第二十八話「ガルム・メビウスの脅威 前編」
北上するRAINBOW.F一行。しかし、無線は壊滅的だった。
『死にたくねぇッ!。助けてくれェェェッ!』
『スラスターやられた!墜落する。うわァァァッ!』
『退け!退け!。退けェェェッ!』
『退避!退避ィィィッ!』
混乱する独立遊撃部隊。だがそこに悪魔の様な無線が入った。
『各隊怯むな。ガルムを攻撃。破壊しろ』
佐久間総隊長の無謀とも言える通信に、RAINBOW.F一同は耳を疑った。
『佐久間総隊長!。それはあまりにも危険です!』
『目覚めた以上破壊するしかない。そうだろ?』
「貴方のせいで目覚めた様なものなんだぞ。一旦退き、体勢を立て直すべきだ」
『覚醒させたのは俺ではない。前線のパイロットだ』
「ッ!」
『渕上!』
「・・・」
怒りに身を任せた発言をする所だった渕上は今野に名を呼ばれて我に戻った。操縦桿を強く握りながら細い息を吐き、無線に耳を傾けた。
『イータの数が多過ぎてガルムに近付けん』
『ガルムとの交戦は避けて!。今はとにかく撤退して!』
悲鳴に近い声を僅かに混ぜた様な声で指示を出す今野。だが現場は大混乱だった。
『今野中尉。要らん指示は出さないで貰おうか』
『ッ!』
(苛立ってんのは皆んな同じか)
『イータ反応多数!友軍機を捕捉しきれません』
『それだけの大群って訳か....』
那須の報告にそう答えた芹沢は静かに舌打ちした。
『友軍機の反応が、どんどん消えていく....』
「・・・」
雨宮がポツリと呟いた言葉を前に渕上は鋭く、険しい表情を浮かべた。
スラスターリミッターは解除済み。ペダルもベタ踏み。これ以上急ぐ事は無理だった。
樺太島の真上を高速で移動する7機のリベラシオン。だがあと3分で交戦距離に入る、と言うところで、友軍機の反応が消滅した。
『第一から第三が、そんな....』
『間に合わなかったわね』
「・・・」
鋭い表情に怒りを混ぜる渕上は更に強く操縦桿を握った。
『全機。弔い合戦だけど無理は禁物。冷静さを保ち、クールに行くわよ。・・・但し、ガルムとの交戦は避けて』
『ガルムを撃墜しろ。少数精鋭の力、見せてzzzzzz』
「?」
『全部隊へ。此方大岩』
通信回線が変わると同時に総司令官の声が全員の耳に入った。
『救出作戦は失敗だ。一旦稚内まで後退し、作戦を立て直す。全部隊、稚内まで撤退せよ』
『了、了解』
7機のリベラシオンはすぐさま反転した。
※
稚内まで撤退した渕上達は機体から降りるとすぐさまブリーフィングルームへ走った。
ブリーフィングルームの演壇には第四独立遊撃部隊大隊長の木曾が立っていた。
「気を失った基地司令官に代わり、私が対ガルム戦の指揮を取る事となった。まずは、此方のデータを閲覧して欲しい」
メインモニターに映し出されたのはガルム・メビウスのデータだった。
四足歩行の白い巨体はまるで天使が四足歩行しているかの様だった。そこから生えるのはブレイドの付いた尻尾。アームとビーム砲が内蔵された4本の触手の様な腕。巨体後部には多数のミサイル発射口と何かを射出する装置。その装置の答えは木曾が説明した。
「この巨体後部にある装置は転送装置を射出する為のものだ。此処より転送装置を射出、転送装置からイータ人型機動兵器を出現させる。つまり転送装置と射出口を潰さない限り、無限にイータ人型機動兵器が出現する訳だ」
ブリーフィングルーム内はざわついた。最初に意見したのは中部方面隊第三守備隊隊長の神尾だった。
「ガルムの位置は?」
「樺太内で停止中だ。動く素振りは見せていない」
「だったら無理に攻撃する必要はないのでは?」
「確かに。まともに挑んでも死ぬだけだ。犬死はごめんだ」
「それが、ほっといたら良いと言う話ではない」
そう言った木曾は表示データを次のものに変えるとガルムが射出する転送装置のデータを表示させた。
「この転送装置は、遠隔操作も可能だ。しかも、川辺や海上と言った水分は豊富な場所ではより多くのイータ人型機動兵器を召喚出来る。これが日本近海に現れれば....」
「大侵攻が彼方此方で起きる」
「海上からならともかく、陸上でやられたら最悪ね」
「遠隔操作可能圏内に、日本列島はすっぽり治っている。君達の言う通り、いつ大侵攻が起こっても不思議じゃない。しかも、1箇所だけではなく、複数箇所で起こるだろう」
その場に居る全員が重圧を感じた。渕上含め、殆どのパイロットが脳裏に最悪なシナリオを過らせた。
「ガルムには自己修復機能がある。目覚めた以上、破壊するしかない」
殆どのパイロットが、険しい表情を浮かべる中、渕上はタブレット端末に転送されたデータを閲覧していた。
(なんて事をしてくれたんだが....)
