第三十四話「兵器の恐ろしさ」
『チャージ90%』
渕上はコクピット天井からライフル型コントローラーを降ろすとそれを両手で構え、アメリカ軍を攻撃するイータ人型機動兵器を撃ち抜いた。
(狙い撃つ!)
渕上は只管トリガーを引きながらイータ人型機動兵器群との距離を詰めた。
そんな中、倉又機はラーミナツインビームサブマシンガンを撃ちながら只管飛び回って居た。
「あともう少し。もう少しで」
『ピーターソン隊が全滅!。防衛線に穴が開くぞ』
「ッ!」
倉又はすぐさまスラスターを吹かした。それと同時に渕上機の狙いも移った。
長射程砲に近付こうとするイータ人型機動兵器に次々と閃光が貫いた。
『クッソ。たった150機の敵機も抑えられないとは....』
フィリップの悔し紛れの無線が全員の耳に届いた。
それは無理もなかった。アメリカ軍は最前線国家ではあるがドイツやフランスとは違い“防戦鉄壁”という攻められた時のみ戦うという戦法を取っている。だから今回の様な大規模攻勢には慣れて居ないのだ。(日本のパイロットが練度高過ぎると言うものあるが....)
『クッソ。チャージが95%から動かねぇ!』
『急げ〜、急いでくれよ』
『デイビス隊がやられた!』
『次から次へと敵がやって来て、守備隊の援護に向かえない』
『厄介だな』
倉又は微かに表情を険しくするとイータ人型機動兵器の前に立ちはだかった。そしてホルスターから100ミリサブマシンガンを引き抜くと二挺持ちでイータ人型機動兵器を次々と蜂の巣にしていった。キルペースは上がったものの人間の手で二挺持ちをするのは限界があり、精度は下がり、その分弾薬の消耗を早めた。
「流石に二挺持ちは疲れるな。けど、此処で退くわけにはいかない」
『その必要はない』
「え?」
ラーミナビームスナイパーライフルIIをライフルモードにしながら戦線に突っ込んで来た渕上は瞬く間にイータ人型機動兵器を撃墜していった。
『倉又、二挺持ちは、あまりお勧めしないぜ』
倉又は微かに笑みを浮かべると100ミリサブマシンガンをホルスターに納めた。白煙の上がるラーミナツインビームサブマシンガンを構えた倉又機は、渕上機の援護のもと前に突っ込んだ。だがイータ人型機動兵器の残りは少なく、突っ込んだ30秒後にはイータ人型機動兵器は全滅して居た。
『チャージ97!。もう少し、もう少し!』
『北から新たな敵、機数100』
「俺が行く」
渕上機は圧縮して居たラーミナエネルギーを放出すると一気に加速し、前に出た。
(にしても、兵器とは恐ろしいものだ。とんでもねぇ殺戮だぜ)
1桁対多数の戦闘を多く経験して来た渕上の脳裏に、ふとそんな考えが過ぎった。リベラシオンと言う兵器の恐ろしさを今一度実感した渕上はフゥーッと細い息を吐いた。
(何故、今になってこんな事を....)
