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第五話「新たな出会い」

【4月27日 月曜日】


「やっと帰って来れたわね」

「全くもって同感です。・・・宮口、整備頼むぞ」

「分かりました」

「朝倉さん、整備お願いね」

「了解です!。よぉーし、やるぞ〜!」


 約1ヶ月ぶりに帰国し、基地に戻って来たRAINBOW.F。芹沢は宮口潤に、風間は朝倉美彩に機体整備を頼むとその場を後にした。


「こうして見ると、機体って結構傷んでるんですね」

「遠征先で出来る整備には限度がありますからね。やっぱりこうやってちゃんとした設備でメンテしないとダメですね」


 改めて長期遠征のリスクを実感する宮口。すると宮口は「あっ」と声を漏らすとデータ端末を操作した。


「中井さんからチューン頼まれてたんだった」


 そう言いながら宮口は中井機の方へ向かった。

 一方で渕上は松田とヴェヒターについて話して居た。


「脚部関節部とフレームの補強、ブースターポット・スラスターポットのスラスター部回転速度アップ、ですか....」

「やはり、近中距離戦なった際の旋回性能が物足りない。スラスターは出力的には問題ないから、多分挙げるべきはそこだと思います」

「分かりました。早速取り掛かります。・・・」


 松田は静かにヴェヒターの方を向くとそれを見上げ、僅かに微笑んだ。


「やっと弄れますね〜」

「デフォルト状態でどこまでやれるか、どこまで引き出せるかを確かめてたんですが、....“国防”と“遠征”じゃあ全然違いました」

「でしょうね。まっ、この機体はチューンして完成、とも言える機体なので、要望があったらガンガン言ってください」

「ありがとうございます。晴翔さん」


 松田に一礼した渕上はヴェヒターを松田に任せるとその場から立ち去った。それを見送った松田はヴェヒターの方を向くとそれを見上げた。


(所々傷んでるな。やはり外征先の整備じゃ、間に合わないって事か....)


 そう思った松田はデータ端末を操作すると、機体の整備及びチューニングを開始した。

 一方その頃、高木は司令室に呼ばれて居た。


「悪くない戦果だ。この調子で頼む、と言いたいところだが、」


 国防軍遠征隊独立遊撃部隊総司令官大岩慎次は机にあるパネルスイッチを操作してホログラムを消すとパネルスイッチにカバーをかけたのち両肘を机に乗せ、手を組むと高木の方を向いた。


「あまり無理はするな。戦況の事は理解しているし、支援要請が一向に減らないのも事実だ。だが、長過ぎる遠征は機体を蝕み、パイロットやサポートメンバーまでもを蝕む」

「それに関しては同感です。ですが、前線には前線の都合があり、前線の考え方がある、と言うのも理解して頂きたい」


 第四・第五独立遊撃部隊連合総隊長の出水一益は大岩の考えを理解しながらもそう反論した。

 すると大岩は「うむ」と呟いたのち軽く頷くと椅子から立ち上がった。


「俺はもう、前線には出れない身だ。俺には出来ない事、出来なかった事をやってくれ」

「「ハッ!」」

「行って良い。今は休んでくれ」


 高木と出水は大岩に敬礼すると司令室から出て行った。それを見送った大岩は後ろを向くと、自分が座ってる椅子を見つめた。


(渕上少尉の親父さん....渕上中佐に追いつけぬまま、“こういう椅子”に座ってしまったな)


 大岩がそんな事を思ってる事も知らず、高木と出水は廊下を歩いて居た。


「大岩司令にはああ言ったが、司令が言ってる事は正しい。パイロットが大丈夫でも、機体が悲鳴を挙げるだろ」

「それはそうなんですが....アイツらは、特に今野は、困ってる奴らを放っておけない奴なんです」

「それを上手く静止するのも、君の仕事だろ?」

「わかってます。なので次回からはこんな長期遠征はさせないつもりです」

「頼んだぞ」


 出水はそう言うと廊下の角を曲がり、高木と別れた。


「・・・」


(さて、どうしたものかな)





「えっ明日?」

『そうだ。無理か?』

「いや、無理じゃないけど」


 メッセージチャットで家族に帰国と休みを知らせた渕上は寮部屋の中で叔父である総一郎と電話で話して居た。


『会わせたい人が居る』

「人?」

『ああ。“前に進む為”には、必要な出会いだ』

「ッ」


(成る程。そう言う類か)


「彼女作ってる余裕なんて、無いんだが?」

『心の拠り所と戻る理由は身近にも必要だろ?』


 携帯を持ったまま溜息を吐いた渕上はゆっくりとベッドに座り込んだ。


『安心しろ。会わせる相手も練習や試合で忙しい。多忙はお互い様だ』

「・・・」


 数秒悩んだ渕上は、頭をグシグシすると何処か諦めた様な表情を浮かべた。


「分かりましたよ。会えば良いんでしょ会えば」

『おう。会ってみろ。煉瓦街ストリート、わかるか?』

「目の前だよ」

『そこにある珈琲屋に14時な』


 渕上の返答を聞く前に通話は切れた。

 携帯を枕の端に置いたのちベッドに横たわった渕上は鼻から吸い、口から吐いた。


(17時半か。....向こうの時間だと朝の9時半ってところか〜、時差ボケ待ったなしだな)


 静かにそう思った渕上は天井を見つめながらゆっくりと目を閉じた。

 数秒後、目を開いた渕上は身体を起こし、ベッドから立ち上がると机の椅子に座ったのちゆっくりと手記を広げた。


【一七三八

手記を現地時間で書いてるせいか、時間がぐっちゃぐちゃだ。

にしても心地良いな。日本は。これでも最前線国家なんだけどな....

