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RPGG  作者: 針狸


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7/7

第7話 ボーナスステージ2

「辻井、なぜエロジジイと梅様が居らっしゃる」

「飲みに行くと聞いて」

「佐々さんと話したいこととかいっぱいあったんですよー」


 辻井と二人でブラリと飲みに行くかと思ったけどなぜかニタニタした教授と爽やかマイエンジェル梅ちゃんが。

 梅ちゃんがいたら思う存分飲めない!

 恥ずかしいじゃないか。

 おのれ辻井め、私に梅ちゃんの前で恥をかけというのか!


「……あなたが研究室の掲示板にデカデカと『飲んできます』って書いたんでしょ」


 連絡は必要かと思って。

 天才は心配りも忘れないのだ。


「本気で飲むなら、池屋じゃないと行かないからね」

「池屋かぁ」


 たしか焼酎の豊富な飲み屋だ。

 あそこを指定するとは、飲む気だな辻井。


「お、佐々が飲む気なんて珍しいな」

「佐々さんっていつもビール数杯で酔いもせずに止めますからね」

「飲んで楽しいって思ったことないもの。限界まで飲んだことないし」


 確かに。

 いつも飲みに行ったら辻井は途中から酔いに酔った人たちを介抱していた気がする。

 そういえば昔二人揃って研究室のゼミ生だった時はもっといっぱい人がいたんだよね。

 それがいまや二人だけかぁ。

 うーん、年取ったなぁ。



 -bonus stage-



 頭が痛い。


「まさか辻井が酔ったらキス魔だったとは……」

「忘れなさい」


 今日の夜は限界とかをまったく考えずに飲んだ。

 飲んだ結果が、これである。

 お酒を飲んで記憶を無くしたのが初めてなら、タケにおんぶされて帰路に着くのも初めて。

 逆ならよくあるけど。


「あー……私のファーストキスが……」

「私は覚えてない」


 記憶がなくてもファーストキスなら、タケのファーストキスはすでにこの間奪ってある。

 今回、お酒のせいで記憶が無いのが少し残念。

 酔った自分、というのは自分では見れないからとても怖いものがある。

 私は他に何もしなかったのかしら。


「しかし……辻井ったら重いのう」

「じゃあ下ろして」

「可愛くないヤツめ」


 そこで本当に下ろすあたり、タケのほうが可愛くない。

 あぁ、体がフワフワするし、頭が痛くて真っ白。

 お酒って怖い。


「おーい、まっすぐ歩きたまえー」

「歩けてる」

「歩けてないよ」


 やっぱり下ろすんじゃなかった、面倒くさい、なんてひどい。

 タケが飲む気だから、私もたまには一緒になって飲んであげようと頑張ったのに。

 逆に介抱されるなんて冗談じゃない。

 今だって手を引かれて歩いている。

 こんな風に誰かと手を繋ぐなんて小学生以来だ。


「タケ」

「んー?」


 このまま行くと、タケの家だ。

 泊まっていけってことだろうか。

 あんなに私一人を泊めるのは嫌がってたくせに。


「泊まって良いの?」

「うむ、今の辻井なら私を襲うようなことはなかろう!」


 逆だと思う。

 理性のない今の私のほうがタケを襲いそう。

 まぁそんなことタケは思いもしないんだろうけど。


「ほら辻井、まっすぐ歩け」


 まさかタケに手を引かれる日が来るなんて、高校生のころは思いもしなかった。


 家から近いから、そんな理由で選んだ高校は最悪だった。

 教師の学力は低く、生徒の程度も低い。

 教室は動物園だし職員室は汚い巣窟。

 加えてヤンキーがたむろする心も体も休まらない保健室。

 気分がマシなのは図書室ぐらい。

 そこは根暗で卑劣な人間の集まりだけど、自分に害がない。

 うるさくないだけでもマシ。

 あと1年の我慢。


 夕方。


 うっかり放課後に本を読みふけってしまい、帰りが遅くなった。

 部活動も終わっていたみたいで、外も赤く染まっていた。

 母にメールを送って図書室の鍵を閉めて警備室に鍵を返す。


 ザッザッ


 土を蹴る音がして、窓の外にあるグラウンドをちらりと見る。

 こんな時間まで秘密の特訓?

