第12話 ササタケ危機一発
準備は完璧だ。
まるで黒ひげ危機一髪のようなこの緊張感。
ふふ、ふふふ、地雷を踏みに行くこのスリル、たまらないさ……!
「はーっはっはっ!天才というものは誰にも止められないものだぁ!」
「日本語で喋って」
待ちに待ったクリスマスイブ!
辻井のために散々ゲームをした日々から解放される!
別に自分がしたくてしていたわけではない。
そう、あくまで辻井のためである。
きっと恐らく辻井のためで……ある、はず。
「ふぅ、やっとクリスマス、かぁ」
「やー、数か月後に控える研究発表のことを考えると頭が痛い」
「それは言わないで」
ふむ、さすがの勉強大好き辻井もこればっかりは辛いようだ。
「ま、今日はクリスマス。楽しく行こう!」
「どんぞこに突き落したのはあなたでしょうが」
「飲むぞー!」
「はいはい」
二人で飲み屋ののれんをくぐるとそこはすでに出来上がっている状態だった。
「佐々さんおっそーい!」
「梅ちゃんすでにべろべろね」
「梅ちゃん、私の名も呼んで!」
「はいはい、タケさんはあっちで一人で飲んでください」
「ひどい!」
拗ねるぞ!
言われた通り端っこに行くと、とりあえずビールを頼む。
今日はプレゼミ生やらなんやらとにかくみんな呼んでいるから人が多い。
中にはOBや、私たちの同期だったヤツらまで見かける。
「おっす、タケ!」
「げ、笹丘」
妙に人懐っこい笑みを浮かべた男は私を見つけるとニヤニヤと隣に座ってきた。
うぅ、同期だけどこいつはちょっと苦手なんだよなぁ。
「相変わらず佐々は大人気だな」
「あー、そのようだね」
言われて真ん中の方を見ると、辻井が教授の隣でお酌をしていた。
今日もあまり飲まないつもりなのだろう。
辻井の前にはウーロン茶が用意されている。
そして何人かは教授を恨めしそうな目で見ている。
「それに比べてタケはやっぱり枯れてんなー」
「うっせぇ、ヒゲメガネ」
「おぅ、ダンディだろ?」
「童顔なことを隠したいだけじゃないか」
笹丘はニッと笑うと、ガッシリと私の肩を寄せた。
おい、近寄んな。酒臭いぞ。
「で、どうなんだ。辻井に彼氏はできたのか」
おいこら。
「自分で聞け」
「俺とお前の仲だろ、教えろよ」
「私とお前の間にどういう仲があるっていうんだ」
「え……そりゃ……お前……」
「ドモるな気持ち悪い」
たった数回ゲームで協力プレイしただけじゃないか。
こいつの持っているゲームと私のゲームがすれ違い通信で研究室で反応してしまったのだ。
それはもう遊んだね!
二人揃って我を忘れてゲームをしたよ!
「辻井のことなんて一番仲が悪い私が知ってるわけがないでしょ」
「はぁ? 辻井と一番仲が良いのはお前だろ」
はぁ? 何を言ってるんだこいつは。
一番嫌われているならまだしも一番仲が良いとか有り得ないし。
うぅ、自分で言っていて少し落ち込んできた。
肩にかかった手を振り払う元気もなくがっくりと肩を落とした。
「ごめん、ここいい?」
おぉ、噂をすれば。
「お、佐々。久しぶり」
「笹丘君、久しぶり。半年ぶりぐらい?」
「おー、俺も社会人だから忙しくてなぁ」
けっ、社会人アピールしやがって!
どうせ院生は遊んでるイメージしかないですよーだ!
辻井は私と笹丘の間に入ると、店員さんを呼んで日本酒を注文した。
「佐々ってお酒飲めたっけ?」
「どうかしら」
どうかしらって……。
いや、確かに前に酔っぱらったときはひどかったけど……。
っていやいやいや! まずいまずい!
こんな人が多いところで酔っぱらったらここにいる全員のファーストキスが奪われる!
