第121話「影の守護者たちの夜」
第121話
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湖畔で“それ”を感じ取った瞬間、
ガルド・ホルヴァルガ・ヴァルノクスの胸は、
久しく味わったことのない震えに満たされていた。
――魂の波動。
それは、260年前に消えたはずの主。
龍魔王ヴィオデスのもの。
ガルドは確信していた。
あの少年――マサヴェイ殿下の胸奥に宿る波動は、
紛れもなく“主”の魂の欠片。
魂が覚えている。
理屈ではない。
これは“主”だ、と。
・・・・・・・・・・
王都アイーズの高台にある宿屋。
最上階のスイートルームで、
ヴァルノクスの3人は静かに待っていた。
ガルドは姿勢を正し、
リュシアンナは影のように気配を消し、
エヴァンジェリナは胸に手を当てて祈るように目を閉じていた。
「……本当に、殿下の中に……?」
エヴァンジェリナが小さく呟く。
「間違いない。あれは“主”の波動だ」
ガルドは静かに答える。
「でも……どうして人間の王子に……?」
リュシアンナが眉を寄せる。
「わからぬ。だが、殿下の魂は……強い。
あの年齢で、あの波動を押し留めている。
常人ではありえぬ」
ガルドの声は、畏怖と敬意に満ちていた。
その時、扉の向こうから気配が近づく。
「来たな」
3人は同時に立ち上がった。
・・・・・・・・・・
扉が開いた瞬間、
ガルドは息を呑んだ。
――あの波動だ。
昼間よりも、はっきりと。
まるで夜の静寂が、波動を際立たせているかのようだった。
ガルドは自然と膝をついた。
「……お待ちしておりました、マサヴェイ殿下」
リュシアンナも、エヴァンジェリナも続く。
殿下の胸元――
そこから、黒い小さなトカゲが顔を出した。
その瞬間、3人の背筋に電流が走る。
「久しいな、ガルド。
そしてリュシアンナ、エヴァンジェリナ。
昼間はよく見抜いたな」
――主だ。
姿は違えど、声も、威圧も、
すべてが“龍魔王ヴィオデス”そのもの。
3人は深く頭を垂れた。
「……っ……!
やはり……ヴィオデス様……!」
震えが止まらない。
だが、次の瞬間――
ヴィオデスは殿下の胸元へ戻り、
殿下が静かに口を開いた。
「それじゃあ……始めようか。
ヴァルノクスとの正式な会談を」
その声は、少年のもの。
だが、魂の奥には確かに“主”がいる。
ガルドは思った。
(この方こそ……我らが仕えるべき主)
・・・・・・・・・・
殿下は静かに語り始めた。
生まれた時から流れ込む映像。
5歳で気づいた“ヴィオデスの記憶”。
7歳の夏、精神世界での対面。
そして――封印。
ガルドは息を呑んだ。
(7歳で……龍魔王を封じた……?)
リュシアンナもエヴァンジェリナも、
驚愕で目を見開いていた。
「魂は融合しているけど、身体は僕が支配している。
ヴィオデスは表には出てこられない」
殿下の声は静かで、揺るぎなかった。
ガルドは深く頭を垂れた。
「殿下……
あなた様は“マサヴェイ様であり、ヴィオデス様”。
どちらも我らの主です」
リュシアンナとエヴァンジェリナも続く。
「殿下の意思に従います」
「どうか……私たちをお使いください」
殿下は静かに微笑んだ。
「……ありがとう」
その瞬間、ガルドは確信した。
(この方は……主の魂を宿しながら、
自らの意思で未来を選ぶ方だ)
・・・・・・・・・・
だが、殿下は続けた。
「……僕は争いごとが嫌いなんだ。
王家の後継者争いにも、魔族の戦いにも関わりたくない。
ただ静かに生きたいだけなんだ」
その言葉に、
リュシアンナの胸が痛んだ。
(なんて……優しい方……)
エヴァンジェリナは涙をこらえ、
ガルドは拳を握りしめた。
「でも、きっと周りは僕を放っておかない。
僕も、ヴィオデスも……巻き込まれるんだろう」
その瞬間、ガルドは迷わず膝をついた。
「殿下。
あなた様が争いを望まぬなら、戦わせません。
戦うなら、我らが先陣を切ります」
リュシアンナもエヴァンジェリナも深く頭を垂れた。
「殿下の平穏を守るためなら、どんな影にも潜ります」
「殿下に危害を加える者は、必ず排除します」
殿下は驚いたように目を見開き、
そして静かに微笑んだ。
「……ありがとう。
僕は、みんなに守られるだけの存在にはなりたくない。
でも……みんながいてくれるなら、僕は前に進める。
誰も失わないために。僕自身の未来を選ぶために」
その言葉に、
ガルドの胸は熱くなった。
(この方こそ……我らが守るべき主)
・・・・・・・・・・
その時、ヴィオデスが静かに言った。
「……マサヴェイ。
お前が守りたいと願う者たちを、余も守ろう。
お前が選ぶ未来を、余は否定せぬ。
お前が“生きたい”と願う道を――共に歩むだけだ」
その声は、かつての龍魔王とは違う。
深く、静かで、どこか温かかった。
ガルドは思った。
(主は……変わられたのかもしれぬ。
この少年と共にあることで)
リュシアンナは胸に手を当て、
エヴァンジェリナは涙を拭った。
そして3人は、心の底から誓った。
(殿下とヴィオデス様を――
命に代えても守り抜く)
・・・・・・・・・・
こうして、
ヴァルノクスは正式に“影の守護者”として
マサヴェイの側に立つことを決めた。
その夜、
王都アイーズの月は静かに輝き、
新たな絆を祝福するように
淡い光を宿屋の窓へ落としていた。
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