第三十二話「新たな戦場」
【2153年9月16日 水曜日】
「これが、大規模改修したヴェヒター....」
そう呟いた渕上はシュミレーターを終了させるとコクピットハッチを開け、機外へ出た。
そんな渕上の元に、松田が歩み寄って来た。
「どうです?。新しいヴェヒターは?」
「俺には勿体無いぐらいの機体ですよ。凄すぎる」
此処で、ヴェヒターの改修内容を解説しよう
・【ラーミナドライブ回転数の大幅な向上】
・【スラスター噴射口よりラーミナエネルギーを同時噴射】
・【スタートダッシュ時に圧縮したラーミナエネルギーを放出(必要時のみ)】
・【リミッター開放時のラーミナドライブ回転数の上昇】
・【バリアアサルトに小型ビーム砲の追加】
・【その他コクピット・スラスター周り・ラーミナドライブの耐久性アップ】
・【コクピット周りの対G性能の向上】
以上が主な改修点である。
外見はほぼ変わってないが、中身は別物の機体である。
「“11000まできっちり回せ”。ったく、スナイパーには似合わない、高機動性能な機体ですよ」
「推進剤節約を実現しつつ、かなり高機動な機体に仕上がってますからね。スラスター噴出口からラーミナ同時放出なんて、考えもつかなったな〜」
「しかし、これだけの機体となると、メンテナンスが大変では?」
「確かに、前より多少大変になりましたが、許容範囲内ですよ。もっと大変になると思ってました」
渕上は頷きながらヴェヒターの方を向くとそれを見上げた。
「加速力が半端ない。最高速度に到達する時間がかなり短縮されてます」
「リミッター開放時、19000回転まで回ります。そのお陰で機動性と防御力が格段に上がります」
「音声認証でリミッター開放ですか。“デミオ・イェーガー”。良い響きですね」
「“自己流を極め、工夫し、戦うスナイパー”。と言う意味らしいですよ」
“デミオ・イェーガー”
(元ネタはMAZDA・デミオの車名由来の“自分流の工夫をして楽しむ車”から来て居るのと機体名の没案を繋ぎ合わせたもの)
「第七世代機では、ラーミナドライブが標準搭載されるって噂です」
「その為のデータ収集、ってところですかね」
松田は頷いて返すとヴェヒターを見上げた。
「明日からRAINBOW.F再始動です。今度は何処に飛ばされるのやら」
「第一から第三が居ない以上、多忙になりそうですね」
そう言った渕上は静かに通路を歩くと更衣室へ向かった。
(イマイチ読めないな〜。1機の機体に、此処まで注ぎ込む意味が)
そんな事を思った松田は最終メンテを始めた。
※
【9月24日 木曜日】
RAINBOW.Fはアメリカ戦線を走って居た。1箇所目の支援要請を終え、2箇所目の支援要請場所サンフランシスコに向かって居た。
『加瀬少尉』
「?」
倉又からの個人通信に微かに驚いた加瀬は微かに表情を鋭くした。
「どうした?」
『アメリカ戦線来てから、ヤケに渕上さん、狙われてませんか?』
「・・・そう思ってたのは俺だけじゃなかった訳か」
『ええ』
加瀬は表情を更に鋭くした。
「俺達を狙わず、渕上を集中して狙ってる。終いにはそれで同士討ちまで起こってる。明らかに変だ」
『ですよね。何故私達を狙わず、渕上さんに群がるんでしょうか?』
「ガルムを倒した事で、敵さんからマークを受けてるのかもな」
加瀬の予想は正しかった。実際、渕上がガルムを倒してからと言うもの、7人で行動しようが3人で行動しようが、イータは渕上のみを狙った。まるで渕上に、恨みでもあるかの様に。
「大規模改装を終えたヴェヒターに、まだ慣れてない分、キツいだろうな」
『私達で、カバー出来れば良いんですが....』
そんな会話をして居るうちに、RAINBOW.Fはサンフランシスコの前線拠点に辿り着いた。
誘導員の指示に従い、着陸した機体はレールを通って格納庫に納められた。
コクピットハッチを開け、機体から降りた渕上達は自分らに手を振るアメリカ人の元に集合した。
