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あの夏の花火  作者: 森好子


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3/6

第3話 海に立つ影

2作目。5作で終了予定です

「キャーーーッ!」


ヤスコの悲鳴が、夜の海に鋭く響いた。

膝が崩れ、その場に座り込む。

視界が揺れ、心臓の音が耳の奥で暴れている。


ヨシコが慌てて駆け寄ってきた。

「ヤスコ!? どうしたん!」

「い、今……海の上に……子どもが……」


震える指で海を指す。

だが、そこにはもう何もいない。

ただ、黒い海が静かに揺れているだけだった。


ヨシコは、困ったように眉を寄せた。


「さっきな、若いカップルがおってん。

 なんか日本語ちゃう言葉で話しててさ。

 花火したそうに見えたから、声かけたら……

 煙みたいに消えてもうてん」


「カップル……?」


ヤスコは息を呑む。

ヨシコが見た“若いカップル”の特徴は、

ヤスコが見た“姉弟のような子ども”と奇妙に重なっていた。


ただ――

ヨシコは怖がっていない。

むしろ、少しだけ嬉しそうですらあった。


「なんで……怖くないん……?」

ヤスコの声は震えていた。

ヨシコは、少しだけ考えるように空を見上げた。


「だって、あの子ら……うちが花火したそうやったから誘ってんけど

 ちょっと困ったように顔みあわせたあと、嬉しそうに笑っててん

 まあ、海の上に立ってたとは、気付けへんかってんけどな」


その言葉は、あまりにも自然で、

あまりにもヨシコらしかった。



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