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第三話「“ヴェヒター”」

 補給部隊が到着するまでの間、交代で休憩を取る事となった中、渕上は輸送機内の寝室で眠りに付いて居た。

 交代の40分前に目が覚めた渕上はゆっくりベットから起き上がるとパイロットスーツを身に纏ったのち椅子に座ると机の上に置いてある手記を開いた。


【二一二七

完全に疲れが取れきれぬ中起床。あまり休めた気がしない。

4月に入ってから帰国して居ない。ずっとヨーロッパ戦線を駆け巡ってる。流石に日本が恋しくなってくる。


そういえば、最近エンゲージタイムを使ってないのに、頭に電流が流れて殺気を感じ取るなんて事が増えたな。

さっきの狙撃も殺気が電流の様に頭をよぎったから対処出来たが....アレは一体....


まぁ訳の分からん怪奇現象を考えても仕方ない。飯食って加瀬少尉と交代しよう】


 そう書き終えたのち手記とボールペンをパイロットスーツの胸ポケットにしまった渕上はアーマードベスト等を着用したのちヘルメットを手に持つと寝室を出た。

 通路を歩き食堂へ入室した渕上は先に食事をする雨宮に挨拶すると京塚美影からパック飯を受け取った。


「熱ッ」

「ボイルしたてよ。暖かいのは当然よ」

「なんで?」

「交代前にご飯食べようと思ったら、今かな?と思って温めておいたんです」

「それは、ありがとうございます」

「良いのよ。頑張って」

「はい」


 渕上は受け取ったパック飯と箸を持ってテーブルに座るとパック飯の封を開けた。


「いただきます」


 そう言ったのち生姜焼きのパック飯を食べ始める渕上。それを見て居た雨宮は食べ掛けのパック飯を持つと席を立ったのち渕上の前にたった。


「渕上さん。前良いですか?」

「ん?、??、あ、あああ、どうぞ?」


 内心軽く混乱する渕上。そんな事は知らずに雨宮は軽く笑顔になると渕上の前に座った。


(なんでわざわざ俺の前に移ったんだ?。移る理由あるのか?)


 そんな混乱を抱きながら軽く首を傾げたのち食事を再開した。そんな雨宮は一旦箸を止めると渕上の方を向いた。


「いつも思ってたんですけど、渕上さんって食べ方綺麗ですね」

「?」


 一旦箸を止めた渕上は口の中身を飲み込んだのち雨宮の方を向くと微かに笑みを浮かべた。


「母さんは、そう言うのに厳しい人でしたから」

「技術者、ですよね?。確か、今渕上さんが乗ってる機体も」

「はい。母さんと晴翔さん達が開発した機体です」

「・・・なんだが機体乗ってる時と感じがだいぶ違いますね」

「よく言われます」


 笑みを浮かべた渕上は再びパック飯を食べ始めた。それを見た雨宮も再びパック飯を食べ始めたが、思う様に食が進まなかった。そんな中、雨宮は再び食事の手を止めた。


「渕上さん、趣味ってなんですか?」

「?」


 渕上は口の中身を噛み締めながら悩むと口の中身を飲み込んだのち口を開いた。


「読書とか?。あとは、最近だとレース観戦」

「読書?。何読まれてるんです?」

「宇宙戦記モノが中心かな?」

「宇宙戦記?、へぇ〜」

「昔読んでたもの、今の現実に似すぎてて、小説読んでる実感が湧かないんですよね」

「成る程。あっ、レース観戦って言うと、やっぱりグループオミクロンですか?」

「グループデルタも観ますね」

「成る程〜。渕上さんにそんな趣味が....」


 渕上は一瞬だけ口角を挙げて反応すると再びパック飯を食べ始めた。

 そんな2人のやり取りを遠目に見て居た京塚は微かに笑みを浮かべた。


(あの2人、いい感じね。もしかしたら咲いちゃったりして)





