第二話「少数精鋭」
〜回想〜
「1つ、提案があります」
「言って」
渕上は今野から共有された情報を表示するタブレット端末から目を離し、前を向くと微かに表情を硬くした。
「隊を2つに分けて下さい」
渕上が発した提案に一同はざわついた。そんな中、先に突っ込みを入れたのは中井だった。
「ただでさえ補給部隊に対して護衛が少ない。そんな状況で戦力を分けて何か勝算があるのか?」
「私は反対です。固まって護衛するのが良いと思うわ」
中井の発言に追い討ちを掛けるように風間も反対意見を述べた。だが渕上引き下がらなかった。
「敵は補給部隊には手を付けず、護衛部隊のみを狙ってます。可笑しいと思いませんか?。普通は逆な筈です」
「・・・確かにな。普通は補給部隊を狙う筈だ」
「それが補給部隊は無傷で護衛部隊は全滅....」
加瀬と倉又はそう発言したのち口元に手を添えると険しい表情を浮かべた。
「敵の狙いは恐らく、“護衛部隊を攻撃して戦力を削ぐ”事です」
「ちょっと待て。仮にそうだとして、何故隊を分ける事になる?」
「敵戦力を分散させる為です」
芹沢の問い掛けにそう答えた渕上。すると今野は僅かに険しい表情を浮かべた。
「それだと、グループBが“囮”、と言う事に成りかねないけど、それでも良いの?」
渕上は倉又と加瀬の方を向いた。倉又ははっきり頷いて返し、加瀬は渋々といった形で頷いて返した。
「3人ならやれます」
渕上がはっきりとそう返した。
それらを見て居た那須は数回頷いたのち今野の方を向いた。
「良いんじゃないでしょうか?。隊長」
「那須さん....」
「確かに少数を分散させるのはリスクがあると思いますが、不可能ではないと思います」
渕上の提案に後押しする那須。だがグループAのメンバーはイマイチ納得してなかった。勿論今野もだ。だが、
(敵の攻め方が分からない以上リスクは想定より増大する。....けど此処は、)
「わかったわ。けど、敵は何処から来るか分からないわよ」
「データを見る限りでは、左翼から来る可能性が高い。・・・敵は恐らく、戦線の端にある山脈を迂回して来て居ます。とならば、左翼から来ると可能性は大であるかと」
今野は頷いて返すと決断を下した。
「よし、行って!」
※
(進言した俺自身、データだけで断定するのには不安があった。けど、仲間が、隊長が信じてくれたお陰だ)
そう思いながらライフル型コントローラーのトリガーを引く渕上。だがそんな渕上のもとに新たな通信が入った。
『渕上さん。10時方向より、敵機多数接近』
渕上は眉を顰めた。内心、自分を狙ってるのか或いは本隊が狙いか分からなかったからだ。
「雨宮。敵は誰を狙ってる?」
『方角的に渕上さんです』
『孤立したスナイパーを狙うか』
『徹底的に潰しに掛かってますね』
加瀬と倉又が無線で呟く中、渕上は瞬時に頭をフル回転させ、戦略を練った。
「新手は俺が迎撃する。加瀬は倉又の援護に回れ」
『了解した』
「パド。左回頭」
「リョーカイ・リョーカイ」
機体を回頭させ、新手のイータ人型機動兵器群に照準を合わせた渕上はすぐさまトリガーを引いた。だが数が数。狙撃だけで捌くのは無理だった。
軽く舌打ちをした渕上はすぐさまライフル型コントローラーを格納すると操縦桿を握った。それと同時に機体制御がパドから渕上を戻ると渕上はスラスターを吹かし、機体を前に進めた。
(さぁて。此処からがヴェヒターの本領発揮だ)
ラーミナビームスナイパーライフルIIをライフルモードに変形させると、渕上機はイータの人型機動兵器群の中に突っ込んだ。
拡張スラスターの“ブースターポット”・“スラスターポット”の恩恵でスナイパー機とは思えない程の旋回能力と加速力を見せる渕上機。
ヴェヒターをまるで自分の身体のように操る渕上は次々とイータの人型機動兵器を撃墜していく。
そんな渕上機の動きを横目でモニター越しに見て居た倉又は息を飲んだ。
(凄い。あんなにも無駄がなくて美しい戦い方、私には出来ない。どうやったら、あんなにも人を魅了する戦いが出来るんだろう?)
