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RPGG  作者: 針狸


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第2話 今日はたぶん仲間A

 こないだはチャレンジしたものが悪かった。

 そう、きっと私は主人公の器じゃなかったんだ。

 RPGGを成功させるには何も主人公じゃなくてもいい。


「タケ、おい、タケ」


 そう、つまりは他の役で成立させればいいのだ。


「なんすか教授」

「なんすかじゃねーよ。お前は何してんだ」


 何してると言われても……。


「無駄ですよ教授。この子バカですから」


 失礼な。

 コピー機をいじりながら今日も辻井は私をバカにする。

 こないだのは本気でキレかけたがまぁ私も大人だ。

 目を瞑ることにした。

 なんだかんだで利用価値のあるヤツなのだ。

 私の次に賢い人間であるのは認めているのだ!


「俺はどうして統一模試で100位以内に入ってる佐々と学校でも最下層を争うタケが同じ研究室にいるのかが不思議だよ」

「先生、そんなの今更ですよ」


 なんだ失礼なヤツらだな。

 辻井佐々は後ろを振り向いて呆れた顔で私を見た。


「で、今日は何なの?」

「うむ、よくぞ聞いた」


 今日のRPGGはこれだ!

 私はまた徹夜で作った実験書を辻井に見せた。



「今日は、……仲間なわけね」



 そういうことだ。


「それで、どうして私の後ろをずーっとくっついてるわけ?」


 だから実験書を読めっつってんだろー。

 ぐいぐいと実験書を薦めると、辻井はまったくもうと言いながら実験書を受け取った。


「今回は見た限り喋れるみたいだけど……」

「うん、仲間は別に喋らないわけじゃないからね。むしろ主人公の代わりにガンガン喋りまくるのが仲間」

「あ、そう。じゃあよろしく」


 はぁ?

 辻井は私の手に実験書を返すと、またコピー機をいじり始めた。


「仲間は主人公の代わりに喋るんでしょ。教授が何か聞きたそうにしてるから実験書の内容を教授と私に向けて喋ってくれる?」

「なんで私が辻井のために……」

「私の後ろについきてるってことは私が主人公なんじゃないの?」


 む、確かに。

 こほん、なら仕方あるまい。


「今日は主人公を決めてその後ろにずっとついていく。それが仲間!」


 ……うん、素晴らしい鉄則だ。


「じゃあ今回は私の後ろから離れれば失敗なわけね。で、なんで私が主人公なのよ」

「だって一番説明とかしなくてもいいから楽だし」

「……あ、そう」


 辻井は不機嫌そうにコピー機から印刷したものをとると、荒々しくコンピュータに向かった。

 私はその後をさささとついていく。


「……」

「……」

「なんか、異様だぞお前ら」


 そうだろうね。

 しかしこれも実験のためだしょうがない。


「教授も仲間になりたいですか?」

「遠慮しておく」


 3人いればもっと仲間らしくて楽しそうだったのに。

 残念。


 ……しかし暇だなぁ、これ。


 辻井は黙々とコンピュータに情報を打ちこんでは論文を書き込んでいる。

 たまにコピー機へ向かうたびに後ろをついて歩くだけで本当に暇だ。


「ねーねー、辻井ー」

「……」

「何の論文まとめてんの?」

「……」


 無視かよ!


「辻井ってば!」


 辻井は無言で溜息だけをつくと、ポスポスと私の手にある実験書を叩いた。

 む?


「実験書がどうしたのさ」


 やっぱり何も言わない。

 むぅ、辻井のくせに生意気だのう。


「その実験書見せてみろよ」


 教授の手に実験書が渡った。

 ふむ、と言いながら実験書を一通りめくると、ははぁと頷いた。


「佐々」


 教授は馴れ馴れしく辻井に話しかけると、ポンと肩に手を置いた。


「今日はいい天気だなぁ。佐々もそう思わないか?」

「はい」


 む、なんだなんだ。

 おもむろに仲良くしだして……。


「今日一緒に飯食いに行かないか?」

「はい」


 ちょっとだけ、こないだ詰め寄られた時のことを思い出した。

 い、いや、あれはムカつく話だったんだから忘れるべきだ。

 ぶんぶんと首を振る。


「なにさ辻井、私とは喋んないくせにどうして教授とは喋るのさ」


 辻井は少しだけタイピングの手を止めて、でもやっぱり喋らなかった。

 なんか、ムカッとしたぞ今の。

 そこへ教授がさらに私を追いこんできた。


「佐々も意地悪だなぁ。そんなにタケが嫌いか?」

「はい」


 あ、なんだなんだ!

