第二十七話「悪魔の目覚め」
【7月21日 火曜日】
6人で回すのも限界に達したRAINBOW.Fは日本へ帰還した。
松田はやっと機体を休ませられると思いながら修理・補強・整備を始めた。
「辛かったです。雨宮さんの横から、見てる事しか出来ませんでしたから」
「なら今度からは渕上の指示にしっかり従うのと、戦闘中は気を抜かない事だな」
少し冷たく倉又にそう言った加瀬は更衣室に向かって歩き始めた。渕上は敢えて何も言わず、加瀬を追い掛けた。
「・・・」
ため息を吐いた倉又は女性用更衣室に向かって歩き始めた。
一方で松田はデータ端末を操作しながらラーミナビームスナイパーライフルIIの修理を行って居た。
「松田さん」
「桑原さん、どうしました?」
「....また2人で、お出かけしませんか?」
「良いですね〜。予定が合えば是非」
松田はデータ端末から顔を離し、桑原の方を向くと笑顔で頷いた。それを影から見て居た京塚は不貞腐れた。
(まーた先越されちゃったよ〜)
京塚がそう思いながら不貞腐れてる事も知らず、松田と桑原は機体メンテに戻った。
(自分の気持ち、か....)
前に京塚から言われた事を思い出した桑原はデータ端末を持ったまま松田の方を向いた。
(好きなんだな〜。私。松田さんの事)
そう思いながらデータ端末に目を戻した桑原は機体とデータ端末を交互に見ながら整備を進めた。
暫くすると桑原は納品された倉又の秋山の点検が終わったのを確認するとチューニング作業を開始した。
※
【一四二五
久々に日本へ帰還。日本の空気は美味い。
それにしても、倉又少尉ナシはキツかったな〜。自分の招いたミスとは言え情けない。
“機体なんざ消耗品。パイロットの命あればそれで良い”とは言うが、俺の責任で招いた事態をそれで済ませて欲しくはなかったな。別に責められたいって訳では無いが、もっとこう....ダメだ。言葉に出来ん。
・・・俺何の為にグループリーダーやってんだろ?
とにかく今度は躊躇しないほうが良いな。絶対1機たりとも、落とさせはしないぞ】
ゆっくりと手記を閉じた渕上は椅子に凭れ掛かると目元を指で摘み、険しい表情を浮かべた。
数秒後、着信を鳴らす携帯電話を見た渕上は携帯電話を手に取ると電話に出た。
「もしもし衣奈さん?」
『もしもし。やっと声が聞けたよ。嬉しい』
「それは、よかった....」
『どうしたの?元気無いね』
「いや、ちょっと任務で嫌な事があって」
『嫌な、事?』
「でももう大丈夫です。・・・光が、....今光が見えましたから」
『そう』
渕上は電話越しに空笑いを浮かべると姫浦との通話を楽しんだ。
『そうだ。今夜ドライブ行きがてら夕食一緒にどう?』
「ああ良いですよ。今夜別に予定ありませんから」
『じゃあ17時に煉瓦街ストリートの前ね。迎えに行くから』
「ありがとうございます。楽しみに待ってます」
『私も楽しみ。じゃあ、また後でね〜』
その言葉を最後に、通話が切れた。
渕上は携帯電話の画面を見つめるとゆっくりと携帯電話を机に置き、背凭れにより掛かると細長い息を吐いた。
(ドライブデートって訳か....)
そう思った渕上は椅子から立ち上がりベッドに横たわると天井を見つめた。
「付き合ってる、で良いんだよ、な?....」
静かにそう呟いた渕上は右手をゆっくり挙げると静かに拳を握った。
※
「と、言う訳だ。引き受けて貰えるか?」
「・・・」
大岩からの作戦実行命令を受けた佐久間は難しい表情を浮かべた。
(メンドクサイ事頼んで来やがって〜.....)
