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第三十一話「賞賛される者」

 一方その頃、中部方面隊司令部“方面隊技術開発部”では、


「おかえりヴェヒター。凄く、ボロボロね」

「ガルムと戦ったから仕方ないと言えば、それで済んでしまう気もするが、な....」


 渕上満と松田遼太郎は格納庫内で中破したヴェヒターを見上げて居た。


「あの子もリハビリで暫く機体に乗れないって言うし、修理がてらやりましょうか。大規模改修」

「化け物を更に化け物にする、ってか?。上等!」


 渕上満と松田遼太郎はデータ端末を操作し始めると早速ドローンを動かした。


「ところで遼太郎」

「?」

「貴方、ラーミナドライブのリミッター開放時、幾つまで回る様にしたの?」

「?、指示通り、14000回転だが?」

「16000回転まで回ってたわよ。貴方の組み込んだ強化パーツが無ければ、オーバーブローを起こしてたわ」

「マジかよ」


 松田遼太郎は考え込んだ。何故2000回転も余分に回ったのか、と。そして、ある一つの決断に辿り着いた。


(これもまた共鳴か?。彼奴の思いに、反応した?)


 そう結論付けるしかなかった。

 “エンゲージタイム”。その上を行く存在が松田遼太郎の頭を過ぎる中、松田遼太郎はデータ端末を操作し、ドローンに指示を出すと右腕の修理を開始した。


「あちゃー。こりゃ内部パーツごと取り替えだな」


 そう呟いた松田遼太郎はドローンに新たな指示を出した。

 一方その頃、渕上満はスラスターを外して居た。


(スラスターもそれなりにダメージ受けてるわね。まぁ壁に叩き付けられればこうもなるわね)


 そう思いながら外したスラスターを修理する渕上満。ダメージの一つ一つを見ながら、如何に激戦だったかを感じ取る渕上満。それを見て居た渕上満は思わず溜息を吐いた。


(本当、この無茶する癖、誰に似たんだか)





 裏口から車庫に出た渕上昭弘は突然くしゃみをすると壁に寄り掛かった。


「全く、暑いな〜」


 そう呟きながら胸ポケットから煙草を取り出し、一本摘み出すとそれを口に咥えたのち煙草を胸ポケットに戻すとポケットからライターを取り出し、咥えた煙草に火を付けるとポケットにライターをしまい、再び壁に寄り掛かった。


「ガルムを倒したか....あの悪魔を、あの番犬を」


 もくもくと上がる煙を見つつ、煙草を咥えながら口から煙を吐いた渕上昭弘は微かに口角を挙げた。


「俺に成し得なかった事、ドンドンやって行くと良い。その為のワンオフ機だ」


 そう呟いた渕上昭弘は煙草を指で摘むと口から離したのち煙を吐いた。


(俺に出来なかった事を熟しながら、ドンドン自分の道を進め、ただまぁ、怪我するのは今回だけにしてくれ。息子が怪我するってのは、心臓に悪い)


 煙草を咥えながらそう思った渕上昭弘は再び僅かに口角を挙げた。


(負傷して得る物も確かにある。だがそれは精々1、2回だ。これ以上怪我しても損しかないぞ。・・・まぁこればっかりは、機体のせいってのもあるかもな)


 そう思いながら煙草を吹かす渕上昭弘の元に一本の電話がかかって来た。


「どうした?仕事中に?」


 電話をかけて来たのは渕上満だった。


『コクピット周りの改修を疎かにしてたわ。今回の怪我は、私の責任ね』

「ガルムと単機で戦ったんだ。多少は仕方ないだろ」

『ええ。今回の改修は、コクピットの耐久性アップも必須ね』

「まっ、彼奴がこれ以上怪我しない機体にしてやりな」

『もちろんそのつもりよ。遠くに行ってしまったあの子にしてあげられるのは、見守る事と、機体を強化してあげる事だけだから』

「ただ、俺が思うに、恐らく改修したヴェヒターでも彼奴の技量には追い付けなくなる気がするな」

『その可能性、ない訳じゃないわね』


 渕上昭弘は鼻を鳴らすと煙草を指で摘み、口から離すと、煙を吐いたのち、再び煙草を咥えた。


『ただ、あの子が全力で戦える様なタフな機体を作るつもりよ。但し、様々な試験段階の技術を積む事になるから、高性能だけど扱い辛い機体になると思うわ』

「彼奴なら大丈夫だろ。第四世代機に育てられたパイロットだ。どんな機体も乗り熟すさ」

『貴方らしい発言ね』


 渕上昭弘は再び鼻を鳴らした。


「まっ、タフな機体に改修してやりな。彼奴には勿体無いぐらいの、な」

『ええ。退院したら、きっと驚くでしょうね』


(そんだけ凄い大規模改修って事か)