 ご苦労なことで。

 せめて見下してやろうと窓からしっかりグラウンドを見る。

 そこには一人の女の子が必死でグラウンドを周回していた。

 周りに人はいない。

 本当に秘密の特訓だったようだ。

 よく見ると、しっかりとした運動服ではなく、制服のまま。


「青春だなぁ」


 くだらないと思いつつ、目が離せない。

 私ももう少しマシな学校に行けばあんなふうに一生懸命になっていたんだろうか。

 ふと、少女が立ち止まる。

 制服だというのに汗が止まらないらしく、肩で息をしている。

 目は驚くほどにまっすぐで、こんな学校にもあんなに純粋な子がいたのかと感心した。

 けれど、それは一瞬ですぐに彼女は泣きだした。


「えぇー……」


 しかも大声をあげて。

 子どもみたいに泣きじゃくる姿はなんとなく見ては悪い気がして目を逸らす。

 この時の罪悪感が私からまだ消えていない。


 あれから、なんとなく気になって。

 相手にされないのが悔しくてずっとタケに思考を奪われたまま。


「ひっどい話……」

「おーう、酔ったことを後悔するならファーストキスを奪ったことを後悔してー」


 だからそれはファーストじゃないってば。


「ねぇタケ」

「なに?」

「どうして陸上が好きだったのに辞めたの?」


 あれは思うに、好きだった陸上ができないから、泣いたんじゃないかな、と仮定してる。

 理由が知りたいってずっと思ってた。

 知れば知るほどわからなくなる。

 これほど能天気で単細胞なタケが、どうしてあれほど泣いたのか。

 もし本当に好きで悔しくて泣いていたなら、どうして辞めたのか。


「だから、天才ならではのやれない理由がだね……」

「それを聞いてるの」


 酔った勢いとはこのことか。

 あの日見たことを正直に話す。

 タケは驚いた顔をしていたけれど、途中からバツが悪そうな顔になった。

 あぁ、やっぱりあれは見ちゃいけないものだったのか。


「あれで最後にするつもりだったんだよ」

「それが嫌で泣いたの?」


 タケはしゅんとしょげると、溜息を吐いた。


「膝が悪くなって、中学だけで辞めるって父さんと約束してさ」


 子どもみたいに口を尖らせてタケは拗ね始めた。

 私に拗ねられても。


「でもやっぱり高校で本格的に走ってる子たち見て、悔しくって」


 だから部活動の終わった時間に、一度だけ。

 それをたまたま私に見られた、と。


「なんだ」

「なんだとはなんだ」


 失礼だけど意外と普通な理由だ。

 疑問解決、もやもやスッキリ。

 これでタケに執拗にくっつかなくていいんだろうか。


「辻井って何に興味があるんだかわかんないなー」

「それは私のセリフよ」


 陸上が好きだったかなんだか知らないけど、タケのほうが周りに興味がない。

 私に興味を示したのなんてここ最近のくせに。

 タケが周りに好かれないのは、タケが周りを好きじゃないからだ。

 そう思うと、私はなんでタケが好きなんだろう。

 やっぱり気になっていただけなのかな。


「あぁほら、またよろけてる」

「うるさい」


 私は本当にタケが好き?

 錯覚じゃない?


「タケのばか」

「天才と言いたまえ!」

「そんなこと自分でも思ってないくせに」

「え? ……辻井ってばなんか今日変だよ」


 変なのはタケのほうだ。


「タケだってどうせ、賢い私に嫉妬してるんでしょう?」

「本格的に狂ったか、辻井」


 だってみんなそうだ。

 賢い学校に行けば、みんながライバル。

 バカな学校に行けば、みんなが「違う人種」として見る。

 私はやっぱり一人ぼっちなのかな。

 でもバカなふりなんてしたくない。

 タケみたいに自分に嘘をついて生きるなんて嫌。


「友達もいないし、恋人もいないくせに、なんでそんなに明るいわけ?」

「失礼な。これから出来る予定なのだ、これから。あと松ちゃんとか友達はいるから」


 そう、そこもムカつく。

 私にはいないのに、タケには松ちゃんが居た。

 私には友達はいなかったのに。


「タケは……」

「なんだ辻井、私の才能に嫉妬してるのか~?」


 嫉妬?



 そっか、私はタケが羨ましかったんだ。



 全力で泣くことができることも、同じように厄介な目で見られているのに周りに人が居ることも。

 本気で頭が悪いこの子のほうが優れてる、なんて思いたくなかったんだ。

 あぁ、私って本気で——。



「バカだなぁ、辻井は」



 あ、セリフ取られた。


「なにが」

「辻井はまったく激情不器用さんだな、まったく」


 意味がわからない。

 自分で新しい言葉を作るのはいい加減やめてほしい。


「私とあのエロジジ……教授は何の関係もないぞ、うん」

「何の勘違いをしてるの」

「わかってるわかってる。ちゃーんと辻井の邪魔はしないさ……!」


 ……また何か変なこと考えてる。


「辻井! 今日は部屋に帰ったら飲み直そう! そしてあのエロジジイを落とすための作戦を考えるのだ!」

「痛い、離して」

「よいではないかよいではないか! 今夜は無礼講であーる!」


 そっか、こういうところか。



 タケはお人よしだった。



 頼んでもいないのにどんな相手も応援する。……完全に見当違いの優しさだけど。

 相手が自分を嫌っていても、好いていても、全然関係ない。

 だから私はタケが好きなんだ。

 私だけに振り向いてほしいって思う。

 私の足りないところを補って支えて欲しいし、損したり落ち込むタケを慰めたい。


「タケ」

「うん?」


 こういう気持ちってたぶんもう好きとか恋とかじゃなくて……。


「結婚したい」

「辻井、私に言ってどうする」


 どうやら私は、タケを一生の伴侶として欲しいらしい。


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