倉又がそんな事思ってる事を知らない渕上は数が数なだけにペースを上げた。
「(エンゲージ)」
「行くぞヴェヒター!」
“エンゲージタイム”
パイロットと機体が対話しながら戦う状態。“パイロットが機体を動かす”のではなく、“機体がパイロットを動かす”事によりロスが少なく無駄のない戦いが可能となる。が、全てのパイロットが使える訳ではなく使えるのは1万人に1人かそれ以下である。
ヴェヒターのカメラアイが一瞬発光すると渕上機の動きはより鋭さを増した。さっきよりも早いペースでイータの人型機動兵器を撃墜していく渕上。
だがそう簡単に話は進まなかった。
幾ら渕上がペースを上げようとも数が数。落としても落としてもキリが無かった。だがそこで退く渕上ではない。
『(渕上。後ろだ。撃墜次第、上昇)』
「コピー」
ヴェヒターの戦術と己の技量を信じ、戦い続ける渕上。そんなコンビに、数で押すしか能がないイータが、勝てる訳なかった。
一方で、
加瀬らも負けては居なかった。
加瀬機がレールガンで倉又機を援護しつつラーミナソードでイータの人型機動兵器を斬り裂いた。
渕上に無駄が無ければ加瀬にも無駄は無かった。エンゲージタイムの弱点である“視野が狭くなる”がない状況において、加瀬は攻めと援護を臨機応変に使い分けて居た。エンゲージタイムが使えなくとも、加瀬は渕上以上の技量と経験を持って居た。
そう、エンゲージタイムは1対多の状況では有利だが、仲間を援護・指揮しなければならない時には不向きなのだ。
「数は確実に減ってる。確実に行こう」
『了解』
加瀬は半数以下になったイータの人型機動兵器群を見るや否や、表情を鋭くした。
(まだ退かないか?。まだやるか?)
パイロットであろうとも1人の人間。相手が退く事を祈りながら、加瀬や倉又、渕上は戦って居た。
ラーミナソードでイータの人型機動兵器を斬り裂くたびに、加瀬の中の苛立ちに近いものは強くなっていった。
そんな中、加瀬と倉又に一本の通信が入った。
『加瀬さん倉又さん。敵隊長機接近』
「俺が行く。倉又、此処頼めるか?」
『了解』
加瀬機はスラスターを吹かすと急降下したのちイータの人型機動兵器群の中から飛び出すとイータの隊長機に向かって飛んでいった。
レールガンで隊長機の取り巻きを撃墜し、隊長機を丸裸にした加瀬はラーミナソードを構えると隊長機に突っ込んだ。
イータの隊長機は射撃武器を投げ捨てるとラーミナビームブレイドを抜刀すると加瀬機に突っ込んだ。
(近接には近接ってか?甘いな)
そう思った加瀬は機体を上昇させるとラーミナソードを振り上げ、イータの隊長機に斬り掛かった。
イータの隊長機はラーミナビームブレイドを横に構えると加瀬機の斬撃を受け止めた。
鍔迫り合い状態になる両者。すると加瀬機はブースターポットとスラスターポットを逆噴射させてイータの隊長機から距離を離すとラーミナビームブレイドの斬撃を避けたのちラーミナソードの刃先を前に構えると全スラスターを全開で吹かしたのちイータの隊長機に突っ込むとコクピットを貫いた。そして再度ブースターポットとスラスターポットを逆噴射させると刺さったラーミナソードを引き抜き、爆散するイータの隊長機から距離を取った。
(言っただろ甘いって。スラスター出力と加速力じゃこっちが勝ってんだ。俺の機体にラーミナビームブレイドが接触する前に俺のラーミナソードが貫くのは明白だ。射撃戦なら、多少の勝機はあったかもな)
全てを計算済みで戦う加瀬。たとえ心の内側に微かな苛立ちを持って居ても、絶対に自分を崩さずに冷静さを保ち近接戦闘を行う。まさに小烏丸に相応しいパイロットであった。
『敵編隊、撤退していきます』
『第一波は7割・第二波は4割ってところか』
エンゲージタイムを解いた渕上が無線でそう言うと加瀬は長めに息を吐いた。
※
「たった3機であの大軍を撃退するとは、少数精鋭も中々やりますね」
作戦指令室でゲオルクは渕上らグループBの戦果に感心して居た。一方でペーターは険しい表情を浮かべながら口元に手を添えて居た。
「やはり、気が進まんな」
「え?」
険しい表情を浮かべながらペーターはそう呟いた。
「日本は確かに精鋭揃いだ。機体の質も桁違いだ。だが、....国防で手一杯な日本の力を借りなければ、戦線が保てないと言うのは....どうも、な」
「隊長....」
ペーターもまた険しい表情で両手を腰に添えると長めに息を吐いた。
「確かに。20機でやって出来なかった事を、たったの7機に成し遂げられるのは、気が滅入りますな」
「部下を50人以上失った。これ以上は、誰も死なせたくない。出来る事なら、日本の手を借りずにこれを達成出来ればよかったが....」
「補充戦力も....多分来ないでしょう。ハァ....」
ゲオルクは大きな溜息を吐いた。
前線維持や拠点防衛に戦力が裂かれてる以上、増援が来るのは絶望的だった。
特に50機以上もリベラシオンを失う様な危ない補給線など、見捨てられたも同然だった。
「此処を放棄して、迂回ルートを考えるべきか....」
険しい表情の中、ペーターはそう呟いた。だがペーターの中にはとある考えがあった。
“犠牲の上に成り立った補給線を放置してもいいのか?”