「ようこそ諸君。アメリカ軍第一方面隊司令官、ジェラルドだ」
「日本国防軍遠征隊第五独立遊撃部隊隊長の今野です」
「大隊長の、高木です」
「宜しく。早速本題だが、」
ジェラルドは作業台中央のモニターパネルを操作すると戦況地図を表示させた。
「今から2時間前、この付近を偵察中だった地上部隊と交信が途切れた。途切れ方からして、イータの人型機動兵器に襲われたものと思われる」
「成る程。それで?」
「君達に任せたいのは、偵察隊の捜索及び安否確認と、偵察隊の任務を引き継ぎ偵察活動を頼みたい」
「了解。補給完了次第、出撃します」
「頼む。生存者を発見したらすぐに連絡してくれ」
「了解」
今野は顔を上げるとRAINBOW.Fパイロットの顔を見渡した。
「簡単そうに見えて、これは持久戦よ。気を抜かず、きっちりやるわよ」
「「「「「「ハッ!」」」」」」
※
RAINBOW.Fの出撃を見送ったジェラルドは副官のフィリップと顔を合わせた。
「使えますかね?」
「分からんな。ただ、今までアメリカ戦線を担当してた奴らは微妙だったからな〜。練度もイマイチだったし」
「もし、使える連中だったら?」
「“例の計画”、実行しても良いかもな」
ジェラルドはそう言うと通路を歩き、格納庫から出て行った。
(日本の少数精鋭、お手並み拝見といきますか)
そう思いながらフィリップも格納庫から出て行った。
「ジェラルド中佐」
「ユージーン、どうした?」
「7機だけでは不安です。スタンバイ、しておきますか?」
「・・・頼む」
「ハッ」
ユージーンはジェラルドに敬礼すると格納庫へ向かった。
一方で、
RAINBOW.Fパイロットは指定された座標へと飛んでいた。
『間も無く、偵察部隊が消息を絶ったポイントに到着します』
那須のオペレートを聞いた渕上は表情を鋭くし、操縦桿を握り直した。
『敵反応ナシ。襲撃後、撤退したものと思われます』
『那須、生体反応は?』
『そこまでは、まだわかりません』
『とにかく、捜索してみるしかないわね。各機散開。偵察部隊の捜索を開始して』
渕上は操縦桿を動かすと機体を旋回させたのちモニター越しに周囲を見渡した。
(生体反応、感ナシ、か....)
そう思いながら再びモニター越しに周囲を見渡す渕上。数分飛ぶと、渕上はあるものを見つけた。
「此方渕上。偵察部隊の残骸確認」
『了解。生存者は?』
「確認出来ません。死体一つ見当たりません」
『生体反応は?』
「確認出来ません」
『了解....』
渕上は苦いものを感じながらその場を後にしようとした。が、1本のアラートがそれを止めた。
『敵機影接近。渕上さんの近くです』
「数は?」
『20機』
『中途半端な数だな』
『偵察、でしょうか?』
渕上はパドに操縦を任せるとコクピット天井から降りて来たライフル型コントローラーを構えた。
「捉えた。狙い撃つ」
渕上はトリガーを引いた。放たれた閃光はイータ人型機動兵器を次々と貫き、イータ人型機動兵器の交戦射程内に入る前に20機のイータ人型機動兵器を撃墜した。
ライフル型コントローラーを収納した渕上は操縦桿を握ると細長い息を吐いた。
(まだ、身体に馴染まないかな?)
そう思った渕上はコクピット内をぐるりと見渡した。
『偵察任務開始。各機、散開したまま付近の偵察を開始』
「了解」
渕上は操縦桿を動かし、ペダルを踏み込むと機体を前進させた。
『新たな敵機影。数、40』
「俺が行く」
渕上機はスラスターを吹かし、ラーミナエネルギーを放出させながら機体を前進させた。
(狙撃で蹴散らすには数が多いな。よし、突っ込むか)
渕上機はライフルモードのラーミナビームスナイパーライフルIIを構えると、イータ人型機動兵器群に突っ込んだ。
するとイータは渕上に突っ込むが、様子が可笑しかった。我先にと渕上機に突っ込み、中には前に居る機体を押し除けたりしながら渕上機と距離を詰めた。
(仲間割れか?)
