第118話「ヴァルノクスの3人、王都アイーズへ」
第118話
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ムツート連合国の王都アイーズ――
それは四方を山々に囲まれた美しい盆地に広がる都市だ。
雪をいただく山脈が遠くに連なり、
山肌には針葉樹の森が深く根を張る。
谷間を流れる清流は街の中心を貫き、
石造りの橋がいくつも架かっている。
赤茶色の屋根が連なる街並みは、
まるで絵画のように整っていた。
その街の入口に――
人間族に変身している3人の影が立っていた。
「……ここが、アイーズ……」
族長ガルド・ホルヴァルガ・ヴァルノクスは、
深くフードをかぶったまま、静かに街を見渡した。
その隣で、2人の女性が目を輝かせている。
「す、すごい……! 見てくださいガルド様!
あの建物、屋根が赤いです! 全部赤いです!」
「エヴァンジェリナ、落ち着きなさい。
……でも、分かるわ。これは……可愛い……!」
忍びの家長リュシアンナ・ネレアークと、
結界術の家長エヴァンジェリナ・ノクティカーナ。
260年ぶりに冥界の大森林をでたことで、2人は完全に浮かれていた。
「……お前たち、普段そんなテンションだったか?」
ガルドは思わず呟いた。
「普段は違いますよ! でも……これは……!」
「260年前にはなかったものが多すぎます……!
あれ見てください、あれ! 馬車じゃなくて……鉄の箱が走ってます!」
「それは“自動馬車”というものらしいです。
人間族の技術、侮れませんね……!」
2人は完全に観光客だった。
ガルドはため息をつきながらも、
止める気はなかった。
(……まあ、260年ぶりだしな)
彼自身も、胸の奥にわずかな高揚を感じていた。
・・・・・・・・・・
3人は街の大通りへ足を踏み入れた。
石畳の道は陽光を受けて白く輝き、
両脇には木組みの家々が並んでいる。
窓辺には花が飾られ、
パン屋からは焼きたての香りが漂ってきた。
「ガルド様! 見てください!
このパン……丸いです! 丸いパンです!」
「丸いパンくらい昔からあっただろう……」
「いえ、ヴァルノクスの里にはなかったです!
これは……文明の香りがします……!」
エヴァンジェリナはパン屋のショーケースに張りつき、
目を輝かせている。
「リュシアンナ、あなたも落ち着きなさい」
「無理です。
あの服屋……可愛い服が……!
見てください、あのフリル……!
260年前にはあんなデザインありませんでした!」
「……ガルド様、後で寄ってもいいですか?」
「ダメだ」
「えぇぇぇぇぇ……!」
リュシアンナは肩を落としたが、
すぐにまた別の店に反応した。
「ガルド様! あれは……お菓子屋です!
見てください、あの色とりどりの……!」
「落ち着け」
「落ち着けません!」
ガルドは額を押さえた。
(……普段は冷静な二人なのに……)
だが、どこか微笑ましくもあった。
・・・・・・・・・・
街の中心部に近づくと、
石造りの大きな噴水が見えてきた。
水が陽光を受けてきらめき、
子どもたちがその周りを走り回っている。
「……平和ですね」
エヴァンジェリナが呟いた。
「ええ。
大陸が混乱しているとは思えないほどです」
リュシアンナも目を細める。
「260年前は……戦の匂いが街に満ちていました。
でも今は……こんなにも穏やかで……」
「……だからこそ、殿下を守らねばならん」
ガルドの声は低く、重かった。
2人は表情を引き締めた。
「はい。
殿下の中に眠る“魂”を確かめるためにも」
「そして……ヴァルノクスとしての決断を下すためにも」
だが次の瞬間――
「ガルド様! あれ見てください!
“アイーズ名物・蜂蜜タルト”ですって!」
「ちょっとリュシアンナ!? 真面目な空気どこ行ったの!?」
「だって……美味しそうで……!」
「……買うか?」
「ガルド様まで!?」
3人はしばし蜂蜜タルトを眺め、
結局買ってしまった。
「……うまい」
「……美味しい……!」
「……文明の味がします……!」
ヴァルノクスの3人は、
完全に観光客だった。
・・・・・・・・・・
日が傾き始めた頃、
3人はようやく目的地へ向かった。
ゴシファーが手配した宿――
王都でも指折りの一流宿屋。
街の中心部から少し離れた高台に建つその宿は、
まるで貴族の館のような荘厳さを放っていた。
白い石壁は夕陽を受けて黄金色に輝き、
大きなアーチ状の窓が整然と並んでいる。
入口には黒鉄の門があり、
その上には宿の紋章が刻まれていた。
庭には手入れの行き届いた花々が咲き、
噴水が静かに水音を立てている。
「……これが、宿……?」
エヴァンジェリナが呆然と呟いた。
「城じゃないですか……?」
リュシアンナも目を丸くする。
ガルドは腕を組み、
しばし建物を見上げた。
「……ゴシファーめ。
相変わらず、やりすぎだ」
だが、その声にはどこか嬉しそうな響きがあった。
「行くぞ。
殿下に会う前に、まずは休息だ」
3人はゆっくりと門をくぐった。
260年ぶりの外界での旅は、
まだ始まったばかりだった。
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