立川、良い街だな。関市とは違った魅力がある。ニュータウン化が進んでると聞くが21世紀初頭とあまり変わってない気がする。

それにしても、煉瓦街ストリートの脇道に寮があるって....確かに此処にあるアパートを国防軍が改修工事したって話は聞いてたが....普通寮部屋って軍敷地内にあるもんだろ....】


「・・・」


 他に書く事が思い付かず、静かに手記を閉じた渕上は椅子の背凭れに寄り掛かったのち数秒考えると椅子から立ち上がったのち再びベッドに腰掛けると携帯を手に取ったのち石堂にチャットメッセージを送った。

 3分後、渕上の携帯が着信を鳴らした。

 何処か怠そうに携帯を手に取った渕上は電話に出た。


「よう石堂」

『お久しぶりです。帰国してたんですね』

「数時間前にな。其方はどうだ?」

『極端ですよ。1日3回も出撃する事もあれば、全く出撃しない日もあります』

「そうか」


 怠気を打ち消した渕上は早速本題を話した。


「神崎の様子を聞きたくてな」

『神崎さんの?』

「ああ。少尉から見て、どうだ?」

『だいぶ元気になりましたよ。虹羽田隊員と、よく楽しそうに話してますよ』

「だいぶ?と言うと?」

『入隊直後は、やはり貴方の事を引き摺ってる様子でしたよ。必要なコミニュケーションは取るけど他は、って感じでした』

「そうか。虹羽田少尉と....」

『やっぱり、貴方は』

「いや違う。別件だ」


 渕上は石堂に事情を話した。すると石堂は電話の向こう側で唸った。


『総一郎さんが、ですか?』

「ああ」

『でも、やはりわざわざ確認するって事は、渕上さんは引き摺ってるって事なんですね』

「かもな。神崎が立ち直ってないのに、自分は新たな出会いに手を出すって言うのは、ちょっとな」

『だったら尚の事、総一郎さんの話に載るべきでは?』

「そういうものかな?」

『そうですよ。逆に神崎さんに申し訳ない気がしますが?』

「ハッ、そうかもな」

『決心は付きました?』

「石堂少尉の話で目が覚めました。ありがとうございます」

『いえいえ、お役に立てたなら』

「おう。じゃあ、身体に気を付けて頑張れよ」

『はい。渕上さんもお気を付けて。では』


 渕上は通話を切った。

 枕元に携帯を静かに置いた渕上はベッドに横たわると微かに表情を鋭くした。


(神崎が、虹羽田少尉と....)


 何処か寂しさを覚えた渕上だったが渕上の中ではある程度の踏ん切りはついて居た上に自分らが選んだ道を悔いなく進もうと改めて思えたのだった。





【4月28日 火曜日】


 いつものラフな格好で珈琲屋に入店した渕上は店員から待ち合わせが無い事を聞くと奥の窓際ボックス席に腰を降ろした。


(写真ぐらい渡しとけよな〜。これじゃあ本当に自分が先か否かわからないじゃん)


 そう思いながらメニュー表を手に取った渕上は暫くそれを眺めると頷いたのち店員を呼んだ。


「お決まりですか?」

「ストレートのコスタリカ、オリジナルブレンドで」

「畏まりました」


 店員が立ち去る中、メニュー表を元に戻した渕上は携帯の画面片手に当たりをキョロキョロ見渡す1人の若い女性を見つけた。


(もしかして....)


 渕上はソファから立ち上がるとその女性に声を掛けた。


「あの〜、もしかして」

「!。貴方が渕上和公さん?」

「は、はい」

「お会い出来て嬉しいわ。私は姫浦衣奈。宜しくね」

「宜しくお願いします。立ち話もあれなんで、よかったら」


 そう言うと姫浦は渕上の案内でボックス席に座った。


(ハタチは過ぎてるな。4か5歳歳上か?)