大岩が佐久間に命令した作戦は樺太島の偵察任務だった。最近北海道方面のイータ侵攻が大規模且つ増大してる事から樺太島の前線拠点が復活していると睨んだ大岩は部隊に余力がある佐久間に偵察任務を命じたのだった。
数秒後、佐久間は表情を急変させた。
(待てよ。樺太島には“ガルム・メビウス”が居たはず。それを潰させれば、俺の株も上がる筈)
「わかりました。第一・第二・第三独立遊撃部隊、総力を挙げて、偵察します」
「・・・?」
それを横で聞いていた出水は何か変だと思い立ち去ろうとする佐久間を呼び止めた。
「樺太島にはガルムが居る。大部隊を送り込むのは良く無いと思うんのだが?」
「ガルムを恐れてたら何も出来ません。それに、起動したら潰せば良いんです」
「ガルムの力を甘く見るな!。ガルムは国一つ、軽々滅ぼせるだけの力を持った化け物だ。起動させる前提で作戦を進めるな」
大岩は少しキツめの声でそう言ったが佐久間は聞く耳を持たなかった。
「作戦決行明後日までに戦力を集結させます。この偵察任務、戦果を挙げてみせましょう」
そう言うと佐久間は司令室から出て行った。
「大岩司令」
「うむ。・・・第四・第五独立遊撃部隊に、バックアップを要請する。あと、念の為他の方面隊に掛け合って、戦力を稚内基地に回せないか掛け合ってみよう」
「佐久間総隊長は、本気でガルムを?」
「可能性は、....あるな」
大岩は肘を突いて手を組むと難しい表情を浮かべた。
※
渕上満は松田晴翔から送信されたラーミナドライブの運用データを確認しながらティーカップ片手に紅茶を飲んでいた。
「・・・?」
渕上満はある所で画面を止めた。
「6700回転から一気に7580回転に上がった?」
そう呟いた渕上満はティーカップを置くと詳細データを確認した。
(理由、不明?。....一体何が?)
バリアアサルトの急速充電を行った訳でも無いのに異様な回転数の上がり方を見た渕上満はその場に硬直した。するとそこへ松田遼太郎が入室して来た。
「よぉ満。難しい顔して、どうした?」
「いや、....この回転数の伸び具合、一体なんだろうってね」
「んん?」
松田遼太郎は前屈みになると表示されたデータを閲覧した。
「・・・一種の“共鳴”、かもな」
「共鳴?」
「渕上の呼び掛けに応えた。って所じゃ無いか?」
「・・・」
「エンゲージタイムとは、奥が深いな〜」
そう言うと松田遼太郎は身体を起こし、腕を組んだ。渕上満は信じられない様な表情を浮かべながらデータをもう一度見た。
「そんな怪奇現象が、起こるものなの?」
「エンゲージタイム自体が怪奇現象だ。何が起こっても不思議じゃない」
「そんな....」
「現に起こってる。そしてラーミナ出力に耐えきれずライフルが壊れた」
「・・・」
渕上満は固まるしかなかった。すると松田遼太郎は不気味な笑みを浮かべた。
(コイツは、エンゲージタイム解明に、役立つかもな)
そう思った松田遼太郎は部屋から出て行った。
「・・・」
(和公。貴方一体....)