 食事を終え、輸送機から出て居た渕上は自分の機体に向かって歩いて居た。すると渕上はヴェヒターを見上げて居たゲオルクを見つけた。


「あの」

「?。ああ、君か?このスナイパーのパイロットは」

「はい。自分です」

「名は?」

「渕上和公。階級は少尉です」

「良い名前だな」


 そう言うとゲオルクは再びヴェヒターを見上げた。


「この機体。名前は?」

「ヴェヒターです」

「成る程。“番人”か....」


 ヴェヒターを見上げて居たゲオルクは瞬きをしながら渕上の方を向くと数回軽く頷いた。


「良い目をしているな。きっと君は、いいパイロットになる」

「ありがとうございます」


 ゲオルクは微かに笑みを浮かべるとその場から立ち去った。渕上はそんなゲオルクを見送ったのちヘルメットを被ると自分の機体に乗り込んだ。


「渕上和公。階級少尉。認識番号13954」


 音声認証と網膜認証で起動するヴェヒター。機体が完全に起動したのを確認した渕上は通信回線を開いた。


「加瀬少尉。変わります」

『了解だ。あと頼む』


 無線で通信を終えた渕上は背凭れに寄り掛かると長めに息を吐いた。


『機体整備は万全だ。いつでも出せるぞ』

「了解です。ありがとうございます」


 ケーブルや給油ポンプが全て外れたのを確認した渕上はイータが来ない事を祈った。

 そんな中、松田は同じ整備士の桑原紗雪に声を掛けられた。


「整備、お疲れ様です。試作機ともなると、大変ですよね」

「2機の機体を整備する貴方も大変では?」


 桑原は微笑むと「そんな事ないわ」と返したのちデータ端末の電源を落とした。


「他の部隊は、1人で3機整備してるところもあるって聞くもの。それに比べたら、ね」

「確かにそうですね。あっそうだ。休めてます?」

「?、ええ。大丈夫よ。どうして?」

「加瀬さんの機体のクイック点検、変わろうかな、と」

「問題ないわ。・・・心配してくれて、ありがとう」


 そう言うと桑原は松田に背を向けると加瀬機の方へ歩き、クイックメンテを開始した。


(妙に包容力を感じる人だな。・・・さて、俺は少し休むかな)


 松田はそう思うと大きく背伸びした。

 そんな2人をモニター越しに見て居た渕上はそっと軽い笑みを浮かべた。


『渕上さん。聞こえる?』

「風間少尉?、どうかしましたか?」


 突然の通信に軽く動揺するも自然に返す渕上。すると無線の向こう側で風間は笑った。


『そんなに固くならないで。何かあった訳でもないんですから。こう言う時こそ、軽口を叩ける様にしないと、ね』


 渕上は鼻で笑うと苦笑いに近い笑みを浮かべた。


「確かに。敵が攻めて来てる訳でもありませんからね。ただ、此処は最前線のど真ん中です。気を緩める訳にはいきません」

『貴方って、意外と硬いのね』

「はい?」

『こういう状況だからこそ、よ』


 渕上は再び口を鳴らして笑うと呆れ笑みを浮かべた。


(コクピットの中だとどうしても、な〜....)


