第二十九話「ガルム・メビウスの脅威 後編」
「これが、“対ガルム用ラーミナ太刀”....」
片岡はモニター越しに自機が構える対ガルム用に改装されたラーミナ太刀を見つめた。
『虹羽田の羽黒が装備する大型スパイクシールドも、対ガルム戦用だ。・・・虹羽田・片岡、使い熟してみせろ』
『ハッ!』
「・・・」
片岡は操縦桿を強く握ると表情を強ばらせた。
戦局は全く良いとは言えなかった。
ガルムから射出された転送装置は中部地方だけではなく対馬近海・東京湾、そして北海道知床半島近海、稚内近海にも現れた。
ガルム攻略隊は、まさに挟み撃ちに近い状態にされた。
しかも知床半島には対人用無人兵器も降下され、国防陸軍と交戦中だった。
北海道第8・第9守備隊と共に対ガルム用の防衛線を張る中部地方第三守備隊。
RAINBOW.Fが上手く事を運ぶ事を祈りながら、ガルム到着を待っていた。
(此処が突破されれば、北海道は、いえ、本土が....)
片岡は操縦桿を強く握り締めた。そんな片岡に一本の通信が入った。
『顔怖いですよ。一葉さん』
「大輝....」
『なる様にしかなりません。もう少し肩の力抜いていきましょう』
「・・・前衛となる身としては、そうも言ってられないのよね〜」
片岡は操縦桿から手を離すと両手を握ったのちそれをパッと離すと再び操縦桿を握った。
『おっ、少しほぐれましたね』
「まぁね」
片岡は苦笑いを浮かべると操縦桿を握りながらガルムが来ない事祈った。
「いっそ渕上さんが、破壊してくれたら良いのに....」
『いくら渕上さんでも、それは難しいでしょう....』
「・・・来ないで欲しいわね....」
『それは私も同じです。でも、やるしかないんです』
「そう、ね....」
自然と操縦桿を握る手に力が入る片岡。
だが片岡の祈りを他所に、ガルムは刻々と迫っていた。
※
〜中部地方 日本海戦線〜
「あっぶねぇ、なぁあ!」
イータ隊長機の攻撃を間一髪のところで避けた鳥海はそのままラーミナ太刀でイータ隊長機のコクピットを貫いた。
『等々隊長機まで出して来やがったか....』
『今回は隊長機潰しても退かないからな。厄介だぜこりゃ....』
ラーミナ太刀をウェポンラックに納刀した鳥海機はラッチからラーミナメイスブレイドを構えるとイータ人型機動兵器を叩き殴った。
(此処までキリがないとなると、さっさとガルムってのを潰してもらうしかないな)
潰しても潰しても湧いてくるイータ人型機動兵器を前に流石の鳥海も嫌気が刺して来ていた。
キルペースは落ち、腕部170ミリ単発砲の使用頻度も増えて来ていた。
「・・・」
キルペースの衰えを自覚した鳥海はラーミナメイスブレイドをラッチに携行するとウェポンラックからラーミナ大型特殊メイスを引き抜くとそれを両手で構え、重たい一撃をイータ人型機動兵器に叩き込んだのち腕部170ミリ単発砲を撃ち込み、トドメを刺した。
鳥海機は瞬時に後ろを振り返ると同時にラーミナ大型特殊メイスでイータ人型機動兵器を殴り飛ばし、別のイータ人型機動兵器とクラッシュさせた。次にラーミナ大型特殊メイスの先端を開口させ、噛み付く様に関節部を挟み込むと噛み切る様に関節部を切断し、頭部ユニットを叩き割った。
「あっ、弾が、」
『鳥海、補給に戻れ。此処は俺が変わる』
「そう、じゃあお願い」
白雪を操る副隊長にその場を任せた鳥海はスラスターを吹かすと後方の整備拠点まで撤退した。
軍港を出港していた潜水補給艦隊の浮上を視認した鳥海は誘導機の指示に従い、着地した。一斉に整備ドローンが給油ホースと充電ケーブルを持ち上げると鳥海機への補給を開始した。
隣の潜水艦からも輸送ドローンが射出。整備ドローンと共に腕部170ミリ単発砲への給弾活動を開始した。
そんな中、コクピットハッチを開いた鳥海は運搬ドローンからケースを受け取ると中に入っていた飲料水を数口飲んだのち、握り飯に齧り付いた。
(こういう時、パンの方が有難いんだけどな〜)
そう思いながら少し速いペースで握り飯を平らげていく鳥海。そんな中、順調に整備と補給が進んでいった。
『新たな転送装置。北だ!』
『クッソ。潰したと思ったら新手かよ』