『(気を抜くな。様子が変だ)』
ヴェヒターからのアドバイスを受けた渕上はトリガーを引いた。するとイータは渕上機に突っ込んだが、押し飛ばしたり、押し除けたり、何処か変だった。
まるで『俺が先だ』『邪魔するな』『俺の獲物だ』と言い合ってるかの様な様子だった。
「・・・」
『渕上さん。敵増援、数120』
「本隊のお出ましって訳か」
渕上は違和感を感じながらトリガーを引いた。いつもなら既に包囲されて居る筈だが、今日は違った。イータが距離を詰めて来ない。と言うより仲間割れが起きてるせいか撃って来ない。という感じだった。
「なんだ?、これ?」
『直上より来ます!』
「!」
渕上機は上昇するとラーミナビームを撃ちながらイータ人型機動兵器群と距離を詰めた。いつも通り包囲された渕上機は拡張スラスターのブースターポットとスラスターポットの恩恵を生かし、次々とイータ人型機動兵器を撃墜していった。
たがやはり様子が変だった。撃ってくる機体はあれど、それ程多くない。それどころか押し除けて前に出たり、押し返して後ろに押し出したり、終いには同士討ちまでおこる様だった。
『数が多そうだな。援護する』
「・・・いや、いい」
『あ?』
「なんか、自滅してるし....」
『?』
渕上はペースを上げれずに居た。というよりペースを上げなくても、良い状況だった。
「なんか相手、喧嘩しながら戦ってるんだが?」
『どういう状況?』
「なんか、獲物取り合って自滅してる様に見える」
『本当どういう状況?』
『前から引っ掛かってたが、アメリカ戦線来てから、敵さん、渕上ばかり狙ってるよな?』
『おい待てよまさか』
『何かしらの理由で、渕上さんがターゲットになってる....』
『でも、なんで?』
グループAのメンバーが分析を進める中、渕上はトリガーを引き続けた。結果、ペースを上げなくても、イータの大群はあっという間に全滅した。
「ハァ....無駄に疲れるな」
溜息を吐くと同時にそう呟いた渕上は操縦桿を握り直すと表情を鋭くした。
『偵察続行。前に出るわよ』
渕上はペダルを踏み込むと機体を前進させながら操縦桿を動かし、機体を低空まで下げるとそのまま前に進んだ。
「同士討ちに仲間割れ、一体何が起こってるんだ?」
『功を急いでるのかもしれないな。お前、こっち来てから頻繁に狙われてるだろ?』
「・・・まさかな....」
加瀬の言葉はあながち間違いではなかった。
ガルム・メビウスを仕留めた事で、イータから目をつけられて居る。渕上の中で、その可能性を捨てきれなかった。
『渕上さん。北東より敵部隊。数....130』
「またかよ」
渕上は舌打ちをするとパドに機体制御を任せたのちライフル型コントローラーを構えた。
『渕上さん。援護します』
「・・・」
渕上は一瞬判断を迷った。だが、
「いや、大丈夫だ。偵察任務を続行してくれ」
『了、了解』
渕上は目標を捉えるとトリガーを引いた。するとイータ人型機動兵器群は、速度を挙げて、渕上機に近付いた。
それを見た渕上は軽く舌打ちするとライフル型コントローラーを格納したのち、操縦桿を握るとペダルを踏み込み、機体を加速させると、イータ人型機動兵器群の中に突っ込んだ。
イータは渕上機に対して容赦無い攻撃を仕掛けたが渕上機はそれをヒラリヒラリと交わすと反撃で次々とイータ人型機動兵器を撃墜していった。イータ人型機動兵器の容赦ない攻撃は渕上機だけでなく味方であるイータ人型機動兵器にも命中し、渕上機の攻撃と同士討ちで次々と数を減らしていった。
(加瀬の読み通りって訳か。功を焦ってる様にしか見えないな。だとしたら狙いは俺。・・・ガルム・メビウスの仇討ちか)