※
渕上は大きなくしゃみをすると、ガードレールに寄り掛かりながら姫浦を待った。
(衣奈さんの車、ロードスターだったよな)
鼻を啜りながらそう思った渕上はクラクションの鳴る方を向いた。すると一台のMAZDA 2が、渕上の側に止まった。
「・・・は?」
MAZDA 2に乗って居たのは姫浦だった。渕上は身体を起こすと助手席のドアを開け、車に乗り込んだ。
「待った?」
「いえ、今来た所ですから」
姫浦は渕上がシートベルトしたのを確認するとゆっくりとアクセルを踏み込んで車を走らせた。
「ロードスターじゃあないんですね」
「あれはレース用よ。プライベート用はこっち」
「へぇ〜」
渕上は車の窓越しに立川の街並みを見た。そんな渕上の中にある疑問が浮かび上がった。
「衣奈さん」
「ん?」
「俺達、付き合ってるって関係で良いんですよね」
「・・・難しいわね」
姫浦は笑みを浮かべながらそう答えた。
「と言うと?」
「私は下の名前で呼んで欲しいって頼んだ時点でそのつもりだったけど、貴方から何も言われてないもの」
「⁉︎」
思わぬ発言を前に、渕上は静かに動揺した。すると姫浦が運転する車は交差点の赤信号で停車した。
「・・・衣奈さん」
「はい?」
「....俺と、俺衣奈さんの事が好きです。俺と.....俺と付き合って下さい」
「・・・はい。此方こそ、宜しくお願いします」
2人は顔を合わせると笑みを浮かべた。数秒後、姫浦は前を向くとそれと同時に信号が青に変わった。
※
「こうやって里美とご飯食べるのも、久々ね」
「そうですね。亜澄さんも、思ったより元気そうでよかったです」
風間と岬は同期の仲だった。久々の団欒に、2人は満面の笑顔だった。
「2人で夕飯食べるのも久々ね〜」
「任務中、意外と時間ありませんでしたからね」
ナイフとフォークを動かしながら、食べ、食べながら話す2人。風間は何処か疲れてそうだったが、雰囲気がそれを吹き飛ばしてくれて居た。
「ところで亜澄。ちょっと気になってたんだけど、」
「何?」
「気になる男とか、居るの?」
「・・・え?」
「いや〜、同期としては知っておきたいな〜、と」
風間はフォークとナイフを置くと口の中身を飲み込んだのちお茶を数口飲むと暫く考えた。
「グループAの中には、居ないかな〜」
「へぇ〜。その言い方だとグループBには居るの?」
「隊の中で探せって言ったら、渕上かな〜」
「意外、結構歳下だよ?」
「それが良いんじゃない」
「へぇ〜、なんか意外だな〜」
風間は再びフォークとナイフを持つと食事を進めた。
「そう言う貴方は?」
「へ?」
「聞いたからには答えなさいよ」
「う〜ん。....宮口かな〜」
「なんか意外ね」
「そう。....うん、確かにそうかも」
岬は口の中身を噛み締めながら自分でも意外な答えを放った、と思った。
「と、言うか。パイロットなんてやってたら出会いは限られるわよ」
「そうですね〜....」
「加瀬が羨ましい〜」
「奥さん、プロゴルファーでしたっけ?。珍しい組み合わせですよね」
会話が発展していく中、2人は食事を済ませ、食後の飲み物を取りに行った。
(渕上、か....でもライバルが多いんだよな〜....)
※
【7月23日 木曜日】
〜北海道方面隊 稚内基地〜
7機のリベラシオンと1機の輸送機が誘導員の指示に従って着陸する中、渕上は機体の電源を落とし、ハッチを開けるとハシゴに脚を引っ掛け、手で掴むと下に降りた。
松田の指示で給油の始まるヴェヒターを見上げた渕上は格納庫内から歩いて来る懐かしいメンツの方を向いた。
「お久しぶりですね」
「石堂少尉に片岡少尉。お久しぶりです」
思わぬ同期との再会を喜ぶ渕上は2人と握手を交わした。
「何で中部第三守備隊が、此処に?」
「西島校長、いえ、司令からの派遣命令です。遠征隊の大岩司令から、要請があったとかで」
それを聞いた渕上は微かに表情を険しくすると“は?”と言う顔をした。
「おいおい。たかが偵察任務のバックアップに、何でこんなに戦力が必要なんだ」
「ガルムが関係してるかもな」
渕上・石堂・片岡の3人は声のする方を向いた。するとそこには秋山と茅野が居た。
「成る程。ガルム・メビウスが目覚めた時のバックアップってわけね」
「ロシアや中国を壊滅させた化け物を迎え撃つのは、無理があると思いますが....」
「佐久間総隊長の考えてる事は分からん。予備パイロット引っ張り出しての20人×3部隊係で樺太の偵察を行えば....」
「休眠中のガルムを目覚めさせる事になる....」
石堂は秋山にそう返すと渕上の方を向いた。渕上は口元に手を添えて考えるとガルムが目覚めない事を静かに願った。
一方その頃、前線では、
「第一独立遊撃部隊、配置完了」
『第二独立遊撃部隊、配置完了』
『第三独立遊撃部隊、配置完了』
『よし。各部隊、偵察を開始せよ。場所は樺太だ。気を引き締めろ』
三方向から行われる事となった樺太島偵察。中央を担当する第一独立遊撃部隊は樺太島へ上陸した。
『ったく、樺太の偵察なんかにこれだけの人数必要なのかよ?』
『予備パイロットまで引っ張りだして、なんか意味あるんすかね?』
「さぁな。でもまぁ、やれと言われたらやるしかないだろ」
『重腰総隊長直々の命令、か....』
今回の任務に対して愚痴を漏らす隊員達を、隊長は宥める事も出来なかった。
暫く飛ぶとイータ前線拠点があった場所に到着した。
「イータ反応なし。この拠点は破壊されたあと放置されたみたいだな」
『原因は他にありそうですね』
『てか、北海道方面隊のスクランブルが増えた理由を、何で俺達が調べてるんすかね?』
「確かにな。だが此処は日本の領土ではない。俺達の出番って訳さ」
辺りを見渡しながら進む一行。数分後、隊長は妙な違和感に襲われた。
(ん?、合流ポイントの此処って....)