「まっ、改修内容は敢えて聞かねぇよ。身体に気をつけて、無理せず頑張りな」

『ありがとう。明日の夜あたり、呑みに行きましょ?』

「ああ、楽しみにしてる。じゃあな」


 通話を切った渕上昭弘は携帯電話をポケットにしまうと煙草を咥えながら煙を吐いた。





【7月28日 火曜日】


「報告書にある通り、私の隊、第五独立遊撃部隊が奮起しなければ、ガルムはオホーツク海を渡り、北海道へ侵攻。その脚は本州にまで伸びて居た事でしょう」


 大隊長の高木は会議室の椅子に座りながらそう話した。大岩は「うむ」と頷くと木曾と高木の方を向いた。


「ガルム・メビウスの鎮圧、大義だった。木曾大隊長も、臨時指揮、お見事だった」

「自分は、自分に出来る最善をしたまでです」


 大岩は頷いて返すと視線をギロっと佐久間の方に向けた。


「今回の騒動の責任。どう取るつもりかな?」


 佐久間は黙り込んで居たが微かに表情を緩めると開き直った。


「ガルムを起動させたのは前線のパイロットです。俺になんの責任がある、と?」

「ああ?」


 出水は思わず声を漏らした。それを知らずに佐久間は話を続けた。


「俺はただ偵察を指示しただけ。起動させたのは前線のパイロット達です。それにガルムを破壊した以上、責任問題は発生しない筈です」

「お前....」


 高木は机を叩くと椅子から立ち上がった。


「俺の部下の命をなんだと思ってる!」

「なにもかにも、貴方方は1人も失って居ない。こっちは60名ものパイロットを失ったんですよ」

「貴方が出した指示のせいでな」

「高木、....座れ」


 出水は高木を座らせた。表向きには冷静を装って居たが、内心は高木同様に怒鳴りたかった。

 すると様子を伺って居た大岩が口を開いた。


「反省の色、ナシか....」

「はい?」

「佐久間信茂連合総隊長。貴官を除隊処分をする」

「はい⁉︎」


 佐久間は思わず立ち上がった。


「今回の騒動。全責任は君にある。これは独立遊撃部隊総司令官だけでなく、遠征隊総司令官も同じ意向だ。今回の件、下手をすれば日本が滅んで居た。それ相応の責任は取って貰う」


(まっ、妥当か)


 出水は静かにそう思った。


「待って下さい。俺には責任は無いと、言っているでしょう?。なのに、どうして?」

「君がこの場で反省の意を述べたのなら、私の権限で罪状を軽くする事も出来た。だが君は、反省どころか、戦死者に責任を擦り付けるという事をした。そういう者は、人の上に立つ資格はない!」


 大岩はキッパリとそう言った。佐久間は血の気の引いた様な顔をして居たがすぐさま表情に怒りを露わにした。


「ふん!。こんな腐った所、こっちから辞めてやる!」


 そう言うと佐久間は椅子から立ち上がり会議室から出て行った。


「俺ら、あんな男の下で動いてたのかよ」

「最悪だぜ」

「辞めてくれて精々したぜ」


 第一から第三独立遊撃部隊の大隊長がそう口づさむ中、大岩は出水の方を向いた。


「出水総隊長。後任が決まるまでの間、第一から第三独立遊撃部隊の連合総隊長の兼任を頼む」

「はっ!」

「本会議は一旦解散とする。各自、独立遊撃部隊再編の為に尽力する様に。解散」





 渕上は休みでも、国防に休みは無い。

 鳥海は今日も日本海側から中部に攻めて来たイータ人型機動兵器群と戦って居た。


「・・・」


 腕部170ミリ単発砲を撃ち込む、蜂の巣にしたイータ人型機動兵器の残骸を蹴り飛ばすとラーミナメイスブレイドを二刀流で構え、次の獲物に殴り掛かった。

 腕部170ミリ単発砲を撃ちながらイータ人型機動兵器と距離を詰め、ラーミナメイスブレイドで殴り掛かる鳥海機。胴体を2回殴ってからコクピットを突き潰すと残骸を蹴り飛ばし次の獲物へ。鳥海はいつもと何ら変わらなかった。