そう確信した渕上は目付きを微かに鋭くした。
『北と北西から新たに敵部隊接近。数、90ずつ』
(証明してやる)
「加瀬・倉又。北西から来る奴を足止めしてくれ」
『了解した』
(俺と加瀬の予想が正しければ、北西からくる敵部隊の足止めは失敗する筈だ)
そう予想する渕上は只管トリガーを引いた。
イータ人型機動兵器も闇雲に攻撃した。それが味方に当たろうがお構いナシに。それを利用する様に、渕上機は狙い撃った。
そんな中、加瀬機はレールガンを撃ちながらイータ人型機動兵器群と距離を詰めた。だがイータ人型機動兵器は加瀬機の攻撃に見向きもせず、只管前進した。
(やはりか。狙いは渕上機一択と見た)
加瀬がそう思う中、倉又機はイータ人型機動兵器群の目の前に立ちはだかるとラーミナツインビームサブマシンガンを撃ちながらイータ人型機動兵器群に突っ込んだ。だが何機撃墜しようが、イータは倉又に全く興味を示さず、前進した。
(なんで⁉︎。まさか狙いは....)
その頃渕上は北から南下して来たイータ人型機動兵器群と交戦していた。
『渕上さん。足止め無理です』
「やっぱりな。加瀬の言う通り、敵は功を焦ってる」
『え?』
「狙いは俺だ」
『成る程な。ガルムを潰した事で、目を付けられたか?』
「多分な」
渕上は軽く苦笑いを浮かべるとモニター越しに周囲を見渡した。
「でも功を焦って同士討ちまでしてる上に、こんな密集陣形じゃな....撃ってくださいって言ってる様なもんだぜ」
そう言った渕上は只管トリガーを引いた。
それなりの数だが、同士討ちの影響か、渕上の想定よりも早く片付いた。
「フゥ。ったく、無駄に疲れるんだよ」
そう呟いた渕上は機体高度を下げると機体を前進させた。
※
「あの数を、ほぼ1機でか?」
「はい。孫六兼元とやら、かなりやるみたいです」
「しかし、何故隊長は援護を出さなかったんでしょう?」
フィリップの言葉を前にジェラルドは一瞬考え込んだ。
「信頼か....いや、敵はあの機体のみを狙っていた」
「てと?」
「援護を出して足並みを崩すよりは、味方を信用し、託したんだろうな」
ジェラルドはそういう答えに辿り着いた。
「使えそうだな」
「はい。“例の作戦”、実行するべきかと」
ジェラルドはフィリップの方を向くと頷いて返した。
「ユージーン。“アレ”は動くのか?」
「御命令があれば、いつでも」
ジェラルドは頷いて返す作業台に埋め込まれたモニターパネルを見下ろした。そこには拠点より東に数キロ行った場所にある遺跡群が映し出されていた。
「“卵”の用意は?」
「1つだけです。なんでも“産まれたばかりの卵”らしいです」
(最新鋭、と言うわけか)
そう思ったジェラルドは不気味な笑みを浮かべた。
「俺の機体は?」
「万全に整備出来てますが、まさか中佐自身も出るおつもりですか?」
「当然だ。大規模な作戦になるんだぞ。指揮官機が出なくてどうする?」
「それは、そうですが....」
フィリップは何処か納得いかなかった。だがジェラルドを止める理由はなかった。
「・・・」
※
「なんたるザマだ!」
「仇討ちや功を焦るがあまりの結果かと」
「チィっ!各隊に伝えろ。“同士討ちは許可しない。協力し合って奴を討て”とな」
「司令官。此処はひとまず、奴からターゲットを外すべきでは?」
「今更そんな事が出来る訳ないだろ。・・・但し、敵は奴だけではない。それも徹底させろ」
「ハッ!」
「全く、奴がアメリカに居るうちに討ちたいというのに....」
(焦って居るのは、前線のパイロットではなく、俺かもしれないな....)




