第四話「経験から来るモノ」
(真上って....)
渕上はすぐさま迎撃体勢を取る。だが時既に遅く、イータの人型機動兵器群は一斉に渕上を攻撃した。
「コハク!」
「バリアアサルトテンカイ・バリアアサルトテンカイ」
バリアアサルトを展開し、ラーミナビームシールドを出現させ、攻撃を防ぐ渕上機。その間に体勢を立て直した渕上機だったがイータの人型機動兵器群に完全に包囲された。
(来るなら来い)
あまりの数を前に僅かに全身を強張らせ、操縦桿を強く握る渕上。そんな中、先に仕掛けたのはイータだった。渕上はイータの攻撃を交わすとトリガーを引き、イータの人型機動兵器を撃墜した。
(ざっと見、80か?それ以上か?)
ぱっと見で自分を包囲するイータの人型機動兵器の数を把握した渕上は次々とイータの人型機動兵器を撃ち落としていった。
『渕上さん!』
あまりの物量差を心配した倉又はスラスターを吹かせて渕上機の救援に向かおうとした。が、すぐさま今野がそれを止めた。
『私達は第三波に備えるわよ』
『ですが、』
『大丈夫よ。それは貴方がよく知ってる事でしょ?』
『・・・』
倉又機は前進を辞めた。それと同時に倉又は心の中で渕上の無事を祈った。
そんな中、渕上機は次々とイータの人型機動兵器を撃ち落としていった。だが流石の渕上も全方位をカバー出来ている訳ではなかった。左からラーミナビームブレイドを構えて斬り掛かって来るイータの人型機動兵器に反応が遅れた。
「ッ」
渕上機はライフルを降ろし、右脇腹部にあるホルスターからラーミナビームピストルIIを引き抜くとラーミナビームブレイドを展開させ、相手の斬撃を受け止めた。
(この状況で剣を使う事になるとはな)
鍔迫り合い状態になる2機。そんな渕上機を狙うイータの人型機動兵器。すると渕上機はライフルをマウントラッチに携行させると右腕に装着された腕部170ミリ単発砲を鍔迫り合う相手のコクピットにゼロ距離で撃ち込むとコクピットを蜂の巣にされた相手を蹴り飛ばした。その後、自機を狙うイータの人型機動兵器に向かってアームラーミナビームサブマシンガンと腕部170ミリ単発砲を同時に撃ち込み、コクピットを蜂の巣にすると左脇腹部にあるホルスターからラーミナビームピストルIIを引き抜き二挺持ちの構えを取るとラーミナビームブレイドを展開させ、スラスターを吹かすと“サムライスライド”でイータの人型機動兵器を斬り裂いた。
“サムライスライド”
ラーミナコーティングを使用していない第三世代機まで使われていた斬撃方法。
簡単に言うと【剣術の“刃を押し当てて引く”】をリベラシオンで使用すると言うもの。
ラーミナが軍事転用されてからは引かなくても振り下ろすだけで充分な斬撃効果が得られるのと上記の動作は関節部に負担が掛かる為第四世代機以降ではマニュアルから削除された技である。
余談だが、第四世代機から第六世代機に乗り換えても尚渕上がサムライスライドを使うのは“癖”である。
ある程度数を減らした渕上機はラーミナビームピストルIIをホルスターにしまうと再びライフルを構え、イータの人型機動兵器を撃ち抜いた。
(想像以上にキツいな。これは流石に機体をチューンして貰わないとダメか?)