 左手に構えるラーミナメイスブレイドでコクピットハッチを殴り飛ばし、右手に構えるラーミナメイスブレイドでコクピットを突き潰す。面白味が無い分無駄が無く隙もない。渕上の様に人を魅了する何かを持っている訳ではないがその無駄も面白味も無い戦いは、一対多の状況では充分通用する物だった。


『敵隊長機視認』

『俺が行く。鳥海、お前は引き続き雑魚を引き付けろ』

「わかった」


 腕部170ミリ単発砲を撃ちながらイータ人型機動兵器と距離を詰め、いつも通りにイータ人型機動兵器を仕留めていく鳥海。そんな鳥海機の後方に居たイータ人型機動兵器がレールガンの攻撃を受け、爆散した。諏訪部機だ。


『援護する。付き合うぜ』

「そう。じゃあお願い」

『変わらねぇな。お前は』

「なにが?」

『・・・いや、』


 鳥海は特に気にする事なく操縦桿とペダルを操作した。

 鳥海機の翔鶴改がイータ人型機動兵器を喰らう中、諏訪部機の矢矧改はツインレールガン下部のラーミナビームマシンガンを撃ちながらイータ人型機動兵器を蜂の巣にしつつイータ人型機動兵器群と距離を詰めるとラーミナソードの刃で次々とイータ人型機動兵器を斬り裂いていった。

 一見するとなんの連携も取ってない様に見えるが無意識の領域で互いの背中を守りながら戦うその様は、同期だからというのもあるが、死戦を共に何度も潜り抜けて来たからこそ出来る“無意識の連携”だった。





