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RPGG  作者: 針狸


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第6話 ギャルゲ? いいえ、シミュレーション

 おかしい。



 あの日、RPGGは大成功に終わった。



 それにも関わらず、辻井がギャルゲ設定を続行している。

 ふとしたときに目が合ったり、割と座ってる位置が近かったり。

 RPGGはもう終わったのに、そういうとこばっか目につく。

 これはきっと辻井がおかしいのだ。


「……まぁ、辻井もやっと私の素晴らしさに気付いたってところですな」

「そんなバカな」


 さすが私。

 RPGGが成功したことで私の理論の素晴らしさに胸を打たれたってところか。

 うむ、素晴らしい、素晴らしいよRPGG!

 辻井もやっとRPGGの良さがわかってきたようだ。


「さて、回想も終わったところで、RPGGの続きをするかね」

「一人で何を勝手に回想してたのよ」


 辻井ってヤツはまったく。

 私に憧れるのはわかるが人に突っ込み入れるだけでは成長しないのだよ。

 うんうん、私を見習って広い心を持ちたまえ。


「でだ、RPGGだよ」

「また? 一度成功したんだからそのまま綺麗に終わっておきなさいよ」

「いやいや、一回ぽっきりでまぐれだとケチつけられても困るのだよ」


 これも崇高なる実験のためだ。

 時間は惜しいがやらねばならぬのだ!


「で?」

「今回はこれだ!」


 ポスっと辻井の手に実験書を押しつけると、辻井は慣れた動作で実験書をめくった。


「……はぁ、今度はシミュレーション?」

「そう!」

「何をシミュレーションするつもりよ」


 ふう、これだから辻井は。

 それぐらいちゃんと考えているに決まっているじゃないか。

 つまりまぁあれだよ。


「ちょっとトイレ」

「考えてなかったのね」

「まぁ少し待ちたまえよ」


 パタンと扉を閉める。

 いやー、あれだ。気持ちとしてはこうサムシティみたいなのを考えていたんだけど……。

 あれ、人居なくね?

 それじゃあできなくね?

 建物を好き勝手に建てるのも無理だし……。



 あ、そうか。



「お待たせ」

「えらく長いトイレね」

「その辺は詮索しないでくれたまえ」


 決して大をしていたわけではないのである。

 考え中……ではなく、あれだ、心の整理というものだ。


「で、どうするの?」

「育成シミュレーション!」

「は?」


 何かを育てる、というアレですな。

 個人的にはこうハムスター的なものがいれば嬉しかったけど残念ながらそれはない、とすれば。


「何を育てるの?」

「辻井」

「……もう一回聞くけど、何を育てるって?」

「辻井」


 辻井を立派なレディに成長させる。

 うん、これなら可能だ。

 ちょっとアレな感じの育成ゲームになりそうな予感はしなくもないけど。

 でもまぁ辻井だし、大丈夫。


「……私の何を成長させてくれるのかしら」

「そりゃあ、頭脳とか体力とか!」

「頭脳、ねぇ」


 何を隠そう、これでも私はマジッカル頭脳パウワーは得意だったのだ。

 バナナといったらリンゴである。

 DSのゲームでも脳年齢40才と言われたぐらいだからな、それぐらい頭が賢いってことだ。


「DSの脳年齢って若い方がいいってこと知ってる?」

「何言ってるんだ辻井。若いは無知だぞ!」

「……」


 なぜ絶句する。


「それで、何をすればいいのかしら」

「基礎としてはトレーニングだよね」


 DSか?

 いやいや、それじゃ私の出番がない。

 うむ、ここはやはり……。


「筋トレだな!」

「嫌よ」


 ちょっ、即答か!