※
「良い演奏だったよ!」
「素晴らしいわ」
フルートを両手に持ちながら茅野茜はゆっくりとお辞儀した。そんな茅野に拍手する“PROJECT.F グループB”のパイロット達。秋山和樹と酒井知美は拍手だけでなく声に出して茅野を褒めた。
「前線にフルートを持って来るってのはどうかと思うが良いものは良いな」
辛口混じりながらも茅野を褒める森川大輝。そんな森川の発言に畔木三郎は苦笑いを浮かべた。
フルートをケースにしまった茅野は秋山の隣に座った。
「貴方のハーモニカと合わせてみたいわね」
「ハーモニカにフルート、合うか?」
2人は顔を合わせながら笑い合った。
「あーあ、2人だけの世界に入っちゃったよ」
「前線でも息がピッタリなのは、あれが理由かもね」
畔木の発言に酒井がそう返すと森川は椅子から立ち上がると待機室から出て行った。
一方で、別の輸送機内では、PROJECT.F隊長の黒田一真とPROJECT.F大隊長の木曾梅雪が今後の方針について話して居た。
「ドイツ戦線は今野らRAINBOW.Fに任せるとして、俺達でフランス戦線を支える。が、フランス戦線は思った以上に拡大し、伸び切っている」
「それもあるが、そもそも君達パイロット含めた隊員の疲労は、限界寸前だろ」
木曾は黒田らパイロットや整備員達の疲労を気にして居た。だが黒田は引き下がらなかった。
「今が踏ん張りどきです。今退いたら、フランス戦線の士気に影響が出ます」
黒田の発言を聞いた木曾は溜息を吐くと何処か折れた様な表情で黒田を見た。
「わかった。君に任せる。俺達大隊長ってのは何かあった時の尻拭きの為に居るようなものだ。気にせず、やりたいようにやってみ。・・・ただ、」
「?」
木曾は黒田の肩に手を添えると「これだけは忘れるな」と言ったのち言葉を続けた。
「自分に嘘は付くな。辛い時は辛いと言え」
そう言うと木曾は黒田の肩を軽く叩いたのちその場から立ち去った。
黒田は木曾とは反対方向に歩くと歩く溜息を吐いた。
(好きにやれ、か。・・・有難い言葉だが、限度がないのは困るな)
※
90機近く居たイータの人型機動兵器を1人で壊滅させた渕上は長めに瞬きすると操縦桿を動かして機体を回頭させたのちスラスターを吹かせ、今野機と合流した。
「流石にキツいですね。前々から思ってましたが、国防やってた時よりも敵は強く、数も多いですね」
『“1機で100機を相手に出来る”。そんなパイロットを主力として集めたつもりよ。ただ、相手側の練度の高さは、少し想定外だったけど....』
今野の回答に苦笑いを浮かべる渕上。だが倉又は何処か受け入れられない表情を浮かべた。
『私に、私にそれだけの技量があるんでしょうか?』
『あるわ。大丈夫。自分を信じて』
「倉又少尉のサポートがあれば、百人力ですよ」
倉又を励まそうとそう言った渕上。しかし倉又には別の意味に聞こえた。
(渕上さん。そこまで私の事を....これは頑張らないと!)
渕上の意図とは何処かズレた解釈をする倉又。
そんな中、一向は中継拠点へと向かう補給部隊と合流した。
『中継拠点近くまで来てるの確認したので、出迎えに来ました』
無線でそう言いながら今野らに接近する芹沢機。
だが芹沢機が今野らに合流した途端、アラートが鳴り響いた。
『11時方向より、敵部隊接近!』
『おいおい。なんでこんな近くに急に?』
『ステルス迷彩で待ち伏せてたか?』
雨宮の報告に反応する芹沢と中井。すると渕上は表情を鋭くすると操縦桿を握り直した。
『渕上・芹沢・倉又は前に出て。中井は補給部隊に付いて』
『了解です』
『了解した』
「了解」
真っ先に飛び出す渕上機。それを追う芹沢機は渕上機を追い越すとラーミナバスターブレイドを構え、イータの人型機動兵器群に突っ込んだ。
(渕上達ばっかり良いところは取らせねぇ。副隊長として、此処は稼がせて貰う)
左腕に装着された腕部170ミリ単発砲を撃ちながら距離を詰めたのちラーミナバスターブレイドでイータの人型機動兵器を叩き斬ったり、殴り斬ったり、コクピットを貫いたりして次々と撃墜する芹沢機。グループBばかりに撃墜スコアを持ってかれて居た芹沢はまるで鬱憤を晴らす様に戦いながらもその動きにはキレがあり、無駄も隙もなかった。
それを見て居た渕上はある決断を下した。
「倉又、此処は芹沢に任せよう」
『え?でも』
「この部隊は多分囮だ。本命は多分直上から奇襲して来る」
『なんで分かるんです?』
「自分ならそうします」
渕上の発言を聞いた倉又は何処か納得した様な表情で頷いた。
そんな最中にも、芹沢は単機でイータの人型機動兵器群と戦って居た。