「辻井、ストップ!」
「なによ、タケ」
「辻井は今日は飲まない方がいいと私の天才予報が叫んでいる」
「意味がわからないわよ」
いやまずいってホント!
くぅ、かくなるうえは私が飲み干すしかないのか!?
「まぁ、そういうわけで私はダメらしいし、もったいないわよね。この日本酒」
あれ、素直に言うことを聞いた?
辻井のくせに珍しい。
「笹丘君、お酒得意だっけ?」
「お、おう! 任せろ!」
あーあー。
辻井の前だからって見栄張っちゃって……。
そんなに得意じゃなかったろう、お前さん。
「じゃあごめん、私の代わりに飲んでくれる?」
辻井はにっこり笑ってそう言うと、御猪口にトクトクと日本酒を注いだ。
「はい、もう一杯」
……辻井?
「笹丘君、大丈夫?」
「ら、らいじょーぶ!」
「じゃあもう一本いこっか」
「お……おう……!」
涙ぐましい。
……じゃなくて、どうした辻井。
笹丘をつぶしてどうする気だ。
私は怖くてちょっと背筋が寒いぞ。
「ぐぅー」
あーあ。
床に転がってしまった笹丘に合掌。
グッバイ、笹丘。
お前の死は無駄にはしない。
「すいません。水をいただけます?」
あ、アフターケアもちゃんとするんだ。
辻井は一仕事終えたように一息つくと、私のビールを奪って飲んだ。
「ちょ、それは私のビールだ!」
「どうせ飲み放題なんだからまた頼めばいいでしょ」
「……すでに少し酔ってないか、辻井よ」
「教授に言われて少し飲んだから」
なるほど。
笹丘は犠牲になったのだ。
まぁ前に私にしたみたいに突然キスしたりしなかっただけいっか。
よく見れば教授の周りが若干ゾンビ化している。
「……周りにどれだけ飲ませたんだ辻井」
「みんなに日本酒を提供しただけよ」
「鬼かお前は」
うん、鬼だな。
……いや、待てよ?
「まさか、次のターゲットは私か!」
「タケは最初からターゲットだけど」
「最初から狙われてたの!?」
なに!? 何かしたっけ!?
まさか用意していたゲームが何かバレているとか!?
いやいやそんなまさか。
きっと何か違うヘマを私がしたに違いない。
これだけ潰れているなら、よし、私が辻井をつぶしても問題ない!
「辻井よ、たまには私も辻井を敬ってやろう。お姉さん! 日本酒追加で!」
早々に来た日本酒をどーぞどーぞと言いながら辻井の御猪口に注いでやる。
「私を潰してどうする気?」
ぐぅ、なんて妖艶に微笑むんだ辻井。
正直ちょっとドキっとしたけどそれどころじゃない。
潰さないと潰される……!
「ぐいぐい行こう、辻井」
「はいはい」
おや、案外あっさり呑んだな。
「ふふ」
どうした急に笑い出して。
もしやもう壊れたか?
既に散々飲んだ後なんだろうか。
「辻井? もう壊れた?」
「どうかしら」
いや、そんな楽しそうにどうかしらって言われても……。
ビールに口を付けると、軽い衝撃があって危うく零しそうになった。
文句を言おうとしてちょっと止まる。
「辻井?」
「なに?」
「……いや、なんでも」
表情が見えないのがなんとも。
肩に頭一個分の重さがくすぐったい。
しかし辻井がこんな風に甘えてくるなんて珍しい。
今日は珍しいことばかりだなぁ。
「タケ、抜け出さない?」
確かに辻井は酔いを醒ませたほうが良さそうだ。
辻井に渡す予定のものをポケットに忍ばせると、辻井を介抱するふりをして外へ出た。
意外としっかりとした足取りの辻井は、やけに上機嫌だ。
かくいう私もだがな!
ふっふっふっ、このチャンスを待っていた!
