第三十話「番犬を狩る者」
〜彼の凄さは前から知って居た。
だがアレほどとは思わなかった。
アレが機体と対話し、一体となった者の力なのだろうか?。
もし彼を呼ぶとしたら何が似合うだろうか?
“不死身のパイロット”いや“番犬を狩るモノ”
言葉に出来ない凄さを見せつけられた。
彼は本当に、人間なのだろうか?
彼に、“不可能”と言う文字は、存在しないのだろうか?
彼は、一体....〜
【中部地方第三守備隊所属 石堂大輝の手記より】
朱色のオーラを纏った渕上機はスラスターを吹かすと残像を率いりながらガルム・メビウスへと近付いた。
「よく戦ったな。ちょっと借りるぜ」
道中すれ違い際に残骸から対ガルム仕様のラーミナバスターブレイドを頂戴するとガルムが口部から吐き出したビーム砲をラーミナバスターブレイドで斬り裂きながら前に進んだ。
『援護する。岩動、お前は左から』
「要らない」
『ッ!』
「これ以上、犠牲は出したくない」
『だがな』
「この機体を試す。・・・邪魔しないでくれ」
そう言うと渕上はすれ違い際に左前脚をラーミナバスターブレイドで叩き殴るとガルムの後ろに出たのち振り向き際にガルムの尻尾の刃を弾き飛ばした。
空中へと飛び上がった渕上機は触手の様な腕に斬り掛かるとそのままアームとビーム砲を破壊した。
『まず一本....』
『いや、まだだ』
渕上は使用不能になった腕に殴り飛ばされると壁に叩き付けられた。そこへ渕上機のコクピットを貫こうと尻尾の刃が襲い掛かる。渕上機は辛うじてそれを避けたが右側ホルスターをラーミナビームピストルIIごと失った。
『渕上さん!』
「大丈夫だ。心配すんな雨宮」
渕上機はスラスターを吹かして地面を移動したのち飛び上がるとラーミナバスターブレイドを投てきし、もう一本の腕の武装を無力化した。
2本の腕をやられた事に怒り狂う様に口部ビーム砲を撃ち放つガルム。だが渕上は辛うじてそれを避けながら上昇したのち急降下するとガルムの左前脚部分に滑り込み、装甲を掴んだ。
『なんなんだ。これは....』
装甲を引き剥がした渕上機はそのまま飛び上がると迫る尻尾の刃にその装甲を突き刺して急降下するとすれ違い際にガルムの顔面を殴ったのち左翼に飛び乗ると装甲を掴み、粉々にしながら引き裂くと飛び上がったのち右腕に装備された腕部ロケット砲を撃ち込んだ。装甲を引き裂かれたところにロケット弾。流石のガルムも痛みを隠せなかった。
『一体、何を....』
ガルムの前に着地した渕上機はブースターポットとスラスターポットの逆噴射で尻尾の刃を避けるとスラスターを吹かして前進し、それを殴り飛ばした。その後、素早いステップで触手から放たれるビームを含めたガルムの攻撃を避ける渕上。攻撃は時より残像に当たるが渕上機本体に当たることはなかった。
『動きが、見えない....!』
『同じパイロット、同じリベラシオンなのか?』
一見するとガルムを追い詰めてるかの様に見えるがその挙動とラーミナ出力は渕上を蝕んでいた。
「・・・」
渕上はモニター越しにヴェヒターの右腕を見た。
「使い熟してやるからもっと寄越せ。こんなもんかよ。お前の力は!」
渕上機は右翼に飛び乗ると装甲を掴み、引き剥がすと露出した本体に右ストレートを喰らわせ、内部でアームラーミナビームサブマシンガンをぶっ放した。悲鳴を挙げるガルム。そこへ尻尾の刃が襲い掛かった。
『(後ろから来るぞ!)』
「ッ!」
尻尾の刃は渕上機の左ホルスターをラーミナビームピストルIIごと破壊した。
「・・・」
息を切らす渕上。コクピットを襲うGは9.5から10を行ったり来たりして居た。
渕上機は右腕を引き抜くと刺さった尻尾の刃を掴むとそれを押し込み簡単には抜けなくした。その後、自己再生が進むミサイル発射口を殴り壊すと後右脚の装甲を掴み、それを引き剥がすと引き剥がした部分に突き刺した。そして飛び上がった渕上機は自己修復の始まった左翼に着地すると右ストレートを食い込ませ、アームラーミナビームサブマシンガンを撃ち込んだ。
その瞬間、渕上は喀血した。つまり血を吐いた。
(血、何処からだ?)