 嫌いだから喋んないのか!?

 いいよ、だったらこっちから願い下げだもんね!


「むぅ、わかったよ! 辻井から離れればいいんでしょもう!」


 ムカッときて辻井の後ろから離れて自分の机にドカっと座る。

 あー、もうこないだのことまで思い出してきた!

 人の純情踏みにじりやがって。

 す、すすす、好きとかあれは本当に冗談でやっぱり辻井は私のことが嫌いなんだ。

 あぁもうイライラする!


「佐々、これは実験失敗だな?」

「はい」


 ……ん?

 あ、あぁぁぁあああああああ!!!!!!!!


「しまったぁー! イライラするあまり自分から離れてしまったぁ!!」

「タケはバカだなー相変わらず」


 ずりずりと椅子から転げ落ちる。

 くわぁ、悔しい。

 っていうかほんとによりイライラする。


「うー、くそー、教授のバカーアホー」

「おい、なんで俺なんだよ」

「いっつも辻井の味方ばっかして、贔屓だ贔屓ー!」


 ぐわーっと怒鳴ると、教授は鼻で笑った。


「当たり前だろ。お前と違って佐々はちゃんとやることやるし賢いし、美人なんだよ」

「一番最後のだけが本音だろこのエロじじい!」

「エロじじいっ!? じじいじゃねぇ! 俺はまだ34だ!」

「34なんておっさんじゃんか!」

「バカやろ! 24のお前らとそんなかわんねぇじゃねーか!」


 学生と社会人じゃ全然かわるんだよガルルルルルル。

 っつーかエロじじいのエロの部分は否定しないのかよっ!


「っていうか! お前もお前だー!」


 ずびしっと辻井を指さす。

 辻井は知らん顔でコンピュータ画面を見ている。


「エロじじいにだけ良い顔しやがってー!」

「……」

「そのうえ私だけ無視とかどういうことだー!」


 ってまた無視かよ!

 もういいよ!

 私はくるりと自分のコンピュータに向かった。

 いいんだっ、この研究室で私を理解してくれるのは4回生の梅ちゃんだけだ!


「あーあー、すねちまいやがった」


 誰のせいだよ!


「佐々、悪いが俺は教職会議に行ってくる。またすぐ戻ってくるからな。いいな?」

「はい」


 行っちゃえ行っちゃえ。

 二人がイチャイチャしてんのなんて見たくないやい。

 ちぇっ、エロじじいと性悪狐ならお似合いだよまったく。

 あー、梅ちゃん早く授業終わらせて来てくんないかなー。

 それまで私も他の実験の準備でもしよーっと。

 ダカダカとタイピングを始めると、後ろからガタンという音がした。

 ……む、気にならないぞ。

 私だって無視してやる。


「タケ」


 なんだよもう。

 今更声かけたって遅いんだから。


「はぁ……」


 これみよがしに溜息なんか吐いて……。

 いいよいいよ、そんなに私が嫌いならお好きにしてくださいよーだ。

 今この空間に私に味方なんていないさっ。


「……ねぇ、タケ」


 うるさいなもー。

 無視無視。

 そうやってしばらく無視していると、急に後ろからダンッと机に実験書が叩きつけられた。

 お、おぉう?

 思わず肩がビクンってなった。



「言いだしっぺは自分でしょう」



 え、何、怒ってんの?

 それだけ言うと辻井は自分の机に戻って行った。

 な、なんだよっ、怖くなんてないよ!

 ちょっとびっくりしただけだもんね。


「ど、どういうことさ?」


 あれ、声ちょっと上擦っちゃった。


「自分で調べれば」


 うわ、本格的に怒ってる。

 まったくもう、短気なヤツはこれだから……。

 私はべらべらと実験書を見ると、あるページだけドッグイヤーにされてることに気付いた。

 このページは確か……。




 <主人公は、「はい」か「いいえ」しか喋れないものとする>




 ……あぁ!

 そっか、今回私が仲間で、その前に居た人物は主人公で……。


「辻井、もしかしてしっかりこれに乗っ取ってやってたわけ?」


 辻井は振り向きもしないでまた一つ溜息を吐いた。

 そういうことだったのかぁ! なるほど優しいじゃん!


 ……ってちょっと待てぇい!


 嫌いだって言われておいて『なるほど優しいじゃん』で済まされるかぁ!

 危うくニッコリしちゃうところだったじゃんか!

 違う! 問題はこいつが私を嫌いだというところにある!