「さて、タケ。答え合わせと行きましょうか」
「ふふふ、そう焦るでないよ。助手A」
「誰が助手Aよ」
ごそごそとポケットから取り出したのは一つの袋。
「CDかしら」
「ある意味な!」
中からブツを取りだした辻井は、「やっぱり」と溜息を吐いた。
「このゲーマー」
「構わん。むしろ褒め言葉だ」
「はぁ~……」
辻井はやれやれとジェスチャーをとると、ゲームを突き返した。
「え、いらないの?」
「いらないわよ。あなたのお宝なんでしょ」
おぉ、たまにみせる辻井の優しさプライスレス。
嬉しいけどちょっと寂しいな……。
こう……人にお気に入りを渡して断られるとなんか寂しいよね。
私の注いだ酒が飲めんのかーっていう感じ。
「で、正解ですよね?」
「どこをどうとったらそう思えるのよ、あなたバカなの?」
天才ですがなにか?
っていうか正解違うのか。
辻井は絶対隠れゲーマーだと信じていたんだが……。
あ、もしやジャンルが違った?
「なんでゲーム一択なのよ」
「あれ? 違うの?」
私があげられるもの、なんてそれぐらいしか考えられないし……。
「もっとお金使わなくても色々あるでしょ? 天才なら考えなさい」
「……肩叩き券?」
「私はあなたのお母さんじゃないから」
え? 違うの?
なんておふざけをしたら張り倒されそうだ。
むむぅ、すすす、好きな人の好きな物がわからないとは重症である。
……そうか、これが恋か。
「ふふん、私も一人のギャルゲヒロインだな」
「自分の顔見て言いなさい」
失礼な。
美形だからって調子のりやがって!
辻井はまた溜息を吐くと、懐から何か袋を取り出した。
「はい」
そっぽを向いたまま袋を手渡される。
「?」
「いいから受け取りなさい」
?マークを浮かべて黙っていると、さらにぐいと押しつけられた。
正解していないのに、いいのだろうか……。
「いいのよ、ある意味正解だったんだから」
クスクスと笑う辻井。
……あぁ、なるほど。
「辻井、酔ってるぞ」
「いいから受け取りなさいこの大馬鹿」
だから天才だと言うとるに。
しょうがなく袋を開けると、中にはもふもふとした毛糸的な何かが入っていた。
広げてみるとこう……なんともいえない匂いがふわりと自分の鼻に届いた。
「……辻井の匂いがする」
「なっ、なにバカなこと言って……もう、そんなに言うなら捨てなさいよ」
「これ手編み?」
辻井は少し視線を逸らした後、ゆっくり頷いた。
「……あなたが、マフラーがないって言ってたから」
困った顔して、綺麗に笑った。
あぁ、困ったな。
辻井が好きだ。
私は辻井のこの表情に弱いようだ。
もしこのマフラーが、教授のオマケでも。
それでも辻井が自分にプレゼントをしたことに変わりはなくて。
匂いから察するに何日もかけて自分の部屋で編んでくれたことにも変わりなくて。
ぼんやりと感動していると、辻井がこほんと咳払いをした。
「えっと、それで、ちょっと話があるんだけど」
弱ったな。
今、教授とうまく行きました、なんて話されたら……さすがの天才でも参りそうだ。
思うに、自分にもマフラーをくれたのは、“幸せのおすそ分け”的なものだったんじゃないだろうか。
プレゼントは、嬉しい。
話は、怖い。
どうせ玉砕するなら……。
「辻井」
「な、なに?」
「私、辻井が好きだ」
RPGGではわからなかった。
恋心というのはゲームのように積み上げられるものではなく、衝動のようなものだと理解した。
じわじわと降り積もる想いはあったけれど、その一瞬一瞬はひどく感情的で心にドンと揺さぶりをかけてくる。
「で、話って?」
「な、あ……」
とりあえずこれで教授の話はされない、はず。
いやでも辻井ってデレカシーとかいうものがないからなぁ。
「は、話って……まず、その、何? 好きって」
「辻井はデレカシーがないなぁ」
「デリカシー!」
辻井ってやつは昔から他人の恋には無頓着だったのだから。
それこそ、辻井に告白した人間は片っ端から冷たい態度を取られ、再起不能に……。
お、ちょ、私やばくないか!?
勢いで非常にまずいことをしたんでないかなぁ!?
