第三十六話「久々の敗北」
【10月1日 木曜日】
今野と芹沢はシュミレート訓練を受けて居た。今野が標的を戦術レーザーで薙ぎ払うとそれに追従する様に芹沢機が突っ込み、標的を粉砕した。
「?」
そんな中、今野と芹沢のコクピット内メインパネルにあるメッセージが表示された。
「2対1のオンライン交流戦?。どうする隊長」
『面白そうね。受けてみましょ』
2人が了承を押すと2機の目の前に1機のみた事ない可変機が現れた。それを見た2人は目を見開いた。
(凄まじい迫力とオーラだな。こりゃ本気で行かないとまずそうだな)
「(エンゲージ)」
芹沢機はラーミナバスターブレイドを構えると可変機に突っ込んだ。可変機は飛行形態に変形すると急上昇した。
「待ちやがれ!」
腕部170ミリ単発砲を撃ちながら可変機を追う芹沢。だがその可変機は恐ろしく早かった。
可変機は大きくターンをし、芹沢機に突っ込むと人型形態に変形すると同時にラーミナビームブレイドを抜刀し、すれ違い際に芹沢機の右腕を切断した。
「なっ!」
(この速さをコントロール出来る技量に、なんて度胸だ!)
芹沢機は右脚爪先からラーミナビームブレイドを展開すると可変機に斬り掛かった。すると可変機も右脚爪先からラーミナビームブレイドを展開すると芹沢機の斬撃を受け止めた。すると可変機はラーミナツインビームサブマシンガンを構えると芹沢機の右膝にそれを撃ち込み、物理的に切断した。
「ん、だと....」
動揺する芹沢。だが可変機の攻撃を遮る様に2発の弾頭が可変機に迫った。可変機をそれをヒラリと避けると飛行形態に変形し、急上昇すると今野機に迫った。
「ッ」
『(“エンゲージ”)』
今野機は戦術レーザー砲を照射するが可変機はそれを交わし続けた。今野機は伸縮式大型レールガンを撃ち続けるながら時に戦術レーザー砲を放つが可変機には全く当たらない。
(ッ!、不味い)
今野はこのまま可変機が接近すると読んだがそれは外れた。可変機は今野機とある程度近付くとそのまま急上昇したのち急降下するとラーミナビームブレイドを抜刀しながら人型形態に変形すると今野機の伸縮式大型レールガン・戦術レーザー砲の砲身を斬り裂いた。
軽い悲鳴をあげる今野。すると可変機は左脚爪先からラーミナビームブレイドを展開するとサマーソルトキックを繰り出し、今野機の右腕を切断し、今野機を蹴り飛ばした。
「隊長!野郎!」
芹沢機はワイヤークローを射出した。だが可変機はそれを白刃取りの如く両手受け止めるとそのまま旋回し、芹沢機を引き釣り回した。
「なんてパワーだッ」
芹沢機はそのまま地面に叩き付けられた。可変機はワイヤークローから手を離すと急加速して芹沢機に突っ込むとラーミナツインビームサブマシンガンを構え、連射すると、芹沢機の左脚爪先を破壊したのち両脚爪先からラーミナビームブレイドを展開すると芹沢機の左腕を地面ごと斬り裂くとコクピットを貫いた。
「俺が、負けた....」
すると今野機がアームラーミナビームサブマシンガンを撃ちながら可変機に近付いて来た。今野機はある程度距離が縮まるとラーミナビームブレイドを抜刀し、可変機に斬り掛かった。可変機は両手にラーミナビームブレイドを抜刀するとそれをヒラリと交わし、右手に構えるラーミナビームブレイドで今野機の左腕を切断すると左手に構えるラーミナビームブレイドでコクピットを貫いた。
「ァァァァ....」
(なんて手際。....完敗ね)
可変機は両者が戦闘不能になったのを確認するとその場から消えた。
※
コクピットから降りた今野と芹沢は顔を合わせると互いに歩み寄った。
「なんだったんだ、アレ....」
「あんな高性能な機体を巧みに操る。只者じゃないわね」
今野と芹沢は腕を組むと考え込んだ。そこへ岬が飲料水を持ってやって来た。
「お疲れ様です。どうぞ」
今野と芹沢は岬から飲料水を受け取るとそれを数口飲んだ。
「今お二人が戦った可変機。中部地方で異名持ちパイロットを倒して回ってた機体ですね。噂によると、ラーミナドライブ搭載の試作機らしいですよ」
岬の話を聞いた今野と芹沢は頷いて返すと唸った。
(ラーミナドライブ....あれ程強力だとはな....)