そう思っている中、全員のタブレット端末に通知が入った。
「中部地方が日本海側と太平洋側から攻められてる?。しかもガルムが南下を開始?」
その場に居る全員が悟った。ガルムが動き始めた。と
「やるしかない。よし、作戦を説明する」
※
〜中部地方 日本海戦線〜
渕上や秋山の同期あり戦友で“瀬戸の祢々切丸”の異名を持つパイロットで中部地方第一守備隊隊員の鳥海は日本海側に突如現れたイータ人型機動兵器の大群と戦っていた。
「・・・」
ラーミナメイスブレイドを二刀流で構え、いつも通りに、まるで作業を熟す様にイータ人型機動兵器を仕留める鳥海機。左手に構えるラーミナメイスブレイドでコクピットハッチを跳ね飛ばし、右手に構えるラーミナメイスブレイドで露出したコクピットを付き潰す。それでも撃墜出来なければ腕部170ミリ単発砲を至近距離で撃ち込む。そうやって次々に数を減らす鳥海機。
だが鳥海は知らなかった。この大群が、ガルムが展開した転送装置によって送り込まれた軍団である事を。つまりガルムを破壊するか転送装置を破壊しない限り、この大群は無限に沸き続けるのだった。
しかしそんな事鳥海にはどうでもよかった。“ただ目の前の相手・撃ってくる相手を殺る”。それしか考えてないからだ。
『これも、ガルムの影響か....』
『転送装置を探し出せ、それを潰さなきゃ話にならん』
「敵は引き付けるから、捜索宜しく」
『お前相変わらずだな』
持久戦になる事を察した鳥海は目の色一つ変える事なく只管イータ人型機動兵器を仕留めた。
ラーミナメイスブレイドで殴り壊し、腕部170ミリ単発砲を至近距離に撃ち込む鳥海。
面白みに欠け、人を魅了するモノはないが、隙のない戦いを続ける鳥海。そんな中、ほぼ原型を留めたまま墜落するイータ人型機動兵器を一瞬見下ろした鳥海はペダルを踏み込み、高度を上げると次の獲物に殴り掛かった。
※
〜中部地方 太平洋戦線〜
(この状況で第三守備隊が抜けてるのは痛い。....しょうがねぇ。俺が1部隊分、余分に働くか)
渕上、秋山の同期であり親友で“美濃加茂の越前康継”の異名を持ち、美濃関訓練学院で教官補佐をしている諏訪部は操縦桿を強く握り、ペダルを踏み込むと機体を加速させた。
諏訪部機はラーミナソードの刃を展開し、ソードモードにするとツインレールガンからレールガンを撃ちながらイータ人型機動兵器群と距離を詰めた。そしてすれ違い際に3機のイータ人型機動兵器を上下真っ二つに斬り裂くとレールガンの射撃で1機仕留めると瞬く間に包囲された。
「もう慣れてんだよ!」
諏訪部機はスラスターを吹かし、イータ人型機動兵器と距離を詰めるとラーミナソードで斬り裂いた。ツインレールガン下部銃身のラーミナビームマシンガンで1機蜂の巣にするとそのままラーミナビームマシンガンを撃ちながら距離を詰め、ラーミナソードでイータ人型機動兵器を斬り裂いた。
すれ違い際に次々とイータ人型機動兵器を斬り裂いた諏訪部機は機体を反転させるとレールガンの射撃で4機仕留めた。
(転送装置の破壊用にレールガンは温存しておきたい。・・・何処にあるんだ?)