「タケ……私は」
「ちょ、ちょっと待った! 辻井!」
ボロクソに言われる前に心の準備が必要だ!
よくどんなゲームでもボス前には『準備はいいな?』っていう質問が出てYesオアNoで答えるもんだよ!
「なに? 待ってって。やっぱり無しとか言う気?」
「いや、ちが……心の準備が……」
「はぁ?」
い、いたた。痛い痛い!
腕を握るな! 痛い!
そしてなんだその鬼気迫る表情! 怖いわ!
「好きって言っといてその後に心の準備って何? 普通先に心の準備でしょ?」
「いや、それには深い訳が……」
くう、せめてゲームみたいに格好良く告白したかった!
そしたら散り際ももう少しまともに……!
「なにそれ、どうせ衝動的に言っただけでしょ!? あなたにいつも深い意味なんてなかったんだから!」
……そうだよ。
「いつもいつも、適当なことばかり言って! 私の気持ちも知らないくせに!」
……そうだよ!
「あなたの好きなんて、どうせ何の意味もない好きに決まってるもの!」
あぁ、そうですとも!
「そうだよ! 意味も無く辻井が好きだよ!」
私の恋に意味なんてないんだ。
恋っていうのは人それぞれで、たまたま私の恋には意味がなかった。
無意識なのに辻井を意識している。
これって酷い矛盾だ。
意味なんか作れるわけがないんだ。
「意味も無くって……そ、その意味じゃない!」
「じゃあどの意味さ?」
「あぁもうだから……こんな……言葉遊びしてる場合じゃなくて……」
辻井は一度深く息を吸うと、私の手を離した。
その顔はすごく綺麗で、あぁ、私はどんな辻井もやっぱ好きだなぁと思う。
……と、思うと辻井の顔に惚れたのか? とも考えるけれど、でもやっぱりそれも違う。
「辻井ってすごいな!」
「はぁ?」
「今までこんなに気になる人はいなかったよ!」
そう辻井に言い切ると、また溜息を吐かれた。
「気になるって……どういうこと?」
どうやらさっき深呼吸して少し落ち着いたみたいだ。
辻井は私から言葉を導き出そうとしてくれている。
「だから、辻井は凄いわけだ」
「はぁ」
「この天才である私を虜にしたわけだから」
「で、私にどうして欲しいの?」
「え?」
「あなたは私が好きなのね?」
「うん」
「それで、どうしたいの?」
……どうしたい?
だって、伝えたのはただの衝動だ。
その先なんてまったく考えていない。
そもそもなんでそんな衝動に突き動かされたのか。
辿った先にあったのは天才に似つかわしくない感情だった。
「……ない……」
「なに?」
嫌々絞り出した声は小さく、辻井には届かなかった。
近かった距離を、辻井はもう少しだけ詰めてくれた。
……聞かれたくない。
でも、辻井はバカだからきっと察してくれないに違いない。
あまりにも天才に似つかわしくない、恥ずかしい感情だ。
「辻井の口から、教授と上手くいった話を聞きたくない」
聞かれたくない、と思っている割には切実な声が出た。
辻井が自分を快く思っていないことは知っているんだから、願えることなんてこれだけだ。
「……そっか」
辻井は、短くそれだけ言った。
あー……。
情けない。
これはひどい振られ方だ。
ひどいギャルゲーでもここまでひどい告白はない。
マフラーを袋に片付ける。
一呼吸置いたら帰ろう。
家でしっかり飲もう。笹丘を連れて。
「タケ」
「んー?」
「今更だけど」
辻井は顔を伏せた。
仕舞いこんだマフラーをもう一度出される。
おい、片付けたのに。
「一番欲しいものが、今、手に入ったわ」
はぁ?
何の話?
わからん、天才の脳をもってしても辻井の考えていることがわからん。
「あなたが、私に恋してくれればいいのにって、いつも思ってた」
「はぁ? なんで?」
「なんでって……決まってるでしょ」
決まってる?
なんだ、辻井は教授のことが好きなくせに、私に惚れられたかったのか?
どういうこと?
はっ、そうか!
まさかまだあの設定を!
