第5話 RPGは諦めた
うむ、遊園地日和である!
「まったく、ダブルデートなんて何考えてるんだか……」
「これもRPGGの一環だよ、辻井君」
「へぇ……それで、今日は何の実験?」
うむ、RPGは諦めた。
最終的にどれも失敗したのだ。
勇者にはなれる器ではなかったし、仲間というのも宿屋にはそうホイホイ泊まれない。
魔王というのも結局主人公が向かってきてくれなければ意味がない。
つまり、RPGは厳しい。
ゲームの王道なので寂しいといえば寂しいが、まぁこれはもっと大掛かりに研究に取り組めるほど偉い人物になってからでも問題はない。なので身近に取り組めそうな課題に取り組むことにした。
「そう!今回はギャルゲーの主人公だ!」
新しく用意した実験書。
「まぁ、RPGGは正直どうでもいいんだけど……」
どうでもいいとか言うな。
泣くぞ、マジで。
「なんでダブルデートなのよ」
これには私の人生もかかっている。
そう、事の発端は数日前。
中本竹実さん、ちょっといいですか——。
声をかけてきたのは年下の男の子。
名前は……正直まだ知らない。
お、俺、一度でいいから中本さんとデートしたいんです——!
顔を赤らめつつも話しかけてきてくれたその姿に少し胸がキュンとした。
あの、だから今度遊園地行きませんか——!
「だから、経緯はこないだ聞いたわよ」
おやまぁ、辻井ったらご機嫌斜め。
「ダブルデートの意味がわかんないっつってんの」
「だって相手がダブルデートがいいって言ったんだもん」
「だもん、じゃないわよ」
同じ年の友人でも連れてきてくださいと言われた。
すでに院生な私の同じ年の友人っていったら他の研究室にいる松ちゃんとこいつぐらいしかいない。
「松ちゃんで良かったじゃない」
「松ちゃんの実験室今忙しいしそんなもんに誘ったら殺されるよ?」
「……まぁ、そうね」
これには辻井も納得。
「梅ちゃんは?」
「同い年じゃないじゃん」
「同い年じゃなくてもいいじゃない」
「だって同い年って念を押されてたしさ」
俺も同じ年の友人を連れてくるので絶対中本さんも同じ年の人連れてきてくださいねーって。
そう言うと、辻井は目をくるりと丸くして、その後大きく溜息を吐いた。
「……知らないわよ、どうなっても」
「あん? なにが?」
「絶対、タケは後でつまらないって言いきるわよ」
そんなバカな。
なんて嫌な予言をするんだこいつってヤツは。
「すいません、お待たせしましたっ」
「待ってないし大丈夫だよ」
おぉおぉ、若い子は可愛いねぇ。
よっしゃ、じゃあお姉さん張り切って遊園地楽しんじゃおうかなっ!
「つまらない」
なんか、すっごいつまらん。
それというのも……。
辻井さん、今度はコーヒーカップ乗りましょう——!
辻井さんはお化け屋敷とか得意なタイプですか——?
両方揃って辻井辻井って……。
これじゃダブルデートというより、辻井佐々と愉快な仲間たちwith中本竹実状態だ。
「ほら、だから言ったでしょ。つまらないわよって」
「……辻井、さては気付いてたな?」
「だってあなたの同じ年の友人なんて限られてるじゃない」
そう、つまりはヤツら、最初から辻井狙いだったのだ。
冷血漢な辻井本人を誘えば断られることがわかっていたから優しい私に目をつけたのだ。
年下の男とはなぜこうも残酷なのか……。
「で、どうするの?」
「どうするって言われてもなぁ……」
RPGGとしてモテる主人公のとる行動を端からやってフラグをゴリゴリ立てていくつもりだったのに。
これじゃRPGGも成り立たない。
……実験失敗以前に実験も始められないんじゃ私にはどうしたって楽しみようもない。
かといえど……。
「帰る?」
「それは、さすがに」
私が帰れば辻井も帰ると言うだろう。
そうなるとあの二人が可哀想というか……。
いや、可哀想なのは利用された私だけれど、まぁ、恋ってそんなもんかな。
私はいつも同じ年の友人に怒られるからなぁ。『あんたは恋心をわかってない!』って。
まぁつまり恋する人間を邪魔しちゃいけないということを懇々と訴えられたことがあるのだ。
そう、あれは高校生のころのこと……。
「じゃあどうするのよ」
せめて思い出話をさせてよ。
人の回想をぶった切るな。
「いいよもう、一人で純粋に遊園地楽しむから」
ふぅとそれだけ言うと、辻井はちょこっと眉を顰めた。
「一人で?」
それ以外ないしねぇ。
現在辻井のためにソフトクリームを買ってこようとしてくれている男子二名。
二人とも二つ注文してどちらも片方は辻井に差し出すんだろう。
「私は後ろをついてってるからさ」
ぼんやりと今後のRPGGについても考えなきゃいけないしなー。
ギャルゲーはモテてる時じゃないとできないってこともわかったし。
「……私、帰ろうかな」
あん?