左腕に装着されたワイヤークローを射出し、イータの人型機動兵器のコクピットを貫いた芹沢機はワイヤークローを回収すると左から急速に迫って来たイータの人型機動兵器のコクピットに腕部170ミリ単発砲を撃ち込むとボロボロのコクピット周りにワイヤークローを射出する事なく突き刺した。
(どうした?その程度か?。だったらこっちから仕掛けるぞ)
そう思いながらスラスターを吹かし、イータの人型機動兵器群と距離を詰める芹沢。
だが芹沢を囲うイータの人型機動兵器群にはそれ程殺気は無く、ただただ芹沢を包囲していれば良い程度となって居た。
それをモニター越しに見て居た渕上はイータの第二波に備えながら本隊まで戻ってる最中だった。
『敵編隊直上!』
「ほら来た」
『渕上さんの予想ドンピシャですね』
渕上は微かに口角を上げるとペダルを踏み込み、スラスターを吹かせた。
(此処で狙うって事は、中継拠点も狙うだろうな。・・・潰しに来てるってわけか)
そう思いながら表情を鋭くする渕上。だがその予測は、最悪な形で当たる。
『中継拠点にも、敵部隊接近!』
『こいつら、囮と足止め役か!。舐めた真似を!』
悔し紛れの声でそう叫ぶ芹沢。だが渕上は冷静だった。
「大丈夫です。・・・加瀬少尉と風間少尉が居ます」
『私達は此処を片付け、補給部隊を中継拠点に届けるわよ』
※
「やっぱり来たか」
加瀬は自機からポンプやケーブルが外れたのを確認するとペダルを踏み込み、スラスターを吹かせ、機体を浮かせると、イータの人型機動兵器群に向けて機体を飛ばした。
「・・・」
イータの人型機動兵器から放たれるラーミナビームを自由自在に交わす加瀬。
通常、光の速さで飛翔するラーミナビームを交わす事など理論上は不可能だ。だが加瀬ら熟練パイロットは違う。積み重ねて来た経験から来る“予測”と実戦によって鍛えられた直感から来る“反射力”。これらから来る“先読み”であたかも避けてる様に動いてるのだ。
加瀬や渕上は痛いほど知って居た。イータと戦うにはまず“イータを知る事”。それが出来るからこそ出来る芸当とも言えた。
“敵を知りて己を知る”
この言葉の重みを知る者は戦場でも長生きし易い傾向にある。
シュミレーターを頼り、相手を知ろうとしないパイロットは逆に早死にし易い。
つまりは敵を知ろうとする新兵は長生きし易いがシュミレーターに頼る新兵は早死にし易い。と言う事だ。
「見え見えだな」
そう呟いた加瀬はラーミナソードをソードモードにすると大型ツインレールガンを前方に構え、下部砲身のラーミナビームマシンガンをイータの人型機動兵器に向かって撃ちまくり、2機のイータ人型機動兵器を蜂の巣にした。そしてブースターポットとスラスターポットを逆噴射させ急制動を掛けると同時にバックした加瀬機はすれ違い際に1機のイータ人型機動兵器をラーミナソードで上下真っ二つにした。
その後、全スラスターを吹かし、イータの人型機動兵器群に突っ込むとラーミナソードを振り回し、4機のイータ人型機動兵器を上下真っ二つに斬り裂いた。
「ッ」
5機目のイータ人型機動兵器のコクピットをラーミナソードで貫いた加瀬は左下から急接近するイータ人型機動兵器に大型ツインレールガンを振り下ろすと下部から飛び出す様に付いているスパイクブレイドで殴り叩き、イータ人型機動兵器を叩き落とした。
(バカめ。こんな近接包囲じゃフレンドリーファイヤを恐れて的に引き金も引けねぇだろうに)
経験と直感と知識で相手を読み解く加瀬。そんな加瀬に近距離で近付いと勝てる訳もなく、イータの人型機動兵器は次々と加瀬機の餌食になった。
一方で、それをずっと見て居た風間は静かに溜息を吐いた。
「こんな状態で無闇に仕掛けたら、加瀬のリズムを崩すだけね。素直におこぼれを殺らせて貰うわ」
そう言うと風間は飛行形態のまま待機して居た。
そんな風間を狙う様に数機のイータ人型機動兵器が戦隊を離脱し、風間機に襲い掛かった。
「おっ、キタキタ」
風間機は空気を切り裂きながらイータ人型機動兵器に接近すると相手の攻撃を交わしながら100ミリロングレンジマシンガンを単発で撃ち、コクピットに風穴を開けて、原型を留めた状態で2機撃墜した。
その後、イータの人型機動兵器とすれ違うと高速状態を維持しながら飛行形態から人型形態に変形すると自機の頭上から来るイータ人型機動兵器に100ミリロングレンジマシンガンを連射するとそれを撃墜した。
「ッ」
急速旋回した風間機はマイクロミサイルポットから誘導弾を発射すると自分に迫る5機のイータ人型機動兵器に誘導弾を命中させ、撃墜した。
「あとは加瀬のテリトリーかな?。・・・お?」
加瀬機に勝ち目が無いと読んだ一部のイータ人型機動兵器が風間機に接近した。
(稼ぎ時、かな?)