 そう思う渕上の耳に別回線からの通信が入った。


『準備出来ました。オペレート入ります』

「了解。敵の動きは?」

『今は特に....?』

「どうした?」

『ちょ、ちょっと待って下さい』


 渕上は眉間に皺を寄せると鋭い表情を浮かべ、操縦桿を握り直した。


『敵部隊、通過』

「通過?。・・・ッ、雨宮、敵の予測進路は?」

『えーと....ッ!此処に向かってる友軍の補給部隊です』

「中継拠点到着前に補給部隊を叩く気か!」

『どうします?渕上さん』


 渕上は瞬時に頭をフル回転させた。何が最善なのかを瞬時に考え、そして答えを導き出した。


「俺が行く!。倉又を出撃させて、俺の後に続かせろ。加瀬はこの場で待機」

『了、了解』


 渕上はモニター越しに周りに誰も居ないのを確認するとペダルを踏み込み、スラスターを吹かせ、機体をジャンプさせるとそのまま空に飛ばした。

 そんな渕上機を見送る待機中のパイロット達。だが単独で行かせる訳には行かないのは皆んながわかって居た事だった。


『単独で飛び出して行っちゃったわね。どうする?』

「・・・俺が行こう」


 コクピット内で瞑想して居た中井は坐禅を解くとシートベルトをしたのちヘルメットバイザーを降ろすとスラスターを吹かせ、渕上機の後を追った。





 渕上機はスラスターを吹かせ、空を飛んでいた。そんな渕上機に近付く機影があった。

 翔鶴改だ。

 翔鶴改は渕上機に並ぶとラーミナ太刀を構えた。


『グループリーダーが単騎先行とは、基本がなってないぞ』

「中井少尉ッ」

『まぁ後続も時期に来る。気楽にいこうぜ』

「皆んな気楽気楽って、....自分が未熟なだけか?」

『そうとも言うな』


 渕上は中井機の方を向くと苦笑いを浮かべた。そして前を向き直したのち接敵ポイントへ機体を走らせた。


『敵編隊、尚も補給部隊へ進軍中。そのまま前進して下さい』

「了解」

『了解した』


 雨宮の指示に従い、そのまま前進を続ける2機。すると渕上は微かに表情を険しくした。


『敵編隊の一部が離脱。其方に向かってます』


(やっぱりそうなるか〜)


『どうする渕上』

「え?」

『リーダー格はお前だけだ。お前が指示を出せ』

「・・・中井はそのまま先行。此方に向かってくる敵機は俺がやります」

『了解した』


 中井機は急降下したのちスラスターを最大出力で吹かし、森林地帯を低空で飛行した。

 渕上はコクピット天井から降りて来たライフル型コントローラーを両手で構えるとストック部分の肩当てに肩を当てるとスコープを覗き込み、トリガーを引いた。

 接近するイータの人型機動兵器を次々と撃ち落とす渕上機。数は思った程でもなく、渕上の素早くエイム射撃の前ではイータは自身の射撃射程内に入る事すら無理だった。

 イータの人型機動兵器を全て撃ち落とした渕上はライフル型コントローラーを格納すると操縦桿を握ったのちスラスターを吹かせ、機体を前進させた。


(さて、敵はどう出る?)


 そう思って居た矢先、イータの人型機動兵器編隊の一部が中井機に喰らい付いた。


『こっちは大丈夫だ。本隊を追え』

「了解」


 渕上機がイータの人型機動兵器編隊を追う中、ラーミナ太刀を構えた中井機はスラスターを吹かしてイータの人型機動兵器群と接敵した。

 決闘を行うサムライの様にラーミナ太刀を構えた中井機はすれ違い際に素早くイータの人型機動兵器を上下真っ二つに斬り裂いた。その後、自機に接近するイータの人型機動兵器のコクピットを貫くと刃を引き抜いたのち振り向き際にイータの人型機動兵器のコクピットを斬り裂いた。そしてスラスターを吹かし、イータの人型機動兵器の射撃を交わしながら接近したのち頭部ユニットを斬り飛ばしたのちコクピットを斜め上から貫くとそれを蹴り飛ばした。


(あれが、太刀を極めた奴の戦い方か。鳥海とは別の意味で面白みが無く、隙がないな)