そんな考えがペーターの頭をよぎった。
また“何故これ程犠牲が出るまでそれを考えなかったのか?”という感情も湧き上がって居た。
「難しいところだな」
そう呟いたペーターは静かに作戦指令室から出て行った。
※
渕上らがイータとの戦いに奮闘する一方、日本は海岸付近や対馬などを除き、戦時中とは思えない程平和だった。
そして此処、立川市近くにある多摩地域のサーキット場は、今日もツーリングカーレースで盛り上がって居た。
海岸付近立ち入り禁止令により海水浴含めた娯楽を失ったせいか、サーキットで行われるツーリングカーレースの人気は沸騰。日本の各地にサーキット場が建設された。
そんな中、レーシングスーツを身に纏った髪の長い女性が自分の車を整備する女性に話しかけた。
「整備はどう、壱?」
「いつでも行けますよ。衣奈さん」
レーシングスーツを身に纏って居たのは姫浦衣奈。彼女が乗るロードスターを整備して居たのは洲崎壱である。
「衣奈さんのご要望通り、馬力は240から弄ってませんがセッティングは少し変えておきました」
「RX-8が270でデミオが285。現リーダーと先代から受け継がれた意向は未だ変わらずってところね」
そう言うと姫浦は目を瞑り、笑みを浮かべた。するとゆっくりと立ち上がった洲崎は姫浦にある問い掛けをした。
「そうだ。先代が紹介したいって言ってた男の人の話、どうなってるんですか?」
「それがね....海外飛び回って帰国してないんだって。職業はパイロットらしいんだけど、パイロットの中でもかなり忙しい部隊に配属になったらしいのよ」
「それは大変ですね。どんな人だって聞いてるんですか?」
「“変なところ硬いけど根は優しく良い人”だ、そうよ」
「へ〜、早く会えると良いですね」
「そうね」
ロードスターの屋根にそっと手を乗せた姫浦はそのまま屋根を撫でた。
「早く、会ってみたいわね」
「先代の紹介なら、間違いないですね」
姫浦は頷いて返すとアナウンスに耳を傾けたのち、ロードスターに乗り込んだ。
「戦果を期待してます。衣奈さん」
「ええ。任せておいて」
そう返した姫浦はアクセルを踏み込むとロードスターをスタート地点まで前進させた。
(先代の紹介の人。一体どんな人なんだろ)
※
大きなくしゃみをした渕上は荒い息を吐くと姿勢をすぐに戻した。
『大丈夫ですか?風邪、ですか?』
「いや、誰か噂してる」
倉又からの無線通信にそう返した渕上は再び息を吐いた。
(誰だ?。諏訪部か....石堂辺りか?)
護衛任務からの帰り道、そんな事を思いながら操縦桿を握り直すと身体の内側から湧き上がってくる疲れを封じ込めた。
『気を抜くなよ。帰り道とはいえ、なにか仕掛けてくる可能性はある』
「わかってますよ加瀬少尉」
『と言うより、それを1番警戒してるのは渕上さんだと思うわ』
「・・・ッ!」
今野がそう補足した瞬間、渕上は鋭い殺気を感じ取り右を向いた。
「・・・」
表情を鋭くした渕上はゆっくり前を向くと軽く目を見開いた。
「コハク。バリアアサルト、フレンドリースタンバイ」
「リョーカイ・リョーカイ」
パドの隣に居るもう1つの球体型AIサポートロボ“コハク”に指令を出した渕上はもう一度右を向いた。
次の瞬間、山岳地帯の方で何かが光った。
『ッ!風間さん!』
『しまっ』
光った瞬間飛来する一筋の閃光。それは風間機目が掛けて飛翔したがそれが風間機に当たる事はなかった。
『え?』
風間機の右側にはバリアの様なものが展開されて居た。
「間に合いましたか」
『流石はヴェヒター。番人って事だけはあるわね』
今野の一言を前に微かに笑う渕上。
渕上機から展開された【遠隔操作型ラーミナビームシールド発生器“バリアアサルト”】から展開されたラーミナビームシールドが風間機を護る中、山岳地帯から放たれる閃光は別の機体を狙った。が、それが当たる事はない。何故なら展開されたバリアアサルトは全部で7基。RAINBOW.Fパイロット全機をカバーするには充分だった。
「雨宮、敵は何処だ?」
『探知不能。恐らくステルスかと』
「面倒だな」
そう言いながらライフル型コントローラーを降ろした渕上は両手でそれを構えると放たれる閃光を元にイータのスナイパーを探しだした。
(・・・ッ、見えた)
渕上はトリガーを引いた。すると渕上機が放ったラーミナビームの着弾地点から何かが飛び上がった。
(逃すか!)
渕上はそれを捉えると躊躇なくトリガーを引いた。
1発目はイータスナイパーの左脚とスナイパーライフルを破壊。2発目がトドメになった。コクピットを貫き爆散した。
「タンゴダウン」
『流石ね』
『流石です渕上さん』
ライフル型コントローラーを格納させた渕上は操縦桿を握るとコハクにバリアアサルトの回収を命じた。
『補給線が相当ボロボロね。暫くは、補給部隊の護衛が任務になりそうね』
今野の言う通り、帰投した彼らにペーターが依頼したのは補給部隊第二陣の護衛だった。