芹沢がそう思ってる中、中井と風間がヘルメットを被りながら格納庫へやって来た。
「今野隊長、芹沢副隊長。顔色がわるいですけど、どうかしたんですか?」
芹沢は2人に今あった事を話した。
「そんな事が....」
「2人がそんなにあっさりやられるなんて....てか、そんなパイロット、居る訳....」
「・・・退役したパイロット」
「え?」
風間は岬の方を向いた。岬はゆっくりと顔を挙げると口を開いた。
「最近、退役したパイロットを一時複隊させて、試作機のテストパイロットさせてるって噂があって」
「・・・退役したパイロット、か....」
「だが、退役したって事はブランクがある。あれ程の能力を出せるとは、正直考え辛いな」
「あくまで、噂です」
芹沢は口元に手を添えて考えた。
「まっ、考えても仕方ない。風間、行くぞ」
「はい」
2人は自分の機体に乗り込むとシュミレーターを起動させ、訓練を開始した。
※
【10月2日 金曜日】
更衣室でパイロットスーツに着替えてる渕上は先日の親との電話を思い出して居た。
〜回想〜
『それって、貴方の元カノの徳重さんの事』
「そう。そうなんだ」
『・・・貴方ねぇ』
「ん?」
『大方その子を、研修生として面倒見てくれないか?って相談でしょ?』
「まぁ、そんなところかな」
『そういう無駄な甘さは、戦場では命取りになるわよ』
「そうかもしれない。けど、放っておけないんだ」
『貴方ね。・・・彼女が真面目に予備校通ってたら、手を打とうとか考えるけど、今の彼女を救う気になんて、誰もなれないわ』
「そうなのか?」
『徳重さん、予備校に最初の1週間しか来ないで、その後は遊び歩いてるって話よ』
「・・・え?」
『知らなかったの?。こっちじゃかなり有名よ。悪い意味で』
「・・・」
『援助交際サイトに自分から募集かけてる様な子よ。貴方が関わるべきではないわ』
「....」
『要らない甘さは捨てて、貴方は自分がやるべき事をしなさい』
「わかった。そういう事なら、俺は彼奴を気にしない」
『それが良いわ』
「・・・馬鹿みたいだな、俺」
『知らなかったんでしょ?仕方ないわよ』
「俺は、俺のやるべき事をやるよ」
『そうしなさい』
〜回想終了〜
着替えを終え、ドアを閉めた渕上は込み上げて来る何かを抑える様に拳を握った。
(余計な甘さは、自分だけでなく、仲間をも死なせる....)
