第119話「影の夜会」
第119話
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王都アイーズの夜は、静かに深まっていた。
高台に建つ一流宿屋は、夜風に揺れるランプの光に照らされ、
まるで貴族の館のような荘厳さを放っている。
その最上階――
ヴァルノクスの3人が泊まるスイートルームは、
宿屋の中でも“王族級”と呼ばれる特別室だった。
玄関ホールだけでも十畳ほどあり、
そこから続くリビングは大人が10人いても余裕で歩ける広さ。
全体で百平方メートルは優に超えている。
壁は白大理石に金の装飾が施され、
天井には繊細な彫刻と大きなシャンデリア。
壁には山岳の油絵や歴代王の肖像画が飾られ、
床には厚い絨毯が敷かれている。
中央には深い木目の丸テーブル。
その周囲には身体が沈み込むほど柔らかな緑のソファーが並び、
テーブルの上にはバラの絵柄が描かれた精巧なティーセットが置かれていた。
「……これ、本当に“宿屋”なんですか?」
エヴァンジェリナは、ふかふかのソファーに沈み込みながら呟いた。
リュシアンナも、壁の絵画を見上げて目を丸くする。
「ガルド様、見てください。
この絵……筆のタッチが生きています」
「……落ち着け。
我らは観光に来たわけではない」
そう言いながらも、ガルドはソファーの座り心地を確かめていた。
(……柔らかいな)
260年ぶりの外界。
文明の進歩は、ヴァルノクスの3人にとって驚きの連続だった。
そんな時――
コン、コン。
扉を叩く音がした。
「……誰だ?」
ガルドが立ち上がる。
扉の向こうから、柔らかい女性の声がした。
「失礼しま~す。夜分に申し訳ありませんねぇ」
妙に人懐っこい声。
ガルドが扉を開けると、
そこには丸眼鏡をかけた地味なメイド服の女性が立っていた。
「シスモ……?」
ガルドが呟くと、メイド服の女性はにっこり笑った。
「はいはい、ガルド様。
そんな怖い顔しないの。
真面目すぎるとモテないわよっ、プイッ」
その口調は、まさに“色欲のシスモ”そのものだった。
リュシアンナとエヴァンジェリナが同時に身構える。
「……魔力の質が……!」
「間違いありません。七公爵の……!」
シスモはひらひらと手を振った。
「そんなに警戒しないでいいのよ~。
今日はお仕事で来ただけなんだから」
その瞬間――
廊下の奥から、低く響く声がした。
「シスモ、勝手に先に行くな」
黒の燕尾服。
白手袋。
完璧な所作。
――ゴシファー。
ガルドは思わず背筋を伸ばした。
「……傲慢のゴシファー」
「しばらくぶりですね、ガルド殿。
殿下の執事として参上いたしました」
その声は静かだが、
部屋の空気が一瞬で引き締まる。
だが、さらにもう一つの気配が近づいてきた。
「ちょっと~、置いていかないでよぉ。
あたし、階段で転びそうになったんだからぁ」
現れたのは――
派手なアクセサリーをつけ、
オシャレな服を着こなした男。
「やぁん、ヴァルノクスの皆さん。
おひさしぶり♡ 強欲のゴモンよ」
リュシアンナとエヴァンジェリナは完全に固まった。
「……見た目は……すごく紳士なのに……」
「……声と口調が……一致していません……!」
ガルドは深く息を吸い、
目を閉じた。
そして――ゆっくりと目を開ける。
「……魔力の質。
間違いない。
お前たちは本物だ」
ゴシファーが静かに頷く。
「ええ。
ヴァルノクスの皆様を確かめにきました」
シスモがくるりと回り、スカートを揺らす。
「マサヴェイ君は、あなたたちに会えるの楽しみにしてるのよ~」
ガルドは咳払いをして、3人の七公爵を見渡した。
「……本当に……殿下は、我らを待っているのか?」
ゴシファーは一瞬だけ目をそらし、
咳払いをした。
「おっほん……
……もちろんです」
その“わずかな間”を、ガルドは見逃さなかった。
「……今、間があったな」
「い、いえ? 気のせいですとも」
「殿下は……本当に会いたがっているのか?」
「も、もちろんですとも!
ええ、ええ、そりゃあもう……!」
ゴモンが扇子で口元を隠しながらクスクス笑う。
「ゴシファー、殿下、今日ずっと“胃が痛い”って言ってたじゃないの~」
「ゴモン。黙れ」
「やぁん、怖い♡」
シスモも肩をすくめる。
「殿下、緊張してるのよ~。
“会いたくない”とかじゃなくてね?
ね? ゴシファー?」
「……そ、そういうことです」
ガルドは眉をひそめた。
「……怪しい」
「怪しくありませんとも!」
ゴシファーは必死だった。
だが、次の瞬間――
彼はふとテーブルのティーセットに目を向けた。
「……少し、お時間をいただけますか?」
彼はポットを手に取り、
静かに湯を注ぎ始めた。
その動きは、まるで儀式のように美しい。
「紅茶……淹れてくださるんですか?」
エヴァンジェリナが驚く。
「ええ。
殿下がお好きな香りです。
あなた方にも味わっていただきたくて」
湯気とともに、甘く深い香りが部屋に広がる。
「……すごい……
香りだけで分かります。
これは……高級茶葉……!」
「ゴシファー様、紅茶まで完璧なんですね……」
ゴシファーは微笑んだ。
「執事ですので」
3人は紅茶を飲み、
その味に目を見開いた。
「……美味しい……!」
「文明の味がします……!」
「……殿下は、こんな紅茶を……」
ゴシファーは静かにカップを置いた。
「では、我らはこれで。
明日、殿下のもとでお会いしましょう」
七公爵3人は、
まるで舞台の幕が下りるように、
静かに部屋を後にした。
扉が閉まる。
部屋に残されたヴァルノクスの3人は――
しばらく言葉を失っていた。
「……ガルド様」
「なんだ」
「七公爵って……昔からあんな感じでしたっけ……?
口調は同じなのに……なんだか……前より接しやすいというか……」
ガルドは腕を組み、難しい顔をした。
「……確かに。
昔のあいつらは、もっと……近寄りがたい雰囲気だった。
だが今は……妙に距離が近い。
……それが逆に怖い」
「……同感です」
リュシアンナとエヴァンジェリナは同時に頷いた。
「明日……殿下に会うんですね」
「ええ。
そして――
殿下が“本当にヴィオデス様なのか”を確かめる」
ガルドは静かに目を閉じた。
外では、アイーズの夜風が
静かに窓を揺らしていた。
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