『ガルムを潰さない限り、永遠に湧いて出てくるだろうな....』
「・・・」
(幾ら湧いて来ようと関係ない。ただ潰すだけ)
休憩のお陰か、鳥海はいつもの感じに戻りつつあった。
『鳥海少尉。大型特殊メイスに不具合が見つかった。どうする治してから出撃するか?、それとも無しで行くか?』
「じゃあ無しで」
『了解だ。・・・補給完了、いつでも行けるぞ』
鳥海は運搬ドローンのケースにボトルを戻すとドローンが離れたのを確認したのちコクピットハッチを閉めた。
「今度はサンドイッチ、食べたいな」
『すまんな。米しか積んでないんだ』
鳥海は苦笑いを浮かべると給油ホースと充電ケーブルなどが外れたのを確認したのちペダルを踏み込んだ。
『大型特殊メイスが無い分バランサーに影響が出る。そこを忘れないでくれ』
「了解。鳥海機、翔鶴改、出るよ」
潜水艦の甲板から飛び上がった鳥海機はラーミナメイスブレイドを二刀流で構えるとスラスターを吹かし、前線へ戻った。
※
〜中部地方 太平洋戦線〜
「クッソ!漸く潰したってのに、また湧いてくるのか!」
やっとの思いで転送装置を破壊した諏訪部だったが、今度は4箇所に転送装置が出現。イータ人型機動兵器の数は、一気に倍増した。
(レールガンの残弾が乏しい。クッソ!)
そう思いながら一番近くにあるであろう転送装置を潰す為、スラスターを吹かす諏訪部。そんな諏訪部は普段の激務の影響もあってか疲れを感じぜずにはいられなかった。
(疲れ感じるだけマシか)
そう思いながらイータ人型機動兵器群の中に突っ込んだ。
ツインレールガンのラーミナビームマシンガンでイータ人型機動兵器を蜂の巣にしつつラーミナソードで斬り裂く諏訪部機。だが防衛線は分厚く、撃っても斬ってもキリがなかった。
「一方的な消耗戦だな、こりゃ....」
『キリがねぇ。落としても落としても出て来るぞ』
『北方の奴らが、とっととガルムを潰すのを、待つしかない様だな』
諏訪部は表情を鋭く険しい物にした。
イータ人型機動兵器のコクピットをラーミナソードで貫き、すれ違い際にイータ人型機動兵器を上下真っ二つに斬り裂く諏訪部機。そんな諏訪部機は、完全に包囲され、前には進めなくなって居た。
(此処で足止めして来るって事は、確実に近くにあるな)
転送装置の位置を確信した諏訪部は包囲網の突破に専念した。
だがレールガンの残弾の乏しさと推進剤の消耗が、ジワジワと諏訪部を蝕んでいった。
(補給に戻りたくても敵に包囲されたど真ん中、しかも美濃関まで戻ってる時間はねぇ。どうする?)
ラーミナソードでイータ人型機動兵器を斬り裂きながら、諏訪部はジワジワと機体を蝕む問題に険しさを隠しきれなかった。
『第三守備隊が抜けた穴。やはりデカいな』
『怯んでる暇があったら敵を落とせ!』
「ッ、....」
(一番聞きたく無い台詞だぜ。こっちは穴埋めようと必死に戦ってるんだからな)
段々と分厚くなる包囲網を前に、諏訪部は舌打ちをしながら突破口を開こうとした。
四基の転送装置から湯水の様に湧いて出て来るイータ人型機動兵器を前に不利な持久戦を虐げられる守備隊。その持久戦は、ガルムが破壊されるまで終わる事はなかった。
※
〜対馬戦線〜
ラーミナドライブ搭載の最新鋭試作機“フォースリベイク”を操る早見・木藤・加隈の3名もまた転送装置から無限に湧いてくるイータ人型機動兵器の脅威に晒されて居た。
「ラーミナドライブの恩恵で武装は問題ないけど....」
『この機体は小回りが効かない。二脚モードで包囲されたらと思うと、恐ろしいわね』
四挺のラーミナビームライフルを操る射撃手の木藤は次々と迫って来るイータ人型機動兵器を前に険しい表情を浮かべた。
『どうする?孤島に着陸して四脚モードで立ち回る?』
『それだと後ろに突破される可能性があるし、包囲された格好の的よ』
「けど、近付く前に撃ち落とすを繰り返してたら、自然と戦線が下がるんじゃ?」
『ッ』
指令役の加隈は迷った。そして悟った。対馬の防衛線が、如何に出張派遣に依存して居たかを。
(他の地方が侵攻を受けてる以上、援軍は望めない。私達でなんとかしないと....)