息を吐きながら拳から力を抜いた渕上は更衣室から出て行った。廊下を歩いて格納庫に入った渕上は通路を歩きながらヘルメットを被った。
「よぉ渕上。お前も自主練か」
「はい」
加瀬は渕上の肩を一回叩くと自分の機体に乗り込み、コクピットハッチを閉めた。何気ない気持ちでそれを見送った渕上は自分の機体に乗り込むとコクピットハッチを閉め、シートベルトを閉めるとシュミレーターを起動させた。
シュミレートには既に倉又も参加しており、加瀬含め3人で訓練を行う事となった。
数分後、
「ん?」
『3対1のオンライン交流戦?』
『昨日今野隊長達が言ってた奴でしょうか?』
『面白い。受けてやろうじゃないか』
「・・・」
2人より数テンポ遅れて交流戦を受理した渕上は操縦桿を握り直した。
すると3機の前に1機の可変機が現れた。
『噂の奴か。面白い』
加瀬機はレールガン下部のラーミナビームマシンガンを撃ちながら可変機を距離を詰めた。それに続く様に倉又機もラーミナツインビームサブマシンガンを撃ちながら可変機と距離を詰めた。可変機は飛行形態に変形すると急上昇したのち加瀬機と倉又機を避けると急速降下しながら渕上機に襲い掛かった。
「・・・」
渕上機はライフル下部のラーミナビームマシンガンを撃ちながら機体を上昇させるとブースターポットとスラスターポットを逆噴射させながら可変機と距離を取ろうとしたが、可変機は非常に速く、振り切れるものではなかった。渕上機は機体姿勢を立て直し、圧縮されたラーミナエネルギーを解放し、急加速するとそのまま急上昇した。当然、可変機もその後を追う。
(此処だ)
渕上機は拡張スラスターを逆噴射させ、急制動を掛けると可変機とすれ違う瞬間を狙って引き金を引いた。しかし渕上機が放ったラーミナビームはスレスレのところで回避され、可変機に当たる事は無かった。
「・・・」
しかし可変機は今の回避で体勢を崩した。それを加瀬が見逃す筈無かった。加瀬機はラーミナソードで可変機に斬り掛かった。可変機は人型形態に変形しながらラーミナビームブレイドを抜刀すると加瀬機の斬撃を受け止めた。
(高出力なラーミナビームブレイドだな。ラーミナドライブ搭載機か?)
可変機がラーミナドライブ搭載機である事を見抜いた渕上は攻め方を変えた。ライフルをマウントラッチに携行させるとホルスターからラーミナビームピストルIIを引き抜き、距離を詰めた。すると可変機は加瀬機を弾き飛ばすと別方向から距離を詰める倉又機にラーミナビームブレイドを投てきすると倉又機の右腕を肩ごと切断した。
(関節部が斬れる様に正確に投てきした。なんて腕前だ)
渕上は表情を鋭くした。その間にも可変機は加瀬機の左腕関節部をラーミナツインビームサブマシンガンで正確に撃ち抜き、破壊・切断した。
『ガッ!』
(只者じゃないなあの腕。こっちも本気で行くか)
「(エンゲージ)」
渕上機はラーミナビームブレイドを展開しながら可変機に突っ込んだ。すると可変機は渕上機の斬撃をヒラリと交わすと渕上機を蹴り飛ばした。
『(近接戦は不利だな)』
(だったら、)
渕上機はホルスターにラーミナビームピストルIIを納めると再びライフルを構えた。
倉又機はラーミナビームブレイドを抜刀すると可変機に突っ込んだ。可変機は倉又機の斬撃を左脚爪先から展開したラーミナビームブレイドで受け止めた。
(そこだ)
渕上機は可変機の左脚爪先目掛けてラーミナビームを放った。だが可変機は右脚爪先からラーミナビームブレイドを展開すると渕上機が放ったラーミナビームを斬り裂く様に受け止めた。
すると可変機は左膝を曲げ、倉又機の体勢を崩すと右脚爪先のラーミナビームブレイドで倉又機のコクピットを斬り裂いた。
(上手い)
『なんて奴だ』
可変機は飛行形態に変形すると加瀬機と距離を詰めたのち人型形態に変形しながら両脚爪先からラーミナビームブレイドを展開すると加瀬機に斬り掛かった。加瀬機はその斬撃をラーミナソードで受け止めた。すると可変機はラーミナビームブレイドを抜刀するとそれを逆手に構えた。
加瀬は瞬時に感じ取った。“不味い”、と。
拡張スラスターを逆噴射させて可変機から距離を取った加瀬機だったが可変機のラーミナツインビームサブマシンガンに右脚スラスターポットを破壊され、バランスを崩したところを、コクピットを貫かれた。
残ったのは渕上だけだった。
「認識番号以外アンノウン。一体何者なんだ?」
(13600?。この認識番号何処かで....)