辻井は普通に楽しめばいいのに。
っていうか貴様が帰ったら私がここに残る意味が一切ない。まったくもってない。
「私はあんな二人のために時間を割くつもりはないわよ」
んー、やっぱ辻井は冷血漢だなぁ。
普通はあんな風に好きだ! って気持ちを振りまかれたら良い気分になるものなのに。
「じゃあなんで来たのさ」
「あなたが呼んだからでしょ」
「つまらないって解ってるなら最初から帰ればいいのに」
「……万が一ってこともあったから」
万が一……ってなんだ。
何が万が一起こるかもなんだ。
「んー、じゃあ辻井はどうやったら楽しいのさ」
「どうやったらって……」
辻井は少し顎に手を当てて考えると、コクリと一つ頷いた。
「タケ、この後のアトラクション全部私に付き合って」
うん?
「全部タケが隣に居てくれるなら、帰らない」
なんだそりゃ。
何も嫌いなヤツの隣になんて居なくていいのに。
冷血漢だなぁと思うけどこいつはたまに底なしにお人よしなのかもしれないとも思う。
だから教授ともうまくいかないんじゃないかなー。
もっと普段私に暴力振るうみたいにワガママになってみればいいのに。
「まぁ辻井がそれでいいならいいけど」
「……じゃあ、今日一日は付き合ってあげる」
よくわからないなぁ。
しかし私がつまらんままなんだけど……。
あ、そうだ。どうせなら条件つけよう。
「じゃあ辻井、この後全部隣に居るからさ、そのかわり……」
「?」
時間は有意義に使わねば。
「RPGG成立させるために今日一日私に好き好き光線放っといて」
これなら私も「なんだかなー」という気分じゃなくいられる……はず。
辻井に好かれるというのはなんだかあり得ない話だけどRPGGだと思えば悪くない、うむ。
そして辻井が私を好きだという設定でフラグを立てられればRPGG成立としよう。
「す、好き好き光線……?」
「うん、常に私を好きって思えばそれは自ずと私に伝わるはずだ!」
「それは厳しいんじゃないかしら」
貴様、そんなに私が嫌いか。
その視線を感じたのか、「違うわよ」と辻井は唸った。
「好きだって思ってるからってそれが伝わるとは限らないってこと」
あー、そっか。
それが伝わってたら辻井も教授と苦労しないもんね。
いやしかしそれで投げ出したら教授に伝わらないぞ、辻井!
「何事も挑戦あるのみ!」
「えー……」
「よし、辻井。私のことを好きだと思ってみろ!」
「わ、わかったわよ……」
辻井は少しだけ顔を赤くすると、私を見つめた。
……なんだ、上手いじゃないか。ちょっと可愛いとか思ってしまった自分を殴りたいほどに。
演技派だな、辻井。
「辻井、その調子その調子」
「え……」
ちょっと可愛いとか思ったけど思っちゃいけない、ゲームだゲーム。
主人公たるもの、ヒロインより先にオチてはならんのだ。
ヒロインが先に主人公を好きじゃないといけないんだから。
その辺、辻井は格好の標的だ。
私を好きになることなく私をオトすという極悪非道なマネができる。
要はすべて演技だとわかるからこそ私も好き勝手できるのだ!