 姫浦の見た目から自分より数歳歳上である事を確信した渕上。すると姫浦はにっこり笑いながら話し始めた。


「貴方が総一郎さんの甥っ子さん....面影ありますね」


 渕上は静かに目を見開いた。母方の顔だと言われ続けて来た渕上にとって、それは新鮮味のある言葉だったからだ。

 それを言葉にしようか迷う渕上に姫浦は言葉を続けた。


「パイロット、なんでしたっけ?。凄く良い体型してますね」

「ありがとうございます。姫浦さんは、レーシングドライバーなんでしたっけ?」

「あれ?総一郎さんから聞いてなかった?。総一郎さんが設立したプロドライバーチームでドライバーをしてるわ」

「叔父はあまり自分の事を話さない人なので」

「総一郎さんらしいわね。あの人は自慢とか好きじゃないタイプだから」


 受け答えしか出来ず、会話の輪の広げ方に困る渕上。すると姫浦は店員を呼ぶとアイスコーヒーを注文した。

 店員が去ったのを見た渕上は思いきって踏み込んだ会話をした。


「あの、姫浦さんは何故プロのドライバーに?」

「総一郎さんの影響よ」

「叔父の?」

「総一郎さんがロードスターで繰り出した超高速ゼロカウンタードリフト。インサイドのギリギリを強烈なスピードで攻めるその走りを見て驚愕すると同時に、私の将来は決まったわ。・・・そして何度かグループオミクロンに出場してたら、チームデミオにスカウトされたの」

「叔父を目標にサーキットを攻めたかった。って事ですか?」

「そんなところね。・・・ところで貴方は?」

「え?」

「なんでパイロットに?」


 渕上は唸りながらソファの背凭れに寄り掛かると数秒考えたのち元の姿勢に戻った。


「両親の影響です。父さんはパイロット、母は技術者でした。そんな両親に挟まれて育ったせいかリベラシオンに触れる機会が多く、フリーの教材資料をよく読み漁ってました」

「へぇ〜。でもそれを聞くと、パイロットってより技術者って気がするけど」

「ある日自分は、父さんが乗ってた機体のコクピットを生で見せて貰いました。それが、自分の人生を決めました。・・・衝撃的でした。自分もこれに乗って戦いたい。そう思ったんです」

「なんだか似てるね」

「そう、ですね」

「・・・あれ?、渕上さんって今何歳なの?」

「18です。来月で19になります」

「へぇ〜。私は23歳。だから5歳差だね」


(やっぱり5歳上か....)


 ノンアクセサリーで化粧もしてないすっぴん肌と外観は、今時20代とは掛け離れてる様なイメージを持った渕上は再びその話題に口を挟もうか迷った。

 だが、渕上がその話題を出す前に姫浦がその話題を持ち出した。


「私ね、オシャレってあまり興味がないの」

「というと?」

「レーシングドライバーだからってのもあるかもしれないけど、今時の若い子みたく化粧したり、香水付けたり、アクセサリーを身に付けたりって事、全くしないの。だからいつもこんな格好で出歩いてるの」

「・・・タイプかも」

「え?」

「いや、自分は、両親の影響か、こう....“すっぴんで勝負しろよ”って考えが染み付いてる人間なので、寧ろラフな人は大歓迎です」

「ならよかった。なんだか私達お似合いね」

「・・・」

「....」


(何言ってんだよ俺は....)


(何言ってる私は....)


 2人は互いに黙り込んだ。





 一方その頃、RAINBOW.Fの格納庫では、


「あれ桑原さん?」

「松田さん。どうして此処に?」

「ヴェヒターの脚部フレームに使う補強パーツが今日の午後届きましてね。・・・スラスターポットの関係上、専用のパーツが必要でしてね」

「あー、私と同じだ〜」


 松田は軽く笑みを浮かべると桑原の隣に立ったのちデータ端末を操作するとヴェヒターの脚部を分解し始めた。


「加瀬さんからスラスター出力強化を頼まれて。それには脚部の強度強化が必要で」

「成る程。ある箇所や大きさは若干違えど、同じ拡張スラスターを弄る者同士、ですね」

「そうですね。・・・松田さんって」

「?」

「意外とお喋りなんですね」

「俺がですか?。まぁ、確かにこういう場では、よく喋るかもしれませんね」

「・・・私達整備士って辛いですよね。休暇中も、こうやって格納庫来て機体弄ってるんですから?」

「でもそれを楽しいと思える変人じゃなきゃ、遠征隊の整備士なんて務まりませんよ」

「確かにそうですね」


 機械が作業中は、自分が設定した通りに機械が動いてるか、仕事しているかを監視し・見守るだけ。

 一昔前より人が機体に触る事は大幅に減ったがいつの時代も人の目と手は必要だ。特にワンオフ機や独自チューンされた機体なら尚更だ。


「次の遠征、いつかしらね?」

「明日とかは勘弁して欲しいですね。流石に休みたい」

「確かに。・・・そうだ」

「?」

「明日、一緒に何処か行きません?。同じ整備士同士親睦を深めましょうよ」

「え?」


 桑原の突然の誘いに戸惑う松田。だが断る理由がなかった松田はそれを了承した。


(やった!)


 心の中で桑原は静かに喜んだ。


 この時はまだ、松田は何故桑原がお出かけに誘ったか、そして桑原は自分の心の中に芽生え始める思いに、それぞれ気が付いてなかった。

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