加隈は険しい表情を浮かべ、静かに両眼を瞑った。
そんな中、木藤は四挺のラーミナビームライフルを操りながら、必死にイータ人型機動兵器を撃ち落とした。
「いつも以上に凄いわね。対馬防衛には、慣れてたつもりだったけど....」
ロックオンカーソルを銃型操縦桿のカーソルでなぞり、只管トリガーを引き、暴れ撃ちの様に乱れ撃つ木藤。これもラーミナドライブの恩恵があるからこそ出来るばら撒き戦術。だがその精度は意外にも高かった。
四挺のラーミナビームライフルが只管閃光をばら撒く中、加隈は友軍の配置状況を確認した。
「これ以上下がると、戦線に穴が空くわね」
「そんなに下がってるつもりはないけど....でも前進したら沙織の負担が増えるし....」
操縦士の早見がそう言うと加隈は口元に手を添えて考えた。
『これ以上数が増えたら、対処しきれない』
「・・・うーん....」
様々な考えが加隈の頭の中で交差する中、加隈は険しい表情を浮かべた。そんな中、一本の通信が入った。
『最終防衛ラインへの護衛艦配備が完了した。補給体勢も整った。だが、護衛艦にイータを近付けるのは避けたい。各員、補給線を活用しつつ現在の戦線を維持せよ。護衛艦からも可能な限り援護する』
「・・・」
『簡単に言ってくれるわね』
加隈はますます表情を険しくした。
戦線はギリギリ。イータの数は増える一方。
加隈だけでなく、木藤と早見も表情を険しくして居た。
※
〜樺太戦線〜
『よっしゃあ!上手くいったぜ!』
「凄いな。本当に上手く行くなんて」
渕上は芹沢から提案された作戦が上手く行った事に驚いて居た。
遡る事数分前
「射出口を破壊する?」
『そうだ。ロケット弾装備してんのはお前だけじゃない。1発だけだが、俺も持ってる』
「だが、その1発でどうする気です?」
『残骸を利用する』
「・・・成る程」
渕上機はライフルをマウントラッチに携行し、ホルスターからラーミナビームピストルIIを引き抜くとラーミナビームブレイドを展開し、コクピットのみを正確に斬り裂くと原型を留めたままの残骸を掴むと急降下してガルムに急速接近したのち転送装置射出口に向けて残骸を蹴り込んだ。
『貰った』
芹沢は射出口が物理的に塞がったのを確認すると残骸に向かって腕部ロケット砲を撃ち込んだ。
すると残骸の爆風とロケット弾の衝撃波・威力も相まって爆発が発生。転送装置射出口に大きなダメージを与えた。
『渕上!。保険だ。もう一丁頼む』
「了解」
渕上機はイータ人型機動兵器の残骸を掴むと再び急降下し、ガルムの攻撃を避けると転送装置射出口に残骸を蹴り込んだ。
(これで自己修復も簡単には出来まい)
『よっしゃあ!上手くいったぜ!』
ミサイル発射口を修復中のところに追加ダメージを喰らうガルム・メビウス。するとガルムはミサイル発射口と転送装置射出口を分離すると速度を上げ、南下した。
「損傷部位を切り離して、一から生成する気か?」
『ガルム....化け物中の化け物ですね』
『だけど、これでイータ人型機動兵器群とガルムは分離出来た。芹沢・渕上、流石ね』
『頭は生きてるうちに使わないとな』
自慢げにそう発言する芹沢。それを聞いた渕上は苦笑いを浮かべるとライフルモードのラーミナビームスナイパーライフルIIで只管イータ人型機動兵器を撃墜していった。
『渕上』
「ん?、晴翔?」
『ラーミナドライブのリミッター解放システムを解禁しておきました。・・・ガルムにも通用するかと』
「・・・」
(遼太郎さん。あんた一体何をした?)