隊長はパネル操作し、地形データ等をリンクさせるとある事に気が付いた。
(この合流ポイント....不味い!)
「佐久間総隊長。合流ポイントの変更を提案します」
『なぜだ?』
「ガルム・メビウスに接近し過ぎです。ガルムを起動させる可能性があります」
『今回の根源はガルムにある可能性がある。ガルムを偵察しなくてどうする?』
「こんな大部隊でガルムに接近するのは危険です」
『命令だ。作戦通りに行動しろ』
「ッ、」
(クソが。どうなってもしらねぇぞ)
隊長はなんとなく悟った。“これは起動する”、と
苛立ちを隠せぬまま偵察行動を続けた隊長はやがて合流ポイントについた。既に第二独立遊撃部隊が現着しており数秒の間をおいて第三独立遊撃部隊も到着した。
「よし、引き返すぞ」
『⁉︎』
「ガルムが起動する可能性がある。引き換えそう」
『何を言っている中尉。偵察活動はまだ終わってはない』
『自分も、撤退に賛成です。これは第二独立遊撃部隊全員の意見です』
『命令だ。偵察を続行せよ!』
「しかし」
『命令が聞こえんないのか!』
佐久間の怒鳴り声が無線越しに響いた。
そんな中、呆れた隊員が数メートル北上した瞬間、
「ッ?」
『なんだ。今の音は?』
※
「ッ!」
「?、渕上さん。どうかしましたか?」
「・・・目覚めた」
渕上がそう言った瞬間、北の方で一筋の閃光が空に向かって打ち上がった。それ見た秋山達は、全てを悟った。
「嘘、よね」
「目覚めた、というのか?」
“ガルムが目覚めた”
“一国を軽々滅ぼす悪魔が目覚めた”
“怪物や化け物では言い表せない何かが目覚めた”
そうこう思ってるうちに一本の無線が入った。
『稚内基地に居る全部隊へ。ガルム・メビウスが起動した。これを迎撃せよ』
「・・・は?」
渕上は思わず声を漏らした。
(自分で目覚めさせておいて何言ってんだ?)
作戦中の無線を全て聴いていた渕上達は呆れた。だが呆れてる暇は無かった。
『RAINBOW.F各員、至急出撃。行くわよ』
「了、了解」
渕上は慌てて機体に乗り込むと網膜認証と音声認識で機体を起動させると給油ポンプ等が全て外れてるのを確認すると松田のゴーサインをモニター越しに確認し、ペダルを踏み込み、機体を浮かせた。
『隊長機がやられた!』
『部下が、皆んな死んじまった!』
『助けてくれェェェ!死にたくねぇ!』
『ガルム・メビウスから無数のイータが射出されている。う、うわあァァァッ!』
『隊長機がやられた。誰か指示を!』
『此方第五独立遊撃部隊隊長の今野。全機ガルムと交戦を避けて!戦線離脱だけを考えて!』
『了、了解』
混乱する前線。
そう、こうして悪魔は目覚めたのだった。