渕上は操縦桿を微かに強く握ると何処か哀しげながらも鋭い表情を浮かべた。
そんな渕上の元に100機ものイータ人型機動兵器が押し寄せた。
(来るなら来い。国産リベラシオンの恐ろしさ、見せてやる)
渕上機はラーミナビームを撃ちながはイータ人型機動兵器群の中に突っ込んで行った。数機撃破するも瞬く間に包囲される渕上機。だが渕上は怯まなかった。こんな事、日常茶飯事だったからだ。
拡張スラスターのブースターポットとスラスターポット、そして放出されるラーミナエネルギーの恩恵をフルに活かしながら素早く機体を回頭・旋回させ、次々とイータ人型機動兵器を撃墜していく渕上機。
運用する人間によって、改良を加える人間によって此処まで変わる。これが兵器の恐ろしいところの1つだった。
『チャージ99%。もどかしい....』
渕上は表情を鋭くすると操縦桿を動かしながらトリガーを引きながらも何処か作戦の成功を確信して居た。そんな中、イータ人型機動兵器は可笑しな動きを始めた。渕上機に対して攻撃を辞めると長射程砲に向かおうとした、と思えばその場で立ち尽くしたり、何処かあたふたしたり、何か変だった。
(なんだ?。何をしようとしてる)
イータ内部に何かしらの混乱がある事を見抜いた渕上は眉間に皺を寄せた。
『チャージ100%!。発射準備よし!』
『撃て!』
『発射!』
電磁長射程砲から砲弾が放たれた。
するとイータ人型機動兵器は何故か攻撃を辞めた。それを見た渕上は何かを察した渕上はモニター越しに北西を向いた。
次の瞬間、
凄まじい閃光と共に巨大な爆発が起きた。
「おい待てよまさか!」
渕上は砲弾の正体をすぐさま見抜いた。
すると着弾地点から巨大な爆炎と巨大なキノコ雲が上がった。
そう、砲弾の正体は“核”。核砲弾だったのだ。
『こっちまで爆風が、なんだ⁉︎。ッ!』
『あ、アレって....』
「・・・核、兵器....」
巨大なキノコ雲を前に一同は固まった。イータさえも、固まって居た。
『嘘....だろ....』
『俺達は、核を撃っちまった、のか....』
『?、砲弾の正体を知らなかったの?』
『・・・話はデブリーフィングでだ』
『イータ、撤退していきます』
『追撃は禁止。各機、帰投するわよ』
撤退するイータを見送った渕上はもう一度モニター越しに砲弾の着弾地点の方を向いた。
巨大なキノコ雲は、原型を留めたままどんどん高く、巨大になっていった。
そんな渕上機に、加瀬機が接近した。加瀬は渕上機の隣に立つとキノコ雲を見つめた。
『俺達は、一体何を護ったんだ?。こんなモノを護るために、俺達は....』
「これを護るために、ピーターソン中尉は、死んだのかよ....」
渕上は表情を引きづらせるせると今にも涙を流しそうな顔をした。
“日本人が核兵器を護る”。なんとも皮肉で、兵器の恐ろしさを再認識させるミッションは、こうして終わった。
※
帰投し、帰還した渕上は心此処に在らずだった。今野に呼ばれ、重たい脚を引き摺るかの様にブリーフィングルームに向かった渕上は部屋に入ると自分の席に座った。
「・・・集まったな」
ジェラルドは椅子から立ち上がると深い溜息を吐いた。
「戦死者を24名も出したが、作戦は成功。と、言いたいところだが....」
再び深い溜息を吐くジェラルド。すぐさま今野は椅子から立ち上がった。
「何故核なんて撃ったんです!。何故核を、核兵器なんかを護らせたんですか!」
“日本人が核兵器を護る”。そんな事はあってはならない事だった。ジェラルドはゆっくりと顔を上げると全員と目を合わせた。
「言い訳になるかもしれないが、我々も“広範囲破壊の為の最新鋭砲弾”、と言う事しか聞かされてなかった。あれが核だとは、我々も知らなかった」
「現に、核兵器を表す黄色と黒のあのラベルも、貼ってなかったからな」
ジェラルドの発言を助ける様にフィリップはそう言った。
「正直、俺自身が一番驚いてる。しかも、威力からしてかなりランクの高い核兵器だ。・・・核だと知ってたら、」
「撃たなかった、か?」
怒りを内側に隠しながらそう言った高木はギロっとジェラルドに鋭い視線を送った。
