第2話 島の夕暮れと、しょぼい花火
2話です。4話まで続きます。
島に着いたのは、午後の遅い時間だった。
空港を出ると、潮の匂いがふわりと鼻をくすぐる。
都会の空気とは違う、湿り気を帯びた風。
ヤスコは思わず深呼吸した。
「ええ匂いやなあ。海の匂いや」
ヨシコはスーツケースをガラガラ引きながら、
子どものようにきょろきょろしている。
宿に荷物を置き、夕食までの時間を散歩することにした。
港へ向かう途中、小さな食品店があった。
看板の文字は少し色あせていて、
店先には野菜と氷菓子が並んでいる。
「ちょっと寄ってええ?」
ヨシコが言う。
「また何か買うんやろ……」
ヤスコは呆れながらもついていく。
店内は薄暗く、棚はところどころ空いていた。
その奥のほうで、ヨシコが急に声を上げた。
「ヤスコ! 見て! 花火あるで!」
そこには、昔ながらの紙袋に入った花火セットが
ぽつんと置かれていた。
線香花火、ススキ花火、へび花火。
どれも地味で、空港で没収された派手な花火とは比べものにならない。
「……しょぼいなあ」
「ええねん、これで十分や。海でやるんがええんやから」
ヨシコは迷いなくレジに持っていった。
ヤスコは苦笑しながらも、
その無邪気さに少しだけ救われていた。
第三章 港の夜と、見えない誰か
夕食を終え、夜の港へ向かった。
街灯は少なく、海は黒い布のように広がっている。
波の音だけが静かに寄せては返す。
「ここでやろ!」
ヨシコは花火の袋を開け、
線香花火を何本も取り出した。
「ちょっと待って、線香花火ばっかりやん」
ヤスコが言う。
「ええねん。いっぱいあるし、全部やったらええやん」
ヨシコは気にせず火をつけ、
次々と花火を手に取っては火を移していく。
線香花火の小さな火玉が、
夜の闇にちりちりと揺れた。
ヤスコは少し不満だった。
もっと大きな花火を想像していたのに。
でも、ヨシコが楽しそうなので何も言わなかった。
そのときだった。
ヨシコがふいに、
誰もいないはずの海のほうへ向かって声をかけた。
「よかったら、花火一緒にしませんか」
ヤスコは思わず振り返った。
「は? 誰に言うてんの?」
ヨシコは防波堤の先、
海の上をじっと見つめている。
「もうヨシコ、こんなとこ来てまで逆ナンするんかいな……」
そう突っ込もうとした瞬間、
ヤスコの視界に“それ”が入った。
海の上に、二人の子どもが立っていた。
男の子はカーキ色の学ランのような服を着て、
帽子をかぶっている。
女の子はずきんをかぶり、もんぺ姿。
中学生くらいに見える。
防波堤の延長線上にいるようなのに、
そこは確かに海だった。
「……え?」
頭が理解を拒む。
次の瞬間、ヤスコは叫んでいた。