『遼太郎さんがアップデートの際に導入したシステムです。....あとは、任せます』
「・・・了解」
※
『渕上さん達、上手くやったみたいですよ』
「あとは俺達の仕事だ。・・・良いか、此処で仕留めるぞ。俺達が最後の砦だ」
中部地方第三守備隊隊長の神尾はそう言うと僅かに操縦桿を強く握った。
「神崎。ガルムの位置は?」
『あと10秒で接敵!』
『見えたぞあれだ』
『なんてデカさだ』
『あと5秒』
神尾は表情を鋭くした。
(来るなら来やがれ)
『接敵。今!』
彼らの目の前に、それは現れた。
四足歩行の白黒の巨体。アームとビーム砲が一緒になった4本の触手の様な腕。先端を刃先にした尻尾。
“ガルム・メビウス”が、現れた。
『先陣は貰ったーッ!』
ガルムに突っ込む北海道第九守備隊。だが突っ込んだのは彼らだけではない。
「虹羽田!、片岡!」
『ハッ!』
『ッ』
対ガルム用装備に換装した2機を先頭に第三守備隊も突っ込んだ。
するとガルムは第九守備隊を触手の様な腕の先端のアームで拘束するとコクピットにビーム砲をゼロ距離発射し、一気に4機仕留めた。そしてその残骸を神尾機・岩動機・片岡機に投げ付けると3機をクラッシュさせ、転ばせた。
「ガハッ!」
起き上がると同時にスラスターを吹かし、バックする神尾機。神尾は表情を硬直させた。
『第九守備隊。全機沈黙』
『速い。まだ1分経つか経たないかだが、』
体勢を立て直した岩動機はラーミナソードをソードモードで構えると再度ガルムに突っ込んだ。
その最中にも北海道第八守備隊の半数がやられて居た。残った守備隊は射撃武器を撃ちながらガルムに突入するが、1機左前脚で蹴り飛ばされ、尻尾の刃で貫かれて撃墜。1機は右前脚に踏み潰されて撃墜。1機は後左脚で後ろ蹴りされたのち触手のビーム砲にコクピットを撃ち抜かれて撃墜。1機は左前脚で蹴り上げられたのち口部ビーム砲に消し炭にされ撃墜。
『第八....全機、撃墜されました....』
神尾機と岩動機は空中から仕掛けるが尻尾の刃に寄って叩き落とされ、その衝撃で神尾機はラーミナツインビームサブマシンガンと100ミリサブマシンガンを。岩動機は100ミリロングレンジマシンガンをそれぞれ破壊された。
虹羽田機は地上から仕掛けるが口部ビーム砲に寄って対ガルム仕様の大型スパイクシールドを破壊され、尻尾の刃に弾き飛ばされた。
六角機と倉又紫恵楽機はそれぞれ前脚に蹴り飛ばされ壁に衝突。
石堂と片岡は恐怖のあまり動けなくなって居た。
「・・・ぬぅぁあ....」
壁に叩き付けられた機体を起こし、ラーミナビームブレイドを二刀流で構える神尾は恐怖が僅かに混じった鋭い眼でガルムを見た。
「これが、4つの国を一晩で滅ぼした、ガルム・メビウス....ガルムの本性か....」
仕掛け様にも戦力は殆どない。神尾は静かに絶望した。
するとその瞬間、ガルムの頭上に複数の閃光が降り注いだ。
「ッ!」
渕上のヴェヒターだ。
渕上機は開いた口部ビーム砲にライフルモードのラーミナビームスナイパーライフルIIを投げ付けるとガルム・メビウスの前に着地した。
「・・・」
渕上は長い瞬きから目覚める様に目を開くと静かに細い息を吐いた。
「おい、ヴェヒター。アレは俺とお前の獲物だ。・・・余計な鎖は外してやるから、見せてやろうぜ。....俺達の力を、」
「(エンゲージ)」
渕上の声に反応した様に中央のパネルにリミッター解放システム解除の画面が出現した。
渕上がそれをタップした瞬間、ヴェヒターは朱色の光に包まれ、両眼カメラアイを赤く発光させるとオーラの様なモノを溢れ出させた。




