表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
118/121

第118話「ヴァルノクスの3人、王都アイーズへ」

第118話

ご愛読いただきありがとうございます。

すでに、ブックマーク/星評価をつけてくださった皆様ありがとうございます!

ムツート連合国の王都アイーズ――

それは四方を山々に囲まれた美しい盆地に広がる都市だ。

雪をいただく山脈が遠くに連なり、

山肌には針葉樹の森が深く根を張る。

谷間を流れる清流は街の中心を貫き、

石造りの橋がいくつも架かっている。

赤茶色の屋根が連なる街並みは、

まるで絵画のように整っていた。


その街の入口に――

人間族に変身している3人の影が立っていた。


「……ここが、アイーズ……」

族長ガルド・ホルヴァルガ・ヴァルノクスは、

深くフードをかぶったまま、静かに街を見渡した。

その隣で、2人の女性が目を輝かせている。

「す、すごい……! 見てくださいガルド様!

あの建物、屋根が赤いです! 全部赤いです!」

「エヴァンジェリナ、落ち着きなさい。

……でも、分かるわ。これは……可愛い……!」

忍びの家長リュシアンナ・ネレアークと、

結界術の家長エヴァンジェリナ・ノクティカーナ。

260年ぶりに冥界の大森林をでたことで、2人は完全に浮かれていた。

「……お前たち、普段そんなテンションだったか?」

ガルドは思わず呟いた。

「普段は違いますよ! でも……これは……!」

「260年前にはなかったものが多すぎます……!

あれ見てください、あれ! 馬車じゃなくて……鉄の箱が走ってます!」

「それは“自動馬車”というものらしいです。

人間族の技術、侮れませんね……!」

2人は完全に観光客だった。

ガルドはため息をつきながらも、

止める気はなかった。

(……まあ、260年ぶりだしな)

彼自身も、胸の奥にわずかな高揚を感じていた。


・・・・・・・・・・


3人は街の大通りへ足を踏み入れた。

石畳の道は陽光を受けて白く輝き、

両脇には木組みの家々が並んでいる。

窓辺には花が飾られ、

パン屋からは焼きたての香りが漂ってきた。

「ガルド様! 見てください!

このパン……丸いです! 丸いパンです!」

「丸いパンくらい昔からあっただろう……」

「いえ、ヴァルノクスの里にはなかったです!

これは……文明の香りがします……!」

エヴァンジェリナはパン屋のショーケースに張りつき、

目を輝かせている。

「リュシアンナ、あなたも落ち着きなさい」

「無理です。

あの服屋……可愛い服が……!

見てください、あのフリル……!

260年前にはあんなデザインありませんでした!」

「……ガルド様、後で寄ってもいいですか?」

「ダメだ」

「えぇぇぇぇぇ……!」

リュシアンナは肩を落としたが、

すぐにまた別の店に反応した。

「ガルド様! あれは……お菓子屋です!

見てください、あの色とりどりの……!」

「落ち着け」

「落ち着けません!」

ガルドは額を押さえた。

(……普段は冷静な二人なのに……)

だが、どこか微笑ましくもあった。


・・・・・・・・・・


街の中心部に近づくと、

石造りの大きな噴水が見えてきた。

水が陽光を受けてきらめき、

子どもたちがその周りを走り回っている。

「……平和ですね」

エヴァンジェリナが呟いた。

「ええ。

大陸が混乱しているとは思えないほどです」

リュシアンナも目を細める。

「260年前は……戦の匂いが街に満ちていました。

でも今は……こんなにも穏やかで……」

「……だからこそ、殿下を守らねばならん」

ガルドの声は低く、重かった。

2人は表情を引き締めた。

「はい。

殿下の中に眠る“魂”を確かめるためにも」

「そして……ヴァルノクスとしての決断を下すためにも」

だが次の瞬間――

「ガルド様! あれ見てください!

“アイーズ名物・蜂蜜タルト”ですって!」

「ちょっとリュシアンナ!? 真面目な空気どこ行ったの!?」

「だって……美味しそうで……!」

「……買うか?」

「ガルド様まで!?」

3人はしばし蜂蜜タルトを眺め、

結局買ってしまった。

「……うまい」

「……美味しい……!」

「……文明の味がします……!」

ヴァルノクスの3人は、

完全に観光客だった。


・・・・・・・・・・


日が傾き始めた頃、

3人はようやく目的地へ向かった。


ゴシファーが手配した宿――

王都でも指折りの一流宿屋。


街の中心部から少し離れた高台に建つその宿は、

まるで貴族の館のような荘厳さを放っていた。

白い石壁は夕陽を受けて黄金色に輝き、

大きなアーチ状の窓が整然と並んでいる。

入口には黒鉄の門があり、

その上には宿の紋章が刻まれていた。

庭には手入れの行き届いた花々が咲き、

噴水が静かに水音を立てている。


「……これが、宿……?」

エヴァンジェリナが呆然と呟いた。

「城じゃないですか……?」

リュシアンナも目を丸くする。

ガルドは腕を組み、

しばし建物を見上げた。

「……ゴシファーめ。

相変わらず、やりすぎだ」

だが、その声にはどこか嬉しそうな響きがあった。

「行くぞ。

殿下に会う前に、まずは休息だ」


3人はゆっくりと門をくぐった。

260年ぶりの外界での旅は、

まだ始まったばかりだった。

最後までお読みいただきありがとうございました。

気に入っていただけた方は、ぜひ、

・ブックマーク

・下の評価で5つ星

よろしくお願いいたしますm(__)m

つけてくれると、嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