一瞬血に目が入った瞬間、渕上機は触手に寄って殴り飛ばされた。
「ガッ!」
黒煙を挙げながら怒り狂うガルム。ガルムは壁に叩き付けられた渕上機に左前脚蹴りを喰らわせた。
その瞬間、渕上機内のコクピットに亀裂が入り、モニターの三分の一が使用不能。飛び散った残骸が渕上の右太腿に刺さった。
「あっぶねぇ、なあァァッ!」
渕上機は右腕を肩ごと引き千切ると左肩に装着されたバリアアサルトでシールドバッシュを喰らわせると左腕に装備された腕部ロケット砲を至近距離で喰らわせた。
渕上機は静かに飛び上がると片岡機の側に着地した。
『なっ!』
渕上機は片岡機が構える対ガルム仕様のラーミナ太刀の持ち手を掴んだ。
「借りるよ。まっ、多分返せないと思うけど」
『ァァァッ』
左手にラーミナ太刀を構えた渕上機はスラスターを最大出力で吹かすとガルムと距離を詰め、ガルムの右前脚を斬り裂いた。
やっと思いで尻尾の刃を引き抜いたガルムは回頭し、渕上機の方を向くと尻尾の刃を飛ばした。
ぶつかり合う刃と刃。すると渕上機は飛び上がりながらガルムに急接近すると口部ビーム砲を斬り裂いた。
『凄い』
「うん。丁度良い」
渕上機は急上昇したのち急降下した。
「これなら、殺しきれる」
ガルムのど真ん中に着地した渕上機はラーミナ太刀を頭部ごと貫く様に突き刺した。それと同時に尻尾の刃が渕上機のコクピットを直撃した。
ガルム・メビウスは、死んだ。
※
決死の思いで海上補給を終えた諏訪部機は転送装置を破壊すべく奮起して居た。
「場所が分かってるのに、先に進めねぇ」
ラーミナソードで次々とイータ人型機動兵器を斬り裂く諏訪部機。そんな諏訪部のもとに、最悪な知らせが入る。
『対ガルム用の防衛線が突破されたらしい。2分も掛からず壊滅寸前らしい』
「嘘だろ....」
(何やってんだよ渕上!)
操縦桿を強く握る諏訪部。そんな諏訪部の元に更なる知らせが入る。
『孫六兼元だ。孫六兼元が、ガルムと交戦を開始したぞ』
「渕上....」
(彼奴1人でどうにかなるかは分からんが、信じてみるか)
そう思いながら操縦桿を操る諏訪部は、静かに渕上の無事を祈った。
諏訪部機はツインレールガンのラーミナビームマシンガンを撃ちながら距離を詰めるとラーミナソードでイータ人型機動兵器を斬り裂いた。
『生きてる〜?』
「鳥海?。あぁ、どうにかな」
突然の鳥海からの通信に軽く驚く諏訪部。
『渕上、やれると思うか?』
「俺らに出来るのは祈る事だけだ。無事を祈ろう」
『彼奴なら相打ち覚悟でやるかもな』
「・・・異名持つ前の彼奴なら、やったかもな。だが異名と言う称号が彼奴を変えた。今の彼奴は、差し違えてなんて、考えねぇよ」
『だと良いんだけどね』
「それに、リベラシオン1機で、ガルムは倒せねぇよ」
鳥海にそう返した諏訪部はすれ違い際にイータ人型機動兵器を斬り裂くとレールガンを3発撃って2機仕留めた。
「いろんな人間との出会いが、彼奴を変えた。渕上達ならやるさ。生きてな」
諏訪部機は次々とイータ人型機動兵器を仕留め、遂に転送装置をモニター越しに目視出来るところまで来た。
「見えた!」
当然、諏訪部の突撃は上手くいかない。多数のイータ人型機動兵器が立ちはだかった。
「邪魔すんじゃねぇ!」
ラーミナソードを構え、突撃する諏訪部機。だが単騎で突破出来る程、甘くは無い。諏訪部はそれを承知だった。それでも諏訪部機は突っ込んだ。
転送装置を破壊してもまた別のが送り込まれる。タチの悪い持久戦だった。それでも撃墜し、破壊するしかなかった。
『マジでキリがないな』
『孫六兼元....頼む。この歪んだ戦いを終わらせてくれ』
『タチの悪い持久戦だ。良い加減終わってほしいものだな』
『全機諦めるな。必ず終わる。樺太の連中を信じろ!』
見えた終わりが幻でない事を信じ、戦い続けるパイロット達。諏訪部と鳥海もその1人だった。