そう思った風間は静かに冷たい笑みを浮かべた。
風間機は両腰の大腿部に装着されたレールガンを展開すると2機のイータ人型機動兵器を仕留めた。
尚も冷たい笑みを浮かべる風間は100ミリロングレンジマシンガンを単発射撃すると丁寧且つ確実にイータ人型機動兵器を仕留めていった。
その冷たい笑みの裏側には“相手を徹底的に潰す”と言う考えが潜んでいる事を、イータは知る由もなかった。
※
加瀬と風間はイータを撃退した頃、補給部隊を引き連れた渕上らが合流した。
7機はそれぞれの場所に着陸すると補給と整備を開始した。
それを見て居たペーターは静かに拳を握った。
(日本に頼りっぱなしで良いのか....俺達は、俺は....)
悔しさの様なものに支配されかけるペーター。
他国に頼らねば自国を護れないと言う状況に、ペーターは悔しさと苛立ちを感じて居た。
その中、ゲオルクは、
「ヨッ」
「あっ、ゲオルクさん」
「大活躍じゃないか」
「いえ、まだまだですよ。周りに遅れない様にやっていきたいんですが、ね....」
「自分のペースを崩すなよ。戦闘中は尚の事、な」
「はい。心得てます」
日本語訛りを僅かに残したドイツ語でゲオルクと喋る渕上。訓練学院で英語・ドイツ語・フランス語・イタリア語を叩き込まれ、特にドイツ語とフランス語を得意とする渕上はゲオルクと話す事は苦ではなかった。(渕上は“イタリア語”が苦手です)
「中佐、妙に焦ってるんだよ」
「中佐?。・・・ああ、ペーター司令の事ですか?」
「ああ。まぁ焦る気持ちも分からんでも無いが、下手に動いて欲しくは無いな」
渕上は頷きながら整備の進むヴェヒターを見上げた。
(焦っているのは、皆同じなのかもな)
そう静かに思った渕上は“焦りを消せない自分に焦っている”事に気が付いた。
「ゲオルクさん」
「ん?」
「焦りってどうやったら無くせるんですか?」
「無理だろ」
「え?」
「感情持った者は皆焦る。焦るのは感情を持つ者の特権だ。・・・まぁ焦りを減らすんだったら」
「?」
ゲオルクは静かに渕上の方を向くと微かに笑った。
「いっぱい色んな事を経験しろ」
「え?」
「焦りの頻度や大きさは、経験の差から来るものでもある。・・・経験から来るものを大切にしろ。そうすれば、焦りは消せなくても減らす事は出来る」
そう言うとゲオルクは渕上の肩に手を添えると再び笑って見せたのち渕上の肩を叩くとその場から立ち去った。
「ゲオルクさんの言う通りですね」
「?」
渕上はゆっくりと声のする方を向いた。その視線の先には松田が居た。
「俺もそうですが、若いうちが1番経験出来ます。色々、吸収していきましょう」
「はい!」
その後、
補給と整備を終えたRAINBOW.Fのパイロットは補給部隊の護衛に着いたが行きも帰りも接敵する事なく任務を終えた。




