第1話 迷惑な友だち
この後、ちょっとオカルト展開になります。
苦手な方はご注意ください。
平成2年の初夏、都会の空気がやけに薄く感じられた。
京都大学を卒業し、誰もが知る通信会社に就職したヤスコは、
毎朝同じ時間に同じ電車に揺られ、
同じような資料をまとめ、同じような会議に出ていた。
「こんなん、ウチがやる意味あるんかいな……」
コピー機の前でつぶやいた声は、
機械の低い唸りに吸い込まれていった。
優等生として生きてきた24年間。
努力すれば道は開けると信じてきた。
でも今の仕事は、努力も工夫も必要ない。
ただ、誰かの指示を待つだけの日々だった。
そんなある夜、アパートに帰ると留守電が点滅していた。
再生ボタンを押すと、聞き慣れた声が弾む。
「ヤスコ、ひさしぶり! 旅行いかへん? どっかの離島!」
ヨシコだった。
中学時代からの友人で、変わり者として有名だった子。
空気を読まない、破天荒、でも妙に人なつこい。
いつも誰かに迷惑をかけては、笑ってごまかすタイプだった。
ヤスコは思わず苦笑した。
「また急やな……」
でも、胸の奥が少しだけ軽くなるのを感じた。
ヨシコは昔から、ヤスコが落ち込んでいるときに限って
なぜか絶妙なタイミングで連絡をよこす。
翌日、電話を返すと、ヨシコは相変わらずだった。
「行き先? どこでもええよ。離島ならどこでも。あ、海で花火しよな!」
「花火……? なんで?」
「なんかさあ、海で花火って 青春て感じでぞくぞくせえへん?」
ヨシコと花火でぞくぞくするかいな。
それに青春て。子供おってもおかしない年やのに、あつかましいなあ。
ヨシコの行動にもっともらしい理由は無い。
目標もない。ただ“やりたいからやる”。
ヤスコには一生かかっても真似できない生き方だった。
「ほな、五島列島とかどう? 教会巡りしてみたいねん」
「うわっ!やったー!!行こ行こ行こ。」
電話の向こうで、ヨシコが嬉しそうに跳ねている気がした。
その無邪気さに、ヤスコは少しだけほっとする。
☆
福岡空港に着いたとき、
ヨシコは大きな紙袋を抱えていた。
「それ何?」
「花火。いっぱい買ってきた!」
「……空港で止められるやつやん」
案の定、保安検査で止められた。
係員に説明され、ヨシコはしょんぼりと肩を落とす。
「ええやん、ちょっとくらい……」
「ちょっとちゃうやろ。どんだけ持ってきてんの」
ヤスコはため息をつきながらも、
どこか懐かしい気持ちになっていた。
中学の頃から、ヨシコはこうだった。
“いらんこと”をして、周りを振り回す。
そのたびに、ヤスコが後始末をしてきた。
でも――
その“いらんこと”が、
この旅で思いもよらない形に変わることを
このときのヤスコはまだ知らない。