 モニター越しにチラチラと中井の戦いを見て居た渕上は頷きながら前を見たのち表情を険しくした。


「雨宮。狙撃射程圏内に入った。だが向こうさんは仕掛けてくる気配がない。どうする?。様子見か?それとも仕掛けるか?」

『え?、えーと....』


 渕上は眉をピクリと動かすと雨宮の回答を待った。だが回答が返ってこないことに呆れた渕上はある決断を下した。


「イータ編隊の進路は中継拠点に向かう補給部隊で間違いないのか?」

『は、はい』

「じゃあ仕掛ける!」


 渕上はスラスターを最大出力で吹かすと機体を上昇させながら前へ進めると一定高度に達したところで機体を降下させるとライフルモードのラーミナビームスナイパーライフルIIを構えたのちイータの人型機動兵器群に向かって威嚇射撃を行った。

 すると兵器群の三分の一が渕上機向かって来た。


「喰らい付いたな。全機撃ち落としてやる」


「(エンゲージ)」


 軽く瞳を見開いた渕上は迫るイータの人型機動兵器のコクピットを正確に撃ち抜いた。が、先手攻撃でもそれ程数は減らせず、渕上機はあっという間に包囲された。

 だが渕上は怯む事なくブースターポットとスラスターポットの旋回力をフルに生かし、次々とイータの人型機動兵器を撃ち落としていった。

 渕上のキルペースを支えるのは拡張スラスターだけではない。ドーム型で全周囲見渡す事が出来る全天周囲モニター。最新鋭の対象補足センサーと射撃アシストシステム。それと銃型の操縦桿による素早いエイムと射撃。そして何より30年前の機体である第四世代機に育てられた能力と経験から来る相手の未来位置予測能力。

 これらが合わさる事で実現する短中距離戦は芸術的でありながらも無駄や隙のない完璧に近いものだった。


 “第四世代機がパイロットを育てる”


 渕上の父親昭弘がよく言って居た言葉だった。


 訓練過程を卒業したばかりにも関わらずここまで完璧に近い戦い方が出来るのは、訓練生でありながら日頃からスクランブルを熟し、日本最大の激戦地対馬を経験してるから、というのもあった。

 機体と一体となり、次々とイータの人型機動兵器を撃ち落とす渕上。だがイータの本隊は、着実に補給部隊に近付きつつあった。

 そんな中、イータの人型機動兵器群を殲滅した中井はスラスターを吹かし、イータの本隊を追った。

 次の瞬間、イータの本隊が一本の閃光によって薙ぎ払われる様に撃墜された。


「戦術レーザー?隊長か?」


 中井の予想通り、イータの人型機動兵器群を撃ち落としたのは今野機から放たれたレーザー砲だった。そして今野機は散らばったイータの人型機動兵器をレールガンで撃墜していった。

 ラーミナ兵器を好まず、旧世代の兵装で戦う今野にとって、戦術レーザー砲と伸縮式大型レールガンは非常に相性の良い武器だった。


『一気に片付けるわよ』

「了解ッ」


 中井機はラーミナ太刀を構えるとイータの人型機動兵器群に突っ込んだ。それと同時に今野機と共に現場に駆け付けた倉又機もイータ本隊の侵攻を遮る様に展開。ラーミナツインビームサブマシンガンで次々とイータの人型機動兵器を蜂の巣にした。

 一方で渕上機は、最後の1機を撃ち落とすとイータ本隊の方を向いた。


(此処は片付いたな。さて、此処からはチームプレイだ)


 エンゲージタイムを解いた渕上はスラスターを吹かすとイータ本隊の方へ向かった。

 だが今野機の奮戦と括弧撃破により渕上の仕事は残ってなかった。


「戦術レーザー砲と今野隊長の相性良すぎだろ....」


 心の声を思わず口に出してしまった渕上。それを聞いた今野は微かに笑みを浮かべた。

 だが60機近く居たイータの人型機動兵器を僅か数分で全滅させられたのだ今野機の戦術レーザー砲と伸縮式大型レールガンの貢献が凄かった。

 しかし、これで終わるほど、イータは甘くはない。


『渕上さん、敵第二波接近!。直上です』

「へ?」

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