諏訪部機はラーミナソードの刃を収納し、ラーミナビームマシンガンモードにするとラーミナツインレールガンのラーミナビームマシンガンと同時発射で弾幕を張り、防衛線を崩すと出来たラインに沿って突入するとラーミナソードの刃を展開し、ソードモードにするとイータ人型機動兵器を斬り裂いた。
(終わってくれ。とっとと終わってくれ)
渕上の無事を祈りながらも戦闘の早期集結を祈る諏訪部。
数秒後、突如として転送装置が自爆。イータ人型機動兵器も火だるまになると墜落を始めた。
「なんだ?」
『孫六兼元だ!孫六兼元がやったぞ!。しかも、たった1機で倒したらしい』
『スゲェな異名持ち。たった1機でガルムを倒すなんて』
「・・・」
(やりやがった。彼奴やりやがった。・・・それも1人で)
諏訪部は苦笑いを浮かべながら背凭れに寄り掛かった。
「また遠くなったな。彼奴の背中」
※
『なんという....』
『これが、孫六兼元の本性か....』
炎に包まれながら崩れるガルム・メビウスとその前方に着地したヴェヒターを見た一同は言葉を失った。
『本当に、1人で....』
『お姉ちゃん。私達の目指す目標は天と地の差だよ....』
ヴェヒターから光が消え、元の姿に戻ると、渕上はすぐ右側に刺さったガルムの尻尾の刃を見た。
「あっぶねぇな....」
『渕上さん、生きてますか!』
「生きてるよ。なんと、k、・・・あ、あれ?」
渕上は激痛とめまい、寒気に襲われた。それもその筈。尻尾の刃がコクピットを直撃した際、破片が飛び散り、渕上の脇腹2箇所と右腕に破片が刺さったのだから。
(あれ?パイロットスーツ着てるのに、なんでこんな寒いんだ?。それにこの痛み、一体....)
「フチガミ・フチガミ」
『え?』
『ッ!』
「フチガミ・フチガミ」
身体から血を流しながら気を失う渕上を只管呼び続けるパド。それを聞いて居た今野と倉又由実はすぐさま状況を理解すると渕上機のもとへ向かった。
「フチガミ・フチガミ」
『渕上さん!応答して下さい!』
「フチガミ・フチガミ」
『渕上!状況を知らせて!』
「フチガミ・フチガミ」
『渕上さん!応答を!。渕上さん!』
「フチガミ・フチガミ」
雨宮が悲鳴に近い声で呼び掛けるも聞こえるのはパドの音声だけ。
「フチガミ・フチガミ」
『渕上さん....いやああァァァァァッッ!』
『渕上!渕上!』
「フチガミ・フチガミ」
雨宮は悲鳴を挙げた。
渕上機の側に着地した今野と倉又由実はコクピットに刺さったガルムの尻尾の刃を見て唖然とした。
「これって....」
『大丈夫。渕上は生きてるわ』
「・・・紫恵楽。手伝って」
『は、はい』
『フチガミ・フチガミ』
倉又紫恵楽機は渕上機の胴体を挟み込む様に掴んだ。すると倉又由実機は渕上機から尻尾の刃を抜いた。
『フチガミ・フチガミ』
「渕上さん!。ッ!」
半壊したコクピットからモニター越しに中を見た倉又由実は唖然とした。身体の右半身から血を流しながら気を失う渕上。それを見た倉又由実は、一刻の猶予もない事を悟った。
「木曾大隊長!」
『北海道の病院は埋まってる。一番近くて岩手だ』
「ッ、了解。パドちゃん」
『キンキュウオートパイロットサドウ・キンキュウオートパイロットサドウ』
『第五独立遊撃部隊を除き、残存する部隊は稚内まで後退せよ。第五独立遊撃部隊は、そのまま岩手に迎え』
「了解」
『了解。全機集結。岩手に向かうわよ』
※
【7月26日 日曜日】
ICUから一般病棟に移った渕上は静かに目を開いた。
(俺も、シブトイね〜)
脇腹を抑えながら静かに身体を起こした渕上は病室に入って来た倉又と雨宮の方を向いた。
「渕上さん!」
雨宮は渕上の元に駆け寄った。
パイロットスーツの恩恵で出血は大した事なかったが臓器に神経を損傷。一歩間違えれば命はなかった。一番厄介なのは太腿である。神経の集中している場所に刺さった為、歩ける様になるにはリハビリが必要だった。
