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第122話「影の守護者、カヌレを焼く」

第122話

ご愛読いただきありがとうございます。

すでに、ブックマーク/星評価をつけてくださった皆様ありがとうございます!


ぐーたら第三王子は、魔法の廃れた世界で、龍魔王の力をこっそり使い、世界を救う 第34話「カヌレ・デ・ザムルー」とあわせてお楽しみください。

殿下との夜の謁見から数日が経った。

王都アイーズの朝は、いつもより少しだけ眩しく見えた。


――殿下。

あの夜、あなたは確かに“主”の魂を宿しながら、

それでも“自分として生きる”と宣言なさった。

その強さに、私は胸を打たれた。

そして今、私たちヴァルノクスは動き出す。

ガルド様とリュシアンナは、

里へ戻り態勢を整えるために出立された。


「エヴァンジェリナ。

王都の拠点は、お前に任せる」

ガルド様の言葉は重く、しかし信頼に満ちていた。

「……はい。必ずや殿下の影となる拠点を築いてみせます」

私は胸に手を当て、深く頭を垂れた。


――だが。

その後の私は、

自分の判断を何度も疑うことになる。


・・・・・・・・・・


王都アイーズは活気に満ちていた。

人の流れ、商人の声、子どもたちの笑い声。

この街に“影の拠点”を作るには、

目立たず、自然に溶け込む場所が必要だった。


(目立たず……自然に……)


私は地図を広げ、王都を歩き回り、

何日も考え続けた。


そして、王都アイーズには

ヴァルノクスの里にあるような“甘味文化”があまりないことに気づいた。

特に、私たちの家庭でよく作られる

小さな焼き菓子――カヌレを扱う店はほとんどなかった。

(……逆に、だからこそ)

私はふと思った。

(“存在しない文化”は、目立たないはず。

王都の人々は、私たちの菓子店など気にもしないはず。

その裏で、影の拠点を築けば……)

そう考えた瞬間、

胸の奥に小さな灯がともった。


(……カヌレ専門店を作ろう)


ヴァルノクスの家庭の味。

外はカリッと、中はしっとり。

香ばしいバターと蜜の香りが広がる、

あの小さな焼き菓子。

王都の人々には馴染みがない。


私は即座に派遣されたノクティカーナ一族の仲間と共に店の準備を始めた。

店名は――

「Canelés des Amoureux

――恋人たちのカヌレ」

甘く、柔らかく、

王都の人々の心にすっと溶け込むような名前にした。

もちろん、裏には“影の拠点”がある。


地下には結界を張り、

情報収集のための魔術器具を配置し、

殿下の動向を守るための連絡網を整えた。

(完璧……のはずだった)


・・・・・・・・・・


だが、予想外の事態が起きた。

「エヴァンジェリナ様! お客様が多すぎて……!」

「焼いても焼いても追いつきません!」

「王都の人々、こんなに甘いもの好きだったんですか……!?」

店は開店初日から大繁盛。

王都中の噂になり、行列が絶えない。

ノクティカーナ一族の10人だけでは、

とても回しきれなかった。

(な、なぜ……!?

私たちは影の一族……菓子職人では……!)

だが、店を放り出すわけにはいかない。

拠点が露見する危険がある。

「……仕方ありません。

私も手伝います!」

私は白いエプロンを身につけ、

髪をまとめ、厨房へ飛び込んだ。

忍びの技術はある。

手先も器用だ。

カヌレを焼くくらい、どうということは――

「エヴァンジェリナ様! 焦げてます!」

「えっ!? あっ……!」

「こちらは生焼けです!」

「な、なぜ……!?」

どうということはあった。

(カヌレ……恐るべし……!)

だが、私は諦めなかった。

影の守護者として、殿下のために拠点を守るために。


そして――

私がようやく慣れてきたその日のことだった。


・・・・・・・・・・


店の前に、見覚えのある気配が近づいてきた。

(……まさか)

私は厨房から顔を出し、

店内を覗いた。


そこには――

マサヴェイ殿下。

シスモ様。

そして殿下の胸元から、

ひょこっと顔を出すヴィオデス様。


(な、な、な……なぜ今日に限って……!?)

私は一瞬で青ざめた。

よりによって、

私が初めて店頭に立つ日に……!

殿下がこちらを見た。

目が合った。

(ひっ……!)

私は反射的に姿勢を正し、

声を張り上げた。

「い、いらっしゃいませぇぇぇ……!」

声が裏返った。

(落ち着け……落ち着け私……!

影の守護者として……冷静に……!)

だが、殿下が近づくたびに、

心臓が跳ね上がる。

(殿下……殿下が……!

なぜこんな可愛い店に……!)


一緒にいる女性が微笑む。

「おすすめはどれですか?」

「えっ……あっ……えっと……!」

頭が真っ白になった。

忍びの技術も、結界術も、

この瞬間まったく役に立たなかった。

「こ、こちらの“焦がしバターのカヌレ”が……その……とても……」

「とても?」

「とても……とても……!」

「とても……?」

「とても……美味しいです……!」

最後は泣きそうだった。

(ああああああああああああ……!

殿下の前で何を言っているの私……!)

シスモ様がにやにやしている。

「マサヴェイ君、知り合い?」

「ち、違うよ! 全然知らない!」

「そ、そうです! 全然知りません!」

私は全力で乗った。

(乗るな私……!)

一緒にいる女性が首をかしげる。

「でも……なんだか息ぴったりじゃないですか?」

「「ち、ちがいます!!!」」

殿下と声が重なった。

(あああああああああああああああああああああ……!)

私は顔が熱くなるのを感じながら、

震える手でカヌレの箱を差し出した。

「こ、こちら……本日のおすすめを……全部……!」

「全部!?」

「ぜ、全部……買ってください……!

お願いします……! このままだと……私が……!」

殿下は困惑しながらも頷いた。

「じゃ、じゃあ……全部ください」

「ありがとうございますぅぅぅ……!」

私は涙目でレジを打った。

(殿下……優しい……!

でも……恥ずかしい……!)

殿下たちが店を出るとき、

私は忍びのようにそっと手を振った。

(殿下……どうか……どうか今日のことは忘れてください……!)


・・・・・・・・・・


その夜。

私は店の裏でひとり、

焼き上がったカヌレを見つめていた。

(殿下……私は必ず、あなた様の影となり……

この拠点を守り抜きます……)

甘い香りの中で、

私は静かに誓いを立てた。

――影の守護者として。

そして、殿下のために。

最後までお読みいただきありがとうございました。

気に入っていただけた方は、ぜひ、

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・下の評価で5つ星

よろしくお願いいたしますm(__)m

つけてくれると、嬉しいです。

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