第116話「黒翼の来訪3」
第116話
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影議の間に満ちていた緊張は、
ゴシファーの一言でさらに重く沈んだ。
「私は――
マサヴェイ殿下に忠誠を誓うつもりです」
その瞬間、黒石の円卓の周囲がざわめきに揺れた。
「七公爵筆頭が……?」
「殿下はまだ“龍魔王”ではないのだろう?」
「記憶も不完全なのに……?」
家長たちの声は驚愕と困惑に満ちていた。
だが、ゴシファーは微動だにせず、
白手袋の指先を胸に添えたまま、静かに微笑んだ。
「殿下が望むかどうかは関係ありません。
争いは殿下を放っておかない。
ならば――
私が殿下を守らねばならない」
その声音には、
七公爵筆頭としての誇りと、
“傲慢”という罪の本質――「自分こそが正しい」という絶対の自負が宿っていた。
エヴァンジェリナが息を呑む。
「……あなたほどの存在が、そこまで……?」
「ええ。殿下は“ヴィオデス様の魂”を内に宿しておられる。
しかし主体はあくまで殿下ご自身。
ヴィオデス様の力は、殿下が抑え、制御しておられる」
家長たちが驚きに目を見開く。
「……自覚しているのか?」
「もちろんです。
殿下は自分の中に眠る力を理解し、
それを“使わない”という選択をしておられる。
大陸支配など望んでおられません」
ゴシファーの瞳がわずかに揺れた。
それは忠誠というより、
“信仰”に近い光だった。
「そして……ヴァルノクスの力が必要です」
ガルドが目を細める。
「……我らに、何を求める?」
「知と影の力。
あなた方が味方につけば、
殿下――ひいてはヴィオデス様の復活は揺るぎないものとなる」
ゴシファーの声は静かだが、
その言葉は円卓の空気を震わせた。
マグダレナが腕を組む。
「……あなたは、殿下を“龍魔王”に据えるつもりなのですね」
「据える、というより……
殿下は“そうなるべき方”です。
ただし――殿下ご自身にその意志はない」
アドラステウスが低く言う。
「そんな人物が、魔族の頂点に立てるのか?」
ゴシファーは微笑んだ。
「殿下が望むかどうかは、問題ではありません。
“世界が殿下を求める”のです」
その言葉に、家長たちは息を呑んだ。
ゴシファーは続ける。
「十数年前、エゾモンが動き出し、大陸の均衡は崩れ始めた。
その亀裂が広がる中で、数年前――殿下にヴィオデス様の魂が転生された。
そして今、ブルイドンが目覚めた。
エゾモンもブルイドンも、大陸の覇権を狙って牙を研いでいる。
大陸が再び混沌へ傾くその中で――
殿下の中にヴィオデス様が呼応するように息を吹き返したのだ。
これが偶然と思うか?」
黒翼は広げていない。
魔力も抑えている。
それでも、彼の言葉は空気を支配した。
「2勢力が動き始めた今、殿下が巻き込まれないはずがありません」
エヴァンジェリナが小さく呟く。
「……避けられない、ということね」
「ええ。殿下は争いを望まれないでしょう。
しかし、争いは殿下を放っておかない」
ゴシファーの声は静かだが、
その奥には燃えるような決意があった。
「だからこそ、私は殿下の剣となる。
そして――
あなた方にも、その一端を担っていただきたい」
ガルドはしばらく黙り、
円卓を見渡した。
家長たちは皆、複雑な表情を浮かべている。
「……我らが仕えるのは、ヴィオデス様ただ一人。
だが――
“本当に殿下がヴィオデス様なのか”
それを確かめる必要がある」
ゴシファーは優雅に一礼した。
「当然です。
殿下はまだ“完全な覚醒”には至っておりません。
あなた方の角で確かめてください」
マグダレナが問う。
「……殿下は、我らの訪問を受け入れるでしょうか?」
「殿下は優しい方です。
あなた方を拒む理由はありません」
エヴァンジェリナが続ける。
「……しかし、殿下は“自分がヴィオデスである”と……?」
「殿下は自ら明確にそう答えたことはありません。
しかし――
あなた方なら会えば、必ず分かるはずです」
ガルドは深く息をついた。
「……分かった。
ヴァルノクスとしても、動く時が来たようだ」
影議の間に、重い沈黙が落ちた。
ゴシファーは静かに微笑んだ。
「大陸は再び乱れます。
ですが――
我らは、あの方のために剣を取る」
その言葉は、影議の間の空気を震わせた。
エヴァンジェリナが小さく呟く。
「……運命が、動き始めたのね」
「ええ。
そして――
その運命の中心に立つのは、殿下です」
ゴシファーの瞳は、
遠く離れたムツート連合国を見つめていた。
その視線の先には、
まだ自分の運命を知らぬ少年――
いや、
自分の中に眠る“龍魔王”を理解しながらも、
それを抑え、普通の人生を望む少年
マサヴェイ・シロンドルフがいる。
ガルドはゆっくりと立ち上がった。
「……準備を始める。
ヴァルノクスの名にかけて、
我らも殿下に会いに行こう」
ゴシファーは深く一礼した。
影議の間の光苔が、
まるで星のように瞬いた。
こうして、
ヴァルノクスの里は静かに動き始めた。
大陸の運命を左右する、
新たな旅立ちの準備が――。
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