ま、私も辻井ごときにオトされるはずないけどね。
「お待たせしました!」
「ソフトクリーム買ってきましたよ!」
「あぁ、おかえり」
遅かったねぇ。
男の子二人はソフトクリームを持って駆け寄ってくると、それぞれソフトクリームを差し出してきた。
どうやらどっちが辻井に渡すかを改めてじゃんけんして決めてきていたようだ。
そりゃ遅くもなるか。
「じゃ、次どこ行きましょうか」
「辻井さん、あそこにミラーハウスとか……」
口々に辻井に話しかける男二人。
辻井はさっきよりはまだ普通に二人に喋ってあげている。
トン
辻井と肩がぶつかったから謝ろうと思ったらそのままもっとくっついてきた。
目線が合うと、少しだけ目を伏せた。
あ、なんだろう、今ちょっとキュンってしたかも。
……演技派だな、辻井。
これはきっと辻井に問題があるんじゃなくてやっぱりあのエロじじいに問題があるに違いない。
私はぼんやりとそんなことを考えながらなるべく辻井が二人にとられないように隣に居ることに専念した。
今日一日、頑張ったなぁ……。
研究室でも基本空気だけど、ここまで空気になるとさすがにしんどいものが……。
こないだ辻井と教授の逢い引きについてったときと違ってお酒がないのも悲しい。
あれがあればまだ乗り切れるのに。
「大丈夫?」
観覧車の中で、向いに座っている辻井が少し屈んで私の顔を覗き見る。
いやしかし今日の辻井はなかなか凄かった。
ちょっとした瞬間に目を合わせてはほんの少し眉を下げて目を逸らす。
これは、ちょっと、本気で可愛いと思ってしまった。
RPGGのためしょうがなくとはいえ、これはちょっと悪くないぞ。
「んん、頑張った、頑張ったね辻井!」
「なんでそこで私を褒めるのよ……」
「いやー、だって辻井の演技力半端なかった」
そう言うと、辻井は眉を諌めて私を怪訝な目で見た。
「私、特に演技とかしていたつもりはないけど……」
「え、だって好き好き光線を放ってって言ったらほんとにやってたじゃんか」
「やってないけど……」
あれ。
「それ、あなたがそう感じただけでしょう」
あれー。
「いやいや、何をおっしゃる。目を合わせたりとか、肩くっつけたりとか……」
「あなたが今まで意識してなかっただけで、私はいつもそういうことはあなたにしてると思うけど……?」
む?
じゃああれか、今日感じたのは私の妄想だったってか。
「なんだ、今日一日私が楽しく感じたのも錯覚かぁ」
「楽しかったの?」
「結構」
男二人が「好きだ!」って思ってる人間が私を「好きだ!」って思ってるなんて凄い優越感。
ちょっと良い気分だったのに。
ちっ、短い夢だった……。
「あなた、私のこと嫌いなんじゃないの?」
「辻井が私を嫌いだから私は辻井が嫌いなのだ」
「じゃ、私があなたを好きだったら?」
「好きなんじゃないの?」
知らないよそんなの。
辻井が私を好きだったことなんてないんだから知るわけがないじゃないか。
「そっか。なら、タケは私のことが好き、ってことね」
な、なぜそうなる!
違う! ちょっと顔は綺麗だなと思ってるけどなぜそうなるのか!
辻井はゆっくりと観覧車の籠を揺らさないように私の隣に移動した。
何をする気だ! ドキドキしてくるじゃないか!
っていうか辻井は私を嫌いなんだからそういう結論にはならないでしょうが!
「……だ、大体、辻井はどうだったのさ」
「私?」
「お化け屋敷行ったってジェットコースター乗ったって普通そうな顔してさっ」
「そう、ね……。特に何も感じてなかったかな。特に騒いで楽しい面子でもないから」
確かに。
辻井にとっちゃ嫌いな私と知らない男二人と一緒で何が楽しいって話か。
……ふむ。
「辻井ってさ、他の誰かと遊園地って行ったことあんの?」
「んー、そうね。そういえば……高校の修学旅行ぐらいかしら」
あぁ、そういえば。
あの時は楽しかったなー。
松ちゃんと絶叫系は制覇したっけ。
そうやって思い出してると、辻井はクスリと笑った。
「あなた、やっぱり今日は楽しくなかったんじゃない?」
「なんでさ」
「絶叫系はあまり乗らなかったもの」
確かに。
……って、なんで辻井は私が絶叫系を好きなこと知ってるわけ?
高校の時はお互い存在ぐらいしか知らなかったのに……。
松ちゃんがそう言ったのかな。
辻井は松ちゃんには優しいしなー。
「じゃ、近々もっと知ってる人だけ誘って絶叫系だけ乗りにこよう」
「知ってる人?」
知ってる人。
そうだな、やっぱりこういうのは……。
「同級生かな」
「へぇ、同級生で?」
「女の子がいいな。気を使わなくていいし」
「知り合いで同級生で女の子で……」
ん?
そうなると松ちゃんと……。
「3人で、また来る?」
隣を見ると、目線が合う。
やっぱり辻井は今日は演技派だ。
あ、待てよ? 演技?
おぉ!
「辻井!」
「なに?」
「RPGG成立!」
ひゃっほう!フラグたった!
-secret stage-
RPGG……?
「……タケ?」
「うん、ギャルゲは成立した! これも辻井の演技の賜物ですな」
だから、演技してないって言ったでしょうが。
こっちが下手に出てれば調子にのって、もう。
「……あなた本当にギャルゲーとかやってるの?」
「やってるからこういう実験してるんだけど?」
そうよね……。
でもそれなら気付きなさいよ、直前に流れてた空気に。
どう考えても良い雰囲気だったでしょ。
だからKYなんてしょっちゅう言われるのよ。
……楽しかったとか、意識したとか、私の頭の中は「脈ありかも」ってことでいっぱいだったのに。