「少なくとも、日本人の前で使う事はしなかった」
「核は使ってはならない兵器!たとえそれがイータだとしても、・・・使ってはいけなかった」
「・・・“アメリカが”使ったのは、今回が初めてだ。・・・本当に、申し訳ない事をした」
ジェラルドは深く頭を下げた。今野はそれ以上何も言わなかった。ジェラルドにぶつけても、何の意味も無かったからだ。
重たい空気がブリーフィングルーム内に伸し掛かる中、ジェラルドは頭を挙げると哀しげな表情で息を吐いた。
「核兵器を使った国から滅んでいった。・・・この国が同じ末路を辿らない事を祈りつつ、戦死者達に、弔いを。....解散」
アメリカ軍パイロットは椅子から立ち上がりジェラルドに敬礼すると、その場から立ち去り、ブリーフィングルームから退出した。しかしRAINBOW.Fの面々は立ち上がらず、その場に残った。
「・・・」
ジェラルドは机に両手を突き、息を吐くと、ゆっくりと顔を挙げた。
「核兵器を護らせて、本当にすまなかった」
「・・・ピーターソン中尉達は知ってたんですか?」
「知らない。何度も言うが、俺ですら知らなかった事だ」
「・・・」
渕上は黙り込んだ。頭では分かって居た。このままジェラルドと話して居ても埒が明かない、と。だがそれでも、彼らは椅子から立ち上がる事が出来なかった。
数分後、
「まっ、これ以上ジェラルドに対して何か言っても埒が明かねぇだろ。・・・此処は、退くとしよう」
高木はそう言うと椅子から立ち上がり、ブリーフィングルームから出て行った。それに続く様にRAINBOW.Fの面々は次々とブリーフィングルームから出て行った。
※
「晴翔さん」
「?、渕上。どうかしたか?」
「機体は?」
「核兵器の影響は何も受けてない。被爆する事もないだろう」
そう言うと松田はヴェヒターを見上げた。
「護りたくはなかったですね。ですが長射程砲が破壊されれば、」
「俺達は間違いなく死んで居たでしょうね」
松田にそう返された渕上はゆっくりとヴェヒターの方を向くとゆっくりと見上げた。
「爆風が、俺達の居る所まで来ましたよ」
「核とは、恐ろしいモノですよ」
「核だけじゃない。兵器は皆んな、恐ろしいです。・・・今日機内でそう思いました。俺はとんでもない大量殺戮兵器に、乗っているのだ、と」
「スナイパーには不似合いな化け物改修加えましたからね〜」
「いえ、そう言う話ではなく」
「分かってますよ」
松田はゆっくりと渕上の方を向くと軽い笑みを浮かべた。
「ひとまず、機体に問題が無いなら良かった。引き続き、整備と補給、頼みます」
「はい」
渕上は通路を歩くと格納庫から出て行った。それを見送った松田は溜息に近い息を吐きながら身体から力を抜いた。
「お疲れ様です晴翔さん」
「ッ、ああ。桑原さん。お疲れ様です」
桑原は手摺りに寄り掛かると松田の方を向いた。松田は大きく背伸びをしたのち手摺りに寄り掛かった。
「心が和みますね。桑原さんの側に居ると」
「え?」
「また帰国したら、一緒にでかけましょう」
「ッ、はい」
(デートって、言って欲しいな....それと下の名前で呼んでるのに無反応なんて....)
松田に見えない様に軽く不貞腐れる桑原。すると松田はデータ端末を操作したのち桑原の方を向いた。
「渕上は、」
「え?」
「彼は不安定ですが、優秀なパイロットです。不安定だからこそ、誰かが支えてやらないと、駄目なんです」
「・・・」
「俺に、出来ているんでしょうか....」
「晴翔さんは、充分渕上さんを支えていると思います。私が、保証します」
「桑原さん....」
「そしてそんな晴翔さんを、私が支えます」
「・・・」
松田は不意を突かれた様に笑うとヴェヒターを見上げた。
「そうですか。なら、宜しく頼みます」
「ッ、はい!」
※
「あれ?煙草売り切れかよ」
基地内煙草自販機の前で軽く舌打ちしたフィリップは煙草の空箱をゴミ箱に捨てるとその場から立ち去ろうとした。
「ん!」
喫煙所に入ろうとしたジェラルドがフィリップに煙草を差し出した。
「銘柄は違うが、一本付き合え」