「喋らなかったことには納得したよ! だがしかしそれで私の機嫌がとれたと思うな!」


 そうやって憤ると、辻井はちょこっと眉を顰めた。


「なによ、せっかく実験に乗ってあげてたのにまだ不満があるわけ?」

「不満も何も!」


 へっ、嫌いだって言ったヤツなんて私も嫌いだっ。

 私はふいっとコンピュータに向きなおった。

 もう嫌だ! 梅ちゃーん! 早く授業終わらせて来てー!


「ちょっとタケ、無視してたことは解決したじゃない。怒られる意味がわからないんだけど?」


 意味がわからないんだけど? って言われてる私の方が意味がわからんわ!

 嫌いなら嫌いでいいじゃんか。

 だったら構わなければいいのに。


「ふんだ、辻井なんてさっさとエロじじいと結婚でもしてやりゃいいんだ」


 自分で口に出した言葉はなんだか予想以上に重かった。

 別に独りでも寂しくないもんね。

 辻井もエロじじいも大っ嫌——。


 ガタンッ 


 んげ?

 背中が痛い。

 椅子の上に座ってたはずなのになぜか私は床に寝ころんでいる。

 その上には見下ろしてくる辻井。


「ちょっ、何すんのさ!」


 さすがにこれにはキレた。

 なんで散々嫌な気分にさせられて私が床に投げ出されなきゃいけないんだ!

 立ち上がって抗議しようとしたら、上から乗られた。

 うわ、ヤバっ、マウントポジションじゃないのこれ。


 ……よし、ここは下手に出てみよう。


 腹は立ったがここでボカスカにされるのはちょっとキツい。

 私は頭脳派だから筋力はないんだよ。

 逆襲は後で大丈夫、今は冷静に冷静に……。


「あのー、辻井さん? 私はなんで椅子から蹴落とされたんですかね?」


 辻井の顔は大変険しく、この後殴られる気しかしない。

 あー、遺書でもなんでも書いとけばよかったー。

 まさか24でこの世を去るとは……私もついてないなー。


「……んで」

「ん?な、何?」


 ボソリと低く喋られて背筋が震える。

 意を決して聞き返してみれば、辻井の唇がワナワナと震えている。

 おぉぉ、そこまで怒るようなことしましたっけー!?

 ぎゅっと目を瞑って備えると、またボソリと何か喋り出した。



「……なんで、そんなこと言われなきゃいけないのよ……」



 そんなこと、……どれだ!?

 どれが辻井の琴線に触れた!?

 蹴られる直前のセリフから考えて……あ、あぁ! そういうことか!


「え、エロじじいじゃないよね! うん、職も安定しててイケメンだよね! うんうん、わ、悪い人じゃないよ! うん!」


 教授を悪く言われたから怒ったんだな!

 そうだよね、仮にも尊敬してるから院生になってまでここにいるんだよねたぶん!

 私は完全に他の研究室に行くためのプロセスだけど……。

 辻井は他のもっとすごい大学院からもお呼びがかかってたみたいだし、それでもここに居るんだもんね!

 いや、人の大事なものは貶しちゃダメだよね、ほんと。


「ごめんごめん、今度から気をつけ……」

「っ、なにその言い方。本気で私が教授と結婚すればいいと思ってるわけ?」


 ぎゃー! もっと怒ったー!

 マウントポジションをとっていた体制から私の顔に近づいてその怒った顔がよく見える。

 おぉ、美人は怒ると怖いっていうけどこりゃまた怖い……。


「い、いや、なんていうの? す、好きにしたらいいんじゃないかな?」


 そう、それがベストだ!

 辻井が教授とどうなろうが私には関係ないしどうだっていいし!

 辻井だってきっと私に干渉されたって楽しくないだろうしっ!

 これでもう怒られ……。



「もう、いい」



 辻井はバッと立ち上がると、すぐに研究室を出て行こうとした。


「え、えっ、ちょっと待ってよ」


 思わず引きとめてしまった。

 別に引きとめなくても良かったかもしれないけどなんとなくこういうときって引きとめるよね!

 それでも構わず出て行こうとした辻井の腕を掴んで止める。


「離してよ」

「いや、そうは言っても……」


 なんかこのまま解放したら私が悪者みたいじゃんか!

 そうはいかない。

 悲劇のヒロインぶらせてたまるもんか!

 大体、嫌いって言われて傷ついたのは私のほうなのに! うわぁん!


