第10話 ポーカーゲーム
「辻井、ゲームしようか」
「またRPGG?」
ふふふ、芸がないな、辻井君。
指をチッチッチッと横に振ると、ニヤリと笑いを浮かべた。
「古いわよ、タケ」
「う、煩いな! 水を差すな!」
まったく、辻井はわびとかさびとかを持って生きてもらいたいもんだ。
もうちょっとこうユーモアというか……。
「研究の結果、RPGGは少しかなり若干たぶん恐らくグダってきている」
「物凄く不確定ね」
「そこで! 今日はRPGGを行うための研究を行う!」
「行うための研究」
ふふふ。
つまり、勉学は積み重ねなくしてはあり得ないのだ!
「そう! 今日はゲームで遊ぶ!」
「帰れ」
辻井、冷たい。
「遊ぶんなら、帰ったら?」
「いや、研究。研究の一環」
「無理があるわよ」
えー。
たまには純粋に辻井と遊んでみようと思ったのにー。
どんな物事にも息抜きは大事だと思うのだよ。
「最近様子がおかしいと思ったら、スランプだったわけ?」
「天才にスランプなどない。ただ単純に発想の転換とやらをしてみようという……」
「スランプね」
「うるさい!」
決してそうではない!そうではないのだ!
ただ……。
そう、ただ単純に。
「遊んでみたくて……」
「?」
辻井にはあるんだろうか。
ただただ誰かと話してみたい。
そんな気持ち。
「辻井ってさ、教授とは普段何してんの」
「何って言われても……」
会話、一緒に食事、実験、etc...。
辻井、日本語を話せ。
「それ、楽しい?」
「まぁまぁ」
……教授が好きならもっと楽しいことすればいいのに。
「例えば、映画とか見に行ったりしないの?」
「教授と?」
辻井は少し考え込むと、ないわね、と呟いた。
「みんなでなら行くけど」
みんなで行ってどうするんだ。
そりゃ、みんなでわいわい映画に行くのも楽しいさ。
でもそれって、恋じゃないんじゃない?
若い女の子ならもっとこう二人きりになりたいとかそういう願望あるでしょうよ。
「それで、何して遊ぶつもり?」
こうやって付き合ってくれる辺り、こいつはやっぱり優しいんだなと思う。
恥ずかしいから口には出さないけど。
そもそも、辻井を好きである、ということは私より辻井が優れていることになるのだろうか。
「解せぬ!」
「何が」
あ、つい心の声が。
今は何をして遊ぶかだっけ。
ふふふ、そう言うと思って定番のアレを持ってきているのだよ!
「じゃーん!」
「たかだかトランプにそんな大層な効果音いらないでしょ」
たかだかっていうな!
トランプ様はな、古来より親しまれてきた重要アイテムなんだぞ!
「まぁいろんな遊びができるし便利といえば便利ね」
「ほらみろ」
「統計学とか勉学にも使われることがあるし、まぁマシな遊びともいえるかしら」
「そんな難しいことはわからん」
「あなた本当に研究生になる気あるの?」
失礼な。
研究生になる気しかないわ。
「ポーカーなんてどうかな?」
「負ける気がしないわね」
失礼な。
こうみえても昔はポーカーフェイスのタケちゃんとして有名だったんだぞ!
……中学校の頃、しかも部室の中だけだったけど。
「何を賭けるの?」
「お金、は嫌だなぁ」
「今日の晩御飯」
「ノった!」
よし、今日の晩御飯代浮いた!
ふっふっふっ、見てろよ~。
その澄ました顔を泣き顔にかえてやる!
「……もう一回お願いします」
「いいけど。次は何を賭けるの?」
負けた。
完膚無きまでに。
なぜだ、この私が頭脳勝負で負けるはずはないのに!