 いやいや、しかし拒否権は……。


「拒否権はあるわよ? エッグッチっていう生き物を育てるゲームあったでしょう」

「あぁ、卵型の育成ゲーム……」

「あれでも嫌なときは嫌って言ってたと思うわよ?」

「確かに……」


 思えばアレのせいで昔は悔しい思いをしたものだ。

 小学生の頃、あれを買ってもらったのが嬉しくて、いつでもポケットにいれてましたとも。

 ただ、授業中に『お腹減った!』ってアラームが鳴って没収された悲しい記憶が……。

 そして一週間経って返してもらった時にはお墓が立って幽霊ッチになっていたっていうね……。


「まぁ、そんなことは置いといて」

「置いちゃうのね」


 うーむ、嫌だと言うなら仕方ない。

 育成ゲームといえば……。


「ご飯だな」

「おやつじゃない?」


 3時だけど、でも育成ゲームはおやつじゃなくてご飯でいいじゃない。

 骨付き肉が一般的かなぁ。


「ケーキなら食べてあげるけど」

「……辻井よ、なぜ上から目線なんだ」

「そんなに好きじゃないから」


 じゃあ要求するなよ。


「おやつって言ったらケーキじゃない?」

「……キャンディとか?」

「却下」


 美味しいじゃないかキャンディ。

 キャンディという存在は頭が疲れてる時にはエンジェルだぞ。


「じゃあ、クッキー?」

「それならいいけど」


 けど、なんだ。

 じゃあ何なら満足なんだ貴様。

 意外と育成しづらいヤツだな。


「そうね、何がいいかと言われたら……」

「言われたら?」

「……何がいいのかしら」


 おいおいこらこら。


「自分が何が好きかわからないというのかね、辻井よ」

「まぁ、そうなのかしら」


 不思議そうに首をかしげる辻井。

 うーん。


「辻井さあ」

「何よ」

「楽しい?」


 だって自分が何を好きかわからないって、楽しくないんじゃない?


「食べ物に関しては、ってだけでしょ」

「確かに食べるのが楽しくないっていう現代人が急増しているようだね。ゆゆしき問題だ」

「そう?」

「だってそれって幸せ減ってないかね?」


 私なら、毎晩来る幸せが無いってことだもんね。


「……その代わりにもっと違う幸せがあればいいじゃない」

「ほぅ、そういうからには辻井には食べることよりも楽しいものがあるということだな?」


 そう言うと、辻井はまぁねと答えた。

 辻井が楽しい、と思うものって想像がつかないな。

 なんだろう。


「で、楽しいことって?」

「内緒」


 おいおい、それはないだろう、チミ。


「ご主人様に答えたまへ」

「誰がいつ私のご主人様になったのよ」

「マイフェアレデーと呼んでくれても構わないのだよ」

「それ逆でしょう」


 確かに。

 でもとにかく辻井の楽しいことがわからないと、私としてもどうにも動けないぞ。

 むむむ。


「ねー、辻井ー。楽しいことって何ー」

「あなたは?」

「ふん?」

「タケの楽しいことって何」


 私か。

 私は……そうだなぁ。


「やっぱゲームかな」

「現実世界では?」

「う、食べること……」

「他には?」

「えー」


 いやいや、私を追求してどうするんだ。


「今大事なのは辻井が何をお望みかということなんだよ」

「はぁ」

「辻井を立派なレディにするために……はっ! そうか!」

「?」


 辻井が望んでいるものではなく、辻井に足りないものを補充すればいいんじゃないか!

 まったく私は天才だな!

 天才は遅れてやってくるって言うもんね!

 さすが私!



「ズバリ!今辻井に必要なのは楽しいことだ!」



「は?」


 何をしても楽しくなさそうで冷血漢な辻井を変えるにはこれしかないな。

 うむ、辻井の生きがいというものを探してみようじゃないか。

 それに付き合う私は立派なブリーダーといえるだろう。


「よし、まずは辻井にたくさんの経験値を積ませることから始めねば」

「ちょっと一人で話を進めないでくれる?」

「まずは何させようかな。テニスとか!」

「なんでテニス?」

「昔っから熱血スポーツものといえばテニスでしょ!」

「野球じゃない?」


 バレーでも可なのだよ。


「そもそも私は楽しいことが他にあるって言ってるじゃない」

「いや、まだ足りない!」

「はぁ……」


 とにかくなにかしら頑張らせようと奮起すると、意外や意外。

 なんとあの辻井が立ちあがった。

 そうか、辻井もついに私の熱意に打たれてやる気になったんだな!

 コーチである私も嬉しいじゃないか!


「よし、まずは何をやる気だ辻井!」


 お姉さん今ならなんでも手伝っちゃうぞ!