「・・・どうも」
フィリップはジェラルドが差し出した煙草を一本抜くとジェラルドと一緒に喫煙所に入って行った。
2人はまるでシンクロしてるかの様に同時に煙草を咥え、同時にライターを取り出すと、同時に火を付け、同時に煙を吐いた。
「第五独立遊撃部隊の連中には、申し訳ない事をしてしまいましたね」
「そうだな。だけどまぁ、・・・お前だから言うが作戦は成功した」
そう言うとジェラルドは煙草を指で咥え、口から離すと口から煙を吐いた。
「多くの部下を失った。だが、敵の軍港は潰した。まぁ多分、人は住めなくなっちまったかもしれないがな」
ジェラルドは煙草を咥えると吸い、咥えたまま煙を吐いた。
「彼らの怒りもわかります。知らなかったでは、済まない事も....」
「兵器とは、恐ろしいモノだな。なんで、イータなんて現れたかな....」
フィリップは煙草を咥えると吸ったのち、煙草を摘み、口から離すと、煙を吐いた。
「イータが現れなければ、第四次世界大戦が勃発してましたよ。ある意味イータと言う全人類共通の敵が現れたからこそ、世界は一つに団結してる。・・・イータが居なくなれば、再び世界は分断され、荒れ、争うでしょう」
そう言うとフィリップは煙草を咥えた。灰皿に灰を落としたジェラルドは煙草を咥えるとボォーッと天井を見上げた。
「人はなんでも武器にしてしまう。火でも石でも、木でもなんでも。それだけでは飽き足らず、兵器と言う殺戮マシンを産んだ。その兵器が、人類の盾になってるうちは良いが、な」
それを聞いたフィリップは煙草を咥えながら苦笑いを浮かべた。
「リベラシオンの銃口が、実戦で人に向かない事を祈るばかりです。あれは、イータに対抗する為の切り札。アレだけは、人殺しに使ってはならない」
「そうだな。けど、それは俺達以上に、日本人がよく分かってる事さ。いや、日本人が一番強く望んでるだろうよ」
そう言うとジェラルドは煙草を摘み、口から離すと煙を吐き、再び煙草を咥えた。
※
【9月26日 土曜日】
作戦終了の翌日、高木はRAINBOW.F全員を集めた。
「集まったな。これからの方針を伝える」
高木の一言を前に全員が静まり返った。
「一旦帰国し、翼を休める。そして10月上旬に行われる大規模な輸送作戦。これの護衛に付く」
「大規模輸送作戦?」
「アメリカで開発された新型兵器を、フランスに届ける。北大西洋横断、と言うわけだ」
「また核じゃないだろうな」
芹沢の発言に一同は重たい空気に包まれる。が、高木はすぐさま反論した。
「確かに輸送物資は昨日の作戦で使われた電磁長射程砲だ。だが使う砲弾はフランス軍が用意する。フランス軍が核を使う、と言う事はまずないだろう」
「外はアメリカ、中はフランスって訳か....」
渕上の発言に高木は頷いて返した。
「と、言う訳だから、総員帰国の準備をしろ。解散」
「・・・長射程砲なんて、何に使うんです?」
「ドーバー海峡を護るイータの超大型兵器“オンブル・ア・ベット”に対する対抗兵器、と言ったところだ」
「オンブル・ア・ベット....」
「まぁ詳しい事はフランスに着けば分かるだろう。今はとにかく帰国の準備だ」
全員が「了解」と返すと一同は解散した。
「フランス戦線。秋山達も、忙しくなりそうだな」
「まっ、多分俺達も巻き込まれるだろ。多分、ただ運んで終わり、とはならないと思うぜ」
渕上に加瀬はそう返した。
昨日見た核のショックが抜けきらない中、一同は帰路に着く準備を始めた。
※
【9月28日 月曜日】
帰国し、寮の自室で蹲って居た渕上は携帯の着信に目を向けると、そっと携帯を手に取った。
(衣奈さんからか)
そう思った渕上は通話に出た。
「はい」
『あっ、和公。繋がってよかった〜』
「・・・」
『帰国したなら帰国したって連絡しないよ〜。私達、付き合ってる仲でしょう』
「ごめん。ちょっと....」
『ん?、どうかしたの?』
「ちょっと、いや仕事でかなり嫌な事があって....」
『アメリカに行ってたんだよね、大丈夫?』
「うん。大丈夫」
『本当に?』
「うん。今、光が見えたから」