「もう一週間分の晩御飯は奢ってもらう計算になっちゃうけど」
「うぅ……」
今月バイト代いくら入ったっけ。
奢る、といっても全部牛丼になりそうだな。
……毎食牛丼はちょっと辛い。
もやしを買ってきて自炊するのが一番いいけど……。
「賭けられるものがないなら、こっちから指定していい?」
「なにさ?」
私のできる範囲にしてよー?
辻井のことだから毎日”様”を付けて名前を呼べとか言い出しかねないな。
なんてったってドSだからな。
もしくはゴミ箱に住めとか言いそう。
「そうね、もし私が勝ったら……」
若干言い澱んだことが気になって、ちらと落ち込んでいた顔をあげる。
辻井は、目が合うときゅっと唇を結んだ。
そんなに言い辛いことさせる気か!
「い、言うならさっさと言え。逃げも隠れもせんぞ!」
「そんなに警戒しながら言われてもね。わかったわ、こうしましょう」
ん?
「私が勝ったら、私と付き合って」
……ん?
「……どこに?」
「そういう意味じゃなくて」
付き合う?
「誰が?」
「タケが」
「誰と?」
「私と」
……なるほど。
「で、どこに?」
「あなた、わかってて聞いてない?」
?
わからん。
まったくもってわからん。
「付き合うって、恋人ってこと?」
「まぁ、そうなるかしら。その代わり、もしあなたが勝ったら今までの負けをチャラにしてあげる」
告白?
いや、なんか違う気がする。
辻井の顔は赤くもなければ、普通。
辛そうでも嬉しそうでもなく、普通。
「……なんで?」
「なんでも」
辻井の考えがわからない。
そして、なんで自分が嬉しくないのかもわからない。
私は辻井が好きじゃなかったのか?
「じゃあ、始めるわよ」
辻井は淡々とカードを配る。
その表情はまったく読めない。
私はといえば固まったままだ。
「この一枚だけ、捨てるわ」
「え?あ、私は二枚で」
……ゲームだ。
そうだ、ゲームだ。
辻井にとっても、私と一緒にいるのはゲーム感覚なのかもしれない。
それぐらい、軽いんだ。
「……フォア・カード」
ビックリするぐらい、辻井の引きは強かった。
これは負けたかな?
自分の手札を見てガッカリした気持ちと少し安心した気持ちがあったことが、不思議だった。
「ストレートフラッシュ……」
負けた分は、チャラだ。
それは嬉しい。
安心したのはそのせいか?
「負けたわ」
辻井はそう言うと、ゆっくり立ちあがって部屋を出て行った。
……トイレ、かな。
いつもの辻井ならここでからかうぐらいしていくのに。
もしくは少しぐらい悔しがったりするのに。
本当にどういう意味だったんだろうか。
本気?
でも、教授絡みのときに見た、必死な顔は見られなかった。
綺麗に一色並んだ、9、10、J、Q、K。
-secret stage-
「……負けちゃった」
綺麗に揃ったエースのカードを見て、いけると思ったのに。
「勝てば天国、負ければ……」
地獄、だろうか。
呆気にとられたタケの顔は見物だったけど、どう捉えていいのかわからない。
引いたか。
喜んだか。
ちょっと賭けに出過ぎたかな。
最近のタケの態度から見て、脈はあると思ったのに。
ポーカーの間、くるくる変わる表情を見ればすぐに考えていることはわかったのに。
肝心なときはわからない。
「現実のポーカーゲームも、負けたかな」
そう呟いて、これもRPGGのうちに入るのかしらとかどうでもいいことを考える。
そこまで考えておいて、すごく落ち込んだ。
どうあがいてもタケのこと以外考えられない自分の頭に嫌気がさす。
意外と、タケより私のほうが単純かもしれない。
「負けっぱなし」
駆け引きとか、得意だったはずなんだけどな。
そんな私が負けっぱなし。
いつだってタケの気を引こうと必死で、でも素直には言えなくて。
憎まれ口ばっかりでどうしようもない。
「悔しいな」