「雨宮さん。俺は大丈夫ですから、泣かないで下さい」
「本当、本当によかった」
雨宮は泣きながら渕上の無事を喜んだ。それは倉又も同じだ。泣いてはいないものの、心配そうな表情を浮かべて居た。
「リハビリが必要とはいえ、怪我自体は大した事ないんで、大丈夫ですよ」
「ICUに数日居た人間が何言ってんるだか....」
渕上は静かに苦笑いを浮かべた。
ベットに顔を埋め、泣き続ける雨宮を宥める渕上は静かに窓の方を向いた。
(色々先が思いやられるが、今は療養の事だけ考えよう)
そう思った渕上は雨宮の方を向くと静かに雨宮の頭を撫でた。
「俺は大丈夫ですから、ね」
「はい....」
只管雨宮を宥める渕上。すると雨宮は潤った目で渕上を見た。
「泣いてばかりも要られませんね。・・・渕上さん、早く元気になって下さいね」
「ああ」
渕上は笑みを浮かべると雨宮もまた笑みを浮かべた。
「リハビリ終えるまでは、迷惑掛けると思う。ただ、なるべく早く戻るから」
「あー、その事なんだけど」
暫く黙って居た倉又が口を開いた。
「RAINBOW.F、暫く解散になったから」
「え?」
「RAINBOW.Fだけじゃなくて独立遊撃部隊自体が暫く解散。・・・再招集には3、4ヶ月掛かるって」
「なんで?」
「この前の防衛戦で、至る所が戦力的打撃を受けてね。一時的な補充要員として、独立遊撃部隊が回される事になったの」
「そう、ですか....」
「そんな顔しないの。貴方のせいって訳じゃないんだから」
渕上は表情を暗くすると、無意識に自分を責めた。それを見た倉又は渕上の頭に自分の右手を添えた。
「あっ、」
「そんな訳だから、治療とリハビリに専念しなさい。戻ってくる頃には、RAINBOW.Fも活動再会してると思うから」
そう言うと倉又は渕上の頭から手を離した。
渕上は微かに表情を緩めると頷いた。
「さて、私達はそろそろ行くよ」
「またお見舞い来ますね」
「ありがとう。そっちも気をつけてな」
2人は満面の笑みで渕上に一礼すると病室から出て行った。
病室の扉を閉めた2人は廊下を歩くと1人の女性とすれ違った。
「?」
不意に女性の方を振り向いた倉又はその女性が渕上の病室に入っていくのを見た。
(誰だろ?親戚かな?)
そう思った倉又は首を傾げながら前を向くと廊下を歩き始めた。
その頃病室では、
「失礼するね」
「⁉︎。え、衣奈さん⁉︎」
渕上は驚きを隠せなかった。何故なら渕上が入院しているのは国防病院。民間人が簡単に入れる筈なかったからだ。
「え、どうして此処に?」
「貴方の友人って言ったら、普通に通してくれたわよ」
「そ、そうなんだ.....」
(警備緩すぎん?大丈夫か?)
「総一郎さんから、貴方が重傷負って入院したって聞いたから、車すっ飛ばして来ちゃった」
「そ、それは、どうも....」
渕上はベットのリモコンを操作して上半身の高さを上げるとそれに寄り掛かった。
「心配掛けて、すみませんでした」
「本当、心臓に悪かったわ。練習どころじゃなかったもの」
「心配掛けた詫びと見舞いに来てくれた御礼に、退院したら、回らない寿司、御馳走しますよ」
それを聞いた姫浦は笑みを浮かべると一瞬俯いたのち渕上と目を合わせた。
「あれ?寿司嫌いでした?」
「いえ、大好きよ。ただ、回る寿司、割り勘で良いわよ。奢るのも奢られるのも、好きじゃないし」
渕上は鼻を鳴らすと笑みを浮かべた。
「そんだけ笑ってられるなら、大丈夫そうね」
「本当、心配掛けました」
「でも、元気そうでよかったわ」
「暫くしたら、リハビリ転院らしいです」
「東京か、そこに近い場所でお願いね。来るの大変だから」
「希望は出しておきます」
そう言うと2人は笑い合った。
心地の良い時間は、あっという間に過ぎて行った。




