第4話 ボーナスステージ1
朝起きたら、やけに淡麗な美人さんの顔が目の前にあった。
「おはよう」
声をかけられるけどぼんやりした頭は働かない。
おかしい、私は一人暮らしだったはず。
そうか幻影だな。
ペタペタと触ると感触がある。
どういうことだ。
「……寝ボケてるの?」
とりあえず素直にコクリと頷くと、柔らかく笑う声が聞こえた。
表情も優しくて、可愛い。
「そ、じゃ、二度寝しちゃう? 今日は休日だから好きなだけゆっくりしていいと思うわよ」
おぉ、そりゃすばらしい……。
二度寝っていいよね。
布団がいつもより気持ちよく思える。
顔から手を離してぬくぬくと布団に潜って……みたところで頭が覚醒してきた。
「辻井」
「なに?」
「なぜ私は布団にいる?」
「寝てたからでしょ」
布団からこっそりと顔を出すと、さっきのままの淡麗な顔がいつもの表情に戻っている。
寝ぼけってすげぇ。
なぜこいつの顔が優しそうで可愛く見えたのか。
今の私には理解できない。
「貴様、謀ったな」
「どれのこと?」
どれって言うほどいっぱい罠にハメられていたのか私は。
思いだしてきた。
RPGGの実験としてこいつの部屋に泊まりこんで、寝ない予定だったのだ。
なのにこいつときたら「これからビデオ見るから」といって録画していたらしい映画を見出し、まぁどうせなら一緒に、と見た辺りで記憶が飛んでる。
映画の内容がベッタベタの恋愛物だったのだ。
「映画見ながら寝るなんてデリカシーがないわよね」
「リア充に興味なんてない!」
「……ダメだわこの子」
うぬぬ……はっ、しまった。
よくよく考えたらRPGGのために泊まりにきたのに最終的に倒されてないよ!?
ある意味映画で倒されたというようなものだけどいやいやいや。
「RPGGは失敗?」
「いや、リミットを延ばす!」
「はぁ?」
「今日も泊まる!」
「……いいけど」
今日の終わりとすればいい。
そもそもRPGが一日で終わるはずがない。そうに違いない。
二日かかるゲームだったと思えばいいのだ。
「とりあえずシャワーでも浴びたら?」
「あ、じゃあお言葉に甘えて……」
そう言って起き上がろうとして……、ビビッた。
なんで下着しか着けてないんだろう……?
「辻井」
「なに?」
「私に何をした」
「だからどれのことよ」
だから貴様は私をどれだけの罠に……まぁいい。
問題は私が服を着ていないということだ。
ここここれはまさか、だ、だだだ大事ななにかを失ってぇええええ。
「辻井」
「だから何よ」
「私の処女膜を返せ」
「はぁ!?」
くっ、まさかこんな形で消えるとは……。
しかも記憶無いし……。
だから辻井の部屋に泊まるのは嫌だったんだ……。
まさか憎悪だけでここまでされるなんて……。
「もうお嫁にいけない」
「な、何の話よ!」
「そうかぁ……大人の階段登っちゃった……」
「だから人の話を聞きなさいよ!」
うぅ……大事に守ってきた貞操なのになぁ……。
ちゅーすらしたことないのに……。
「布団汚したくないから脱がしただけよ!」
「ほんとにぃ?」
「ほんと! その証拠に下着までは脱がしてないでしょう!?」
まぁ、確かに。
辻井も下着だし。
「……辻井」
「今度は何?」
「なんで辻井まで下着なの?」
「え」
辻井は少しだけ顔を赤くすると、布団をずりあげて体を隠した。
「だ、だって、タケを脱がせておいて、自分だけパジャマってのも……」
「別に気にしないのに」
「それは、まぁ、そうかもしれないけど」
なぜ言いよどむ。
怪しい。
「ほんとに何もしてないの?」
「してないわよ。あなたが考えてるようなことは」
「……うーん、なら、いっか」
シャワー浴びよう。
-bonus stage-
タッタカターっと下着のままタケはシャワー室へ歩いていった。
私はというとなんだか動けずにいる。
「確かに、タケが想像していたようなことはしてないんだけど……」
軽くは、触った。
だって、無防備すぎる。