イータ人型機動兵器を斬り裂きながらガルムが射出した転送装置を探す諏訪部。だがそう簡単に転送装置を曝け出す程イータは甘くなかった。それでも諏訪部はイータ人型機動兵器を斬り裂きながら探した。
「甘い!」
諏訪部機はツインレールガン下部のスパイクをヒートモードにすると斜め下から距離を詰めるイータ人型機動兵器を殴り叩いた。
すぐさまヒートモードを解除した諏訪部は辺りを見渡したのちレーダーに目を落とすと「よし」と呟いた。
(ここだな)
諏訪部機はスラスターを吹かすとすれ違い際にイータ人型機動兵器を上下真っ二つに斬り裂きながら前に進んだ。
「見えた」
転送装置を発見した諏訪部はすぐさまトリガーを引き、レールガンを撃ち込んだ。だが転送装置との間にイータ人型機動兵器が立ちはだかった事により転送装置に撃ち込んだ筈のレールガンは命中しなかった。
(もっと近付かないと駄目って事か)
そう思う諏訪部を他所に、転送装置から無数のイータ人型機動兵器が出現した。
「そう簡単にはやらせて貰えないか....」
諏訪部は操縦桿を強く握った。
『持久戦だな。こりゃ』
『転送装置を破壊しても、また別のを送って来るだろうな』
『北方の奴らがガルムを潰さない限り、俺達の仕事は終わらないみたいだな』
『とんでもねぇ戦いだな。手当て金出るんだろうな?』
諏訪部機はラーミナソードを構えると転送装置を破壊すべくイータ人型機動兵器群へ突っ込んだ。
※
諏訪部や鳥海が奮戦してる頃、渕上達は作戦通り行動していた。が、
『クソッ!』
『数が多過ぎる!』
RAINBOW.Fの任務はガルムとイータ人型機動兵器群の分断。しかし落としても落としてもガルムから召喚されるイータ人型機動兵器を前に分断どころか、余計に密集させるだけだった。
「やはりガルム本体を攻撃して、射出口を無力化するしかない」
そう呟いた渕上は操縦桿を動かすとすぐさま行動を起こした。
すれ違い際にイータ人型機動兵器のコクピットを撃ち抜きながら高度を下げ、ガルム・メビウスに接近する渕上機。
するとガルムはミサイル発射口から大量のミサイルを撃ち出した。
「ッ」
(駄目だ落とし切れねぇ)
渕上はすぐさま別ペダルを踏み込み、ブースターポットとスラスターポットを逆噴射させガルムから距離を離すと18ミリ頭部バルカンとラーミナビームでミサイルを撃ち落とすと操縦桿を動かしてミサイルとイータ人型機動兵器をクラッシュさせた。
(ミサイル?。そうか、それなら)
渕上機はもう一度ガルムに近付いた。渕上の予想通り、ガルムはミサイル発射口を開いた。その瞬間、渕上機はミサイル発射口に複数のラーミナビームを撃ち込んだ。放たれたラーミナビームは発射口内に格納されているミサイルに命中。誘爆を起こした。
「よし。ようやくまともなダメージが与えられた。あとは、射出口を、」
『(渕上!後ろ!)』
渕上機はその場でバク転するとガルムの操る有線アームを避けた。
(4本の腕って訳か)
渕上機はアームを破壊しようとラーミナビームを撃ち込むがアーム中央部のビーム砲にラーミナビームを吸収され、跳ね返す様に撃たれた。
「チッ!」
間一髪のところで避ける渕上は実弾兵器のトリガーに指を掛けた。しかし、渕上は目を見開くとトリガーから指を離した。
渕上機は今回、対ガルム戦を想定して腕部砲を全てロケット砲に変えていた。つまり使える実弾兵器はロケット砲2発。
渕上は高度を上げると再びイータ人型機動兵器を撃墜し始めた。
「元を断つのも簡単じゃないな」
ミサイル発射口の誘爆で一部射出口は僅かなダメージを受けた。が、渕上がイータ人型機動兵器を撃ち落としてる間に、そのダメージは修復された。
『闇雲に突っ込んでも意味ないわね』
『遠距離で仕掛ければ、イータ人型機動兵器が盾になって、近付けば腕のアームと尻尾の刃、頭部ビーム口の餌食。これじゃあ埒が開きません!』
『オペレーターがそんな事言ってどうする。それの突破口を考えるのもオペレーターの仕事だろ!』
加瀬はいつもと何処か違う口調で雨宮に喝を入れた。渕上も同じ気持ちだが敢えて言葉には出さなかった。
(分断....分断?。・・・そうか!)