「お願いだから、離して……っ」


 辻井は顔を伏せたけど、手を強引に振り払うことはしなかった。

 なにさ、なんで泣くのさ。

 もしかして教授と本当はうまくいってないのかな。

 だから教授との話をされて嫌だったのかな。

 泣かれちゃったら、どうしたらいいのかわかんないよ。


「つ、辻井?」

「……っ」


 辻井は声も無く泣いてる。

 うー、なんでだよう。

 教授、どう見たって辻井のこと好きじゃんか。

 しかも教授フリーでしょ? 何の問題があんの?

 両親から反対でもされてるの?


「えっと……」


 辻井、こんなに弱々しかったっけ。

 泣くとかキャラじゃないじゃんか。

 ひたすら怒るならわかるよ、なんで泣くの。

 なんだもう、教授に腹が立ってきた。

 辻井のこと好きなんじゃないの? なんで泣いてる好きな子放っといて居ないんだよ。

 教授のバカ! エロじじい!


 はっ、そうだ!


 エロじじいのことだから昔の彼女とかいてそれと揉めてんのかもしんない!

 そうだ、それが一番有り得るぞ!

 む、そう思ったら余計あの教授に腹が立ってきた……!


「辻井!」


 ガバリと辻井を抱きしめてやると、よしよしと背中を撫でてやる。


「えっ!?ちょ、何?」



「何も言うない! 心配もいらない!」



「は、はぁ?」

「私に任せなさい!」


 さっきよりも強く抱きしめてやると、うんうんと頷く。


「何を任される気よあなたって人は! っていうか……い、痛いから……」

「お姉さんが全部解決してやるからなー!」

「お姉さんってあなた私より誕生日遅いでしょ? お、お願いだから……離して!」


 意地らしいヤツめ!

 好きな男を想って涙を流すなんて女の子らしい部分もあったんだね……!

 今度から見解を改めるよ!


「ねぇっ離してってば! こ、こんなことされたら、私っ……」

「絶対幸せにしてあげるからね!」

「し、幸せ!? ねぇ本当に何の話してるの!? やめてってば、本気になっちゃうから……」

「なればいいよ本気に! 見てて、私があのエロじじい更正させてみせる!」

「なんでそこで話が教授の更正になるのよ!」


 ドンっと体を押されて、また背中が地面につく。

 ……む、恥ずかしがりんごさんだな辻井め。

 ふふふ、任せなさい。私はこう見えても頭だけはいいのだ。


「辻井、大船に乗った気持ちで任せなさい!」

「だから何を任される気なのよ……。すでに泥船に乗って暗礁に乗り上げてる気分だわ」


 辻井は襟元を正すと、ゆっくり私に手を差し出した。


「私のことはまぁ、置いといて。それで? あなたは結局何に怒ってたの?」



 あ。



 そうだ、そういえばそうだった。

 なぜ嫌われてる私が辻井を幸せになんかしてやらなければいけないのか。

 私は辻井の手は取らずに立ち上がってパスパスと体を叩いて埃を落とした。


「前言撤回」

「は?」

「おっけぇ、私は辻井を不幸にする」

「はぁ!?」


 なに、実験は失敗かと思われたが問題はない。

 RPGの仲間っていうのは一度離れてもまた戻ってこれることもある。

 つまり一度離れたぐらいで実験不成立にはならないはずだ。

 私はまた辻井の後ろにピッタリと張り付いた。


「実験は不成立でしょ? まだやるの?」

「どうぞ私のことはお気になさらず」

「……まぁ、いいけど」


 ふふふ、このまま後ろに張り付いて貴様らの逢い引きにすら付いていってやるわぁ……!

 邪魔者扱いは正直しんどいがこれも辻井とエロじじいを不幸にするため……。

 私にかかれば二人を不幸にするくらいわけないさ……!

 ふふ、ふはは、ふははははははは!!!!!



 -secret stage-



 タケは私の後ろに張り付くと、なぜか一人で大笑いし始めた。

 ちょっと怖い。


「あぁ、もう」


 だって、あんなに強く抱きしめられたら驚くじゃない。

 なんだかうまくやられたみたいで悔しい。

 ああいうズルいことするから、嫌いなのよ。

 平然を装わなきゃ。


「ねぇ、タケは結局なんで怒ってたわけ?」

「へっ! 自分の胸に聞いてみろってんだい!」


 なんで江戸ッ子調なの。

 自分の胸に手を当てても、すごく速い音しか聞こえない。

 顔、もう赤くない?

 もうほんとヤダ恥ずかしい大嫌い。

 結局私は落ち着くまで、後ろに張り付いてるタケから顔を背けてまたコンピュータに向かうしかなかった。

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