寝顔も写メで撮ったし、お腹、とかも、触ってみた。
な、撫でる程度だけど……。
「私、変態なのかしら……」
少しへこむ。
あと、寝込みを襲ったようなものだけど——。
キスもしてしまった。
これは謝って済む問題じゃないけど、本人が気付いてないならノーカウント……にならないかしら。
タケが悪いんだもの。
人の部屋に泊まりに来て、恋愛映画を見てただけで寝ちゃって。
しかも映画は結構良いシーン。
流されちゃってもしょうがないと思う。
軽く、触れるだけ。
事故のようなもの。
「辻井ー!」
ビクリと肩が揺れる。
お風呂場から呼んでる。
近くまで行って声をかけることにした。
「なに?」
「着替えください」
「あぁ、はいはい」
バスタオルとかは自分で出したらしい。
やっぱりそういうところはデリカシーがない。
「ここに置いとくわよ」
「おー」
チャプチャプとお湯で遊ぶ音がする。
シャワーって言ったのにお湯張っちゃったのね……。
まぁ、いっか。ついでだから私も後で入ろう。
お風呂からあがると、タケはまったりとくつろいでいた。
「おっすー」
「どこから出してきたのその紅茶」
「戸棚にあった」
……高いの使ってないでしょうね。
私は戸棚をあけると、一安心した。
「一番高そうなヤツ選んでやったさ!」
残念だけどそれは一番安いヤツよ、タケ。
勝手に飲まれたら困るからそういうことにしといてあげよう。
「それで、何やってるの?」
「DVDの物色。エロいやつとかないの?」
ないわよ。
あるわけないでしょうが。
「んー、恋愛物ばっか」
「いいでしょ。あなたの部屋だってそういうゲームばっかりだったじゃない」
「二次元と三次元じゃ違うのだバカモノ」
アニメ映画だったらよかったのかしら……。
「辻井」
「なによ」
「超暇」
暇つぶし持ってきたんじゃないの?
と聞けば、「もうクリアしちゃった」とDSをひらつかせた。
1時間程度で終わるとかもうちょっと考えてゲーム選んできなさいよ。
「ところで辻井」
「今度はなに?」
「今日の昼ごはんは?」
キラキラと目を輝かせてこっちを見ないで。
……朝昼晩とご飯タカられるのかしら。
まぁ、いっか。
餌付けだと思おう。
「まずは朝ごはんでしょ」
「パン? 米?」
「パン」
「褒めてつかわす」
なにそれ。
洋食派?
「米も美味しいんだけど朝からアレ食うと時間かかるんだよね」
そういうとこだけ研究者っぽいのね。
「辻井っ辻井っ」
「……なに」
「今日の予定は?」
暇なのね。
んー、私は特にないけど。
強いて言うなら午前中は洗濯掃除かしら。
そう伝えると、「昼からは?」と促した。
「昼からは何もないわよ」
「じゃ、何して遊ぶ?」
勉学に勤しみなさい。
そう伝えると、ぶーと頬をふくらました。
「いいじゃんか、たまには遊ぼうよ」
「大体、遊ぶって言っても何する気よ」
「え? あ、うーん」
タケは少し頭を悩ませると、ブツブツ喋り出した。
「……ゲームはないし……映画は興味ないし……」
大体が自分基準なのどうにかならないかしら。
「外は? 買い物とか……」
「つまらん」
あなたそれでも女子?
「大体、インドア派なのだよ、私は」
「そうでしょうね」
引き籠りゲームオタクだものね。
もう突っ込みたくもないわよ。
「そうだ、辻井」
「ん?」
「TUTUYAに行こう」
「レンタルビデオ?」
「私好みかつ辻井好みの映画を選出する!」
それたぶん結構簡単だと思うけど。
アニメの恋愛物選べばいいだけだもの。
「で、一日中ソファでそれ見ながらゴロゴロする!」
「……二人で?」
「おう!」
それって……ちょっと……。
恋人の休日みたい……。
「まぁ、それなら、いい、かな」
「そうだろそうだろ」
少しだけ頬が赤くなったのを感じながら承諾する。
これは思いがけず凄い結果になったかも。
ソファも割と小さいし、密着せざるを得ないし……。
洗濯と掃除、早めにしよう。早く終わらせよう。
彼女の気が変わらないうちに。