「辻井」
「何?」
「まだ遊園地のRPGGを引き摺っていたのか」
ゴン
……何も殴ることは無いのではなかろうか。
「このおバカ!こんなときまでRPGG!?」
「いや、ガチで。本当にそう思ったんだってば」
「違うわよ。なんでわからないの?」
辻井はマフラーを私の首に巻きつけると、そのまま少しだけ強く抱きしめてきた。
逃げようとすると、もっと強くなる。
「はぁ……ぐだぐだね」
って、お前は文句を言うためだけに私を引き止めたのか。
「まぁ、でもいっか。そういうあなたも好きになったんだから」
……ん?
「でもここまでロマンチックさの欠片もないとなんだかあっけなくて笑えるわね」
は?
「辻井……」
「なによ」
「教授が好きで私が好きって……え?二まイタタタタタ」
「二股とか言ったら殴り倒すわよ」
殴られる前にコメカミが割れるわ!
頭を刺激してバカになったらどうしてくれるんだ!
「そもそも、そこがわからないのよ」
「はぁ」
「なんでタケはずっと私と教授が好き合ってると思ってたわけ?」
「え? 違うの?」
辻井、痛い。
マフラーが凶器になっているぞ。
私の首は意外と脆いのだから。
「大体、辻井は私を嫌いなはずだろう!」
「いやそれも意味不明だから。なに、あなたの中で私ってどんな人間なわけ」
「そりゃ……」
辻井っていうと……。
「残虐非道で極悪卑劣、おまけに……」
「わかった。もういい。さっきの告白は嘘なわけね?」
え、なんで!?
「嘘じゃないってば。嘘を吐いてるといえば辻井のほうに違いない」
「ほんとに、嘘じゃないの?」
おい、聞くより先に自分のほう否定してよ!
なに!? やっぱり嘘なの!?
「わ・た・し・は! 嘘じゃない!」
「……ふーん」
いや、おい、ふーんって!
あぁ、ダメだ。こいつ絶対私の反応見て遊んでる……!
くそう、これだから辻井は悪逆無道の人でなしの……いたたたた。
痛い痛い! お前は私をサバ折りにする気かぁ!!
「タケって、今の部屋借りてからもう4、5年経ってるわよね」
「……は?」
「お金の管理は私がしたほうが良さそうね。オタクの小遣いってどれくらいが相場なのかしら」
「いやいやいや、え?」
辻井はいったい何の話をしているんだ。
あと、地味に体が痛いんですけど。
「叶うと思ってなかったから、考えなきゃいけないことがいっぱいで……困ったな」
「はぁ」
何の話?
「タケ、知ってた?」
「何を」
「私がタケに恋をしていた期間って、すっごく長いのよ」
-secret stage-
タケは肩の力を抜いた。
強引に抱いていた体がすんなりと腕に収まる。
あぁ、この瞬間すら嬉しい。
こんなの、奇跡だ。
「そりゃまた……なんというか……」
一番直接的な言い回しだったと思う。
しっかりと「恋」であると声に出した。
タケも信じざるを得ないみたい。
私自身は信じられないほど自分の発言にビックリしたけれど。
「ふ、不毛だなぁ」
「あなたが言う?」
口では憎たらしいことを言いながら、顔は赤く緩みきってる。
なにこいつ、可愛い。
「とりあえず、証拠に院を卒業するまでに一緒に暮らす手立てでも講じてみせましょうか?」
「今の部屋借りてから5年うんぬんはそういう意味か!」
クスクス笑ってみせると、バツが悪そうに顔を背けた。
まだ不満なことがあるわけ?
「このマフラーってさぁ……」
「なに?」
「その、教授のオマケとかじゃ、ないわけ?」
まだ疑っているのか、こいつは。
そもそも、今日の話っていうのは私から告白をするつもりでいたのに。
人の話も聞かないでフライングしたのはそっちのくせに。
ドッキリかどうかなんて疑いたいのは私のほうだ。
「あなたがマフラーが無いっていうから、今日までに必死で作ったんだから」
「お、おぉ……」
そこで照れるのか……。
本当に、タケのツボはわからない。