「トイレ」

「よし、手伝ってやろう!」



 辻井よ、なぜ私を殴る。

 そして無言でトイレへ行ってしまうのか。


「ふむ、しかし辻井に楽しいことねぇ」


 あるとは思わなかった。

 失礼な話、私はあの生き物を感情の無い何かだと思っていたのだ。

 いや、これは言いすぎかな。


 笑う、楽しい、面白い。


 この3つとは無縁の生き物だと思っていた。

 ところがどっこい。

 ここ最近の辻井はあのエロ親父に恋をし、梅ちゃんとキャッキャウフフと笑い合い、あまつさえRPGGに付き合ってくれるという大サービス。


 これは一体どうしたことか。


 強いて言うなら、"私に対して"よく怒ることに多少の優越感を抱いていた、ともいえる。

 誰にも興味を持たない辻井が私にだけは怒るのだ。

 そもそもそれがなぜなのか。


「辻井はどちらかというと……」


 気に入らないものは徹底的に無視する。

 そういうタイプ。

 この間のデートでも男の子たちには相槌しかうっていなかった。

 あの顔だからモテるのだが、玉砕した男は数知れず。

 そもそもラブレターで呼び出しても無視するようなヤツだった。


「うん?」


 そこでひとつ、思い当たることがある。

 松ちゃんの存在だ。

 同じ年、同じ学科、院に残っている数少ない友人。

 彼女にだけは辻井も心を許している気がする。


「……今度は何考えてるの」


 おや、考え込んでいるうちに辻井が帰ってきたようだ。

 研究者というのは考え込むと時間を忘れるものだ。

 まったく私ってば研究者の鑑すぎて困ってしまうな!


「辻井は松ちゃんと一緒に居る時はよく笑うよね?」

「友達だもの」


 ふむ。


「そもそも松ちゃんと辻井って、どうして友達なの?」

「友達であることに理由がいる?」

「それはいらないけど……」


 でも辻井がそこまで気を許すことってなかなか無いと思う。

 理由なしに誰かに心を許すようなヤツではない、と思っている。


「そうね、強いて言うなら……」

「強いて言うなら?」

「松ちゃんは賢いから、かしら」


 ……松ちゃんの成績は中の中だけど。


「勉強ができるのと、人間的に賢いのは別よ」

「ふぅん、なら両方賢い私は天に荷物をなんとかだな」

「天は二物を与えず、と言いたいのかしら」


 ニブツ? ニモツでしょ?



 -secret stage-



 今日のタケはやけに私のことを知りたがる。

 タケにここまで興味を示されたのは初めて、な気がする。

 これはこの間のデートが効いてるんだろうか。


「でもそもそも松ちゃんと辻井ってどうやって出会ったんだっけ」


 あなたの紹介でしょ、とは言わない。

 どうせ言ったってタケには思い出せないと思うし。

 高校でタケのことを知って、大学でいざ話しかけた。その後口喧嘩になったけど。

 その数日後にまたタケと話したときに隣に松ちゃんがいたのだ。

 松ちゃんは今もよく相談に乗ってくれる。


「タケは松ちゃんとどう知り合ったのよ」

「中学校で部活が一緒だっただけだよ」


 それも知ってる。

 タケがまともに話をしないから、タケのことを知るには松ちゃんと話すのが一番最適だった。

 その代わり、松ちゃんは私の気持ちを知ってるから、からかわれるんだけど……。

 趣味も合うし、賢いし、松ちゃんはまさに気の合う友人といえる。


「タケってどうして高校では部活を辞めたの?」


 それでも知らないことはいっぱいある。

 松ちゃんもこれは知らない、と言っていた。

 陸上部だったタケが部活を辞めて、松ちゃんも一緒に辞めたとは言っていた。

 でも松ちゃんもタケが部活を辞めた理由は知らないらしい。


「一度『こう!』と進んだら諦めないタイプのくせに」

「諦めたわけじゃないよ」


 タケはぶーと頬を膨らませた。


「陸上は好きだったけどさ、やれない理由があるのだよ。天才ならではの」


 天才ならではってどんな理由だか。

 少なくとも、「好きだったけどさ」では済ませられないほど陸上が好きだったことを私は知っている。



「よし、辻井。今日はこれから二人で楽しいことしようか」



 ……は?

 今度は何をやらかす気?

 ところで「二人で」って言った?

 RPGGの続行か、それともタケの思いつきか。

 どちらにしろ私は付き合うしかないのだけれど。


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