【8月12日 水曜日】


 美濃関訓練学院の側にある商店街。その一角に構える居酒屋“さかい”で渕上昭弘と渕上らの実技教官だった城島は盃を酌み交わして居た。


「東京にある国防軍傘下のリハビリ病院に転院したんだってな」

「ああ。転院して約1週間になるが、リハビリの毎日らしい。思ったよりも設備が充実しててびっくりしてるらしい」

「そりゃ国防軍の管轄にあるリハビリ病院だからな。それにしても、よく枠が空いてたな〜」


 そう言いながら城島はジョッキを持つと中のビールを数口飲み、ジョッキを置いた。そして箸を持つと塩唐揚げを摘み、口へ運んだ。


「彼奴なら大丈夫だと思うが、あまり無理はしないで貰いたいものだな」

「フンッ。そんな馬鹿じゃねぇよ」

「そういえば、“例の話”、どうするんだ?」

「んん?。ああ、満から言われたアレか。俺は別に構わないが、本当に退役した老兵に務まるか?って話だ」

「満が推薦してんだろ?。だったら引き受ければ良いじゃないか〜」

「まっ、前向きには考えてるよ」


 そう言うと渕上昭弘は箸で刺身を摘み、醤油に付けると口へ運んだ。


「すみません。生ジョッキ1つとチキン南蛮下さい」

「はいよ」


 城島の注文を聞いた渕上昭弘は静かに苦笑いを浮かべた。


「明日も仕事だろ?教官が二日酔いとか洒落にならねぇぞ」

「大丈夫だ。ちゃんと抑えてる」


 そう言うと城島は塩ダレの焼き鳥を指で掴むと串から引き抜き、食べ始めた。


「すみません。唐揚げの塩と生ジョッキ1つ」

「はいよ」

「お前こそ気を付けろよ〜」

「わかってる」

「・・・にしても、」

「ああ?」

「月日が流れるのは早いなぁ。卒業してもう半年以上も経ってるなんてなぁ〜」

「家も静かになったもんだよ」


 2人は暫く無言になった。カウンターから出されたビールを受け取った2人は無言で一口呑んだ。

 その沈黙を破ったのは城島だった。


「そういえば」

「ああ?」

「お前、息子の事、どう見てるんだ?」

「・・・ガルムを単機で倒したのは確かに凄い。が、機体を中破させた時点でまだまだだ。俺なら、絶対無傷で勝つ」

「相変わらず負けん気強いな〜ぁ」


 城島はジョッキを持つと中身を一口呑んだのち静かにジョッキを置いた。


「まっ、壁を越えたのは確かだ。更なる高みに、駒を進められるんじゃねぇかな」


 そう言うと渕上昭弘はジョッキを持つと中身を数口呑むとジョッキを置いた。


「そのうち、お前さんを越えるかもな」

「越えるも何も、彼奴は俺とは別の道を歩んでる。越える以前の問題だ。土俵が違う。まっ、パイロットとしての技量ならまだまだ俺の方が上だがな」

「フンッ」


 城島は苦笑いを浮かべた。





【9月15日 火曜日】


 退院し、前線に復帰した渕上は大岩に呼び出されて居た。制服姿で通路を歩き、司令室前に着いた渕上はドアをノックした。


「渕上和公少尉。出頭しました」

「入れ」

「失礼します」


 渕上は司令室のドアを開けた。すると中にはRAINBOW.Fのメンバー全員が既に揃って居た。

 部屋の両側に整列したメンバーは渕上が入室した途端、一斉に敬礼した。


「⁉︎、⁉︎⁉︎」


 動揺する渕上。すると大岩は渕上を手招きした。何がなんだか分からないまま大岩の元に歩み寄った渕上は何かを察すると大岩に敬礼した。それに続いて大岩が敬礼した。大岩が敬礼を解くと、渕上も敬礼を解いた。


「今更になったが、ガルム・メビウスの撃破、大義だった。その功績を讃え、表彰すると同時に“八星国防功労章”を譲渡する」


 そう言うと大岩は机の上の国防功労章を手に取ると渕上の制服に丁寧に貼り付けたのち特殊なライトを照射し、国防功労章が剥がれない様にした。その後、大岩な表彰状を読み上げたのち渕上に渡した。

 渕上はそれを受け取ると再度大岩に敬礼した。大岩は右手を差し出した。それに従う様に敬礼を解いた渕上は同じく右手を差し出した。すると2人は握手した。その瞬間、RAINBOW.Fのメンバーが一斉に拍手し始めた。渕上は改めて、自分が如何に凄い事をしたかを実感した。

 大岩の手から自分の右手を離すと大岩も渕上に拍手した。


「ガルムを倒したのは自分ですが、功績はチーム全体の物です。自分だけ表彰されるのは、可笑しいと思いますが?」


 拍手が止んだ頃、渕上は大岩にそう言った。


「それもそうだと思ったのだが、八星国防功労章自体、ガルムを討伐した者に与えられる表彰状だ」

「一番貢献したのは貴方よ。貴方が貰って当然だわ」

「隊長....」

「今度は個人ではなく、チームでガルムを倒せ。まっ、それ以前にガルムが目覚めない事を祈るが、な」


 そう言うと大岩は再び拍手した。

 何処か納得のいかない渕上は拳を握りしめるが、今野に肩を叩かれた事で我に帰った。


「これは貴方の功績。誇って良いわ」

「隊長....」

「まっ、私達の代表みたいなものね。しっかり、受け取り、しっかり刻みなさい」

「・・・はい!」


 渕上はRAINBOW.Fのメンバーに向かって敬礼した。












「良いか。このエンブレムの機体だ」


 モニター画面に映し出されたのは“3本の白い爪痕とその爪痕から鎖を咥えた赤い番犬”のエンブレムだった。


「このスナイパーを優先して叩け。奴は、マザーフォースを単機で倒した化け物だ」


 部屋がざわついた。


「このスナイパーを撃墜した暁には、勲章も授与される。コイツを許すな。殺せ。機体諸共炎に沈めろ」

「聞いたな。各方面隊に伝達。この機体とパイロットを優先して殺せ。マザーフォースの仇を取れ。以上」











今日も戦いの日々は続く

それでも彼らは夢を追う

そして、トリガーを引く

このエピソードにて一区切りです。

pixiv的に言うならFourth Season完結です。

まだまだ続きますので、続編をお待ち下さい

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