渕上は表情を鋭くするとトリガーを引きながら可変機と距離を詰めた。すると可変機は飛行形態に変形して急上昇すると人型形態に変形したのち4基の小型機を分離させた。
(可変機でファングだと!)
『(これは流石にきついな)』
渕上はライフルを投てきするとホルスターからラーミナビームピストルIIを引き抜き、ラーミナビームマグナムでファングを撃ち落とした。渕上の狙い通り、ファングの1基は投てきしたライフルに命中。残った3基のうち、1基は撃ち落としたが残り2基は渕上の予想を上回る挙動を見せ、簡単には撃ち落とさせてはくれなかった。
『(渕上!後ろだ!)』
渕上は機体を降下させると可変機の斬撃を避けた。すぐさまラーミナビームブレイドを展開した渕上機は可変機に斬り掛かったが、可変機はそれをヒラリと交わすと爪先からラーミナビームブレイドを展開し、渕上機の左腕を切断した。
(やばい。片腕だけじゃファングが!)
辛うじて1基撃墜したが残った1基が右脚に命中、スラスターポットごと右脚を吹き飛ばした。
体勢を崩す渕上。可変機はそれを見逃さない。可変機はラーミナビームブレイドを構えると渕上機のコクピットを貫いた。
※
「・・・」
私服姿でコクピットに乗って居た男は一瞬口角を挙げると鼻を鳴らして笑った。
(意外に出来るが、まだまだ俺には届かねぇな〜ぁ)
そう思った男はシートベルトを外し、コクピットハッチを開け、機体から降りた。
「どう?この機体は?」
「満。やっぱりファングは要らねぇと思う」
「やっぱりね」
男は煙草を一本取り出し、それを咥えると火を付けた。
「良い機体に仕上がったな。これなら実戦も問題ねぇだろう。・・・俺の仕事は終わりだ」
「わざわざありがとうね」
渕上満は男に礼を言った。
男は煙草を咥えながら通路を歩くと再び笑みを浮かべた。
(でもまぁ、ファングを使わなければならない状況を作り出した事、そして最新鋭にチューンされたファングを撃ち落とした事は、素直に褒めてやる)
そう思いながら男は格納庫を出ると煙草を咥えたまま煙を吐いた。
「出来る事なら、あの子に載せたかったわね」
「彼奴はスナイパー特化だからな。可変機は似合わねぇよ」
松田遼太郎は渕上満にそう言った。渕上満は微かに口角を挙げると機体の最終調整に入った。
※
「完敗だな」
シュミレーターを終了させ、背凭れに寄り掛かる渕上。何回か深呼吸したのちシートベルトを外した渕上はコクピットハッチを開けると外に出た。
「まさかファングまで搭載してるとはな」
加瀬は渕上にそういうと手摺りに寄り掛かった。
「・・・あっ、」
「?」
渕上は思わず声を漏らした。
「確か、元パイロットだった人間が乗ってるんでしたよね?」
「そういう噂らしいな」
渕上は鼻を鳴らしたのち口角を挙げると通路を歩き始めた。
(あの認識番号で退役したパイロット....父さん、俺一生アンタに勝てないな)
渕上は全てを察した。自分を、加瀬を、倉又を、今野を、芹沢を倒したのは、自分の父親である渕上昭弘である事を。
「・・・」
「加瀬さん。渕上さんは?」
「....彼奴には、わかったらしいな」
「え?」
加瀬は鼻を鳴らして笑みを浮かべると、再び機内に乗り込んだ。
渕上は京塚からボトルを受け取ると中身を数口飲んだ。
(久々の敗北。まさか父さんだとは、ね〜)