渕上機はイータ人型機動兵器を撃ち抜きながら急降下するとガルム後方に回り込んだ。
(上から駄目なら下からなら)
青臭い考えで地面スレスレまで降下した渕上機はガルムの尻尾攻撃を避けるとガルムの腹裏に潜り込み、機体を回頭させるとガルムを攻撃した。だが通常のラーミナビームではガルムの装甲を貫通する事は出来ず、ガルムにダメージを与える事は無理だった。
渕上は舌打ちするとガルムの後方から抜けると高度を挙げると同時にすれ違い際に転送装置射出口を攻撃した。が、ドーム型に展開したバリアによって、その攻撃は失敗した。
「やはり実弾攻撃か」
悔し紛れに高度を上げる渕上機。すると渕上機は転送装置から出現したイータ人型機動兵器に包囲された。
(しまった。こんな至近距離で包囲されたら、ガルムの攻撃をもろに喰らっちまう!)
思わぬところで包囲された渕上機。そんな渕上機をガルムの有線アームが襲った。
「チィッ!」
ガルムの攻撃を避けながらイータ人型機動兵器の攻撃も避け、イータ人型機動兵器を撃墜していく渕上機。すると渕上機はライフルをマウントラッチに携行させるとホルスターからラーミナビームピストルIIを引き抜き、近距離戦で立ち回った。
ラーミナビームマグナムでイータ人型機動兵器のコクピットを撃ち抜き、ラーミナビームブレイドでガルムの有線アームを弾き返す。そんな戦いをしながら包囲網脱出のタイミングを見計らった。
「こうなりゃこうだ」
ラーミナビームブレイドでコクピットを貫いた渕上機はホルスターにラーミナビームピストルIIを抑えてるとその残骸を右手で掴み、急降下した。そして持っていた残骸を射出口に蹴り込むと射出口を物理的に塞いだ。いい感じに残骸が食い込み、射出口の半数を使用不可能にした。
「よし、あとは上昇して、ってそう簡単にはいかないか」
ライフルモードのラーミナビームスナイパーライフルIIを構えた渕上は包囲網の中に突っ込んだ。
高度を上げながらすれ違い際にイータ人型機動兵器を撃ち抜く渕上機はガルムから一定距離離れたところで上昇を止めるとイータ人型機動兵器を撃墜し始めた。
『あの手は思い付かなかったわ。流石ね』
「それでも全体は塞げてない。分断は、厳しいですね」
今野にそう返した渕上は眉間に皺を寄せると難しい表情を浮かべた。
一方で、射出したワイヤークローを回収した芹沢はラーミナバスターブレイドをウェポンラックに携行するとラーミナビームブレイドを二刀流で構えた。
「(エンゲージ)」
(遠慮なく全開で行くぜ)
持久戦にも関わらず、推進剤消耗覚悟で全開モードに突入した芹沢。それを見た今野も出し惜しみは不必要と考えた。
『(“エンゲージ”)』
「行くわよ大淀!」
今野機の大淀改は両眼カメラアイを発光させると戦術レーザー砲で次々とイータ人型機動兵器を薙ぎ払った。レーザー砲を冷やす為、伸縮式大型レールガンも使いつつ、イータ人型機動兵器を次々と仕留めていった。
たった1人の人間の慢心とミスで蘇った悪魔と言う名の番犬、“ガルム・メビウス”。
だが、ガルム・メビウスの脅威は、こんなものではなかった。




