」

ブルイドンは静かに頷いた。

「お前たちの働きで、

海核への道が開けた。

……よくやった」

その言葉は短い。

だが、

深影の二人にとっては

何よりの褒美だった。

そしてブルイドン自身も、

その言葉を口にした自分に驚いていた。

(……人間の分際で、我を助けるとは……

生意気にもほどがある……)

そう思う一方で、

胸の奥に、

確かに“敬意”が芽生えていた。

(だが……

この二人は……

命を賭して情報を届けた。

それは……

称賛に値する)


二人は、

その言葉を聞いた瞬間、

力が抜けたように地面へ崩れ落ちた。

「……光栄……で……ござ……」

最後の言葉は、

霧に溶けて消えた。

二人の胸は、

もう上下していなかった。

森の静寂が戻る。

霧がゆっくりと流れ、

深影の亡骸を包み込む。


ブルイドンはしばらく彼らを見下ろし、

静かに目を閉じた。

「……無駄死にはさせぬ。

必ず海核を取り戻す」

その声は、

誓いであり、

宣告であり、

そして――

これから始まる“侵攻”の合図だった。


霧が揺れた。

まるでブルイドンの決意に応えるように。

彼はゆっくりと歩き出す。

最後までお読みいただきありがとうございました。

気に入っていただけた方は、ぜひ、

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よろしくお願いいたしますm(__)m

つけてくれると、嬉しいです。

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